炎天下の田んぼで捜索開始!
秘境のジャングルでもなんでもなく、タイならば各地にありふれた田園地帯が舞台。私有地なので、魚採り(釣り)をする際は地主さんにチップを支払って交渉する。
やってきたのはバンコク郊外の田園地帯。
キノボリウオは水田の用水路や湿地の沼などの浅い止水を好む。日本だとタウナギや雷魚が採れるような環境だ。
植物の茂った岸際が狙い目。
捕まえ方は釣り。エサは食パンのかけら。
しかもけっこう大きいぞ!
一見すると特徴のない小魚にだが、間近で観察するとけっこう個性的。特に蝶番状のエラがメカっぽくてかっこいいのだ。
すると、すぐに僕の釣り糸もビンビンと引っ張られた。
やった!こっちもキノボリウオ!いっぱいいるんだなー。
炎天下で頑張った甲斐があった!キノボリウオはヒレやエラがトゲだらけで、不用意にさわると痛い目を見る。喜びつつもしかめっ面なのはそのため。
こんなに小さなキノボリウオも釣れたよ!
本当に木に登れるのか!?
ということで、無事に材料は確保できた。
いよいよ世紀の大実験「キノボリウオは本当に木に登るのか」を実行する時がやってきたのだ
よく濡らした木の根元へ。さあ、登れんのか!?
捕獲したキノボリウオをそっと木の根元へ放す。
さあ…、どうなる!?
お…!
うおおおおおお!!
……はい、すみません。
↑の写真はやらせです。冗談です。ホントごめんなさい。
実際には木の根元をぴょこぴょこ這いまわるだけでした。
結論:キノボリウオは木に登れません
ていうかさー。ハゼみたいに吸盤を持ってるとかならまだしも、こんなフナみたいな体型の魚がそそり立つ木になんか登れるわけないじゃーん。
キノボリウオという名前の由来には「鳥によって樹上に運ばれた本種を見た人が勘違いした」など諸説あるようだが、実際に自力で木登りに挑んでいる姿が確認されたという記録は無いのだ。
木は登れないけど歩けるよ!
じゃあさっきのやらせ写真ではどうして垂直に近い木の幹に張り付けているのか?
その秘密はこのトゲだらけのエラとヒレにある。
トゲトゲで指や布にもよく刺さるのよ。
カメラの死角で木の皮にトゲが引っかかってただけです…。子供だましで申し訳ない…。
だがしかし!
木にこそ登れないかもしれないが、キノボリウオには魚類としては十分すぎるほど奇抜な特技を持っている。
なんと空気呼吸を行い、さらには陸上を歩いて移動できるのだ。
地面を歩くキノボリウオ。
まあ実際はのたうって這い回るって感じなんだけど。
キノボリウオは「ラビリンス器官」という鰓がやたら複雑に発達した、なんか超すごい呼吸器を持っている。そのラビリンス器官のおかげで、空気からダイレクトにガス交換を行えるのである。
なので、水面を眺めているとちょいちょいキノボリウオの「息継ぎ」が観察できる。
さらに胸ビレと腹ビレで身体を支えながら陸地を這いまわることができる。木には登れなくても、陸を歩ける魚というだけでもたいしたものだと思うが。
胸ビレを広げてとドッシリと大地に立って(?)歩く。乾季に池や水路が干上がりがちな東南アジアではこの能力はとてもに役立つ。緊急避難の際に。
キノボリウオを食べてみよう
さて、せっかくの機会なので捕まえたキノボリウオを食べてみよう。
実際、キノボリウオは東南アジアでは一般的な食材として親しまれており、タイでは「プラーモー」という名で市場に並んでいる。
空気呼吸できる特性ゆえ、水なしでも容易に活かしたまま運搬、保管できる点がナマモノの傷みやすい現地では重宝されているのだ。
市場に並ぶキノボリウオ。このお店ではトゲだらけのエラが顔面ごとが引き剝がされ、なかなか壮絶な姿になっている。カンチャナブリ県にて。
レストランへ持ち込んで調理してもらう。ディープフライにして甘辛いトマトソースをかけたもの。キノボリウオの定番料理なのだとか。
身はかなりしっかりしている。魚が陸を歩くためには筋肉質なボディーが必要なのかも。
いただきまーす。淀んだ用水路で捕れたばかりの魚って、ちょっと口へ運ぶのに勇気いるよね。
あっ、うまい!うまい!うまい!
キノボリウオのお味はなかなかのものだった。
ちょっと身の締まったライギョやティラピアといった感じかな。淡泊でクセは無いけど、ちゃんとうまみのしっかり乗った上質な白身魚の味。
うまい!うま…痛ってえ。骨が太くて硬い!キノボリウオを食べる際はその点だけ要注意!
ただし注意点が一つ。
まず骨が太くてとても硬く、喉や頬に刺さるとすごく痛いこと。これはあの鰭のトゲトゲぶりから推して知るべきだった。
いやー、野生のキノボリウオを観察できて、しかも食べることまでできてとても満足だ。
ん?はじめから木に登らないことはわかってただろうって?実験は捕まえるための、食べるための口実だろうって?
んん~~。その辺はノーコメントで…!
実はタイにはもう一種類、プラーティーンという陸上を歩く魚がいる。今度はこいつを食べてみよう!