食べに行くのは野生のメロン!
はじめに言うと、雑草メロンは普通のメロンではない。
大きさはウズラ卵程度、熟す前はむちゃくちゃ苦いが、熟すと黄色く色づき、ほんのり甘くなるという。
生物学的には同じメロンだが、栽培メロンとは違う、雑草として野生化しているメロンだ。
大きさはウズラ卵程度、熟す前はむちゃくちゃ苦いが、熟すと黄色く色づき、ほんのり甘くなるという。
生物学的には同じメロンだが、栽培メロンとは違う、雑草として野生化しているメロンだ。
雑草メロンのイメージ。ウズラ卵ぐらいの大きさで、まんまるい。
秋風の涼しくなる9月中旬、黄色く色づいた完熟メロン(ただし雑草)を求めて、僕は熱海沖の初島へと向かった。
興奮のあまり、新幹線で熱海へ向かう。
なぜわざわざ初島へ向かうのか?
メロンの起源は古く、弥生時代に中国大陸から伝わり、食用にされていたという。なので古墳や遺跡から、メロンの種がばんばん出土するらしい。
なんと弥生時代にはメロンを食べていたという。
しかしそのあと普及せず、人の手を離れて放置。
雑草化して、今では主に瀬戸内海から九州の島々に分布しているが、北限として熱海の初島にも生育するという。
古代人の食べたメロンが熱海にある!
ここ2~3年、雑草野菜を追い続けている僕としては、このロマンチックな雑草への想いに、胸がはちきれんばかりである。
雑草化して、今では主に瀬戸内海から九州の島々に分布しているが、北限として熱海の初島にも生育するという。
古代人の食べたメロンが熱海にある!
ここ2~3年、雑草野菜を追い続けている僕としては、このロマンチックな雑草への想いに、胸がはちきれんばかりである。
リゾート客の群れ。雑草のことを考えてるのは僕だけ。
熱海から20分ほどで初島に到着。
直径400mほどの小さな島で、10分も歩けば対岸に着いてしまう。「東京から一番近い離島」という名にふさわしい。
直径400mほどの小さな島で、10分も歩けば対岸に着いてしまう。「東京から一番近い離島」という名にふさわしい。
昭和には名の知れた観光地だったぽい
はっきり言おう、今回は発見する自信がある。
雑草探しは、いつも広すぎる大地を前に茫然としてしまうのだが、今回はターゲットが極めて小さく、しかも弥生時代から生えているという事前情報もある。
これは勝ったも同然だ。
100%の勝算を胸に、初島の中心部へと分け入った。
雑草探しは、いつも広すぎる大地を前に茫然としてしまうのだが、今回はターゲットが極めて小さく、しかも弥生時代から生えているという事前情報もある。
これは勝ったも同然だ。
100%の勝算を胸に、初島の中心部へと分け入った。
リゾートに集う人、雑草を探す僕
ざっと歩いてみたところ、初島には、『リゾート地域
』、『民家地域
』、『畑地域
』の3つがあった。
島の半分以上はリゾート化されている。中央にVマークの畑、漁港の周辺には民家。
『リゾート地域
』はまず無理だ。
リアルが充実した感じの人が大勢集まっていて、雑草どころの騒ぎじゃない。
「ええと、古代のメロンがですね……」なんて話を始めたら、「お客様、お引き取り下さいませ。」と言われること間違いなしである。
リアルが充実した感じの人が大勢集まっていて、雑草どころの騒ぎじゃない。
「ええと、古代のメロンがですね……」なんて話を始めたら、「お客様、お引き取り下さいませ。」と言われること間違いなしである。
ここには用も無いし、雑草もない。
『民家地域
』も、ちょっと無さそうである。
初島の民家は密集していて、どこも「海の幸の定食」を観光客に提供していた。(そしてちょっと値段が高い)
住宅地は意外と雑草が見つかるポイントなのだが、ここでは焼き魚定食の値段ばかりが目についた。
初島の民家は密集していて、どこも「海の幸の定食」を観光客に提供していた。(そしてちょっと値段が高い)
住宅地は意外と雑草が見つかるポイントなのだが、ここでは焼き魚定食の値段ばかりが目についた。
密集する民家。アジの焼き魚定食が1000円ぐらいする。
やはり『畑地域
』が狙い目である。
トラクターとか全然使ってない感じの、ゆるーい畑。
雑草メロンの本場・瀬戸内海でも、畑地のそばに生えるらしい。ということは、たったこれだけの部分をくまなく探せばいいのだ。
狭い!!ここだけ!
獲ったりー! 雑草メロン討ち獲ったりー!
