ここ数年、5月中旬にあるDIYの祭典、Maker Faire Bay Areaでヘボコンを開催するために毎年渡米している。
今年のヘボコンの様子
毎回タイトなスケジュールなのだけど、最終日に半日だけ自由時間ができる。去年はサンフランシスコ弾丸観光に連れて行ってもらったので、今年は趣向を変えてギークっぽい場所に行きたいと思い、現地在住の知人にコーディネートをお願いした。
今回一緒に来てくれたおふたり。右が現地在住の河合さん。左はMaker Faireで日本から渡米していた木下さん
タイトルにあるジャンク屋に加え、電子部品店と最新ガジェットショップまで、3軒をめぐることができたので、順にご紹介したい。
場所は、いずれもサンフランシスコから南に数十キロ、いわゆるシリコンバレーと呼ばれているあたりだ。GoogleのあるマウンテンビューやAppleのあるクパチーノも近い。
なお、なにぶん短時間なので(あと英語が片言なので)細かい取材はできず、単なる観光記であることをご了承いただければ幸いです。
巨大ジャンクショップ「HSC Electronic Supply」
まずは訪れたのは、今回のメインテーマである巨大なジャンクショップ。
ちょっと写真に入りきらないサイズ
窓のない大きな建物は、外観から見るに、完全に倉庫。店内に入ると…
ジャンク!
正面の棚にはびっしりと大小の機材が並べられ、そして奥にの棚には小箱に分類された部品が山ほど。
これがうわさに聞く、アメリカのジャンクショップか…!
引きの絵では小箱に見えるが、実際入っているのはこんなでかいモーターとかだ
裏へ回るとピカピカの工具のコーナーなんかもある
何に使うのか全く分からないような部品や機材の数々。すごくいい雰囲気だ。
とはいえ思ったより小ぎれいで、そして大きさもそこまで巨大ではないな……。
と思うのもつかの間だった。実はこれはまだほんの入り口に過ぎないのであった。
出入り自由の倉庫
もう一枚ドアをくぐるとそこに巨大な倉庫が
見渡す限りのジャンク!
扉の奥に広がるのは、倉庫兼店舗というか、店舗兼倉庫というか、とにかく物がびっしり積まれた広い空間だった。
棚が高すぎて全貌を映すことが困難なのだが、日本のスーパーマーケットくらいの広さはある印象。
その中にもう大小さまざまなジャンク部品がうずたかく積み上げられているのだ。
オシロスコープとかかな?大きくて重そうな機材から
細かく仕切りされたトランジスタコーナー。最高の眺めだ
こんな細かいコネクタ類まで膨大な種類がある
右の棚はぜんぶ銅線。なんでこんなに種類があるんだ
棚に乗りきらなくてさらにラックで積まれているものも
左、巨大な抵抗。大きすぎておもちゃみたい(よく見る右のは1/4ワット、大きいのは2ワット)
この棚は奥まで全部ACアダプタ
最奥の壁はシャッターに。倉庫なので搬入口があるのだ
日本の秋葉原でジャンク店というと圧倒的にジャンクPCショップが多いように思うが、この店はそれよりもかなり雑多だ。電話機から真空管、液晶モニタまである。
ひときわゴチャッとしていたエリア
これはカメラかな?こんなものまで
逆にノートPCやスマホ・タブレット、デジカメみたいな最新精密機器はあまりなかったように思う。オールドスクールなジャンクショップという感じだ。それがイメージの中のアメリカっぽくて、またいい。
ジャンクがかわいい
ジャンクショップというといかにも武骨でオタクっぽい印象を受けてしまうが、今回行ってみての感想は、「ジャンクが思いのほかかわいい」というものだ。
これはコイルの棚。寄りで見ると…
カラフル!
銅線の棚もいろんな色があって、何となくキュートだ
機材単体でも、レトロ製品特有の見た目のかわいさ
このデザインのスマホケースが欲しい
こちらは真空管。カラフルな小箱に入っている
中でも僕が魅了されたのは真空管コーナー。上の写真の4~5倍くらいの棚を占めていて、半分以上は紙箱に入っている。その箱がまた、ヴィンテージっぽいデザインですごく良いのだ。なお箱は経年劣化が激しく、雑に扱うとすぐバラバラになるので取扱注意。
さらに、真空管自体もかわいい。
曲線的なフォルムと、持ってほどよいサイズ感
形も色もいろいろある
似たような形のものもちょっとずつ中身が違う
一番左の真空管、黄色いペイントにUNITED AIRLINESと書いてあるのが分かるだろうか。もしかしたら飛行機部品だったのかもしれない。右のはRCAと書いてあって、調べてみると現在GEに買収された部品メーカーらしい。
製品チェックのコーナー。右側にもカラフルな真空管の箱がたくさん敷き詰められている
いいな、真空管。中の構造がガラスに包まれているので、小さな水槽の中に機械を閉じ込めたような、そんな風情がある。これがかわいいのだ。今まで触れたことがのない部品だったけど、一気に好きになった。
時代とサービス精神を感じる店内設備
商品自体もいいんだけど、店内の設備も「これこそアメリカのジャンク店!」といった感じで、楽しくなってくる。
動作チェックのためのカウンター。広い
この買い物カゴがまたアメリカっぽくていいのだ
スタッフオンリーだけど2階もあるようだ。入りたい…!
