謎の短冊状地割り
過日、Googleマップで埼玉県狭山市付近の航空写真を見ていたら、とても気になるものを見つけた。
場所は狭山市と所沢市と三芳町の境界。
見れば見るほど、すごーく細長い地割りで、ちょっと気持ち悪いぐらいだ。
「これ、ほかのどこかでも見たことがある…」って思った。どこだっけ…?
で、思い出した。中央線沿いだ!
西荻窪の南から吉祥寺の北、井の頭通りの南北にも短冊状の地割りが!(
大きな地図で見る)
おしゃれタウン・吉祥寺。中央線沿線のサブカル文化には、いまひとつなじめない人生を送ってきたが、地割りとなれば話は別だ。「吉祥寺は俺の庭みたいなもんだし」とか言ってるやつ、知ってたか!あんたの庭は短冊なんだぜ!
探し始めたら、実は日本中いたるところ「短冊」だった。
だが、なんでだろう。なんで短冊なんだろう。
「なぜか」が分からない
とりあえず冒頭の埼玉の三芳町が見事なので、「三芳町 短冊」で検索してみた。
そしたら、実にたくさんの情報が得られた。どうやらこの一帯は「三富(さんとめ)新田」と呼ばれた、江戸時代に畑として開発された地域らしい。その時にこのように見事な短冊状の地割りになったとのこと。
三芳町立歴史民俗資料館・三芳町教育委員会によるパンフレット。なんと、この見事な短冊地割りは地元の名物的扱いだった。
短冊地割りは長手方向にいくつかのエリアに分かれていると。へー。しかし「なぜ短冊状」かは記されていない。なぜだ。常識なのか?
なんだけど。だけど。なぜか「なぜ短冊状なのか」はどこにも情報がない。
なのでtwitterでつぶやいてみた。
twitterすばらしい。いや、石川さんすばらしい。
いままで
ぼくの記事で何回か登場してもらっている石川さんが見事な解答を。そうかー!そういうことか!(一連のやりとりのまとめは→
こちら)
いや、なんとなく彼が答えくれると思ってはいたんだよね。てへ。
で、つまりこれがどういうことかというと、こういうことだ。
インフラである道路を最小限に抑えながらなるべく多くの人に耕作地を与えることができるということ。
なるほどなるほど。だから、日本中で同じことが起こるわけだ。
さらに面白いのは、インフラが道路でない場合。たとえば運河。
実際に見て見なきゃな
参加者募って行ってみた!
ルイジアナはともかく、埼玉ならすぐ行ける。これは行って見なきゃいけない。
いや、いけない、ってことはないんだけど。
募集告知。なんという意味不明なタイトル。
そしてやはりこういうのはみんなで行った方が楽しいのではないか。なので、参加者を募ってみた。
集まったのは10名ほど。すごい。こんな意味不明な催しに10名も。
これがとても楽しかったのだ。
とくに今回うれしかったのは、DPZライター仲間である三土さんと、ぼくが尊敬するサイト「
THE 残余地」の管理人である
@hachiozin さんが参加してくれたことだ。地面系の話題だったらこのおふたりの参加をまたないわけにはいかない。うれしい。というか「地面系」ってなんだ。
1日数本しかないバスに乗って
降りたところは
畑と林が広がる、ただそれだけの場所。そうそう、これを見に来たのだ。
ほら、ながほそーいでしょ!
