昨年のGPS描き初めの様子は
こちらの記事で。ちょうたのしかった!
「辰」はてこずった
昨年思いつきでやってみたらとても楽しかった「GPS描き初め」。道中の奇妙な体験(なんせ目的地もないままとにかくうろうろ歩き回る)と、できあがったときの感動は忘れがたい。
参加者を募って、初対面の方々含む35人で行ったのだが、みんなにとってもとても印象深かったらしく「来年はやらないんですか」という声を昨年末からちらほら聞いていた。
昨年のみんなが実際に歩いたログデータで描かれたウサギの絵。かわいいなあ。(
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首都圏近郊の地図をぐるぐる回しながらああでもないこうでもない、という日々が続いた。師走の忙しい時期に。いや、まあ楽しいんだけどねこの作業。
やるよ!やりますとも!
で、今年の干支はなんだっけ。辰か。
辰かー…龍描くの難しそうだな…
そうなのだ。GPS地上絵を描くためには、当然事前に地図上に設計図であるところのルート図を考えておかなければならないのだが、これが実にむずかしい。絵が「降りてくる」まで何日も地図とにらめっこだ。
道の形が何かに見えてくるまでひたすら地図と向き合うのだ。北が上とは限らない。ぐるぐる地図を回しながら。
しかも今回は龍だからなあ。龍のどの部分を手がかりに見つけたらよいものやら…
ああああっ!
発見した!目黒と世田谷の間、目黒通りのふくよかさが、なにか動物のお腹に見えたのだ。これでいける!って確信した。
この感覚不思議なんだよね。まだ絵は完成してないんだけど、この曲線が「降りてきた」とたんに「できる!」って思ったのよ。
最初は龍のお腹だ、って思ったのに、気がついたらタツノオトシゴに。どこでどうこうなったのか自分でも思い出せない。たぶん地図がぼくに働きかけたのだろう。
で、昨年と同じように地上絵の師匠である
石川初さんほか、みなさんに加筆修正をお願いした。こういうのはみんなで添削した方がいいものができあがるものなのだ。不思議だよね、人がやったものだとアラがよく見える。
GoogleMapを使ってお互い編集しながら、より洗練されたタツノオトシゴの設計図ができあがっていった様子が上だ。この過程も楽しい。インターネットってすばらしい。
最後まで目が難しかった。これは実際「描く」段でも困難なものになった。
さて、それではみんなで「描く」ぞ!
3チーム、計39名で描く
GPSロガーを持って、この設計図通りに街をうろうろ歩くことによってタツノオトシゴを「描く」というクリエイティブなんだか非生産的なんだかよく分からない催しへの参加者を募ったところ、39名の「カキゾメスト(描き初めする人)」があつまった。
いま「カキゾメスト」って思いついたので書いてみたが、どこかトイレの洗剤の名前みたいだから使うのやめよう。
各チーム事前打ち合わせ。地図でコースを確認。
道のり合計は32kmあまり。これをこのように3チームに分けた。(
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ほんとうは全員でぐるっと一筆書きですべてを描きたいところなのだが、なんせ総延長32kmあまり。長距離過ぎる。しんどいのはいやだ。なので、人数も大勢いることだし、コースを3分割して、それぞれのチームのログデータをあとで一緒にすることにした。ちなみに去年もそうした。
これ、ほんとうは10kmぐらいで納めた設計図をいつか描きたいと思っている。ただ小さく絵を描く方がむずかしいのだ。下手なものほど大きくなる。と思う。大きくていいんだったら何でも描けると思うんだよね。
ぼくはしっぽから後頭部までを描く「背組」
さて、祐天寺に集合し、地図を配布して説明。その場でチーム分け。あいさつもそこそこに出発だ。
主にタツノオトシゴの背中を描く、われわれ「背組」です。
ぼくはといえば、しっぽから後頭部を描く「背組」のメンバーになった。このチームの楽しみは、なんと言ってもしっぽが一部目黒川の低地に食い込み、そこから背中に向けて台地に登るという、ダイナミックなコース運びにある。
あと、このコースには、自分で設計しておきながらすごく不安なところがあったので、見届けようと思った次第。これについてはのちほど。
道のカーブにしっぽの丸みを感じる。
さっそく登っては…
下る。たのしい。なんでしょう、この楽しさ。どこに行くわけでもないのに。
しっぽの一番下の部分。別名目黒川である。
何回やっても楽しい。なんなんでしょう、この楽しさ。
どこかに行くために移動するわけでもなく、ふつうはこういうコース撮らないよな、っていう奇妙な非効率的な歩き方をする。散歩とも違う。気の向くまま、ってわけにはいかない。厳密にコースが決められている。でもなんだか楽しい。おそらくナスカの地上絵を描いた人はこんな気持ちだったんだろうな、と思う。
案の定問題発生
机上と現場はやっぱりちがうのだ。
しかし、困難もある。といってもこの問題発生こそGPS地上絵の楽しみでもある。
