確かに巨大なキノコだった
まずネットでちらっと調べてみると、巨大キノコの生えている場所は、埼玉県久喜市の高柳地区にある浅間神社であることがわかった。
そしてそのキノコは、ニオウシメジというらしい。昔から「香りマツタケ味シメジ」なんてことをいうが、このシメジは匂いが強いのだろうか。
巨大なキノコが生えるくらいだから、すごい広い敷地の神社だろうと想像していたのだが、到着したのはかわいらしい感じの神社だった。
久喜市のパワースポット(キノコにとって)、高柳大香取神社。
さてこの神社のどこに目的のキノコが生えているのかなと見渡すと、左手に派手なパラソルの立っていた。
キノコよりはバラやダリヤなんかが似合いそうなスペースだが、きっとあそこなのだろう。
神社の境内に現れたガーデニング空間。
柵で囲まれた一角には、想像していた以上に大きく、そしてたくさんの巨大キノコが鎮座していた。
都心に珍しく雪の降った翌日、溶けた雪だるまがそこらじゅうに並んでいる様子みたいだ。あるいは動物園にある羊のふれあいコーナー。
こんなにたくさん生えているのか!
でかい。でかすぎる。埼玉名物ニオウシメジ。
埼玉なので十万石饅頭のCMっぽく驚いてみた。
一番大きなキノコで、その幅は120センチといったところだろうか。単体でポーンと生えるのではなく、一つの株からたくさん生えるタイプらしい。
なにがどうしてこうなったんだろう。
これだけでかいのに、群生してるってどういうことだ。
この下に、なんかやばいものでもうまっているのでは。
匂うシメジではなく、仁王シメジ
これだけニオウシメジがあったら、さぞや匂うだろうなと思ったが、柵の外から鼻を近づけてみても、なんとなくマッシュルームっぽい香りがするだけ。
それよりも地面から漂ってくるクワガタを飼う時のマットみたいな匂いが気になる。
一つの傘がグローブくらいあるよ。
なんだか襲ってきそうだ。
こりゃすげーキノコだなと驚いたところで、設置されていた看板を確認すると、2つのことがわかった。
キノコはこの場所に2年連続で自然に生えてきたこと。
ニオウシメジは「匂う」ではなく、「仁王」であること。
浅草寺とかにある仁王様の仁王、仁王立ちの仁王か!
仁王のキノコとはうまいこというねーと、その巨大な傘ををポンと叩きたくなった。
ここに生えたのには理由があった!
さてこの巨大なニオウシメジは、いったいどういった経緯で、この場所にボコボコと生えたのだろうか。
お話を伺ったのは、キノコを優しい瞳で見守っていた菊池繁芳さん。ここ高柳地区の前区長であり、この場所を管理しているお方である。
複数の新聞に載ったこともあり、先週末の見学者は毎日100人以上だったそうです。
このキノコは誰かが植えたり、胞子をまいた訳ではなく、去年から勝手に生えるようになったとのこと。ここはキノコの培養地ではなく、神社内にある公園の遊歩道なのだ。
元々はアカマツやナラなどの木が200本以上も生えていたところを、平成23年から26年に掛けて地域の住民達が中心になって公園にしたのだが、その際に地面を3メートル程掘って、伐採した木をそこに埋めて、上にウッドチップを敷いたところに、巨大キノコの生えてきたのだ。
数年前までは木がうっそうと茂る森だったそうです。
どこからか風で飛んできたのか、ウッドチップに付いていたのかは不明だが、ここにニオウシメジの胞子がたまたまやってきたことで、地下に木が埋められていた遊歩道が、巨大キノコの菌床となったのではないかなーというのが菊池さんの推理。
埋められた木々が朽ちて、巨大キノコの栄養源となったのか。もちろん正確なところはわからないが、とても納得のいく推理である。
別にキノコを育てようと思って作った公園じゃないんですよ。
でもニオウシメジ以外にもたくさんキノコが生えていた。これはキツネノタイマツかな。
ニオウシメジは南国によく生えるキノコであり、埼玉で発生するのはごく稀な現象。菊池さんの話だと、去年ここに生えたのが県内では5例目だとか。
そして2年連続で同じ場所に生えた例は今までなかったそうだが、よほど条件が良かったのか、今年も見事に生えてきた訳だ。
9月上旬に幼菌を見つけ、すぐに周囲を柵で囲い、カラスに食べられないようにネットを掛けて、朝晩水をやった結果がこの大豊作。
ちょっと遅れて写真手前側にも生えてきたので、慌てて柵を広げたそうだ。
「寒さに弱いから9月中にマックスまで育たないとダメ。ここ数日は冷えてきたから夜にはビニールシートを掛けてるけど、気温が下がると育ちきらないね」と、ベテランのジャンボカボチャ農家みたいに答えてくれた菊池さん。
最初に発生したのは偶然かもしれないが、ここまで群生させたのは菊池さん達の努力があってこそなのだろう。
