特集 2020年9月22日

自動販売機のホットスナックを食べるためだけにホテルに泊まる

旅の醍醐味はビジネスホテルの部屋で缶チューハイでつまみを食べることである。

窓の外にはひとけのない大通り。誰もいないのに信号が変わり、たまにうるさいバイクが通る。テレビの天気予報からは「浜通り」「胆振」「県北」など馴染みのない地域名が聞こえる。

そのときのつまみはなんといっても自動販売機のホットスナックだろう。

旅は距離ではなく、狭い部屋で食べる焼きおにぎりだ。

1971年東京生まれ。デイリーポータルZウェブマスター。主にインターネットと世田谷区で活動。
編著書は「死ぬかと思った」(アスペクト)など。イカの沖漬けが世界一うまい食べものだと思ってる。(動画インタビュー)

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家から1時間、ちょうどいい旅だ

都内であのスナック自動販売機がある場所をネットで検索したがよくわからない。ニチレイフーズに
「わたくし、出張先で疲れた夜、御社のスナックを食べるのを楽しみにしております」
とエモめな文章で問い合わせたらすぐに返事が来た。念のためそのホテルに問い合わせたところ、あるという。我ながら慎重な行動だ。
ホットスナックが僕を待っている。

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多摩境のホテル・ラクシオイン。自宅から約1時間、ちょうどいい

チェックインして部屋より先に自販機コーナーに直行した。

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あるある。売ってるものがすべて茶色く輝く自動販売機だ。

噂だけに聞いていた「台湾飯」がある…。実在したのか。

白のたまごっち、エアジョーダン、PS5を見るような気持ちになった。ハンバーガーセット、そういうのもあるのか…。これだけ強力なラインナップのなか、どこに焼きおにぎりを投入するかセットリストを考えるのも楽しい。それだけで1記事書ける。

だが、まずは近所のスーパー銭湯に行く。銭湯ですっきりしたいのではない。腹を減らして汗をかくためだ。スーパー銭湯はいつもすぐ出てきてしまうのだが、今回は1時間入った。(アンコールと思わせておいて、いきなり焼きおにぎりから始めて度肝を抜くのはどうだろう…)などセットリストを考えた。

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スーパー銭湯の休憩所で自動販売機の写真を見返す。三段目のポテトが三人官女のよう

メインにホットスナックを持ってくる贅沢

出張に行くと夜は会食となる。一通り食べてから宿に戻り、もう少し飲みたいと思ったときに登場するのがホットスナックだ。浴衣姿でペタペタすげえ暑い自販機コーナーに行く。

うまいのだけど、もうごはんは食べてしまっているのでそんなに食べることはできない。それを残念に思っていた。
だが今回は違う。ディナーのメインがホットスナックなのだ。好きなだけ食べて良い。両替もしてきた。これが大人だ。

 

スーパー銭湯からホテルに戻る。部屋ではなく自販機コーナーに直行した(2時間ぶり2回目)。

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銭湯の荷物持ったままいきなり買い始める
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まずはハンバーガーセットかな
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そうだ。すっかり忘れていたが結構時間がかかるのだった。

ビジネスホテルでたまに丈がやたらと長いシャツがパジャマとして用意されていることがある(ズボンなし)。あの80年代まんがの「彼氏のシャツを着て『ぶかぶか~』って言ってる女の子」みたいな格好で別のおっさんと鉢合わせるのはこの待ち時間だ。

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「み“ー」という音とともに落ちてくるハンバーガー。
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熱々の箱を時速80キロ(体感)で取り出す

時間がかかること、熱々であることなどディテールを思い出す。同じ都市に2回目に行ったとき、空港から移動しながら「そうそう、こんなだった」と思い出すだろう。旅が始まるあの感じだ、これは。多摩だけど。

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製氷機がホットスナックの裏にある素晴らしいレイアウト

ホットスナックと双璧をなす旅情アイテムが製氷機だ。缶チューハイやビールに氷を入れて飲んで、飲み残しが翌朝、二層になっているのが旅。だんだん枕草子みたいな文章になってきた。

