いろんな採集法がある
クワガタムシといえば昆虫界きっての人気者であり、その探し方・捕まえ方も古くから研究されてきたものだ。
代表的なものはまず、彼らのエサとなるクヌギやコナラなどの広葉樹から滲み出る樹液を見回るものだろう。
「樹液採集」と呼ばれる方法だ。
樹液が出ている木が見つからない、初めて挑む土地でクワガタが好む樹種がわからない…。
などという場合には、焼酎をぶっかけて発酵させたバナナやパイナップルを仕掛けて餌場をでっち上げる「バナナトラップ」「パイントラップ」もたいへん効果的である。
ほかには、灯りに向かって飛翔する修正を利用し、山間や山麓の外灯、自販機の周辺やコンビニを見回る方法も有効かつ有名だ。
適当な灯りが見当たらない場合は、発電機を持ち出して水銀灯を焚くという力技(ライトトラップ)もある。
これらが特にメジャーで、かつ簡単にある程度の成果が出せるクワガタ採集法である。
だが、これらの採集法にもちょっとしたデメリットはある。
樹液採集は、事前に樹液の出ている木をいくつも把握しておく必要があるし、バナナやパイナップルのトラップは作成に時間とお金がかかるし、仕掛けるのにも回収にも結構な手間がかかる。
外灯採集は、山林に対してよい角度で光が照射されていなければ成果は薄いし、田舎では灯りそのものがほとんどなかったりする。
かといって、発電機や燃料、果ては水銀灯などの照明機材が必要なライトトラップは大がかりすぎて、手軽とは言いがたい。
そこで、もうひとつの新たな候補として紹介したいのが「発生木」の見回りである。
朽木から這い出すクワガタを待ち伏せる!
そもそもこの採集方法に気づいたのは、出身の長崎を離れて沖縄へと移り住んだ学生時代のことであった。
夏の夜に大学の敷地を散歩していると、どういうわけか道端に点々とクワガタが落ちているのだ。
近くに樹液や果物など餌になるものがあるわけではない。外灯のそばというわけでもない。
現場をよくよく観察してみると、いずれのクワガタのそばにも、朽ち果てた立ち枯れが生えているのだった。
クワガタは幼虫時代に朽木を食べて成長する。ということは、このクワガタたちはこの立ち枯れの中で羽化し、外界へ這い出してきたところなのだろう。
…試しに落ちているクワガタを拾い集めてみると、軽く10匹を超えた。樹液の見回りに勝るとも劣らない効率。
……これは、ものすごい発見なのでは?と思った。
後日、昆虫に詳しい友人にこのことを興奮しながら話すと。
「ああ、発生木採集でしょ?」
と、さも当然といった口調の答えが。
当時の僕は「はっせーぼくさいしゅー?」と目をぱちくりさせていた。
今更ながら「発生木」とは先述のようにクワガタが幼虫時代を過ごし、やがて這い出してくる朽木のことである。
そしてタイミングを見計らい、このクワガタの「発生」を待ち伏せ・捕獲するのが発生木採集であり、沖縄のクワガタ好きの間ではそこそこ知られた採集法であるというのだ。
(※沖縄でしか通用しないかも)
世紀の大発見!というわけではなかったが、これは革新的なクワガタ採りではないか。
「なんか枯れてる木」を見つけて見回ればいいのだ。樹種を勉強して樹液の出ている木を探すより簡単だし、網や竿といった道具も必要ない。しゃがんで拾うだけだ。写真も撮りやすい。
なぜこんな画期的な方法に今まで気づかなかったのか!?
