要は乳酸菌を増やせばいいのだろう?
ヤクルトで一番大事なのは「ラクトバチルス・カゼイ・シロタ株」だ。よく「L・カゼイ・シロタ株」って呼ばれているアレだ。ヤクルトの創業者である代田稔さんが昭和5年に見つけた酸に強い乳酸菌である。
酸に強いってことは胃酸で死なずに腸まで届く。乳酸菌は善玉菌で、消化器の働きを良くする。だから胃腸に良い!という訳なのだ。
大体スーパーで10本パックを買ってくる。370円くらい。
そういう事でヤクルトを飲んでいるのだが、ある日思ったのですよ。「あれ、これ、増やせるんじゃね?」と。だって菌だし。乳酸菌だし。ヨーグルトみたいなもんでしょ。牛乳に混ぜて温めれば増えるんじゃないかと。
そこで、ヨーグルトメーカーで増やしてみることにしました。L・カゼイ・シロタ株をヨーグルトみたいに増やせたらそれってとても素敵だなって、錬金術みたいなもんだよね!と。
いや、そうそう甘い話ではなかったんだけど。
中2の頃に買ってもらったヨーグルトメーカー。なんと20年以上使ってる。家にある物で一番古い。
ヨーグルトメーカーの思い出
僕はヨーグルトメーカーを持っている。いや、持ってるからと言って自慢できる物でもないのだが、上の写真のそれは20年前、中学生の頃に買ってもらったものだ。
僕はあまり物を欲しがらない子供だったらしい。茶の間で通販カタログを見ていた母が「あんたは物を欲しがらないから、たまにはなにか買ってあげる」と言ってカタログをよこした。カタログをペラペラめくっても欲しい物はなかなか無かった。そもそも母が見るカタログに中学生男子が欲しがる物が載ってるわけないのだが、あるページで手が止まった。
そこに載っていたのがヨーグルトメーカーで、確か3,000円くらいだった。それを買ってもらった。
以降、僕はヨーグルトを作っては食べるという(当時としては)中学生っぽくない日々を送る。思えばここが「自分で発酵食品を作って食べる」のスタート地点だったように思う。
「世の中にある商品は割と自分で作れる」という事に気付かせてくれたのがこのヨーグルトメーカーであり、20年経った今でも普通に使える。今回の錬金術もこれを使う。
混ぜて保温するだけだ。
作り方は簡単(だと、最初は思った)
ヨーグルトを作るときは、牛乳パックの口を開けて市販のヨーグルトを入れて混ぜて保温すればいい。12時間でヨーグルトになる。
同じように、牛乳にヤクルトを入れて12時間保温すればいいだろうと思ってやってみた。
なお、手や使う道具は事前に消毒する必要がある。雑菌が入ると牛乳が腐ってしまうからだ。
こんな感じでセットする。
僕のヨーグルトメーカーの正面にはダイアルの様な物が付いていて、時間らしき数字が書かれている。普通に見たらこれはタイマーで、指定した時間に機械が止まると思うだろう。
だが止まらない。
実はタイマーではない。
これ、実はタイマーでもなんでもなく単に「終わる時間を示しておく物」だ。夜の11時に始めたらダイアルの目印を昼の11時に合わせておく。すると、数時間経って見たとき「ああ、昼の11時に止めるのね」ってわかるのだ。頭で記憶しておけば良いと思うのだが、なんかこういう機能が付いている。
買ってもらった当時の僕も「あ、これタイマーじゃないんだ」って驚いた。20年経ってもその時のモヤモヤは無くなっていない。なんだろう、この機能。
そして一晩後、量産型ヤクルトが出来た。はず。
普通に血の気が引いた。だって締め切り迫ってたから。
ピンチである
多少はヨーグルトっぽくなるのかなと思っていたがまるっきり牛乳で、わずかに乳酸菌っぽい匂いがあるが飲んでみてもほぼ牛乳だった。
どういう事だと調べてみると、ヨーグルトメーカーではちょっとだけ温度が高すぎるようなのだ。L・カゼイ・シロタ株はヒトの体温に近い37℃でもっとも活発になるらしいが、ヨーグルトメーカーでは40℃近くになってしまう。
40℃近い。これは高すぎるようだ。
そこで、ヨーグルトメーカーをベランダにあるエアコン室外機の前に放置してみた。ヨーグルトメーカーのコンセントは外してあるので、太陽の熱と室外機の熱のみで保温されている訳だ。
ヨーグルトメーカーいらないじゃん、という話なのだが口を開けた牛乳を外気に晒すのは衛生的に良くないと思ったので機械ごとベランダに置いた。
ここならそんなに温度上がらないだろう。
日が落ちてからは温度が上がらなくなったので、今度はコンセントを繋げて15分ごとに電源を入れたり切ったりしてみた。厳密に温度は計ってないがこれならそんなに上がりすぎないだろう。
そうして12時間後。
牛乳は、なんかドロッとした物になった。
右、ドロッとしてやや黄色くなった牛乳。ヤクルトになったのか?