今から勝利の雄たけびが、脳内に響くようである。
今から勝利の雄たけびが、脳内に響くようである。
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見つからぬ雑草メロン
畑を探すのは楽しい。
区割りが適当で、小屋とノラ道がうねうねと入り組んでいる。田舎のおばあちゃんちで探検する気分である。
区割りが適当で、小屋とノラ道がうねうねと入り組んでいる。田舎のおばあちゃんちで探検する気分である。
誰んちだかわからない道。近所の人がひょいひょい通る。
しかし30分も歩くと、さっきまでの確信が虚妄であったことが分かった。メロンが全く見つからないのだ。
例えばこんな感じである。
例えばこんな感じである。
「あ! 雑草っぽくウリの仲間が茂っているぞ!!」
ザッツ・ノーメロン。(ゴーヤ)
お、雑草ぽいポジションにウリのつる的なものが!
ザッツ・ノーメロン(カボチャ)
雑草メロンの写真を眼の奥に焼き付けてきたので、すぐに分かる自信があったが、見つけたのはメロン以外の青い果実ばかりだった。
ザッツ・トゥー・ビッグ。
メイビー・みかん。
それはそうと電子基準点「初島」を発見! (3年前の記事に書いた)
雑草メロン、絶滅か
心に悲しくビールが沁みる。
5時間かけて、小さい島内の道という道を3周ぐらいしたが、雑草メロンは無かった。
この島が生育の北限ということで、そもそも多く無かったものが、リゾート開発で姿を消してしまったのかもしれない。
弥生時代から生きていたはずの植物が無くなってしまったとしたら、いたって悲しいことである。
この島が生育の北限ということで、そもそも多く無かったものが、リゾート開発で姿を消してしまったのかもしれない。
弥生時代から生きていたはずの植物が無くなってしまったとしたら、いたって悲しいことである。
メロンよ、海の果てに消えたか……
それよりも悲しいのは、ふところの厳しい編集部から交通費を出してもらったのに、取材に失敗したことである。担当の安藤さんに何と言い訳をしていいかわからない。
胸につのる申し訳無さから、帰りは新幹線ではなく、鈍行列車で帰ることにした。
胸につのる申し訳無さから、帰りは新幹線ではなく、鈍行列車で帰ることにした。
カモメの写真が美しく撮れたが、それが何になる。
でも、雑草メロン食べられました。
しかし結局僕はこのあと、雑草メロンを食べることに成功する。
どのような経緯で成功したかを、ここまでの話が無かったかのように、次のページで報告します
どのような経緯で成功したかを、ここまでの話が無かったかのように、次のページで報告します
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雑草メロンを栽培している植物園
弥生時代に日本に入ってきたという古代のメロン、「雑草メロン」。見に訪れたのは、千葉県佐倉市にある『くらしの植物苑』である。
あいにくの雨。しかし雑草メロンに対する情熱は折れない。
「この植物苑で雑草メロン見た」というブログをちらほら見かけたので、電話で問い合わせてみたところ「もう黄色く色づいています。そろそろ撤去するかもしれません」
という連絡をいただいたので、光の速さで千葉へと向かった。
雨の中、案内をしてくれた職員の山村さん。
展示されていた栽培メロン各種。これ全部メロン!
――雑草メロンに対する来場者の反応はどうですか。
「まあ、あんまり……ですね。栽培してる同じメロンの仲間でコヒメウリていうのがあり、これは『かわいいー』ってよく言われますけど」
「まあ、あんまり……ですね。栽培してる同じメロンの仲間でコヒメウリていうのがあり、これは『かわいいー』ってよく言われますけど」
コヒメウリ、たしかにかわいい。すべすべまるまる。
――ところで山村さんは雑草メロンを食べたことありますか?
「えっ!? 私は無いですね(笑) 非常に苦いということは聞いていますけど。でも黄色く熟すと、しっかりメロンの香りがしますね」
「えっ!? 私は無いですね(笑) 非常に苦いということは聞いていますけど。でも黄色く熟すと、しっかりメロンの香りがしますね」
山村さん、苦笑いである。
そういえばトウモロコシの祖先を取材した時も、「え!?食べたことないなあ」と取材先では苦笑いであった。
常に食べることが真っ先に思い浮かぶ僕には、飢饉で死んだ古代人の霊が憑いてるのかもしれない。
そういえばトウモロコシの祖先を取材した時も、「え!?食べたことないなあ」と取材先では苦笑いであった。
常に食べることが真っ先に思い浮かぶ僕には、飢饉で死んだ古代人の霊が憑いてるのかもしれない。
「ここで雑草メロンを栽培しています」
これが追い求めていた雑草メロン!
