靴底といえば邪鬼に決まっている
「そんな苦痛をやわらげられないか」→「そうだ、邪鬼ヒール」の間に多少飛躍があったのではと思う。補足すると、私はヒールの高い靴は苦手だが、船底ヒール(土踏まずの下にも支えがあるタイプ)なら楽だ。
ということは、今持っている高いヒールの靴を船底にすればいい。
そこで、邪鬼だ。おっとまた話が飛んだ。
その前に、今回改造する靴はこれである。買ってから2回しか履いて外出してない。たぶんヒールが高くてつらいせいだ。
これでヒール高6cmくらい。ハイヒールとまで行かないが、私はダメなんだ。
そこで、この底を船底ヒールにすれば楽になるに違いない。が、ただ底を平らにするよりは、邪鬼踏んでる感じのヒールにしたほうがいいと思う。なぜかというと、邪鬼とはこういうものだからだ。写真を見てみよう。
靴底=踏む=邪鬼、なわけです。
当たり前のように邪鬼邪鬼言っているが、何のことかわからない方のために説明すると、ここでは仁王像や四天王像に踏まれている小鬼のことである。
このように、邪鬼は常に踏まれるさだめにある。ヒールも常に踏まれるものである。めでたく、ここで話がつながった。さっそく邪鬼ヒールをこしらえてみよう。
邪鬼踏みへのステップ
まずはどうやってこのヒール部分に、邪鬼一匹をひそませられるかだ(ちなみに左右それぞれ別の邪鬼を配置する予定)。手っ取り早いのはヒールを取り去って、別に制作しておいた邪鬼像を挟んじゃうのがいいだろう。
しかし靴の構造をよく知らないし、構造に手を出せるほどの靴作りスキルはない。ヒールの周囲に粘土か何かで邪鬼像を貼り付けることにした。
その前に、せめてヒールを少し削って細くし、彫りの自由度(深く彫り込めるように)を高くしようと考えた。ところが。
ほとんどダメージを与えられず。
表面の木材を模したシートを剥がすだけでもものすごい苦労。履いているといつのまにかボロくなって高い交換料を余儀なくされるヒールだが、自分で故意に傷つけるのは大変だとわかった。このことから何か人生訓を引き出せそうな気もするが、全然思いつかない。
ヒールはそのままに、粘土を貼り付けていくことにした。本当はヒールと同じ強度の素材で作りたいところだが、この素材がなんなのかわからないので、せめて形だけでも完成させたい。
マスキングテープで養生。
粘土が食いつき易いように、細かい傷をつけておく。
石粉粘土(乾くと固まる)を盛っていく。
水たまりに入ったあと小麦粉踏んじゃった、みたいな感じに。
なんとか土踏まずの下部を埋めてみた。さっきから自分の靴を傷つけたり粘土盛ったり、まったく慣れない作業に脳が驚き続けている。一種の脳トレでしょうか。
問題はここからだ。いかに邪鬼に似せていくか。
地味に鉛筆で下絵を施す。
これはもう、写真を見ながらコツコツと、彫ったり盛ったりしていかなくてはならない。うぇー。
この方面は苦手なので、少しづつ少しづつ、立ち止まったり後戻りしたりして、相当な時間をかけて臨む所存だ。たとえ出来上がるのが「ヒールで踏まれて苦悶の表情を見せる小鬼」だとしても。
ヒール小鬼彫り職人
下書きを書き終えたが、このとおりできる気がしない。いったいどうなるのか。そして私は何をしているのか。
我に返ったら負けだ。
ここに、粘土をざっくり盛っていって、乾いたらナイフで削ったりならしたりする。いよいよ夏休みギリギリという雰囲気に近くなってきた。サントリーオールドの瓶に紙粘土貼り付けて人形作ってごまかした頃が懐かしい。
完全な立体でなく、レリーフにしなければならないので感覚がちょっと難しい。それ以前の問題か。
乾いたところで、細かい形を出していくが・・・
もうね、やってもやっても終わらない。立体がどうなってるかよくわからない。少しいじっては盛って、削る必要あるんだかないんだかわからない部分に異様に時間をかけたり。これでいいんじゃないか?という着地点が、粘土の中からなかなか見えてこない。
それでも、何昼夜か経たころに、なんとか人らしいものができてきた。
踏まれてうれしそうだが。
素朴な道祖神っぽくなった。もう、これはこれでいいのかもしれん。
白い像はごまかしが効かないものだが、色さえ塗ってしまえば少しはそれらしくなるはず。これ以上の彫りの上達は見込めないので、もう着色に入ることにする。
アクリルカラーで地の色から塗っていく。茶色ベースにした。
乾いたブラシに明るめの絵の具を取って、かすれ具合を再現。頭の中をひたすら「それっぽく・・・」という呪文がめぐる。
仕上げ用メディウムで、つや出し。ソレッポクの呪文が効いてきたか?!
1週間くらいかかって、なんとか完成した。最後まで釈然としない工作だったが、マスキングテープをはがすと、良いとも悪いともなんとも形容しがたいものが出来上がっていた。
仏(ブツ)ファッション界へデビュー
東南アジアの土産物屋にひっそり置いてありそうなたたずまい。買われず何年も経過するとみた。
前から見ると普通の靴だが、後ろになんか人がいる。
「いやーん!もっと踏んでぇ」とでもわめいていそうな、持国天に踏まれているあいつ。
「まだまだいけますわ」と強がっていそうな、増長天に踏まれているあいつ。
なんかこれはこれでファッションのように見えて来た。来ないか。
仏ファッション。フランスのファッションかと思いきや、ホトケ系ファッションである。
さて実際に履いてみたいが、なにぶん今回は材質が粘土。歩くときに土踏まず部分を曲げてしまうとパキッといってしまう可能性があるので注意したい。
そろーりそろーりと厳かに歩く、これもまた仏ファッションの醍醐味。
いけないものを踏んでくっついちゃった、みたいにも見える。
履いて全体として見ると、単体で見た時よりは邪鬼の存在感が薄い。まあ、視線を足元に注げば異様なもんが2匹挟まってるわけだが。
服屋で店員が「パッと見派手なんだけどー、履いちゃうと意外と合わせやすいですよぉ。私も1足持ってます!」と言って薦めてくるレベルであろう。
左足に体重かけるときは持国天になったつもりで。
右足に体重かけるときは増長天になったつもりで。
「ヒィー」「もう勘弁してくれぇ」
1歩ごとに、仏法を犯すものどもを踏みつけられるありがたい靴となった。この秋、アナタも仏系で足元から差をつけてみるとGOOD★
大物ゲスト登場でございます。さあどうなるか全くわからなくなってまいりました。
何卒よろしくお願いいたします。