短冊状の畑と畑の間を分ける道(地図ではちゃんと道になっている)。
「おおー!これかー!」って感動の一同。っていっても、今写真見返すとなにがなんだか、なんだけど。
この縞々のように左右に長手方向のながーい短冊状に地割りされている(写真に縞々の色付けました)。
ビニールハウスがあると、多少わかりやすい。と思う。向こうに見える、左右方向に並んでいるビニールハウスが短冊の長手方向。
うすうす気がついてはいたが
「なるほどー!」「そうか、こういう風になってるんですねー!」などと感動しきり、とても楽しいツアーだった。
だったのだ。
だったのだが。
いやー、こうやっていま写真見返すと地味だなほんとに。これのどこが楽しいのかさっぱり伝わる気がしない。というか、そもそもどのように地割りってるのかすら写真だとよく分からない。
みんなけっこうはしゃいでたんだけどなー。
いやまあ、伝わったところでなんだ、って話なんだけど。
いや!かなりかんどうしたんだけどな!「ほんとに短冊だ!」って。地図の通りだ、って確かめてるだけって言えばそうなんだけど、それを言ったらほら、ライブとかだってそうじゃん!ぐぬぬ。
いまでも「屋敷→畑→林」の名残が
「インフラ」である道路に面しているのは家屋。
「伝わらないんじゃないか」と、くよくよするのはやめよう。3ページ目までついてきたみなさん、ようこそ。
さて、1ページ目の地割りの図解にあるように、短冊状地割りは「インフラ」である道路に面した間口側から「屋敷→畑→林」という構成になっている。航空写真で見るとこんもりと木が茂った帯が見えるのは、道路の反対側の雑木林エリアが横断して連なっているものなのだ。これは、かつては薪や肥料の供給源だったそうだ。
道路から畑にクルマで行くには
えんえんあぜ道的なところを行くことに
道路から見た突き当たりに林があるのが分かる
逆に、林側からアプローチできる場所をみつけた。矢印の方向が短冊の長手方向。
いっときこういう雑木林が続く。当然今は薪の供給などとしては機能していないようだ
この短冊では、林が途切れたあたりは重機の駐車場として使われていた
で、そこの先は…
畑。こうやって歩いてみるとほんとうに細長い!
その畑を行った先に、こうやって住宅があって、
やがて道路にでる。セオリー通り。
短冊が再開発されると面白いことに!
よくあるあの看板も短冊状で描かれている。
で、ぼくがいちばん面白いと思ったのは、畑のまま残っているものではなくて、それが別の用途に再開発されている例。
上の例の看板見ると分かるように、ところどころが倉庫になっていたり工場になっていたりする。これが面白いのだ。
なにがもしろいのかというと!
倉庫の幅が、短冊の幅。
そうなのだ。所有権が短冊上の土地ごとなので、このように建物も短冊状になっちゃってるのだ!これはとても面白い!
高架下建築なんかもそうなんだけど、ぼくってこういう先行する事情がその後の都市の使い方を決めちゃうっていうのにぐっとくるのよ。面白いよね?面白いって言ってよ。
で、これの究極の姿が吉祥寺周辺であり、その過程を見ることができるのが、東大和市—新小平間なのだ。ここも行ってみた。これがちょう面白かった。
面白かったんですってば。
畑の論理と宅地の論理が短冊上でせめぎあう
一行は、東大和市へ。はじめて降りた。
全ページまでの三芳町が「いまもなお畑として現役の短冊状地割り」なら、吉祥寺―西荻窪は「完全に市街地化した短冊」だ。
そして、ここ東大和―新小平間は、両者の途上にある短冊。この「途上」っていうのがすごーく面白い。
しばらく歩いたら、こういう道が横に見えた!このまっすぐ具合は…ここだっ!
色めき立つ一同。
地図で確かめて興奮する一同。
この道路は「インフラ」である道路ではなく、元あぜ道を拡幅したもの。そう、いままさに市街地化しようとしているのだ。
いたるところであぜ道を道路にしようとしている真っ最中。おもしろい。
分譲地受付中の看板を発見。背後はもちろん元短冊畑。
短冊をさらに縦に割って、このように分譲。
隣の短冊はすでに宅地化されている。ずらーっと長く住宅が並んでいる様子がおもしろい。
これが短冊の幅。
かつて一家に必要な分として与えられた耕地の広さの論理と無関係に現在の宅地が建つと、こういうことになる。すごくおもしろい。
おもしろいんです!みんなおもしろがってたもん!10人は。
矢印の方向が短冊の長手方向。そこに住宅が建って、さらに直行する方向に、いわば「短冊化」されている。おもしろい。おもしろいよね!