とうとう出会えた!
これが、これが熱海で雨に濡れ、陽にさらされ、5時間追い求めた雑草メロンである。写真で見たのと全く同じ愛らしいルックスだ。大きさもほんとにウズラ卵程度しかない。
これが、これが熱海で雨に濡れ、陽にさらされ、5時間追い求めた雑草メロンである。写真で見たのと全く同じ愛らしいルックスだ。大きさもほんとにウズラ卵程度しかない。
ウリ科としては世界最小!
ほんのり黄色いが、メロンの香りはしない。しかしメロンとしては食べ頃な色にも思える。
感動して撮影しまくっていると、山村さんが「隣の植物も雑草メロンですよ」 と教えてくれた。
感動して撮影しまくっていると、山村さんが「隣の植物も雑草メロンですよ」 と教えてくれた。
雑草メロンJSD-24。黄色くてうまそう。
雑草メロンSS-6。超いい匂いする!
上の黄色い雑草メロンなんか、どう見てもおいしいルックスをしており、山で見つけたら積極的に食べていきたいぐらいだ。
このように地域によって、さまざまな変種があるのだという。
すごい! 雑草メロンの世界、奥が深い!
このように地域によって、さまざまな変種があるのだという。
すごい! 雑草メロンの世界、奥が深い!
花もちゃんと黄色くてメロンっぽい!!
正直に言って、食べてみたい。
山村さんに企画の趣旨を説明したところ、本来であれば来場者が食べることはできないが、そういったご趣旨であればと、特別に食べることを許可していただいた。
ひゃっほう!
はやる気持ちを抑えつつ、薄黄色に色づいた雑草メロンをひとつ収穫させていただく。
ひゃっほう!
はやる気持ちを抑えつつ、薄黄色に色づいた雑草メロンをひとつ収穫させていただく。
収穫! 雑草メロン、収穫します!
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これが雑草メロンの断面……
種しか無いじゃん!!!
種しか無い!
衝撃なのでもう一度言うと、種しか無い!!
雑草メロン、メロンと言いつつ、さすが雑草、見事なまでの色気の無さ。食うところが少しも無い。
人間に対して媚びることの全く無い、これが真の雑草魂だ。
しかし雑草と言いつつ、やはりメロンである。
種の部分は見憶えのある、ちゅるっとしてとろっ、としたあの感じ。この部分はちゃんとメロンだ。
ここが甘ければ、こいつをメロンと認定してもいいのではないか。とりあえず嗅いでみる。
衝撃なのでもう一度言うと、種しか無い!!
雑草メロン、メロンと言いつつ、さすが雑草、見事なまでの色気の無さ。食うところが少しも無い。
人間に対して媚びることの全く無い、これが真の雑草魂だ。
しかし雑草と言いつつ、やはりメロンである。
種の部分は見憶えのある、ちゅるっとしてとろっ、としたあの感じ。この部分はちゃんとメロンだ。
ここが甘ければ、こいつをメロンと認定してもいいのではないか。とりあえず嗅いでみる。
メロン? メロン??
メロンの匂いは、しない……、いや、あの青臭さはあるか?と、なんとも微妙。
種のルックスと合わせて、メロン度は20点ぐらいである。
しかしこれで甘ければ50点ぐらいにしてもいいかもしれない。
食べてみた。
種のルックスと合わせて、メロン度は20点ぐらいである。
しかしこれで甘ければ50点ぐらいにしてもいいかもしれない。
食べてみた。
むむ、むほっ!?!?!
むへー! むへーーーー!!
まずい! これはまずい!!
酸っぱくって、苦くって、えぐくって、果物の要素がまるで無い!
道ばたの適当な雑草の味、そのものである。
あまりの「メロンじゃ無さ」に、しばらく笑いが止まらなかった。
もうすごい、これ全然メロンじゃない!
酸っぱくって、苦くって、えぐくって、果物の要素がまるで無い!
道ばたの適当な雑草の味、そのものである。
あまりの「メロンじゃ無さ」に、しばらく笑いが止まらなかった。
もうすごい、これ全然メロンじゃない!
雑草! お前雑草だよ!
他の雑草メロンはどうか
しかし僕は思う。
他のふたつの雑草メロンは、意外といけるんじゃないか。
先にも書いたが、オレンジの方なんて「極楽に実る不老不死の果実」 みたいなルックスをしている。どう見てもうまそうだ。
これも山村さんにお願いして食べさせてもらった。
他のふたつの雑草メロンは、意外といけるんじゃないか。
先にも書いたが、オレンジの方なんて「極楽に実る不老不死の果実」 みたいなルックスをしている。どう見てもうまそうだ。
これも山村さんにお願いして食べさせてもらった。
これでおいらも不老不死!!
