野菜の原種に興味がある
最近、野菜の原種にすごく興味があり、色々と調べて驚いている。
例えばキャベツは、ヤセイカンランという雑草を改良して、トウモロコシはテオシントという雑草を改良して誕生したものらしい。
どちらも原種は、栽培種である作物からは程遠い。
たぶん、何十年、もしかしたら百年以上もかかっただろう。
昔の人には、深く感謝せざるを得ない。
身近にある原種
身近な植物が意外にも原種だ、ということもある。
雑穀のアワは、なんとネコジャラシが原種だというのだ。
THE・そのへんに生えてる草。
たぶん食べ物に困った昔の人が、実の大きいネコジャラシを、何十年も選抜して作物にしたんだろう。
それを聞いて、僕も試しにネコジャラシを食べてみたのだが、むむ、これは相当の飢饉でもない限り、食いたくは無いなという味だった。(→
参照)
昔の人たちの生活の厳しさがしのばれる。
オート麦≒カラスムギ?
そして今回の本題はオート麦である。
普段、ほとんど目にしない穀物、オート麦。
オート麦は燕麦とも呼ばれ、世界的で広く栽培されているが、日本ではオートミールやフルーツグラノーラぐらいでしか見かけない。
そんなこの穀物の原種は、カラスムギという雑草らしいのだ。
カラスムギとは、この雑草。
見たことはあると思う。
子供の頃、原っぱで遊ぶとつんつん刺さるので、なるべく近寄りたくなかった雑草として、僕も記憶している。
カラスムギの花。
これが改良されて、オート麦になったらしい。
ということは頑張れば、このカラスムギからオートミールが作れるんじゃないだろうか。
カラスムギなんか、この時期、そこらじゅうに生えている。
僕は意を決して穀倉地帯(カラスムギの生えてる河原)へと向かった。
ここだって穀倉地帯。
ほら、こんなに豊かな大地じゃないか
6月上旬、カラスムギがほどよく収穫を迎えた時期になった。
ぎっしり詰まったカラスムギの実。
目の前に、こんなに素敵な穀倉地帯が広がっているのに、誰もこれを収穫しようとしない。
僕の独り占めだ。
ひとつの草むらが、ただの雑草に見えるか、食料の山に見えるか。
気持ちひとつで、世界はこんなにも変わって見えるものなのだ。
宝の山……。5000年前の人も、この草むらを同じ気持ちで眺めただろう。
手軽に収穫、カラスムギ
穂を手に取り、ぶちぶちと引っ張ると、面白いように実だけが取れる。
下の写真をクリックすると、体験できるようにしてみた。
穀物は、収穫のときの脱穀が大変で、「千歯こき」が開発されたと中学校で習ったが、野生のカラスムギに関しては意外と楽勝だった。
ぶちぶち取れて面白い。
素手でも問題無く取れるやわらかさ。
そう言えば子供の頃、ペンペン草で同じようなことに夢中になった。荒れ野を作る勢いであの実を刈り取って回った。
ところが、カラスムギは面白いうえに、これが食料になるのだ。素晴らしい。
夢中で集めているうちに、袋にいっぱいのカラスムギの実が集まった。
20分足らずで、山盛りの食糧が!
さて、うちに帰って、カラスムギを干しつつ、ちょっと実の構造を詳しく観察してみたい。
集まりすぎて少し気持ち悪い。
どこが食えるのか、カラスムギ
いまだに僕の中で、「カラスムギが食えるのか?」という疑問は解消されていない。
ちょっと実を分解して、どこが食えるのかを探求してみた。
まず、これが実だ。えらく尖ったトゲが生えているのが印象的だ。
このトゲを「芒(のぎ)」と言うらしい。
湿気を吸うとクルクルねじれて、地中に刺さっていくんだそうな。
つづいて皮をむいてみると、こげ茶色の種っぽいものが姿を現す。殻はわりと硬い。
この種の一部としてトゲが生えている。
これも食えそうにないので、この種の殻をさらにむいた。
すると種の中から、淡い色の粒が出てきた。
見るからに柔らかく、食えそうなルックスをしている。
これか。食う部分は。
かじってみると、生米に似た味が口に広がった。
苦みも無い。
いける。
どうやって皮と殻とトゲを取る?