長居してもいいように、コーヒーのセルフサービスまである。泣けるサービス精神
さらに店内めぐりながら動作チェックできるように肩ひも付きのテスターも!……と思って撮ってきたんだけどいま見たらこれは売り物っぽいな(欠陥品・ノーリターン、とか書いてある)
もう何もかも良すぎてついつい長居してしまいたくなるのだが、時間のない旅である。そろそろお会計の時間だ。
若きスティーブ・ジョブズも来た店
買い物の際は専用の用紙に値段をメモっていくという、わりと客の良心に委ねられたシステムである。ジャンク好きに悪人はいないということだろうか。
僕は真空管が気に入ったので、記念に2本買っていくことにした。売り場に値段が書いてなかったのだが、その場合は型番を写真に撮ってレジで見せると調べてもらえる。1個3ドルくらいだったかな。
会計時の雑談で、今回案内してくれた河合さんが、僕らが日本からの来客であることを店のおじさんに話した。
そうすると、記念にいいものを見せてやるということで、すごいものが出てきたのだ。
スティーブ・ジョブズが来た時の伝票だという
1969年の伝票ということで、調べてみると当時スティーブ・ジョブズは14歳である。
食い入る河合さん
この時ジョブズは自分のお金じゃなくて他人名義の小切手を切っていったそうで、つまり14歳の若さにしてバックにスポンサーを抱えていたわけである。彼の商才はこんな若い頃からすでに開花していたんだね……というようなことを店のおじさんに言われた気がするのだが、こちらの拙い英語力のため真偽のほどは曖昧である。
こんな感じで、いやほんととにかく楽しいところで、時間がないにもかかわらず2時間くらい店内をうろうろしてしまった。ここの2FでAirBnBを始めるとものすごい人気になるのではないだろうか。
とにかくDIY好きの方には是非お勧めしたい観光スポットである。
僕が買ったUNITED AIRLINEの真空管(右)と、左は真空管じゃなくてヒューズだったらしい
二人にも買ったものを見せてもらった。木下さんはサイレン。電源つなぐとウーウー鳴ると思われる
河合さんはコネクタ類たくさん。工作に使うとのこと
電子部品店「ANCHOR ELECTRONICS」
次にやってきたANCHOR ELECTRONICSは、秋葉原にもありそうな電子部品屋のアメリカ版といった感じである。電子工作趣味の方にはおなじみの店、秋月とか千石とかに近い感じだ。
ここも外観はすごく大きく見えるけど
店内はそこそこの大きさ。しかしほどよい
先のHSCが、探検して楽しい系の、ドン・キホーテとかヴィレッジヴァンガード的な店だったのに比べると、ここはわりと実用的というか、欲しいものをパッと買える便利な店という感じ。
特徴は均一価格。コーナーごとに、このラックはコンデンサどれでも1袋1ドルとか
こちらも1ドル均一。ここにもでかい抵抗が
ここはいろんな基板が20セントで売ってるコーナー
かなりみちっとした実装密度
この基板は何なのかよくわからなかったんだけど、部品別売りのキットみたいなものではないかと思われる。
秋月とかにもキットは豊富にあるけど、売り方が違うんだな。
モダンなArduinoとかRaspberry Pi関連のものも売ってる(ただしマイコン本体はあんまり置いてないみたい)
ブレッドボードやジャンパ線が、Good、Better、Bestにランク分けして売られている。ナイス!(違いはよく分からない)
このこまごまとした陳列はどこも一緒だなという感じ
インパクトのありすぎる有名人が来たらしい
細かい部品のラック
さらに細かい部品はカタログから探すと店の奥から出してきてくれるみたいだ
店員さんの後ろにすごい数の引き出しがあるのが見える
カタログも絵入りでかわいい
とにかく店内はよく整理されていてほしいものを見つけやすく、均一価格のおかげで値段もお手頃。近くにあったら便利だなーという感じの店。さっきのHSCが「古き良き」ジャンク店だったのに比べると、こちらは時代を感じさせないというか、年代感の薄い定番物を取り揃えている印象だ。
電子部品の定番品ってラインナップとしては世界共通なので、そういう意味ではここも日本の店もそんなに品ぞろえは変わらない。ただし基板のメーカーが聞いたことのない地元カリフォルニアのメーカーだったり、定番部品も微妙に見た目が違ったりして、ちょっとしたパラレルワールド感のある面白いスポットなのだ。
漏れ出すアメリカのギーク文化
そんな中、日本の電子部品店ではあまり見かけないようなものもそれなりにある。
これはヴィンテージコンピュータのSRAM(メモリの一種)を自分で実装するというハードコアなキット
普通の電子部品に混じってアタリ(昔のゲーム機)のコントローラーとか置いてあるのはさすがアメリカという感じ
と思ったら本体もあった
定番物中心の品ぞろえのなかに急にこういう商品が入ってくるあたり、アメリカのギーク文化が漏れ出しているのを見た気がした。日本でも店によってはファミコンを改造する基板とか売ってたりするし、こういうヴィンテージにこそお国柄が現れるのかもしれない。
レジがかわいい
ここでも記念にいくつかの部品を買ったのだが、会計時に店員の女性が使っているレジがすごかった。
意表を突いた手書き伝票。電子部品店なのに電子化されてない!
