文明堂東京の浦和工場へとやってきた
さてカステラの切り売りをやっている文明堂東京という会社だが、文明堂と名の付くチェーンはいくつかある中で(
編集部古賀さんの記事に詳しい)、文明堂新宿店と文明堂日本橋店が合併してできた会社とのこと。
カステラの切り売りは毎日行われているものではなく、いくつかある工場で月に数回だけおこなわれている。私が向かったのは最寄りとなる浦和工場。
文明堂東京の浦和工場。浦和なので埼玉ですよ。
カステラの切り売り、さてどんな雰囲気のイベントなのだろう。カステラに対する特別な思い入れがないこともあり、まったく予想がつかない。
販売開始となる午前10時に合わせて来てみたのだが、売店の前に大行列ができるという感じではないようだ。
切り売りを買いに来たのだが、切り落としも魅力的だね。
カステラの切り落とし、マグロでいったら中落ちのうまい部分だ。
とりあえず目に付いた切り落としを買ったのだが、肝心の切り売りが見当たらない。店の方に聞いたら、ここではなく工場入り口でやっているとのこと。
なるほど、少しでも工場から近いところで売るということだろうか。
奥に進むとものすごくアピールされていた。売店で場所を聞かれるたびにこのノボリが増えていったのだろう。
カステラの切り売りに対して、どんなテンションで挑んでいいのかまだ自分でもわかっていない。
台座がカステラっぽくないこともない宮﨑甚左衛門の像。
本日の窯だしカステラは限定500個
工場の入り口には、祭りのような赤白の幕が張られ、お正月のようなノリを醸し出していた。
ノボリに紅白幕。商店街の福引会場っぽい気もするが、この日常ではない感が確実にこっちの心を揺さぶってくる。
10時ちょうどに到着。もう販売は始まっているようだ。
本日分は限定500個で売り切れ次第終了らしい。多いんだか少ないんだかまったくわからない数だ。
まだ売り切れる心配はなさそうなので、とりあえず張り紙を熟読してみる。わりと情報ありきで味を楽しむところがあるのでね。
「窯出し」という文字が、もううまそうじゃないですか。
なるほど、ただの焼きたてカステラではなく、焼きたてが美味しいように開発されたオリジナル商品のようだ。ほほう、ちょっとテンションが上がってきたぞ。
というか、一般的なカステラって焼いてから熟成させるものだったのか。
懐かしい例のCMが流されていた。ちなみにずっとネコだと思っていたけど、実はクマらしいよ。
ここで見られます。
これが切り売りの窯だしカステラだ!
窯だしカステラへの期待に胸がじわじわ高鳴ったところで入店すると、まさにカステラの切り売りがされていた。これぞカステラ工場の直売所という感じ。
畳半畳ほどの窯だしカステラをでっかい包丁で切る様子は、工場見学の楽しさに通じるものがある。
奥の神輿が「老舗のカステラ屋さん」っていう独特の雰囲気を出している。
巨大な包丁で正確に切り分けられていくカステラ。切る前のカステラってこんなにでかいのか。マグロの解体と違って、どこをとっても均一だ。
カステラの切り売りというはじめて見る景色に興奮しつつも、カステラそのものの違いは見た目だけだと素人にはわからない。普通といえば普通。
ちょっと大きめなのがうれしい試食が用意されていたので、とりあえず味を確認してみよう。
メープルとハニーという、味覚の間違いさがしみたいな2種類。
どれどれと手に持ってみて驚いた。なんとまだ温かいのである。いや焼きたてなんだから温かくて当然なのだが、でも切られたカステラが温かいというのが新鮮なのだ。
そして持っただけでもわかるその柔らかさ。カステラといえばシットリして重量感のある洋風和菓子というイメージだったが、まるで重さが存在しないかのように軽い。いやちょっと言い過ぎた。
薬局で手に持った薬が空箱だったように、予想よりも軽いのだ。
食べてみると、これがなんとも良いのである。柔らかくて温かい。これはもう、ぬくもりだ。
私がサンボマスターなら、「このぬくもりに用がある」と歌い出すところだろう。
温かくて柔らかく、そして甘い!
もちろん2種類とも試食させていただいたのだが、ついつい興奮しすぎて自分がメープルとハニーのどっちを食べているのかわからなくなった。
いつものカステラと違いすぎて、メープルとハニーの違いまで頭に入ってこない。
この衝撃的な試食で満足してしまった感もあるのだが、もちろん買わせていただこう。
ハニーにするかメイプルにするかは、蜂蜜にするか楓糖にするかだ。自然な甘さの二大巨頭、これは迷う。
どっちも買った!
今すぐに食べてこその窯だしカステラ
勢いで両方買ったハニーとメープルの窯だしカステラだが、これを自宅に持ち帰って2時間後とかに食べたのでは、その魅力は半減してしまうだろう。
冷める前に食べてこそ。そこでちょっと行儀は悪いけど、敷地内のベンチで一ついただいてしまうことにした。売店前の自販機が缶コーヒー100円で嬉しい。
ビニール袋から取り出したカステラの箱が、ほんわかと温かい。凍えるような真冬だったら、このぬくもりで泣いていたかもしれない。
あたたか~い。消費期限は今日を入れて4日あるが、工場長の希望はきっと30分以内だろう。
中には例の説明文。「窯から出した、焼きたてのカステラを食べてみたい…」と訴えてくれたお客さん、ありがとう!
焼きたて、切りたて、包みたてのカステラが我が手の中に!
このホッカホカでフワッフワな感じ、伝わりますかね。
モリモリと食べても喉につっかえる感じがない。ザラメが敷かれていないタイプだが、この軽さを活かすならそれが正解だろう。
ここまでふんわりしていると、カステラではなくシフォンケーキやスポンジケーキに近づくのだが、それでもカステラとしての守るべき一線は超えていないと思う。知らないけど。
今までの記憶で一番近いものを上げるとすれば、もしかしたら「ぐりとぐら」に出てきた、憧れ続けたあのカステラのイメージかもしれない。
これこれ、このカステラ。「ぐりとぐら」中川李枝子/大村百合子/福音館書店 より。
缶コーヒーよりも冷たい牛乳がベストかな。あるいは熱い緑茶。
さすがに食べ切れなかったメープル味は、箱にホッカイロを張り付けて小型クーラーボックスで持ち帰るという、私の考えられる最善をつくしてみた。
そして2時間後に試食。フワフワで温かく、もちろんうまいのだが、やっぱり工場で食べたあの味とはちょっと違うように感じた。
雰囲気込みの評価だろうけど、やっぱり出来立てにはかなわないかな。
この窯だしカステラは、揚げ物くらい出来立てに価値のある食べ物なのかもしれない。
出来立てのカステラはあたたかくてうまかった。だがそれはあたたかくてうまいように作られたカステラだからこそ。最初に買った切り落としのカステラも、しっとりとしてうまかった。きっとまた買いに行く。
お店の方の話だと、窯だしのカステラは早い日だと昼過ぎくらいに売り切れるとのこと。切り売りの実施日は
サイトで確認してください。