特集 2018年9月20日

ギターでパソコンを操作する、「普通じゃないプログラム」発表会

これからはギターを弾いてマウスを動かす時代
これからはギターを弾いてマウスを動かす時代
「プログラミングの発表会」と聞いて、興味が湧く人がどのくらいいるだろうか。
門外漢な方は見向きもしないかもしれない。どんなことをやっているかわからないし。

だが、わからない人でも楽しめるプログラミング発表会が存在する。
それが、明治大学宮下研究室が主催する「普通じゃないプログラミング発表会 ABPro」だ。

こんなことが出来たら面白いだろうなと考えてプログラムを作った人が、どうだこれは面白かろうと発表し、聴衆が「わーすげぇ面白ぇ」と賞賛を浴びせる会である。最高か。

今回の記事はこんな最高のイベントのレポートである。
1987年兵庫生まれ。会社員のかたわら、むだなものを作る活動をしています。難しい名字のせいで、家族が偽名で飲食店の予約をするのが悩みです。(動画インタビュー

前の記事:フランクフルトの東横インを見に行く

> 個人サイト むだな ものを つくる

ギターでパソコンを操作するという新しいロック

僕はこのABProというイベントが好きすぎて、ここ数年は毎回参加している。
当サイトでも過去のレポート記事があるので、興味を持った方はぜひ見て欲しい。

さて今回はどんな作品が出てくるのかな、と楽しみにしていると、
出てきましたね、ギターが。
出てきましたね、ギターが。

明治大学宮下研究室の田口諒さんだ。ギター片手に出てきた。

そしてギターを弾き始めた。
プログラミング発表会のはずなんですが…と思っていると、
マウスカーソルが動いてる!!!(赤矢印のところ)
マウスカーソルが動いてる!!!(赤矢印のところ)
まだプレゼンが始まる前の動作チェックだったが、この時点で全員が理解した。
会場全体でアハ体験が湧き起こった。
というかここも含めてプレゼンになっている。いきなりやられた。
つまりこういうことです
つまりこういうことです
「カーソル移動や文字入力を指板に適用」すごい!
「カーソル移動や文字入力を指板に適用」すごい!
つまり対応したコードを演奏することで、ギターをマウスやキーボードの代わりにする、ということだ。

パソコンを操作しているだけなのにえらくかっこいい。
そもそもプレゼンのスライド送りもギターでいちいちやっている。

そんな様子は演奏(操作)音込みで見てほしい。

これでレコーディングの操作もギターだけで出来ます!ということだが、録音開始と終了もギターで操るので、その音が入ってしまっている。
その辺は気にしなくていいのがたぶんロックなんだろう。

インスタグラマーになる。ただし自動で

にもかくにもインスタ映えの世の中である。映える写真を持ってない人には厳しい世界になってしまった。
そこでコンピューターが勝手にインスタ映えする写真を生み出してくれる仕組みを作ったのが@rgbten084さんだ。

事前にたくさん集めたインスタ映えする写真を元に、ディープラーニングで新しい写真を作るのである。
#beautifulskyというハッシュタグがついたきれいな空の写真を集める。
#beautifulskyというハッシュタグがついたきれいな空の写真を集める。
それをディープラーニングであれやこれやすると…
それをディープラーニングであれやこれやすると…
こんな写真が出来た。それっぽい。
こんな写真が出来た。それっぽい。
いいぞディープラーニング。それいけディープラーニング。

ちなみに@rgbten084さんは右の写真を「6000人のインスタグラマーから抽出された枯山水」と言っていた。なんだかかっこいい。

@insta_ba_ai(いんすたばえーあい)と言うアカウントで投稿しているとのことなので、皆さん見てほしい。
人工インスタ映え写真を現像していたらしく、打ち上げで見せていただいた。キャンバス地に貼るとさらにかっこよくなりそう。個展を開いてほしい。
人工インスタ映え写真を現像していたらしく、打ち上げで見せていただいた。キャンバス地に貼るとさらにかっこよくなりそう。個展を開いてほしい。
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スマートスピーカーを離れてても使いたい

