おしんに負けた思い出の学舎(未遂)
当時始まったばかりの一芸入試、僕は高校時代にNHK放送コンテスト(放送部の甲子園的なもの)のラジオドラマ制作部門で3年間連続全国入賞していた経歴でチャレンジしたら、受験生の中に同じNHKでも朝ドラ『おしん』で主人公おしんの子供時代を演じた小林綾子さんがいたのだ。
で、小林さんは受かって僕は落ちた。おしんめ。



あれ以降、二度とこの敷地に足を踏み入れることは無かろうと思っていたのに、二十数年を経て留学生の丼をご馳走になりに来てしまった。
ともあれ立命館の校内で皆さんと合流し、まずは買い出しである。

今回のテーマとしてすでに「ユアカントリー料理オンザ丼ライス」とお願いしてあるので、それに必要な材料を揃えてもらった。

留学生寮がやたらとかっこいい
大学から徒歩15分ほどのこの国際寮(立命館大学インターナショナルハウス大将軍)は、昨年に完成したばかり。まだほぼ新築ですごいキレイだ。





ちなみに建物自体は男女共同寮だが、女子フロアはがっちり男子禁制になっているので、世界各国のご両親がたもご安心ください。



コンロとシンクも4つずつあるので、今回はここで1人1設備を使ってもらっての丼調理をしていただこう。






まだ日本に来て一年ということで、まだ日本語は流暢という感じではないが、料理を説明する時のフライパンを振ったり肉を捏ねたり、といったパントマイムがやたら上手かった。たぶん料理も相当やるっぽい。



さすが平均身長世界一のオランダ人。190㎝近い上にシュッとしたイケメンである。留学するぐらい頭が良くて、これで料理まで上手かったら大騒ぎである。さぁ、上手いのか。大騒ぎなのか。



レトルトの麻婆豆腐の素を使用するのは「これが簡単でいいです」とのこと。そうか、本場中国の人もこれでいいのか。美味くて簡単でいいよな。



アンナさんは日本の甲冑が大好きで、アメリカの自宅にある鍛冶場で鎧を作っていたそうだ。お互いにちゃんと日本語が通じていればの話だが、確かにそう言ってた。あり得なさすぎて2回確認したけど、本当らしい。
ちなみに今回は彼女だけアイデアが2つあるとかで、丼も2つ作ってもらうことになっている。それにしたって材料多くないか。

作ってみよう、マイカントリー丼(男性編)



マックス「僕のママのマッシュルームソースを作ります」
実は知らなかったのだが、検索するとどうやらオランダはマッシュルームの本場で、世界で唯一、マッシュルーム栽培の専門学校もあるそうだ。
そのオランダ定番のマッシュルームソースを、マックスさんのお母さん直伝レシピで作るそうだ。このためにお母さんにレシピを確認してくれたとのことで、お母さん、よく分からない企画でご面倒おかけして申し訳無い。
どんな味のソースなのか、完成が楽しみだ。



キャスパー「デンマーク風ミートボールのフリカデラと、ミンチステーキを作るよ!」
そう言いながら楽しげに豚ミンチをこね、牛ミンチがスーパーで見つからなかったからといって牛肉を包丁で叩きまくるキャスパーさん。
僕は今までデンマーク人の知り合いがいなかったので分かっていなかったのだが、どうもデンマークというのはミンチの国らしい。
キャスパー「デンマークは養豚の国です。日本にも豚肉をいっぱい輸出してます」

作ってみよう、マイカントリー丼(女性編)
どえらく良い匂いはしてるぞ。



なのに、向さんが買った麻婆豆腐の素は中辛。そこに追加で辛味を足した様子もない。
向「私は辛いのが好きだけど、重慶の味に合わせてしまうとみんなが食べられなくなってしまうから…」
あっ、なんかすごくいい人だ。グローバル気遣いだ。





向「実は私、実家にいた頃は料理したことが全く無かったんです。だからこの写真をお母さんにメールしたらビックリすると思います」
そういえば向さん、確かに豆腐を切るのも唐揚げを揚げるのもやけに慎重だなと思っていたのだが、あまり慣れていないからだったようだ。
でもこの完成度なら、お母さんきっとビックリしてくれるんじゃないか。



どうやら今作ってる料理のレシピをメロディーに乗せて歌っているらしい。
なんだそれ。よく分からないが、アメリカ人がそういうことをすると妙にかっこいいからズルい。勝手なアメリカイメージで恐縮だが。








(買い物の中にバターが2箱あったが、最終的に2品で1.5箱分使ってた)
こういう書き方をするとアンナさんがバターどはどばの雑な調理をしているかのように見えてしまうが、実は彼女はかなり繊細なアーティスト。なんと今回の丼のレシピを作る時に、盛り付けのデザインまで考えていたのだ。



