特集 2023年4月18日

専門家と街を歩くシリーズ、思い切ってお金の専門家を呼んでしまう

私たちは4倍ものを買えるようになってきている

田内:
ちょっと街歩きと話を外れてもいいですか。例えば100年ぐらい前の10円札とかあるわけですよ。当時の10円が今の価値で7万5000円だとすると7500倍になってるってことですね。じゃあなんでそれが当時と比べて7500倍かってわかるのか。

林:
買える物の量ですかね。

田内:
一律に全てのものが価格上がってるわけじゃないですよね。卵は昔から値段変わらないとか言うじゃないですか。例えば、テレビとか同じもの買おうと思ったら安くなってるしマツタケはどんどん高くなるし、何に比べていいかわからない。そこで賃金を見ると、賃金というか所得ですね、100年前に比べてみんなの年間所得は7500倍になってるらしいんですよ。だから当時の10円って今の7万5000円なんですね。

だけど大事なのはその時に何が買えていたかですよね。例えば食料費って今は2000倍になったらしいんです。給料は物価に比べると3.75倍増えてるので3.75倍多くのものを買えるようになってる。

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田内:
ただし、砂糖は400倍ぐらいに抑えられていてマツタケは希少価値が出て6万倍になった。なんでかっていうと砂糖は今よりも多くの人が働かないと作れなかったから、効率が悪かった。そういうものがどんどん効率化すると、給料対比では安くなっていくわけですね。

大北:
食べ物も人の働き方に関しても効率化でよくなってるんですね。マツタケ以外は……。

田内:
僕らは仕事なくなるとまずいから雇用を守れって話をよくしますよね。砂糖の話みたいに、どんどん効率よくなっちゃうとめちゃくちゃ失業する人がいるはずなんですが、今そんなに失業を気にしてる人っていないですよね、なぜかっていうと当時は作れなかったものを今作れているから。当時はテレビなんか作ってないし、今みたいにプログラミングして働く人もいなかったわけですよ。働かなきゃいけない人が減って、余った人、もしくは余った時間を違う作業に回せるわけですよね。そうやって経済って成長してきてる

大北:
経済の成長とはなにかっていったら、効率がよくなっていろんなことができるようになるというのも一つなんですね~

昔はなかったであろう店が渋谷にはたくさんある

林:
20年前の人がこの楽天モバイルとかAppleって見ても何の店か理解できない。こうやって渋谷を見るとほぼない仕事ばっかりですよね。衣料品店とかはあったろうけど。

田内:
給料だけ見ると2、30年変わってないじゃんと思うんだけれど30年前は使ってなかったことにお金を使っているし、昔はレンタルビデオにすごいお金買ったりしたんだけど、今それってネットで見れて、実店舗じゃないから安いじゃないですか。その代わりお金は違うことに使えますよね。その先にまた違うことをして働いてる人がいるわけで、それを使わなくなっちゃうと、今みたいに景気悪いという状態になっちゃう

僕らはお金って貯めたことに価値があると思っちゃうんだけれど、使った時にそれがサービスに代わって価値があるから。使っていかないと僕らは幸せにならないんです。

なんとなく大きなビルを撮りましたが特定のなにかがというわけではないです

技術も伸び切ってとにかく不安な現代

林:
企業の内部留保ってよく聞くのは、出回ってるお金を企業が貯めちゃってるということですか?

田内:
将来不安だし貯めちゃいますよね。

林:
個人と感覚としては一緒なんですね

田内:
今ってやっぱり将来にすごく不安があるわけですよね。会社もそう。人口増えないし、市場規模大きくならないし、貯めようとしますよね。新しく投資しないし設備も作らないし賃金にも回さないで給料も増えない。すると子供を育てるのもちょっと厳しいよねって話になって、個人が使わないから会社も儲かんない。こうしてお金は回らなくなってくわけじゃないすか。

そして、個人は子供を育てない、会社は新しく投資しないってなると、将来の生産力、ものを作る力っていうのは全然伸びないわけですよ。

林:
企業も個人もお金の話とは別に不安っていう感情のところがありますよね。株の相場でも「不安感」って耳にして急にウェットな話になるなと思って。それって誰かがじゃあ空気読まないやつがお金いっぱい使ったりすると不安の連鎖が断ち切れるんですかね?

田内:
なくなるかもしれないし、なくならないかもしれない。お金だけじゃない社会的な閉塞感があったりしますね

トンネルの暗さで不安になったのか不安を口に出す林

林:
中国とか東南アジア行くと新聞とか読んでても、また我が国はこんなに発展したみたいなこと書いてあって、あの不安感のなさは経済で説明できるものなんですかね。

田内:
どこまでが経済か分かんないですけど、いわゆる僕らが言ってる経済って、お金を使うことを経済って言うじゃないですか。もしこれが隔絶された100人の村に住んでいてこの先数十年氷河期が訪れますというときにお金貯めないですよね。

みんなが働けなくなっちゃう世界を考えた時に、じゃあロボットでも作っとこうかとか少ない人数で仕事回せるようにしとこうかと思うわけですけど、数が多くなった瞬間にお金貯めとけば誰かがなんとかしてくれるって思っちゃうから、 合成の誤謬って言ったりするんですけど、個人ではお金貯めることはいいんだけれど、全体では意味がない

大北:
他にも街歩いててお金の視点で目についたものありますか?