やっぱりね、どうしても地図で描いたプランどおりには行かないのだ。現場に行ってみたらあらびっくり、っていうことが必ず起こる。
で、これをどうアドリブで乗り越えるかが腕の見せ所。上空から見た軌跡を思い浮かべながら、より「自然な描画」になるようにコースを変更しなければならない。こういう移動ってふつうしない(あたりまえだ)。これが楽しい。
今回の問題は、ここ。地図では公道と同じように標記されていたのだが…(
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ああ…あそこか…
われわれ「背組」を襲ったのは、自衛隊である。
上の地図の、「自衛隊中央病院」と「陸上自衛隊三宿駐屯地」の間の道路を行く予定だった。しかし…
だって地図では…
がーん!いやしかし、実はここが前述した「不安な箇所」であったのだ。危惧は的中した。
しょうがない。迂回するしかない。
だって、だって地図では…
仕方がないので北の方へ迂回した。三宿住宅に寄り添うようなコース取りに、すこしでも南側に寄ってリカバーしたい、という情熱の跡が見える(
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何が悔しいって、迂回それ自体より、「一度通っちゃった跡は消せない」ってことだ。この場合、門の前まで行った跡は残らざるを得ない。
いや、もちろんデータいじって消すことは可能だけど、それやっちゃいけないような気がするんだよね、なんとなく。書道の筆の跡と同じで。
そのあとも、なるべくきれいな背中にするべく、障害物になっていた噴水のなるべく際を歩くわれわれ背組。なみだぐましい。ログでもキワキワ!一瞬ほんとに噴水の中歩こうかと考えた。(
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寄り道できない辛さ
せっかくの祐天寺そばのコースだが、そちらには行けない「腹組」
さて、ほかのチームはどんなだろう。
師匠たる石川さん率いるのは「腹組」。今回のタツノオトシゴ設計のきっかけとなった目黒通りにそってお腹を描くチームだ。このコースは、中目黒から自由が丘の先までほぼ東横線に沿って進むもので、地形好きにはたまらないものなのだ。
呑川や蛇崩川によってできた谷や丘を横断する魅力のコース、腹組(「
東京地形地図」をGoogleEarthで表示)
東横線っておもしろい線で、中目黒から田園調布までのあいだで、高架になったり地上になったり地下になったりと忙しいのは、実は鉄道側は一定の高さで進んでいるのに対し、このように周りの地形がでこぼこしているせいなのだった。(ここらへんの地形の話題にちょっと興味あるかも、っていう方へは、うってつけの入門書、貝塚爽平さんの『
東京の自然史』をちょうお勧めします)
そういう地形堪能コースを行く「腹組」
あからさまな川の跡の道。その脇のぐっとくる坂を登っていく
その名も「蛇崩」。しまった、来年のへび年向けだったか!?
「焼肉・じゃくずれ」
ただ、やっぱりGPS地上絵。魅力的な坂があってもそちらに行けるとは限らない。
いたるところに魅力的な地形があるとはいっても、それを味わうことができるとは限らない。それがGPS地上絵のつらいところ。
おもしろいものを見つけても、遠巻きで我慢。地上絵にはズームレンズ必須だ。
神様にもご理解いただき、これぐらいの参拝距離で御利益をお願いしたいところ。
どのチームでも起こっていたことが、これ。
休憩のためにコンビニやお店に入るときにはロガーは外へ!
設計ミス?いいえ、仕様です。
本タツノオトシゴ、最大の難関、目。ぐるぐる回ってうまいこと描いてくれました!(
大きな地図で表示)
さて3チームの中で、いちばん気がかりだったのが「目組」だ。その名の通り目を中心に頭を描くチーム。
なにが気がかりって、環八だ。
大きな道路は、渡れない。GPS地上絵の最大の敵である。
都市部でGPS地上絵を設計・描画する際に難しいのは、塀や地形よりも大きな道路なのだ。特に環七、環八はタチが悪い。渡れる箇所が極端に少ないのが痛い。
歩道橋が頼りになる場合が多い。でも登り降りが疲れる。どうにかならんか、環八。
ちょうど目の部分がこの環八をまたいでいて、設計時にもかなり悩んだのだが、当然現場でもたいへんだったようだ。ただでさえ目なので同じところを何回もぐるぐる回るのに、環八渡れないから行きつ戻りつしてさらにぐるぐる。精神的に疲れたことだろう。
そうそう、渡れない、といえばさきほどの「腹組」でも渡れない事案が発生していた。
踏切がなかった!しかしそこはさすがの石川師匠のチーム。臨機応変にきれいにコースを変更。
最初の「背組」の自衛隊の顛末と同様、こういう現場でのアドリブはGPS地上絵の醍醐味なのだ。そう、これはミスじゃないよ。あえて、そういう余地をね、ね。
全道のりを一筆描く「自転車組」もいたのだ
大井町線渡れない問題で、向かい側に「自転車組」が!
