特集 2012年8月29日

それでも僕たちは武蔵野線を愛してる

「高度経済成長」の申し子、そして生き証人
「高度経済成長」の申し子、そして生き証人
東京をぐるっと取り囲むように走る、武蔵野線。

電車の本数は多くないし、トンネルが多くてうるさいし、スピードを出すので揺れるし、あまり快適な路線とは言えない。

それでいて、少し雨が強かったり、風が吹いたり、雷が鳴るとすぐ遅れたり止まったりする。

文句を言いたいことは山ほどあるけど、でもなぜか、僕たちはそんな武蔵野線を愛してやまないのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:揚水発電ダムの水位は変わるのか

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まずは卑怯な対比から

タイトルで「僕たち」などと共有を前提としてしまって申し訳ない。でも、ふだんぶーぶー文句など言いつつ、武蔵野線が持つ独特の雰囲気に、心のやらかい場所を締めつけられている人は確実にいるんじゃないかと思うのだ。

たとえば駅。

最近はどの路線でも徐々にリノベーションが行われて、ホームや改札などがまるで空港のように奇麗になった駅も増えてきていると思う。
ホームと線路なのに塵ひとつ落ちてないんじゃないかというような清潔感(京王線調布駅)
ホームと線路なのに塵ひとつ落ちてないんじゃないかというような清潔感(京王線調布駅)
ミッドタウンやヒカリエと比較しても肩を並べるオシャレ!(京王線調布駅)
ミッドタウンやヒカリエと比較しても肩を並べるオシャレ!(京王線調布駅)
まるで空港か美術館かというモダンさ(京王線調布駅)
まるで空港か美術館かというモダンさ(京王線調布駅)
京王線調布駅は地下化で新たに造られたので、ちょっと反則な気もするけど、近頃このくらいキレイに改装された駅は多いだろう。しかし、武蔵野線でこういった改装はほとんど行われておらず、いまも開業した1973年当時の雰囲気を感じることができる(当時を知らないけど)。

具体的にはこんな感じだ。
サラリーマンが昼休みに屋上でバレーボールしていた時代を今に伝える(新小平駅)
サラリーマンが昼休みに屋上でバレーボールしていた時代を今に伝える(新小平駅)
高い天井にむき出しの柱や梁、昼間でもどこか薄暗い雰囲気(北府中駅)
高い天井にむき出しの柱や梁、昼間でもどこか薄暗い雰囲気(北府中駅)
広い構内でぽつんと帽子と塩大福が売られている(府中本町駅)
広い構内でぽつんと帽子と塩大福が売られている(府中本町駅)

ALWAYS三番線の夕日

いや、まあこんな雰囲気の駅はまだ全国に多く残っているだろう。でも、山手線の駅からそれぞれの方向に出発した路線がどんどんオシャレに変身していくなか、それらほとんどと交差する武蔵野線に乗り換えた瞬間、なんだか時間が停滞している気がしてくる。

そして、もちろんアルミやアクリルで彩られた現代の駅はステキだけど、薄汚れたコンクリートと鉄骨で構成された高架や半地下の駅の雰囲気も、じわりと胸の隙間に染みわたってこないだろうか。
ディズニーランドの旗がこんな寂しい雰囲気になることもそうないだろう(府中本町駅)
ディズニーランドの旗がこんな寂しい雰囲気になることもそうないだろう(府中本町駅)
アクリルやLEDがベニヤとペンキだった時代(北府中駅)
アクリルやLEDがベニヤとペンキだった時代(北府中駅)
少し錆びた柱と相まっていい感じ(北府中駅)
少し錆びた柱と相まっていい感じ(北府中駅)
半地下でコンクリートと鉄骨に囲まれたこれぞ武蔵野線の駅(新小平駅)
半地下でコンクリートと鉄骨に囲まれたこれぞ武蔵野線の駅(新小平駅)
鉄骨でものすごい補強されていてかっこいい(新小平駅)
鉄骨でものすごい補強されていてかっこいい(新小平駅)
すぐ上の新小平駅は、半地下部分がものすごい数の鉄骨で補強されていて、これぞ武蔵野線らしい!と思いつつ調べたら、20年ほど前の大雨で地下水が噴出した被害を修復したものだった。うん、そんなところも武蔵野線らしい(ポジティブすぎ)。

とにかく、首都圏に大きなサークルを描く武蔵野線のなかでも、特に西側に並ぶ駅は昭和40~50年代テイストをいまも色濃く残していると思う。
壁の色は駅によって違うようだ(新秋津駅)
壁の色は駅によって違うようだ(新秋津駅)
平日昼間は10分以上蝉の声しか聞こえない(東所沢駅)
平日昼間は10分以上蝉の声しか聞こえない(東所沢駅)
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高架や半地下や分岐やトンネル

ここまで武蔵野線にずいぶんなことを書いているけど、開業当時としては超近代化された路線だった。その理由のひとつが、踏切をなくすために、すべて高架やトンネルで街の中を横切っていること。