と考えてみたが、それは単に「沖縄(南西諸島)限定の採集法だから」なのかも知れない。
単純に南西諸島は常夏とまでは言わないまでも、年間を通じて気温が高い。
ゆえにクワガタの活動期間も長く、第一陣、第二陣、第三陣…という具合に、一年の間に何度もまとまった数のクワガタたちが羽化、発生してくるのだ。
それから、一つの生息地におけるクワガタの個体数・密度が大きいというのもあるかもしれない。
那覇市などの都市部、市街地であってもクワガタの住める緑地が小規模ながら点在しており、かつ毎年かならず来襲する台風によって、人目につきやすい場所に倒木、朽木が多数散乱しているという条件も、クワガタの多産多発生を支持する。
なんにせよ、沖縄は内地に比べてクワガタの発生に遭遇しやすい傾向はありそうだ。
というわけで、内地にお住まいの方にはお役に立ちづらい採集情報なのかもしれない。
でも内地にお住まいの方々も、ぜひ以下に繰り広げる怒涛のクワガタラッシュを指くわえながら見てってくだせぇ。
30分の奇跡
と、ここまではこの方法に出会った際のお話である。ここからはつい最近になって実践した際のレポート。
この発生木採集のメリットはなんといっても「道具や下準備なし(※朽木を事前に探しておく必要はある)で」「短時間にまとまった数を見つけられる」ことである(ほかにも「環境への負荷が少ない」という要素もあるのだけど、これは後述)。
その長所がどの程度のもんなのか。6月のある夜、僕はカメラ片手に沖縄本島南部で見つけた、発生木になり得そうな朽木の密集地帯を訪れてみた。
思惑通り、そこらの立ち枯れに、倒木に、そしてその周囲の地面に、オキナワノコギリクワガタとオキナワヒラタクワガタがベタベタとくっついている。
どの個体も初めて受ける外界の風に戸惑っているのか、イマイチ動きが鈍い。
ここぞとばかりに朽木から摘み取り、地表から拾い上げていく。
昆虫採集というより、果物の収穫に近い感覚である。
「朽木に巣食い羽化してくる虫たちとは、樹木が枯死してのちに実らせる果実なのやもしれぬな……。」
とか思っていたらオキナワヒラタに指を挟まれた。すげぇ痛い。
めぼしい木をザッと見回ると、バットにはあっという間に20匹(オキナワノコギリクワガタ×9匹、オキナワヒラタクワガタ×11匹)が集まった。
これ以上放り込むとケンカが発生しそうなのでここで採集ストップ。
だが、時計を見ると探索を始めてまだ30分ちょっとしか経っていないではないか。
やはり、この採集法は効率がいい。朽木から出てきたばかりなので、みんな傷がほとんどないのも特色だ。
成虫を長く飼育したいという人にはうってつけだろう。
発生木さえ温存すれば毎年楽しめるぞ!
それに、同じ場所で何度も何度も繰り返し楽しめるというのも素晴らしい。
朽木はクワガタの幼虫やほかの虫たちに削り食われながらどんどんスカスカ、ボロボロになっていき、やがて土へ還る。
だが、それまでには数多くのクワガタたちが何年間にもわたって、毎夏毎夏に輩出されるのである。
だが、せっかくの発生木を人為的にぶっ壊してしまえば話は別だ。
これはクワガタの発生木を探していて見つけた、人為的に崩された朽木である。
見る限りほぼ確実にこの朽木もクワガタの発生木であり、おそらく崩したのもクワガタ愛好家である。
これは「材割り採集」という方法で、文字通り鉈や鍬で朽木を割り、内部にいるクワガタの幼虫や活動開始前の新成虫を捕獲するものだ。
やろうと思えば、その時点で内部に棲んでいるクワガタを幼虫・蛹・成虫問わずすべて採集できるので、ある意味では効率がいい。
だが、朽木は昆虫たちにとって棲家であり食糧であり、壊され追い出されると替えを用意することはできない。
これは単に「クワガタたくさん採りたい!」という欲求の面から見てもちょっともったいなくないかね?そっとしとけば、来年も再来年もその先もずっと、勝手にクワガタ量産してくれるのに。
僕は、そっちをオススメします。
朽木を土に還す仕事は、クワガタたちに任せちゃってもいいんじゃね?
いろんな採集法を試してみよう
ちなみに、冒頭ではさも「最強最良の採集法」のように宣伝したが、実際はデメリットもある。
「発生がひと段落したタイミング」では露骨に成果が落ちるのだ。あと、樹液をすすったり、ケンカしたり、飛び回ったりという活動風景を観察できないのもマイナスポイントかも。つまり、採集法はどれも一長一短なのである。
これを言っては元も子もないが、場所や時期によって、いろいろな採集方法を組み合わせて試してみるのがオススメだ。効率云々以前に、それが一番クワガタ採りを楽しめる方法なのだから。