うん、分かるぞ。僕も同じタイプの人間だから分かる。この人、とにかく食べ物が好きで好きで仕方ないタイプの人に違いない。
こういうタイプは万国共通で仲良くなれる自信がある。そして、絶対に美味しいものを作ってくれるはずだ。

いよいよ完成、国丼!
それを、丼ごはんの上にどばっと乗せれば、国丼の完成である。



さらに、絶妙のミディアムレアに焼けたステーキの切り口をがっつり見せびらかすように盛り付けてあるのは、アンナさんの手腕である。
さすが、我々農耕民族では何世紀経っても追いつけないアメリカ人の肉慣れっぷりだ。



がっつりした厚切りベーコン、ソーセージグレービー(刻んだソーセージとタマネギと小麦粉をたっぷりのバターで炒め、牛乳を加えた濃厚なホワイトソースみたいなもの。ビスケットなどにつけて食べる)、ハッシュブラウン(ハッシュポテト)、目玉焼きというザ・アメリカン朝食をそのままご飯にオン。体育会系男子学生ですらさすがに朝からは勘弁、というカロリーの塊である。



ここまでくるとさすがにカロリーが気になって仕方ないが、鶏唐揚げがあっさりした胸肉を使ってくれているのは向さんの気遣いだろう。



炒めたマッシュルームとパプリカ、タマネギをブイヨン(今回は鶏ガラスープで代用)で煮て、ニンニク入りクリームチーズで味付け。最後にカレー粉で風味付けしてある。
わりとシンプルな作り方だけど、マッシュルームの味がソース全体に染み出していて、めちゃくちゃ美味い。本来はパンなどにつけて食べるものらしいが、ご飯でも…というかご飯で大正解。



ハンバーガーの付け合わせにちょっと付いてるのはよくあるが、これだけピクルスに存在感があるのは珍しい。
ちょっとつまませてもらうと、ピクルスの酸味が肉のあとくちをサッパリさせて、いくらでも食べられる感じ。これ、止まらないやつだな?
よし、じゃあ本格的に食うか!

みんなの国丼、いただきます
せっかく4カ国5種の国丼ができたので、ついでにそれを全部まとめたグローバル丼も作れないだろうか。



イメージとしては、一人暮らしの学生が昨日のおかずの残りとか適当にご飯の上にのっけた、雑なアレの感じだ。



最初からこういう豪華ボリュームな丼なんだよと言われていればスムーズに受け入れられそう。
例えば海鮮丼とか、いろいろな具材が乗ってるじゃないか。あの感じのワールドワイド版だと思えば。






「マジか、ステーキって箸で切れる!?」と驚くデンマーク人。
自前の光るライトセーバー箸で慎重に目玉焼きの黄身をつぶすアメリカ人。
「グローバル丼ウマイ!」と思わず白目をむくオランダ人。



正直、事前に「今回ひとつぐらいはどれかハズレが出るんじゃないか」と予想していたのだが、どれも間違いなく美味しく出来上がってしまった。ネタ的には失敗が混じってても良かったのだが、食事としては大成功だ。



どこを掘っても美味いのが出てくるし、たまに麻婆がステーキに絡んだり、ミートボールに対してマッシュルームソースとピクルスが一緒にいい仕事をしたり。どう食べても楽しいのだ。
世界、最高だなー。

ワールドワイドに美味しかった
あいつらなんか美味そうなのを作ってるぞ、という話が寮内に広がったらしく、他の学生たちも食堂に集まってきたのだ。






食べ物に国境はない…的なご大層な話じゃなくて、単に学生さんは万国共通、世界どこでもこんな感じで騒がしくワイワイとメシを食うのだろう。



ごちそうさまでした。

おまけに、探検もしておいた
最初は「僕の部屋は汚いからダメです」と断られたのだが、「そもそも男子学生の部屋でキレイとかありえないから。汚くて普通だから」となだめすかして、部屋に入れてもらうことに成功。






日本人は買い物する時にわりと小銭をきっちり使い切ろうとするが、留学生はそういうのを持て余すらしい。
なので、部屋のあちこちに小銭が積み上げられているのは『留学生あるある』なのだ。
よくRPGなんかで、部屋のタンスや井戸の中などを探すと「なんでこんなところにコインが隠してあるんだ」的なことがあるが、あれ、もしかしたら留学生の部屋なのかもしれないな。勝手に持っていかないほうが良さそうだ。





というか、自分が学生だった頃って、冷凍のミックスベジタブルとソーセージを炒めてご飯にのせて掻き込む、みたいな雑きわまりない無国籍丼で食いつないでいたので、こんなきっちり自国の料理を作れるって、すごいな。
やはり知らない世界で冒険する時は、自分の国の料理ぐらいは作れるようにしておいたほうがいいのかもしれない。