無限に伸びゆく日本社会を見据えていたそれらの構造物は、40年経って伸びしろがなくなった未来に、高度経済成長という時代が持っていたエネルギーをひしひしと感じさせてくれる。
始発駅を出て最初にあるのがトンネルである(府中本町駅)
始発駅を出て最初にあるのがトンネルである(府中本町駅)
コンクリートだけかと思いきやブロックも使われていた(新座駅)
コンクリートだけかと思いきやブロックも使われていた(新座駅)
今の感覚では少し細いんじゃないかと思う柱がすごくいい(南越谷駅)
今の感覚では少し細いんじゃないかと思う柱がすごくいい(南越谷駅)
そしてこの絡み合った柱!何とも言えない色!(南越谷駅)
そしてこの絡み合った柱!何とも言えない色!(南越谷駅)
かと思えばこういう土手の上も走る(南越谷駅)
かと思えばこういう土手の上も走る(南越谷駅)
武蔵野線は環状線の1つであり、都心から放射状に伸びる路線のバイパスも担うから、各方面に向かうJR線との交差地点には分岐があって、行き来できるようになっている。

だいぶ前にそれを見に行った記事を書いたけど、それ以来ひさびさに見てもやっぱり分岐はテンションが上がる。
高架からさらに上がってオーバークロス(西浦和駅)
高架からさらに上がってオーバークロス(西浦和駅)
いつ見てもいい分岐だ(西浦和駅近く)
いつ見てもいい分岐だ(西浦和駅近く)
いまは単線だけど土地は複線分あるぜ(東所沢駅)
いまは単線だけど土地は複線分あるぜ(東所沢駅)
上の写真は車庫に向かう線路の分岐。いまは単線だけど、路盤は複線分造ってあるのがいい。将来必要になったときに増やせるのだ。その将来はもう過ぎてしまった気がするけど。
これも高度成長期の象徴、高速道路と団地(西浦和駅)
これも高度成長期の象徴、高速道路と団地(西浦和駅)
武蔵野線と一心同体と言っていいだろう(西浦和駅)
武蔵野線と一心同体と言っていいだろう(西浦和駅)
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油断していると貨物列車が通る

前のページで、開業当時としては超近代化された路線、と書いたけど、もともとの計画では各地からやってくる貨物列車を都心に入れないためのバイパス貨物線だった。

貨物列車というと全盛時は70年代、日本の物流のメインストリームを張っていたけど、その後斜陽になってしまう。全国的には大幅に減ったけど、武蔵野線ではラッシュの時間帯でも電車を待っていると目の前をバンバン通るから楽しい。
突然貨物列車が高速で通るから注意(北府中駅)
突然貨物列車が高速で通るから注意(北府中駅)
タンク車もガランガランいいながら駆け抜ける(新座駅)
タンク車もガランガランいいながら駆け抜ける(新座駅)
何があったのか機関車が単独で走って行ったりもする(西国分寺駅)
何があったのか機関車が単独で走って行ったりもする(西国分寺駅)
急に車窓に貨物駅が出てくる(新座駅近く)
急に車窓に貨物駅が出てくる(新座駅近く)
新座や越谷には貨物駅もあって、車窓の目を楽しませてくれる。

しかし、貨物好きとしては途中に最近開業した新駅、吉川美南駅で降りてほしい。
まだ開業から半年の「現代の駅」(吉川美南駅)
まだ開業から半年の「現代の駅」(吉川美南駅)
まだ開業したばかりで、遠くに家電量販店が見えるけど、駅前には何もない。いや、何もないというか、線路に沿って広大な土地が広がっている。
線路沿いの広大な土地の向こうに家電量販店(吉川美南駅)
線路沿いの広大な土地の向こうに家電量販店(吉川美南駅)
まったく使われていない土地が続く(吉川美南駅)
まったく使われていない土地が続く(吉川美南駅)
実はここ、武蔵野線が開業した直後に、日本最大の操車場として造られた武蔵野操車場の跡地なのだ。コンピュータ制御でほぼ自動化されていたという、当時最先端の操車場だったけど、トラックの台頭で開業直後に貨物輸送が壊滅。実質10年くらいしか使われなかった悲劇の操車場だ。

貨物ファンとしては、この跡地を眺めながら、全盛時の操車場の想像に浸りたい。

愛しき郊外路線

というわけで、武蔵野線の愛すべきポイントに迫ってみたけど、何となくでも分かってもらえただろうか。

きっと、いつかは武蔵野線の駅にもリノベーションの波が押し寄せて、LEDとポリカーボネイトで着飾った駅に変わってしまうだろう。でも、もしそうなったら武蔵野線の路線としての魅力は半減である。

ぜひ、コンクリートと鉄の魅力を生かした、新しくてどこか古い駅づくりにトライしてもらいたい。
もういちど高度経済成長しないだろうか(西船橋駅)
もういちど高度経済成長しないだろうか(西船橋駅)
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