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第1回選択指名はこの4箱となりました

ビールは家から持ってきた。好きなビールでスナックを食べたかったからだ。大人は自由である。

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オープニングアクトはハンバーガー

まずは前菜にハンバーガーとしゃれてみよう。

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ハンバーガーとからあげ、ポテト。おれのトリコロール

しなしなになったバンズが最高だ。分厚い肉を挟んだ本格的なハンバーガーの世界もあれば、全体がホカホカになっているハンバーガーの世界もある。どっちが優れているということではなく、並列する世界なのだ。おれはどっちも好きだ!
パッション溢れて一人称が変わってしまった。

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あ、でも、そのどちらでもない。

ハンバーガーからひき肉と玉ねぎの匂いがする。お惣菜っぽいというか、手作りのハンバーグだ。これは熱帯でも西洋でもなく和風だ。給食の気配もある。もっと言えば練馬風だ(実家)。

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楽しさに肌もツヤツヤになる。本当は美肌モードをオンにしたからです。

ハンバーガーはおにぎりぐらいの大きさなのであっという間に食べられてしまう。その名残惜しさ。でもすぐ食べた。次は台湾飯。

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ペリペリペリペリ

台湾飯はしっかり辛くてうまい。この「台湾」は台湾のごはんなのか、名古屋ローカルフードによく登場する「台湾」味なのは分からない。コピーとかオリジナルを越えて本物っぽい。

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妻(べつやくれい)が同行しております。台湾飯をパクパク食べてます。

ふたりで眺めているのはホテルの向かいの知らない道路だ。ギャギャギャ・リリリ・ギギギと虫のサラウンドのなか、音のでかいバイクがたまに通る。街灯に照らされたワンボックスカーのグリルがぬらぬらと光る。

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この景色だけで飲める。そして飲んでいる!
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チキンにたどりつく頃には祖父みたいな顔になっていた

チキンと一緒に入ってたポテトは、冷めてからが本番という力強さだった。

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旅は終わらない

最初に買った4箱はふたりで1時間足らずに食べてしまった。

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第2回の購入。人間は自動販売機の出口を覗く生き物である。
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第2ラウンドの第1段はたこ焼き。これがトンチがきいていた。
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ケースの底にプリンのカラメルソースのようにソースがあり
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付属の青のりをかければ完全にたこ焼きだ

ほぼ宇宙食である

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NASA!

さっき食べたハンバーガーセットの空き容器を皿代わりに使っているのも宇宙だ。たこ焼きは食感がモチのようでおもしろかった。

そして、これたまんねーなーおい、と思わずヤンキーになったのがホットドッグである。

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まずはパッケージのイラストの美味しんぼっぽさ

コレは期待できますな!心の富井副部長が叫ぶ。

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ムハ!
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モヘヘ!

こいつらホットドッグ食べたことないのかよ、と思うような写真が残っていた(ソーセージ入ってるんだ~と言ってそう)。

驚いていたのはこのホットドッグのおやつとしてのちょうど良さだ。味とサイズが晩ごはんに響かない。夕方に食べるしょっぱいおやつとしてちょうどよい。

子どものころのしょっぱいおやつ、あれはいま思えばつまみだった。

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そうしてホットスナック7箱+ビール5缶の旅は終わった

あれだけ焼きおにぎりをどこに持ってくるかを悩んでいたにもかかわらず、写真を撮るのも忘れてパクパク食べてしまった。いつ食べたのかも覚えていない。


旅だった

旅のいいところだけを味わった旅だった。八宝菜のうずらだけを食べるようなことをしてよいのだ。

食べているあいだも自由さを感じていたが、帰り道は開放されたような気持ちになった。次は真夜中のサービスエリアに行ってトイレででっかい蛾を見るだけの旅をしたい。

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ガラスに反射した照明を見て「え、UFO?」と思うのも旅

10/3~4 メイカーフェアに出るよ

 
林が出すのはBigFaceBoxの非接触バージョン
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イラストってことはまだできてないんだね!

2020/10/3(土)12:00~17:00
2020/10/4(日)10:00~16:00
@東京ビッグサイト 西4ホール

 

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