スマートスピーカーが世に出て数年、日常生活に欠かせなくなっている人もいるのではないだろうか。

明治大学宮下研究室OBの、できゅうさん(@de_kyuu)もその一人だ。ただ、ちょっとスマートスピーカーを可愛がりすぎておかしな方向へ進んでいる。
自分が外出すると、スマートスピーカーが家でお留守番しているのはかわいそう…!
自分が外出すると、スマートスピーカーが家でお留守番しているのはかわいそう…!
まるでペットのようだ。これを解決するため、できゅうさんはさらに明後日の方向へ進んでしまった。
そう、外出時でも自宅のスマートスピーカーが使えればいいのだと。
そのためにスマートスピーカーのすぐ隣にマイクがセットされ、
そのためにスマートスピーカーのすぐ隣にマイクがセットされ、
マイクを介してどこからでもスマートスピーカーに指示を出せるような仕組みを作った。
マイクを介してどこからでもスマートスピーカーに指示を出せるような仕組みを作った。
「OKグーグル、○○して!」というお願いを文字で入力すると、それを音声に変えて設置されたマイクから発声される。
それを拾ったスマートスピーカーが答え、その音声をさらにマイクで拾って返すのだ。なんだこのたらい回しは。
試しに「鯵は英語でなに?」と聞いてみる。
試しに「鯵は英語でなに?」と聞いてみる。
答えが返ってくるまでしばし待つ。この間に無人のはずの自宅で音声が爆音で流れているのだ。
そして結果が返ってきた。その答えは、

「すみません、よくわかりません」

…まさかの質問が伝わってないパターン!
しかし逆にこれでちゃんと仕組みが動いていることがわかった。
できゅうさんは苦笑いだったが、会場は大笑いが出た一場面であった。

目の付け所が普通じゃない作品たち

ABProに出てくる作品は、そこに目を付けたか!とびっくりするものがたくさんある。
そういった作品から1つ紹介したい。

明治大学宮下研究室の雨さんはパソコンがハードディスクに書き込むときのカリカリ…という音をパソコンの声に見立てて、これってモールス信号じゃない?という連想を思いついた。
たくさんソフトを起動したらカリカリ…ってハードディスクにアクセスする音、しますよね。これをパソコンの声だと見立てるのもすごいし、
たくさんソフトを起動したらカリカリ…ってハードディスクにアクセスする音、しますよね。これをパソコンの声だと見立てるのもすごいし、
そこからモールス信号を連想するのもすごい。
そこからモールス信号を連想するのもすごい。

言われてみれば確かに似ているのかもしれない。同じ高さの音が長短入り乱れて鳴っているのだから。
ABProはこういった「言われてみればそんなつながりが!」というすごい連想がたまにあって、個人的には今回はこの発表が一番心に刺さった。
ということでモールス信号として扱えるようにあれこれしてみた。
ということでモールス信号として扱えるようにあれこれしてみた。
そして実際の音を文字に変換してみる。
そして実際の音を文字に変換してみる。

謎の文字列(赤い矢印のところだ)が並んだ。それはそうである。
しかし翻訳をもう1、2段かませれば実は中身がわかるのかもしれない。未知との遭遇だ。勝手にSFっぽさを感じてしまった。

潔い結論。個人的にはナイスチャレンジ賞をあげたい。
潔い結論。個人的にはナイスチャレンジ賞をあげたい。
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強引に話を持っていく、知力の背負い投げ

作ったものを紹介するのに、かなり強引に言い切るというパターンがあるのも面白いところだ。

明治大学渡邊研究室の相澤裕貴さんは紙飛行機に着目した。
なんでも滞空時間の世界記録は29.2秒とのことで、これを塗り替えたいという。

そこで彼が選んだ手段が、
紙飛行機・オン・ドローンだ。
紙飛行機・オン・ドローンだ。

これは紙飛行機なのか。ずるくないか。
ざわざわする会場を尻目に相澤さんは堂々としたものである。
デモ。案の定めちゃくちゃ進むな。
デモ。案の定めちゃくちゃ進むな。