この短冊の宅地化という現象で、ぼくはあることに気がついた。
それは「宅地化は相続状況の棒グラフではないか?」ということだ。
宅地化短冊が棒グラフのように見える
三芳町でお話をうかがったおばあさま。聞いて「おお!」と思ったことが。
小平に行く前、三芳町で短冊地に夢中のぼくらに「なんの集まり?」と話しかけてきたおばあさまがいらっしゃった。
面白かったのは「自分は分家の嫁で、ここは当時本家から土地を分け与えられたたもの」という一言。
そうか!そうなのか!短冊は末永く短冊のままというわけではなく、代を経るとそういう風に細分化していくこともあるのだな!
で、小平で宅地化していく短冊地を見て思ったことが。
宅地化された部分を短冊の長手方向に歩いて行くと…
途中で住宅が途切れる。
まだこれから建設、という状況。そしてその先はまだ現役の畑。
一方、右となりの短冊はずっと先まで宅地化されている。それにしてもこの並び具合はすごい。
上の写真のように、宅地化が進んでいる短冊を長手方向に歩いていったら、あるところから先はまだ畑だった。
しかし、隣の短冊を見ると、そちらはずーっと先まで住宅。つまり、ここは短冊の手前一部だけが宅地化されているということ。これはどういうことか。
そしてこういうふうに新しい住宅もあれば、
古い文化住宅もある。宅地化も、ある程度の長い時間をかけて少しずつ開発されていることがうかがえる。
そしていたるところに「まだ畑」と「ずらーっと宅地化」の競演が見られる。
ぼくの仮説はこうだ。
さきほどの三芳町のおばあさまの話のように、分家したりあるいは代が変わって相続したりすると、畑の一部が相続税などの支払いのために売られ宅地化する。つまり、そういった相続まわりの出来事が起こるたびに短冊が少しずつ切り売りされ、結果的に短冊畑に浸食してくる宅地が「相続の事情」を表す棒グラフになっているのではないか。宅地化棒グラフが長いほど、その所有者の家に「相続の事情」がたくさん起こっているのでは。
切り売りされたら住所はどうなるか?
ぼくの大好きなイラストレーターの
モリナガ・ヨウさんが同じような元・短冊に建った住宅に住んでおられたとのことで、このような興味深いことを教えてくれた。
切り売りしていくので住所の割り振りが枝番になると。なるほどー!おもしろい。
いったん端っこまで歩いて通りに出なければ隣の短冊へは移動できない。
で、上の写真にある最長棒グラフの「ずらーっと最後まで住宅」の短冊、つまり宅地化完了のほうへ行ってみた。
そうそう、その際にもおもしろいな、とおもったことがある(まあ、あらゆることが「おもしろいな」なんですが、ぼくにとっては)。
で、行ってみたら!「おおー!」
それは「横の短冊に行くにはいったん、端っこまで行って「インフラ」である道路に出なければ横移動できない」ということだ。
で、行ってみたら細い一本道の道路が延々と住宅が向かい合う中を伸びて行っている風景が。
まあ、なんてことないって言えばそうなんだけど、一同、これにはけっこう興奮した。
700mほどの一本道。
運のよいことに、ちょうど住所案内板があった。
住所標識と住宅の住所を見比べると、確かに住所には枝番がついていた。
モリナガ・ヨウさんの言ったとおりだ!こうやって切り売りされるごとに末尾に枝番を付けていくのだろう。おもしろいなー。
宅地化されきっていない短冊は(棒グラフがまだ途中の短冊)、行き止まりになっている。
そして前述したように、横移動の道路が少ないので、その少ない道路に交通が集中して渋滞が起こる。これも興味深い事態だ。
全国の短冊地割りを巡りたい
地割りを写真と文章で説明するって難しいな―。やめときゃよかったかなー。いや、でもすごく楽しかったのだ。今後も巡っていきたいと思うので、ちょっとでも興味持った方は一緒にどうですか。(記事中の写真のいくつかは、三土さんによる撮影。ありがとう!)
宅地化された短冊地に「開発さん」という方が!ぐっときた。