在来の魚を見にきたはずが…
そもそもは、地元の方に「その川の大きな淵にはフナやタウナギなど沖縄在来の珍しい淡水魚が生き残っている」という情報を教えてもらったのがことの発端だった。
魚が好きな僕は大喜びで現場へ向かった。
沖縄本島、特に市街地を流れる川は今やグッピーなどの外来魚で溢れかえっており、そうした在来の純淡水魚(一生を淡水で過ごす魚)はもうほとんど見られないのだ。
紹介されたポイントはうまい具合に開発から取り残されていたようで、護岸整備もされていなければゴミもない。水草も豊富だし、これは期待できそうだ。
いい水辺を教えてもらえた!と、さっそくウキウキで灼熱の川辺を散策してみた。
その結果、在来魚の代わりに見つけてしまったのがこの写真の魚である。
体長は70cmはあるように見えたし、泳ぎ方も水面をずーっとクネクネ這うように進む不思議なスタイルだった。
少なくとも沖縄在来の魚にこんな強インパクトなものはいないはずである。
はっきり言って、僕はこの魚に見覚えがあった。こりゃ「アロワナ」だ。南米原産の「シルバーアロワナ」だ。
アロワナと一口に言っても、南米・東南アジア・オセアニアと広い地域にまたがって複数種が分布しているが、少なくとも南西諸島にはいるはずがない。
観賞用に輸入されたものを誰かがなんらかの理由(飼いきれなくなった?)で密放流したものだろう。
……なぜよりにもよって、希少な在来魚が生息する貴重な水域に放すのか。
「せめて良い環境で生き延びてくれ……。」的な親心なのかもしれないが、だったら最後まで飼えやという話である。
釣ります
ともあれ、そんな環境に肉食魚であるアロワナを放置しておくのはよくない。
とりあえず釣り上げることにした。
まず、半日ほど炎天下の淵に居座ってアロワナの行動パターンを観察する。
アロワナは始終、決まったコースどりでパトロールするかのように水面直下を回遊しているようだった。
さらに、意識は水中ではなく水面や水上に向いているらしい。バッタかトンボかわからないが、抽水植物の葉についている昆虫を水から跳び上がって捕食するシーンも見られた。
うーん、これは…。釣れるやつや!!
バッタをエサにする
エサは昆虫。意識は水面。
ならば導かれる答えはたった一つ。
「虫に釣り針を仕込んで水に浮かべとけばいい」だ!!
回遊ルート沿いの茂みに身を隠し、息を殺してアロワナがやってくるのを待つ。
待つこと数十分。ついにアロワナが眼前へ現れた。
あれ…?さっき見たときより一回り小さくなっているような?
まあ、そんなことを気にしている場合ではない。進行方向へバッタを投げ込む。
なんと!ほぼためらいなく食いついた!!
竿をあおって針を口に掛けてやると、泳いで逃げるというよりも、その場で凄まじいジャンプを連発して抵抗する。
さすが、水上の餌を跳び食いしているだけのことはあるな。
だが、卑怯にもその人間はハイテクが詰まったリールとカーボン製の釣竿、ナイロン素材の釣り糸を装備していたため、その身ひとつで勝負していたアロワナはあえなく御用となったのだった。
それにしてもキレイだ!カッコいい!
「美しい」というこっぱずかしい形容詞がうっかり口をついて出そうな絢爛さ。
これは飼いたくなる人の気持ちがわからんでもないなぁ、正直言って。
もちろん、逃すのは問答無用でNGだけども。
博物館へ寄贈
で、このシルバーアロワナをどうしたかというと、僕はエラいので「食べてみたい」という個人的な欲望を抑えて抑えて、鹿児島大学総合研究博物館へ寄贈しました。
外来種といえど「日本で採集されたシルバーアロワナ」の標本は多少なりとも学術的な価値もあるのだ。
…大丈夫。
いつかきっとアロワナを試食できる日は来るさ。
日本で無理でも、新型コロナウィルス禍がすぎれば原産地のアマゾンで食べればいいのだ。
うん。後悔なんてない。
2匹目釣れたから食うね
だがその翌々日、アロワナという魚は僕の想像の斜め上を跳んでいった。
2匹目が出現したのだ!
…これは神様的な存在が僕に「アロワナ食え」と言ってるな?
よっしゃ釣ったるわ!
調理にあたっては、実にいろいろな発見があった。
肋骨の数が多いとか、小骨が多いとか、ウロコが硬すぎデカすぎで市販のウロコとり器では歯が立たないとか、体内に謎の小部屋がたくさんあるとか…。
あまりに多すぎる上に、そのすべてに生物学的な理由があるのでとても書ききれません。なので、近日中に整理して追記します…。すみません…。
で、作った料理はこちら。
アロワナという魚のもつ素材の味を知りたいので、塩胡椒と小麦粉、バターだけで調理したムニエルをば。
さらに…。
刺身。川魚には人類に有害な寄生虫がいるかもしれないからマネしちゃダメなやつ。
でも、どうしても試したかったのだ、自己責任で。
皮と身の間にため池がある
まずはムニエルを試食する。ナイフを立てるとスクッとスムーズに切れる。なんとやわらかくなめらかな肉質か。
頬張り、噛み締めた瞬間にジューシーで上品な旨みが舌上にあふれ、驚くほどおいしい。
…5秒くらいはな。
その後、唐突に凄まじい泥臭さが口腔から鼻腔へ突き抜ける。
泥臭い、という表現では生温い。口の中にため池そのものが造成されたかのような不快感なのだ。
どうやら皮と身の間にある脂肪の層が元凶らしい。
試しにそこをすっかり取り除いて食べてみると、やはり文句のつけようがないほどうまいのである。
シルバーアロワナを食べる際は、皮を厚めに引いてから調理すべし。またひとつ賢くなってしまった。
アロワナの刺身は鯛のよう
で、問題の刺身であるが、これが意外にもたいへん美味なのである。
しっとりした口当たりで、ほのかに甘みと旨みがある。
川魚特有の臭みは先ほどの失敗から「これでもか」と厚くひいた皮目に置いてきたらしく、一切クセがない。
強いて例えるなら、冬に獲れた小鯛のような味わいである。こりゃうまい。
…だが、「おいしいかマズいか」と「安全か危険か」あるいは「生きるか死ぬか」はまた次元の異なる問題であるから、マネしちゃいけないのは言うまでもない。
一部始終をまとめた動画もあるので、補足にどうぞ。
NO! 密放流
というわけで、今回は沖縄本島で野生化したシルバーアロワナを捕獲して研究機関へ寄贈&個人的に試食する、という企画をお送りしました。
アロワナはたいへん美しく、その生態や進化の歴史を紐解いてみても非常に興味深い魚です。
正直にいうと、今回釣ったシルバーアロワナたちも殺してしまうのが惜しいほどでした。できれば、ずっと優雅に泳ぐ姿を眺めていたいなという気持ちがなきにしもあらずというか…。
つまり何が言いたいかというと…、飼えなくなった生き物を野に放すのはダメ!絶対!ということです。
あと、川魚の刺身はやめた方いい!絶対!ということでもあります。
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