しかし、これを食べるためには、皮とトゲと殻を全部取り除かなければいけない、ということになる。
これは、めんどくさい。
「これ全部取るのか……」
思えばお米だって、食う前にモミガラとか全部取ってくれる人が、いるのだ。たぶん、すごい機械を発明した人がいて、わっさわっさと取ってくれているのだ。
そうして僕らは、毎日ご飯を食べている。
ああ、こういう記事を書くたびに、一つ一つのありがたみが身に沁みる。
とりあえず、2週間ほど干してみた
干している間に色々と調べた。
殻を取る過程は「もみすり」といって、米ではゴムローラーを使った機械でやっているらしい。摩擦の関係でつるりと取れて、あとは風でモミを飛ばすんだそう。
家庭でやるときは、下の道具を組み合わせて使うといい、と書いてあった。
違和感しか感じられない組み合わせ。
果たしてカラスムギに応用できるのか。
とりあえず試してみたい。
ストレートの握りでもみがらを取ろう
干しあがったカラスムギ。
新茶の葉のような香りがして、意外と爽快
これを麺棒で叩いてもみほぐし、外の薄い皮を分離させる。
しかるのちに、振り混ぜながら風に当てると、皮だけが飛んでいき、茶色の実が残る。
そして、皮を飛ばした後の実をすり鉢に入れて、ボールでごりごりすりつぶす。
はたして、カラスムギたちは飛び出してくるのだろうか。
皮を飛ばしたあとの実。
こんなので実は飛び出してくるのか
非効率かつ、粉じん被害
結論から言おう。
飛び出して来ないことはない。
だが、効率は非常に悪い。
飛び出してきたカラスムギの中身。
ちょろちょろとは、飛び出してくる。
でも全部は飛び出して来なかったので、殻を風で飛ばす作戦がうまくいかなかず、結局この実を、爪で拾って集めることになった。
しかも粉がやばい。
すりつぶした後のようす。猛然たる粉。
見て分かるほどに粉がもうもうと出るので、ジャージに着替えてマスクをした。
そりゃあ、粉とか出るに決まってるんだけど、昔の人はこういうのに耐えて、穀物を精製していたのだと思うと頭が下がる。
僕らが日々食べている穀物にも、こういう過程があるんだろう……。
マスクをし、精麦工場の人に思いを馳せる。
そうして2時間。
懸命のもみすりの末に得られたカラスムギがこれだ。
こんな苦労して、たった一握り……。
毎日精米・精麦してくれている人たちに感謝の気持ちでいっぱいになった。
ありがとうございます、工場の人。
日本中の猫がオート麦を食べている
比較のために、作物として純正のオート麦と比べてみたい。
オート麦それ自体は、じつは意外なところで買うことができる。
ペットショップで258円。
猫草、と呼ばれる猫の食用草があるが、これ、タネの正体は、実はオート麦なのである。猫はオート麦の芽生えを野菜として食べているのだ。
なので、このタネを買ってきて殻を剥けば、その中身がオート麦だ。
比べてみた。
カラスムギの粒、意外と大きいんじゃないか??
粒の大きさ的には、カラスムギはオート麦とほぼ変わらないんじゃないだろうか。
正直、雑草の麦の中身なんて、作物と比べるべくもないほど小さいのではないかと思っていたので、この大きさを知ったとき、心の底から興奮した。
この企画、もしかしたら成功してしまうんじゃないか。
カラスムギでオートミール、普通に作れるんじゃないか。
成功するとしか思えない
カラスムギを洗って、蒸し鍋にセット。
オートミールは、麦を蒸して押しつぶし、乾燥させて作るという。とりあえず洗ってザルに入れて、鍋にセットした。
なんだか、急激にカラスムギの実が食料に見えてきた。こういう穀物、普通にあるだろう。
成功への予感が、ひしひしと感じられる。
蒸したカラスムギを麺棒で押しつぶす。
ぷち、むにー、ぷちと押しつぶれていく。
そう、その感触は明らかにこれが主食であることを主張していた。
主食たるにふさわしい、デンプンのべたべた感。
麺棒へこびりついたカラスムギを剥がす感覚は、踏みつぶしたごはん粒を足の裏から剥がすときと寸分の違いも無かった。
わかるだろうか。このデンプンがつぶれた感じ。
高鳴る胸の鼓動を抑え、僕は扇風機の前にカラスムギの皿を置き、眠りに就いた。
カラスムギミール、お粥に。
翌日。
出来上がったカラスムギミール。
オートミールと色調は違うが、シリアルとして売っていても違和感の無いルックスだ。
オートミールはミルク粥にして食べるとうまい。
このカラスムギミールも、ちょっと煮込んでミルク粥にしてみた。
おしゃれミルクパンを使用。
砂糖をちょっと加えて出来上がり。
カラスムギ、試食
うまっ!
うまい! しっかりと主食になっている!
オートミールは皮のプチプチした食感と、中身のモチモチした食感のバランスが魅力なのだが、それがしっかり生きている。
うまい。
甘みもしっかりある。ちゃんとお粥。
少ない量だったけれど、しっかりと完食した。
僕の脳は、これを「食事」と認めた。
主食だ。
そのへんのカラスムギは、れっきとした穀物だ!
すごい、すごいことを発見した!
忘れてませんか、元雑草ですよ、このお粥!
私には、穀物です
これまで雑草と思っていたカラスムギは、実は穀物だったのだ。
恐るべき発見である。
これまで、記事を書くたびに概念転換させられてきたことは多々あったが、今回、また新たな衝撃を味わった。
きっと古代人も、初めてカラスムギを食べた時、同じような衝撃を味わっただろう。
原種を追うことには、人間がこれまで創造した食の歴史を再発見する驚きがある。
今後も、地道に続けていきたい活動だ。