特集 2024年6月17日

朝は4本足、昼は2本足、夕は3本足で1日過ごす

昼の2本足期「黄金時代」

3時間の二足歩行を終えて自由に動けることがとにかく嬉しい。家事がしたい。まずは掃除機をかけたい。四つん這いで動いているときに部屋ほ隅の埃が気になったのだ。

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ガーーーーーー!!!
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ゴーーーーー!!!

なんでもないような家事が楽しい!

やはり二足歩行は理にかなっているということが分かった。流行るわけだよ。そりゃみんな二足歩行するよな。

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自分で乾麺を茹でて食べたりできるし
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カバンの中身をひっくり返して綺麗にすることもできる
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充実した時間はあっという間に過ぎていくもので、気づけば二足歩行の残り時間があと1時間ちょっとしかない。

老いへの恐怖が実感を伴ってのしかかってくる。時計を見るのがおそろしい。今はなんでもできるのに、もうすぐ自由がきかなくなる。

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1時間20分後には杖をつく生活に

元気なうちにしかできないことをやっておこう。普段は絶対にやらないけど楽器の練習とかどうだ。そうしよう。焦燥感。

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ブオオオオオオ!

あんまり音は鳴らなかったけどおもしろかった。

「若いんだからなんでもできるじゃん」という言葉の意味が今なら分かる。身体が動くうちは本当になんでもできるのだ。なんでもやっておいたほうがいい。

14時。老齢期に入る。

夕方の3本足期「この後ってさ……」

これからの3時間は杖をついて歩かなければならない。

ついでに、コンタクトを外してボヤけた視界で過ごすという縛りも設けた。老後の生活に寄せられるだけ寄せたい。

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3本足です
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息を呑む迫力

老齢期の生活をどう想像するのも自由で、孫やひ孫に囲まれている自分にだってなれるのに、僕は孤独な老人になることを選択したらしい。顔を見ると完全にそれだ。

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前に記事で作った、ギャルの目がついてる木の棒を杖にしています

おじいさんと言えば歩いて買い物に行くイメージがあるので、近所の店に行くことにしよう。

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免許は返納したんじゃよ
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視界はこんなの

ハイハイも大変だったが、視界がボヤけた状態で杖をついて歩くのも相当しんどい。不安な気持ちになって自然とゆったりとした動きになってしまう。
すべてのお年寄りを敬うべきだ。

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国道沿いのお爺さん

「暗から明へ」と評される交響曲がある。読んで字のごとく、暗く静かに始まるが最後には明るく賑やかな大団円を迎えるような構成をとる音楽のことだ。有名なところではベートーヴェンの5番やブラームスの1番などがそうだろう。

今やっていることはそれとは真逆である。朝の四つん這い時代は明るい未来に期待を膨らませ、なんでもできる昼の青春時代があっという間に過ぎ、気づけば終わりを待つだけの夕方になっているのだから。まさに「明から暗へ」。

人間という生き物がそういうふうにできているというのなら、暗から明の芸術が求められるのは当然のことかもしれない。そう思いながらとぼとぼ歩いた。

……役に入り込みすぎている。戻ってこられるのか。

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心の中を表すかのように墓石の墓場があった(石材店が向かいにあるだけ)
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無事に買い物を終えた。後ろで大規模な工事をしているが、先のことはまったく自分に関係がない

結局、いつもなら数分で終わる買い物に1時間近くかかってしまった。これが毎日となればえらいことだ。

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歩くのが遅くて日光にさらされる時間が長くなるので、日陰での休息がより重要になる
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お花が目に入る

家に帰ってきて、残りの時間はじっとして過ごした。

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うなだれた

そして気づいたら17時を過ぎていた。3本足の生活ももう終わりだ。やりきった。

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終わった……

そういうわけで「朝は4本足、昼は2本足、夕は3本足」の生活がおわった。

字面で見るとなんでもないことだが、実際に体験すると人間の逃れられない宿命みたいなものが重くのしかかってくることが分かった。そんなこと分かるつもりじゃなかった。

自分はただ、なぞなぞの正しい答えになりたかっただけなのに。

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「朝は4本足、昼は2本足、夕は3本足で歩く生き物とは?」「それはおれ!」

最後に、これまでの人生を振り返って自分がやり残したことはなんだろうかと考えました。

すぐに思いつきました。それは体操の後転、後ろ回りでした。体育の授業で一度もできたことがありません。つい先日、体操の内村航平さんが後転する動画を見たばかりなので、自分もできる気がします。やってみましょう。

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手は耳の横に
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勢いをつけて
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とりゃ!身体を丸めるのが肝要!
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ビターン!やっぱりダメでした。

 

ダメでした。

おまけ

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