和光市と板橋区の都県境がぐねぐねしている
和光市と板橋区の都県境(以下県境)が気になっている。
いりくんだ県境といえば、
町田市と川崎市あたりが有名だが、和光市と板橋区もなかなかのものだ。
こちらを御覧いただきたい。
住宅地の中をうねるように走る県境。
どうしてまっすぐ引かないのか? ふざけてるのかこの野郎。と。
とくに、途中にある「富士食品」とかかれた建物。グーグルマップをみると、東京都になっているが……。
いったいどういうことなのか? 気になったので、現地に向かった。
成増駅から向かいます
地下鉄成増駅です、楽しそう!
緩やかな下り坂になっている
板橋区は、23区でいえば西の端だ。練馬や杉並や世田谷がもっと西だろうという意見もあるかもしれないが、そういう野暮な意見に耳をかたむけるきはないし、そもそも北西の端っこということであればまちがいではない
成増こそが東京23区の北西端。ということにしておく。
東埼橋交差点にやってきた
なぜ埼玉県がポップ体なのか
東埼橋という交差点には、東埼橋と新東埼橋というふたつの橋がかかっている。この名称は東京都と埼玉県の県境にかかるからだろうか?
国鉄の路線名の名付けセンスに近い。埼京線とか京葉線みたいな。
新東埼橋、真ん中から右が埼玉県、左が東京都
これは五輪マーク?
橋の欄干をみると、なぜか五輪マークの飾りがはめ込まれている。
もしかしたら、橋ができたのが、東京オリンピックのあった1964年だったから? と思い、新東埼橋の架設年を色々調べたが、橋自体に竣工年が書いてなく、
国土交通省の資料にも架設年は「不明」とあった。
昔の地図を見比べると、東京オリンピック前まで無かった橋が、オリンピック以降にはできている。やはり、1964年にできたものなのだろうか?
青い矢印が「新東埼橋」『東京時層地図』より
おそらく、道のできた年を調べればわかるかもしれないが、そこまでして調べるのもちょっと面倒くさいので、ほったらかしにしておきたい。ご興味のある方は各自お調べいただければとおもう。
ギリギリ東京都のパン屋さん
さて、先ほど地図で見つけた境界線上の建物は、この東埼橋から歩いてすぐの場所だ。
なんだか店っぽい
「焼き立てパン」の旗が目に入る。パン屋さんなのか?
パン屋?
ん? 30円?
表の看板に書いてある値段に目を疑う。ロールパン1コ30円ってどういうことなのか?
異常に安い。ほかのパンもなんだか安い。メロンパンなんて今100円以下ではなかなか買えないと思うけれど、ここでは90円だ。このやすさに顔が半笑いになってしまう。
異常に安い
中に入ると、6畳ほどの広さの店内に、所狭しとパンが並べられている。そして、どのパンも安いのだ。
「できたてダヨー」だそうです
投げ売り状態では?
まとめて5個で100円って
ほとんどのパンが、100円しないやすさ。どれも1980年代ごろの値段だ。
これほどまでにやすいと、買わざるをえない。半笑いのまま、やすいパンから次々とバットに取り分ける。爆買いだ、今ならわかる。中国人のきもち。
6個で480円
せっかくなので、公園に移動し、100円のカレーパンをたべてみる。
カレーパン
ンマーイ
奇をてらったところがなく、ちゃんとうまい。みなさん、カレーパン食べたことあると思いますが、その味です。正解の味。
クリームたっぷり
クリームパンは、じゃっかん小ぶりなものの、70円という値段を考えればじゅうぶんだ。やすいけれど、どのパンもちゃんとしている。
いったい、このパン屋はなんなのか? お店の人にきいてみた。
――こちらの店舗の建物って、もしかしてパン工場ですか?
お店の人「はい、そうです、店舗のすぐ裏でパン作ってるんですよ」
やっぱりそうか、東埼橋から、川沿いにちょっと入ったらもう、パンを焼くいい匂いがしていたのだ。
いい匂いの原因
富士食品のパンは、基本的に病院や学校などの施設にパンを卸しているため、小売店ではあまり取り扱ってないらしい。しかし、この工場直営の店舗では、この値段で、地域の人にパンを提供しているという。
大きなパン工場ではないけれど、地域の人に親しまれる、ちいさなパン屋が、こんな境界線上にあるなんて。
……やはり気になるのは、このパン工場は東京都なのか、埼玉県なのか。どっちなのか。
――この建物は、東京でしょうか、さいたまでしょうか?
「東京ですね、レシートに住所が書いてあると思うんですが、東京都板橋区成増ですね」
このパン工場は東京都だった。
こういうことですね
こういうことですね
自分で書いたとはいえ「このパン工場は東京都だった」の無味無臭さがすごい。
白子川周辺を散歩してみる
東京の北西の端っこには、工場直営の小さなパン屋さんがあった。
レポートはここで終わってもいいのだけど、せっかくなので、周辺の県境をちょっと散策してみたい。
白子川にそって、ずーっと北上しつつ、県境をたどるとこんな建物にでくわす。
湖池屋の本社ビル
「カラムーチョ」や「ポリンキー」などでおなじみの湖池屋の本社ビルだ。このビルも地図をみると、こんな風に県境が通っている。
埼玉部分の方が多い気がする
公式サイトで住所をみると、東京都板橋区となっているので、湖池屋は玄関のある場所を住所としているようだ。
なぜいりくんでいるのか?
このあたりは、なぜこんなに境界線がいりくんでいるのか? それは、白子川のせいだ。
赤瀬川原平いうところの植物ワイパーがみえる白子川
昔の地図を確認してみると、たしかに、白子川はうねうね蛇行している。
昔の蛇行している白子川(『東京時層地図』より)
上の図は、右が戦前で、左は戦後のものだ。
もともと、県境は蛇行した白子川にそって引かれていたが、戦後に行われた河川改修工事で、白子川がまっすぐになると、県境が蛇行したまま残ってしまった。
同じような県境には町田市と相模原市の境川周辺も成り立ちが似ている。
突き当たりだけが埼玉県のクルドサック
普通すぎるパン屋がある普通じゃない県境
地図上でへんな形をしている県境に実際行くと、特になにもない。ということが多い。
しかし、成増と和光市のあいだの県境には小さいパン屋さんがあった。
本当は、何もないということなくて、かならず何かはあるのだ。