未知との遭遇
ヨーグルトではない、それは判る。液体過ぎるし。かといってヤクルトでもない。なんか匂いとか違うし。嫌な匂いではないので腐ったわけではなさそうだ。これはなんだろう。
生き物としての基本、匂いで食べ物チェック。
これがなんなのか判らない。
なんとなくカスピ海ヨーグルトっぽい
なんとなくだが、カスピ海ヨーグルトみたいな匂いがある。アミノ酸ぽいというか、遠くにチーズの匂いもある。腐ってはいないそうだし、と思って飲んでみた。
最悪お腹壊すくらいの事だろうという希望的観測で飲む。お腹壊したとしたら、きっとそれは等価交換の対価だ。
あれ、美味い、という表情。
全然ヤクルトではないが、これはこれで飲むヨーグルトとして美味しい。ヤクルト製品で例えるならミルミルっぽい。牛乳よりは甘みがある(発酵によるのかな?)が、ヤクルトのようなコッテリした甘さではなくサッパリしている。酸味もほとんどなく薄ぼんやりした味だ。大人の味として結構イケる。
便宜上ヤーグルトと呼ぶ。
味付けの時は少量ずつが基本なんだけどいつも忘れて味が濃くなりすぎる。
ヤーグルトに味付けしてみた
そのままでも美味しかったのだが、ヤクルトっぽい味にしたいと思ったので砂糖とクエン酸を混ぜてみた。
毎度の事だが、砂糖とクエン酸を入れすぎたのでヤーグルトで薄めて、今度は薄くなりすぎて、とシーソーゲームを繰り返した結果、愛想なしの君も笑いそうな、なんだか美味い乳酸菌飲料がたくさん出来た。
右が本物のヤクルト、左が味付けヤーグルト。
ヤクルトと味付けヤーグルトの飲み比べ。
あ、これ美味いわ。っていうかジョアだ。ジョアが出来た。
ジョアっぽいのもが出来た
ヤクルトを作ろうとしたらジョアが出来た。なにを言っているかわからねーと思うが出来ちゃった物は仕方ない。
中世の錬金術だって金を作ろうとして色んな化合物を作って科学を発展させちゃったし、鋼の人はお母さんを作ろうとしてデロデロのなにかを作っちゃったし、錬金術ってのは狙ってない物が出来てしまうことが往々にしてあるのだ。
ヤクルトだってジョアだってミルミルだって、みんな乳酸菌だし体にいいだろう。だから僕が作った偽ジョアも体にいいはずだ。作るの大変だったのでもう作らないと思うけど、作った分は美味しく飲みたいと思います。
菌類の培養は錬金術だ
体に良いヨーグルトといえば、ピロリ菌を減らすというLG21なんかもある。LG21を種菌に使えば普通にヨーグルトを作れてしまうのでお得だ。LG21ってちょっと高いし、1リットルのLG21とか、まさに錬金術だ。ただ、LG21で作ったプレーンヨーグルトはかなり酸っぱいので好みは分れるだろう(前に作ったことがある)。
さっきネットで調べたら、今時のヨーグルトメーカーはタイマー機能はもちろん温度調整機能まであり、ヨーグルトだけでなく納豆なんかも作れちゃうのらしい。
うっかり買いそうになったが、僕のヨーグルトメーカーが壊れるまで我慢かな。このままだと40年でも50年でも壊れそうにありませんが。