紙飛行機はスーッとまっすぐ飛んでいった。
それはそうだ、ドローンに乗っているのだから。
ともかくこれにより世界記録が生まれた。
従来の記録を大幅に塗り替える大記録である。
従来の記録を大幅に塗り替える大記録である。

あまりに堂々と発表するので会場からは拍手がわき起こった。
勢いでもっていく素晴らしい例である。
しかもバックも出来る!
しかもバックも出来る!
紙飛行機を投げるモーションで進むモードも作っていた。これ楽しそう。
紙飛行機を投げるモーションで進むモードも作っていた。これ楽しそう。
また作品の題材を強引に持ってきたのは、明治大学宮下研究室の大場直史(@frog_aboon・発表者)さんと、同じく宮下研究室の下野弘朗さんだ。

イヌ・ネコ・インコ…ペットはかわいい。飼ってみたい。
しかし大場さんは、さらにかわいいのがいると言う。
しかし大場さんは、さらにかわいいのがいると言う。
そう、筋肉ちゃんだ。
そう、筋肉ちゃんだ。
自分の筋肉を愛でるという方向に持ってきた。パワーワード炸裂である。
完全にイヌネコを踏み台にしている。

しかし筋肉を可愛がるにはどうしたらいいのか。疑問が頭に残っているうちに大場さんはデモを始めた。
腕に電極を貼り付けて、力を入れる。そうすると筋肉ちゃんに経験値が溜まっていく。
腕に電極を貼り付けて、力を入れる。そうすると筋肉ちゃんに経験値が溜まっていく。

つまり、自分の筋肉を使った育成ゲームだ。
画面の中のキャラクターである筋肉ちゃんと、自分の筋肉が一体化している。

しかし筋肉ちゃんを成長させるために大場さんがすごい頑張る羽目になった。
しかし筋肉ちゃんを成長させるために大場さんがすごい頑張る羽目になった。
筋肉ちゃんの語感が良すぎて、打ち上げの席で体験させてもらった。
実際にやると結構力を入れなくてはいけなくて、自分の筋肉ちゃんが育っていくのが実感出来た。何を言っているんだ僕は。
唐揚げ片手に筋肉ちゃんを育てる図。こんな飲み会なら無限に参加したい。
唐揚げ片手に筋肉ちゃんを育てる図。こんな飲み会なら無限に参加したい。
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マッドサイエンティストなネタも

同じ筋肉ネタでも実用的な方向を目指したのが個人サークル「カサネタリウム」の堀洋祐さんだ(一応書いておくが、筋肉ちゃんも実用的な部類だ)。
彼が取り上げたのは「歯ぎしり」だ。
寝ている間のことなので自分では認識出来なくて困ってしまう、歯ぎしり。
寝ている間のことなので自分では認識出来なくて困ってしまう、歯ぎしり。

これをテクノロジーの力でなんとかしようという取り組みだ。
まずは歯ぎしりをしたかどうかを把握出来るようにする必要がある。

そこで出てくるのが筋電センサーだ。筋肉ちゃんでも出てきた。
そこで出てくるのが筋電センサーだ。筋肉ちゃんでも出てきた。
歯ぎしりをしてみると、わかりやすいように付けたLEDが光った。いい感じに検出が出来ている。
検出が出来たので、今度は歯ぎしりを抑制したい。
堀さんは筋肉に電気を流すことで動かし、止められるのではないかと考えた。ちょっとマッドになってきたぞ。
口を強制的にパカっと開けられるのでは!というアイデア。
口を強制的にパカっと開けられるのでは!というアイデア。
しかしマッドすぎてなかなかにまずいらしい。
しかしマッドすぎてなかなかにまずいらしい。
さすがに「死因:歯ぎしりを止めようとして電気を首に流した」という最期は避けたい。
ということで、一旦「リラックスさせるツボを押す(なぜなら歯ぎしりはストレスが原因の1つであるから)」という解決策が取られた。
全体の図。歯ぎしりしているイラストなんてあるのか、いらすとやは。
全体の図。歯ぎしりしているイラストなんてあるのか、いらすとやは。
今回はひとまず妥協点を見出すことになったが、研究が進めば人類は歯ぎしりから卒業出来るかもしれない。
今後の発展に期待をしたい作品であった。

