揚水発電所の上池へ
というわけで、とある晴れた平日、さっそく揚水発電所の上のダムにやってきた。
一見するとふつうのダムと変わりない
ここは神奈川県相模原市にある本沢ダム。神奈川県企業局が運営する揚水発電所、城山発電所の上池のダムだ。自治体が運営している水力発電所はよくあるけど、揚水発電所は珍しい、というか全国でもここだけ。イリオモテヤマネコ並の希少種である。
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地図で上の湖が本沢ダム、地図下にちらっと見えている城山ダムに水を流して発電する
動いてくれ、揚水発電所
揚水発電所が動くのは、主に暑い真夏の昼間。水力発電は火力や原子力に比べて出力の増減が簡単にできるので、すごく大まかに言えば、気温が上がってみんなが一斉にエアコンのスイッチを入れ、電気の需要が急激に増えた、その瞬間に動き出したりする。いい意味での自転車操業が可能なのだ。
ふたつのダムの間にある城山発電所
でも、水力発電所がいまどのくらい発電しているのか、現地に行かずにリアルタイムで知ることはほとんどできない。唯一目安になるのは、発電した水が流れ込む下のダムの流入量だ。
発電した水の受け皿となる城山ダム
この城山発電所で発電した水が流れ込む城山ダムは、治水などの用途もあるので、ダムのリアルタイム情報が載っている「
川の防災情報」のダム情報ページで、どのくらい水が流れ込んでいるかを見ることができる。これがあればダムファンは新聞もテレビもいらないという情報サイトだ。
流入量、放流量、貯水率などが10分おきに更新!(国土交通省「川の防災情報」より)
下池の城山ダムには発電所からのほか、川の上流からの流れ込みもあるので、流入量がイコール発電量ではないけれど、数字の増減で何となくの動きは掴むことができる。
ちなみにこの時の城山ダムは、放流量の方が多いくらいなので、おそらく川の上流からの流れ込みだけで発電所の水は流れ込んでいない、つまり発電は行っていない状態だと思う(個人の見解です)。
今日は発電しないのだろうか。そのときは記事が「相模川グルメ食べ歩き」になってしまう。
しかし、時間はちょうど12時台。需要の波の増減部分を担っている水力発電ダムは、たとえばお昼休みに各地の工場の機械が止まると、その需要の落ち込みに対応して発電を止めたりする。いまはちょうどそのときなのかも知れない。
そこで、いつ発電が始まってもいいように、上池である本沢ダムの湖畔でカメラを組み立て、水面の撮影を始めた。
三脚に載せ、インターバルタイマーを3秒おきにセット
もし発電が始まったとしても、湖の水位が下がるのは目に見えないほどのゆっくりした速度だろう。そこで、
先日の記事でも使った微速度撮影をするのだ。
お昼の時点の水位
ちょうど東屋が建っていてベンチもあるので、日陰に座りながらのんびり待った。
時間が午後1時を過ぎ、さて発電は始まったかなと「川の防災情報」を見てみると。
急に流入量が増えた!(国土交通省「川の防災情報」より)
発電開始!
城山発電所の下池である、城山ダムの流入量が急に激増していた。
1時間前は毎秒17立方メートルだったのが、毎秒64立方メートルに増えている。これは発電が始まったとしか思えない。
とは言えやることがなくひたすら待つ
数字上では発電が始まっているようだけど、貯水池にまったく動きはなく、定期的なシャッター音と、鳥の鳴き声が聞こえるのんびりした雰囲気。お風呂の栓を抜いたときのような渦ができたりしないかと期待していたのだけど。
じっと見つめても動きがない
猛暑の中、さらに待ち続けて、夕方の5時が近くなった。どうやら湖畔の道は夕方5時から朝まで立入禁止になるようで、蛍の光が流れてきた。まだ発電しているようだけど、このあたりで撤収せざるを得ない。
僕が見た中で最大流入量は午後3時40分頃の毎秒95立方メートル(国土交通省「川の防災情報」より)
カメラを片付けながら湖の水位を見てみると...、うーーーーーん。下がっているような、まったく変化ないような...。
1m...くらいは...下がってる...?
そこでお昼に撮った写真と並べてみた。意識しないと気づかない程度だけど、確かに水位は下がっているようだ。
13時の時点の水位
17時の時点の水位
そこで、およそ4時間撮影した写真を動画に変換して、水位の動きを見るために30秒にまとめてみた。
前半はあまり動きがなくて、途中からじりじり下がっていくのが見える。でもよく分かりづらいので、もっと水面をアップにした動画も作ってみた。
4時間待ってもそれほど水位は下がらなかった。それもそのはず、この発電所、最大出力で運転すると毎秒192立方メートルもの水を流すことができるのだ。僕が見ていた限り、この日の城山ダムの最大流入量は毎秒95立方メートルだったから、そのうち発電所が流した水量は毎秒80立方メートル程度だろう。つまり半分以下の力しか出していなかった。
本気出すところ見てみたい
きっと、この日は半分の出力で電気が足りていたか、もしくは逆に電力が不足していて、夜間にくみ上げできる量が限られていたか。本気を出していない理由はこのどちらかだろう。
ちなみに本沢ダムの発電に使える貯水量はおよそ383万立方メートルなので、もし城山発電所がずっと毎秒192立方メートルの最大出力で運転したとすると、3830000÷(192×60×60)=5.54で、だいだい5時間半でこの貯水池は空になってしまうことになる。そのとき水位は28mも下がるらしい。
いつかこの目で見てみたい、一大スペクタクルである。
電気を大切にね
本当はもっとこう、ぐわーっと水位が下がるところを想像していたのだけど、発電にはさすがにいろいろデリケートな運用が求められる昨今、むやみに揚水発電をフルパワーで運転できない事情もあるのだろう。くみ上げの電力やコストも考えなきゃだし。
でも、1日のうちの数時間、という限られた範囲での瞬発力は、揚水発電の右に出る方法はないと思うので、それぞれの発電施設が持てる能力をフルに生かせる日がふたたび来ることを願います。