開けて見せてくれた。複写式になっていて、手で引っ張り出してめくっていく
店員さんも「これいいでしょ」という感じで自慢げに見せてくれたので、この手書きレジはこの店の名物なのかもしれない。
結局、僕は7セグLEDをいくつか購入。
家でテストしてみたところ。基板の表面に配線が見えててかわいい
もうひとつ、アルファベットも4ケタまで出せるこちらも購入した
木下さんも同じく7セグLEDと、途中で店員さんが「これ見て」と言って出してきたLEDライトもまんまと気に入って買っていた
河合さんはフラックス(はんだ付けに使う薬剤)やらモーターやらヒートシンク(放熱板)やら
ヒートシンクはカード立てとして使えて便利らしい。なるほど…!
ここでも、時間がないのについつい楽しくて長居してしまった。もう残り時間も少ないので、急いで最後の店へ…!
これぞシリコンバレー「b8ta」
最後にやってきたのはb8ta。読みは「ベータ」。いわゆるIoTスタートアップの新製品を展示販売するショールーム。前の2店から一転、いきなり最先端に振り切ったスポットだ。いくつかの店舗があるが、今回訪れたのはSantana Rowにあるシリコンバレー店。
入口からしてこのおしゃれさである
ギークスポットというにはおしゃれすぎるこの店、しかし店内は最新ガジェットでぎっしりで、ギーク欲は完全に満たしてくれる。
これはArlo Baby。子供みまもりカメラ的なやつ。もちろんオンラインで様子が見られるIoT製品である
TinkerBots。最近はやりの教育用ロボットのひとつ。プログラミングが学べる
Boosted。電動スケボーだ
AYO。ブルーライトを使って睡眠サイクルを安定させたり、時差ボケ防止ができるらしい
Neo smartpen。専用ノートに書くとそのまま画面にも転写されるし、ノートのページをめくると画面のページも切り替わる。どうやって連動してるのかわからない!これはすごかった。(しかしノートが高い)
Touchjet。これもすごかった。どんなテレビでもタッチパネルに変えてしまう
こんなふうに
種明かしをすると、テレビの上にこういうカメラを設置するのだ。このカメラで実物の指と、画面に反射した指を検出して、その距離がゼロになったら「タッチした」と判定しているらしい
各商品の横にはタブレットが置いてある
このタブレットでは商品説明が見られるのはもちろん、その場で買わなくてもオンラインショップでの値下げ通知をその場で設定できたりする。このオンラインショップとの連動がまた最先端っぽい。
また、これは日本に帰ってから調べたことだけど、この店は商品ごとに設置されたカメラでお客さんの動きをチェックしていて、特定の商品の前で数十秒立ち止まるとメーカー側に課金されるようになっているらしい。小売り店であると同時に、ショールームとしてメーカー向けにも商売しているというわけ。そういう意味でもまたまた最先端である。
余談ですがここはこの店だけじゃなくて界隈全体がものすごいおしゃれスポットで
隣にはAmazonのリアル書店もあった
60年代から続くオールドスクールなジャンク店から未来っぽいガジェット店まで、速足で3店を回った。4時間ほどのツアーだったにもかかわらず一気に50年ほどの時間が経過してしまった感がある。ちょっとしたタイムスリップ体験であった。
どこも面白いのでシリコンバレーに行かれる方は是非どうぞ。1か所だけ行くならやっぱりイチオシはHSCかな。ぜひ真空管を手に取って愛でてほしい。
ロボットなんて作れない人たちが、自作の「自称・ロボット」を持ち寄り無理やりロボットバトルをするイベント、「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」。2014年の初回大会開催以来、ヘボコンは世界に広がり、今では25か国以上の国々で開催中。
2016年には初のワールドチャンピオンシップを開催し、うろ覚えだがだいたい10か国くらいの出場者が集結した。
あれから2年。みたび聖地カルカルにて、大規模トーナメント「ヘボコン2018」を開催することとなった!
直進するだけで曲がれないロボット、市販の組み立てキットを使ったけど飾り付けのせいで重くてよちよち歩きになってしまったロボット、作りかけで飽きてしまったロボット、そんなできの悪いロボットたちが、不器用ながらも一生懸命、戦いを繰り広げます。
初めて立ち上がった赤子を見るような気持ちでお越しください。
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