おお!喰うところある!!
すごい!こいつ、メロン!!
すごい!
さっきのに比べて、考えられないぐらいメロンである!
ちゅるちゅるの中の種の整列してる感じが特にすごい。
その上色は鮮やかオレンジ、ほぼ夕張メロンと言っていいルックスである。
これは絶対にうまい!食べてみよう。
さっきのに比べて、考えられないぐらいメロンである!
ちゅるちゅるの中の種の整列してる感じが特にすごい。
その上色は鮮やかオレンジ、ほぼ夕張メロンと言っていいルックスである。
これは絶対にうまい!食べてみよう。
シャクシャク(スネ夫がメロンを食べる音)
ほの甘い。
食感はシャクシャクとしているが、うっすら甘い。
そして何より香りがいい。めろーんとした甘い香りがする。
おお、これはなかなかメロンじゃないか!すごいぞ!、と思ったあたりで苦みが来る 。
雑草らしいエッジのある苦みが広がり、じわじわと舌に残る。悪い苦みだ。これがさっきまでのメロニティーを一気にかき消していく。
食感はシャクシャクとしているが、うっすら甘い。
そして何より香りがいい。めろーんとした甘い香りがする。
おお、これはなかなかメロンじゃないか!すごいぞ!、と思ったあたりで苦みが来る 。
雑草らしいエッジのある苦みが広がり、じわじわと舌に残る。悪い苦みだ。これがさっきまでのメロニティーを一気にかき消していく。
だめだ。メロン度にしたら40点ぐらいだ。
やはり所詮は雑草なのか。
やはり所詮は雑草なのか。
最後の雑草メロンはメロンなのか。
最後に残った緑の大玉雑草メロン。
本能的には、オレンジよりもまずそう。
青いのが多かったが、熟して薄黄色に色づいたものを割ってみた。
メロン?
メローヌ?
これも相当にメロンである。
懐かしのプリンスメロンの小型版、みたいな感じだ。
そして特筆すべきは香りがいいこと。割った瞬間にふおっとメロンの香りが明瞭な輪郭をもって漂ってくる。
これはメロンの期待が高まる。食べてみよう。
懐かしのプリンスメロンの小型版、みたいな感じだ。
そして特筆すべきは香りがいいこと。割った瞬間にふおっとメロンの香りが明瞭な輪郭をもって漂ってくる。
これはメロンの期待が高まる。食べてみよう。
これはメロッ……メロッ……
メロンです!! これはメロンです!!
さっきのオレンジより甘いし苦くないし、充分メロンである。
甘いと言っても、普通のメロンの外側の、皮に近いとこぐらいにしか甘く無いんだけれど、それでも十分にメロンとして脳が認識する。
アケビとかヤマモモみたいな微妙な果物より、ずっとずっと食べたくなる味に近い!
野山に生えてたら、絶対子供が取って食べる味である。
さっきのオレンジより甘いし苦くないし、充分メロンである。
甘いと言っても、普通のメロンの外側の、皮に近いとこぐらいにしか甘く無いんだけれど、それでも十分にメロンとして脳が認識する。
アケビとかヤマモモみたいな微妙な果物より、ずっとずっと食べたくなる味に近い!
野山に生えてたら、絶対子供が取って食べる味である。
メロン度80点!! メロン認定します!!
今回食べた雑草メロンいちらん。
雑草メロンもメロンです
というわけで長い旅になったが、無事に雑草メロンは食べられて、そして思いのほかにメロンであった。
個人的には、中央のちゅるちゅる部分がかなりメロンであるのに感銘を受けた。
シリーズ・雑草野菜、これで5回目だが、まだまだ次なるネタを探しに行きたいと思っているのでご期待下さい!
第一回:雑草の実で作ったお粥がうまかった
第二回:1万年前のトウモロコシでポップコーンを作る
第三回:雑草のハトムギでお茶とご飯を作る
第四回:雑草になったニンジンを食べてみたい
個人的には、中央のちゅるちゅる部分がかなりメロンであるのに感銘を受けた。
シリーズ・雑草野菜、これで5回目だが、まだまだ次なるネタを探しに行きたいと思っているのでご期待下さい!
第一回:雑草の実で作ったお粥がうまかった
第二回:1万年前のトウモロコシでポップコーンを作る
第三回:雑草のハトムギでお茶とご飯を作る
第四回:雑草になったニンジンを食べてみたい
しつこくカモメの写真載せる(きれいに撮れた)