占いだって関係ない、ABProの前では

最後に明治大学宮下研究室の上野新葉さんの作品を紹介したい。
バレエが趣味の上野さんが好きな演目に「ジゼル」というのがある。
ジゼルの人物相関図。みんな好きばっかりだこれ。
ジゼルの人物相関図。みんな好きばっかりだこれ。
そして劇中でジゼルがアルブレヒトと花占いをするシーンがある。
ジゼルが好き、嫌い…と花びらをちぎっていくと、どうもこのままだと「嫌い」で終わってしまうことがわかってしまう。
そこでアルブレヒトがこっそり花びらを1枚ちぎり、「好き」に変えてしまうという内容だ。
これにヒントを得て開発されたのが「ABPropose」だ。ボタンを押すと花びらが1枚飛んでいって、結果を操ることが出来る。
これにヒントを得て開発されたのが「ABPropose」だ。ボタンを押すと花びらが1枚飛んでいって、結果を操ることが出来る。
これで花占いで結果を決めてしまう、アブノーマルなプロポーズが実現可能だとしている。
これで花占いで結果を決めてしまう、アブノーマルなプロポーズが実現可能だとしている。

花占いの「占い」部分をふっ飛ばしてしまうすごい発明だ。確かに占いと言いつつ、好きか嫌いかの二択しかない花占いさんサイドにも問題があろう。

ということで、好き、嫌い…とちぎっていく。
ということで、好き、嫌い…とちぎっていく。
あ!このままいくと「嫌い」が…!
あ!このままいくと「嫌い」が…!
ここでおもむろにボタンを押す!
ここでおもむろにボタンを押す!
花びらがぴょーん。
花びらがぴょーん。
これで花びらの枚数調整は完璧だ。
装置に付いているボタンが3つあるので、3回までは調整が効くようになっている。複数人でやっても安心である。

ところで余談だが、僕がちょうど今作っているモノが完全にこのABProposeとネタかぶりをするというすごい偶然が起きた。一言で言って悲劇である。
どこかの媒体で出るので、もし見かけたら「こいつ泣きながら仕上げたんだな」と思ってほしい。

それはさておき、今回も数多くの普通じゃないプログラム作品を見ることが出来た。
ABProが目指すのは「人を驚かせ、笑わせ、幸せにするようなプログラム」だ。
全人類がABProの作品に触れて幸せになったら、こんなにいい未来はないんじゃないだろうか。
来年の開催はほんとにみんな見に行ってほしい。早くも次回が待ちきれないが、それまでに筋肉ちゃんを鍛えておこうと思う。

打ち上げも最高だ、ABProは

打ち上げの写真が何回か出てきたが、これも僕はすごく好きなのだ。
みんな見せたがりなのだ。発表した現物を持ってきたり、発表しなかったモノを持ってきたりしている。
これを見ながらビールを飲んでアレが面白いコレが面白いとしゃべる、こんな最高な会はない。

今回もすべての作品を紹介出来ず恐縮である。
発表と観衆の模様は下記から見られるので、雰囲気を味わってほしいと思う。

ABPro2018まとめ #ABPro
これは明治大学宮下研究室、塩出研史さんの「近づけるだけで乾杯音が鳴るグラス」。面白くて何回でも見られてしまう。毎回これで乾杯したい。
これは明治大学宮下研究室、塩出研史さんの「近づけるだけで乾杯音が鳴るグラス」。面白くて何回でも見られてしまう。毎回これで乾杯したい。
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