実は3チームの徒歩のほかに、スペシャルチームとして「自転車組」がいた。自転車を持参した参加者お二人が、全コースを走破。
次ページで成果としてお見せする、3チームの「合わせ技ログ」と彼ら自転車組の「一筆書きログ」の対比はとても面白い。
さあ、そんなこんなで3チーム描画終了。
目組と背組は、お互いが出会ったところがゴール。実際に再開したときは、なんだかけっこう感動した。
同じ頃、別の場所で腹組もゴール。このなんということもない交差点が修了地点。地味だ。しかし得体の知れない達成感はある。
レストランを借りて、データを回収。合わせて表示します。どきどき。
なにかしらこの感動
さて、3チームのログを合わせたものを動画でご覧いただこう!
なんか、動きが生き物っぽい。いや、現にわれわれという生き物なんだけど。(GoogleEarthで表示したものをキャプチャ)
頭を上にするとこんな。かわいいぞ!(GoogleEarthで表示したものをキャプチャ)
地形図に重ねると、こんな。(「
東京地形地図」をGoogleEarthで表示)
こちらも動画で。(「
東京地形地図」をGoogleEarthで表示)
こうやって見ると、「設計図」を描くにあたって最初のきっかけになったお腹の目黒通り部分は、地形にそったものだということが分かる。
きれいな地上絵は地形に素直なのだと思う。お腹に比べるとしっぽの部分はいかにも力ずくで、エレガントさに欠ける。理想の設計はすべての線が、道路の曲線を生かしたものなのではないかと思っている。
って、こんなノウハウと美意識持ってどうするんだ、って話だが。
タツノオトシゴが姿を現したときは、歓声が上がった。この達成感はほんとうにふしぎだ。
さて、「自転車組」のログがまた良いのだ!この一筆描きっぷり、ぜひご覧いただきたい。
道路が複雑な部分のためらい具合と、お腹の部分の迷いのない筆跡とのコントラストが、まるで書家のパフォーマンスを見ているかのよう!
虫の目と鳥の目
今回いたく感動したのは、「目組」メンバーのお一人
@maidondon さんが首からぶら下げるカメラでインターバル撮影を行ったその映像。これがめっぽう面白かった。地図と合わせて動画にしてみたので、見てみてほしい。
この「虫の目」(風景)と「鳥の目」(地図)の合わせにいろいろ考えさせられた。
面白い!何が面白いって、おそらくGPS地上絵の醍醐味は「地図上で設計」→「ひたすら地面を歩き回る」→「できあがりは地図でしか確認できない」というプロセスの間にある埋められないギャップを、体験を通して感覚で一致させる、という部分にあると思う。
(ほんらい鳥の目線と地面の目線はどこまでも一致しないんだけど、しかし歩いているときにははるか上空にいる衛星をつねに意識せざるを得ない、という奇妙な体験!)
で、このインターバル撮影+航空写真上のログは、その両方を同時に見ることで「やっぱりギャップがある」ことが再確認できると同時に体験した人にとっては強烈にギャップを乗り越えちゃう何かを再体験できるので、非常に面白い。 ただ、等々力渓谷に入った場面のようにわかりやすく両者が一致する瞬間があって(地図上も風景も緑に)、そこではっとするよね。
目尻のあたりは等々力渓谷。市街の風景からいきなりうっそうとした緑になるのが印象的。もちろん地形的にもたいそう楽しい。
次回からは、全チームこのインターバル撮影を必須にしようと思う。
そう、次回もあるのだ!
滞りなく描き初めて、これで今年も良い一年になりそうだ。みなさんお疲れ様でした。
で、すでに次の設計ができているので、近々またやりたいと思います。興味ある方はぜひご参加ください。告知します。(GPSロガーなくても楽しいですよ)
「カウボーイビバップ」や「攻殻機動隊SAC」、「東のエデン」などの脚本で知られる佐藤大さんと、「自分探しが止まらない」「ケータイ小説的。」 「ラーメンと愛国」などがちょうおもしろい速水健朗さんとで結成した「団地団」。団地に興味がなくても(たいていの人は興味がない)おもしろいです。ほんとに。手にとっていただけるとうれしい。詳しくは→
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