柵ができる前に踏まれてしまったキノコは大きく育たない。来年は9月になったらすぐに柵を作るぞと菊池さんは燃えている。
ニオウシメジの成長過程
私が見学した10月4日は、発生したばかりの幼菌から、マックスまで育った成菌までが揃っているという、観察にはまさにベストのタイミングだった。
せっかくなので成長の過程を並べてみよう。
これが昨日出たばかりの幼菌。
こちらは3日目。キノコの赤ちゃんがたくさんだ。
これは1~2週間目くらいだろうか。まだまだ若いが、これでも知らずに出会ったら驚くサイズ。
そして3週間でマックスサイズに。まさに仁王立ちのシメジだ。
タイミングがいいと胞子が飛んでいる様子が肉眼でも見られるとか。
株をばらすとこうなっているらしい。キノコというか自然薯みたいだ。
すごい成長速度である。この前、菊池さんが旅行で二日ほど留守にしたら、キノコが大きくなっていて驚いたとか。
まさに「キノコ三日会わざれば刮目して見よ」だ。
ニオウシメジの味が知りたい
さてここからが個人的には本題である。このニオウシメジは一体どんな味なのだろうか。
その答えはすでに菊池さんが経験済みだった。ニオウシメジは毒のない食べられるキノコであり、去年テレビ局の取材で食べているのだ。
昨年の取材。そこで焼いて食べたのか。
その味を訪ねると、「ちょっと時期が遅かったから、硬くてコリコリしてたねえ…」とのこと。
ほほう。
嵐の二宮さんもきたそうです。ちょうど再放送があったので確認したら、大きな株を丸ごとホイル焼きにしていた。
今年はテレビの取材がまだなく、新聞の取材は多数あったけどキノコを食べたいという記者はいなかったため、まだ誰も食べていないらしい。
私は食べたい。すごく食べたい。
そこでネットの記事を書くために、ちょっとでいいから食べさせて欲しいなとモジモジしながら相談してみると、まだ本当は見学者優先なんだけどと笑いながら、離れた場所に生えていたやつから一部を譲っていただくことができた。
やったー!今年一番の収穫だー!
群生地からちょっと離れた場所に生えたニオウシメジをいただけることに!
ありがとうございます!ありがとうございます!!
育ちきってカピカピになっているやつでも全然よかったのだが、いただいたのはまさに食べ頃であろうベストサイズ!
ニオウシメジとしてはまだ小さいけれど、普通のシメジと比べれば特大サイズだ。
いやー、本当にうれしい!
食べ頃サイズのニオウシメジ、いただきましたー!
バター焼きで食べてみました
いただいてきたニオウシメジをじっくりと匂いを嗅いでみると、マッシュルーム的な匂いの先に、なんだか牛肉にコショウを振ったような、ピリッと刺激のある香りを感じる。嗅いだことのないタイプのキノコだ。
調理方法は迷ったのだが、シンプルにバター焼きに決定。調理はプロにお願いした。
持ち込みの怪しいキノコを快く調理してくれたシェフに感謝。
「ごめんね~、けっこう縮んじゃった~」と出された皿には、バターで炒められてすっかりとサイズダウンしたキノコが盛られていた。
でも縮んだ分だけ旨味が凝縮されていることだろう。
五分の一くらいに縮みました。
ちょっと緊張しつつ口に運ぶと、うまいんだけど後味がなんだか苦い。牛肉の焦げた部分が近いかも。苦いというか、キノコ成分が濃すぎるのかな。
バター焼きみたいに味を凝縮させる調理法よりも、キノコ汁やパスタみたいに他の素材へ拡散させる方向がよかったか。
シャクシャクという歯ごたえはいいのだが、たまにジャリってする。あわてて砂のついた石突き部分が付いたまま持ってきた私が悪いな。
今回はバーベキューで地面に落とした3秒ルールの焦げた牛肉みたいな味だが、次に食べるときはこのポテンシャルを生かせるはず!
でもこの苦み、実はキノコを好きな人が求めている究極のキノコなのかもしれない。ほら、芋焼酎とかも好きな人ほど芋臭いのをもってこいというじゃないですか。珍味好きは、うるかよりもにがうるかだし。
これが正しい調理法だったのかとあとで検索してみたら、
DEEokinawaの記事に食レポが乗っていて、どうやら茹でてから調理するとクセは抜けるらしい。だよねー!
また食べる機会があるのかわからないレアなキノコだが、もし次があれば一株まるまる使って、ニオウシメジのフルコースに挑戦してみたいと思う。
わざわざキノコを見るため久喜市まで行くべきかちょっと迷ったのだが、足を運んで本当によかった。なんだか巨大キノコの伝説が誕生した現場に立ち会えたみたいで嬉しかった。
この巨大キノコ誕生の話は、きっと久喜市で100年以上語り継がれることだろう。来年もまたニオウシメジがバンバンと生えますように。