いったん広告です
パチンコの写真撮ってなかったので全部パチンコ屋だと思って見てください

お金がどこに行き着くかが問題

田内:
パチンコ屋があったんですけど、ベーシックインカムに反対する人は、ギャンブルに使ったらどうすんのみたいな話を必ずしますよね。僕は、あれ別にいいと思うんです。

大北:
ベーシックインカムでもらった7万円をパチンコにつっこんでいい!

田内:
問題は違うところにあるんです。宝くじとか競馬とか競輪って国が運営してるんで楽しんで使ったお金は国に回収されるんですよ。でもパチンコだけがダメなんすよね、公営ギャンブルじゃない。別の問題なんです。お金がもったいないってことはなくて、お金は必ずどっかに流れていて流れ先がすごく重要。

大北:
お金がどこに行くか問題、再び。

林:
じゃあ最近の旅行先で使えるクーポンも地元にお金が流れるからいいんですかね?

田内:
国内旅行支援のクーポンのことですよね。それは補助金が国内に流れて、かつ旅行に行くことで自分たちは楽しくなりますよね。だからいいんですよ。

国の外なのか、中なのかってのも大事ですが、国の中のどこに流れるかもありますよね。例えば都市部って地方と全然違う。地方で生活していて買ったもののお金がどこに流れるのかって考えると地元のお米を買うと地元の農家に流れますけど、服を買うと東京とか違う地域にあるメーカーに流れますよね。本買うにしてもそうですよね。 amazonで買うより地元の本屋で買うのはいいんだけれど、出版社が講談社だったら一部は東京に流れちゃいますね。

林:
amazonって外資だから本屋としての手数料は海外に出てっちゃってる?

田内:
お金が海外に流れちゃまずいですよって僕は言ったんだけれど、実際は、お金が船か何かで運ばれて、外国に移動したりしないんですよね。日本の銀行の中にある、彼らの口座に預金が移るわけですよ。

日本の中にいろんな口座があって外国の人たちも口座を持ってます。そこにどんどん流れていくお金が増えると、将来、僕らはあの外国のために働かなきゃいけない量がすごい増えてくわけですよね。

肩たたき券の例で考えたらいいんですけど、いつか使われちゃうんですよ。将来、肩たたき券を大量に使われちゃうと、国の中の多くの労働力を外国のために割かなきゃいけなくなります。それが、将来世代の負担になるんですよ。

渋谷区役所は超都市部ですが、地方とお金について

国内でもどこにお金が流れるかが問題

大北:
地方にお金を残すのってすごく難しそうですね、地方の活性化が難しいよってこういうことでもあるのか。

田内:
現在の構造としては地方でもお金は回りながらも、その大部分が外にどんどん流れてっちゃう。農業が盛んな地域は、農作物で外からお金を稼ぐけど、外から入る量は出ていく量より少ないわけですよね。じゃ、どうやって地方にお金が戻ってきてるかっていうと1つは地方交付税交付金ですよね。そのお金が、中央政府から地方の自治体に流れ、その自治体が公共事業とかに使うことで、地元にお金が流れるわけですね。地方にとっては自治体が使うお金ってすごく重要なわけですよ。

大北:
そっか、直接使ってもらわないといけないんですね。

田内:
そうなんですよ、だから地方ほど自治体と企業の距離が近いじゃないですか。でもそれはもうなるべくしてなっているところもある。

大北:
地方で強い政党とかもそれかー、ようやく今分かりました……

田内:
そういう意味で言うと旅行支援って都市部に住んでる人たちが地方に行って使うことが多いから都市部のお金が地方に流れやすいですよね。水のように流れてるお金をイメージして、1番低い位置である東京に流れているものをポンプで汲み上げて地方に流さなきゃいけないってなったときに税金はすごく大きいんだけれども。gotoトラベルとかで地方に流すのも大事

みるみるわかっている最中

全員が2000万円貯めてもしょうがない

大北:
お金は労働、人を動かすチケットだという考えが田内さんの考えの基本になってるんですかね?

田内:
そうですね。お金自体は価値がなくて、働いてくれる人がいるからだよねって。年金の問題も1人2000万円貯めるっていっても、極端な話、老人だらけになって誰も働いてないとなると意味がない。でも今それが平気で信じられていて。厚労省とか年金制度作ってる人たちは「お金貯めても全く解決にならないよ」ってちゃんと言ってるんですよ。それはわかってるから日本含めて先進国の多くが「賦課方式」って言って、現役世代からお金集めて老人に配ってる。労働力を貯めれるわけじゃないから。

林:
時間を超えないで、現役世代の労働力を老人の方に使う

田内:
そういうイメージですね。たとえば、生活するのにはパンを買うお金が必要だとしますよね。将来、少子化で働く人が減って、年金が足りなくなるから、今のうちにお金を積み立てとけばいいじゃんって信じている人は多いと思います。「今お金貯めといたら老人も若者もお金たくさん持ってる状況になるじゃん」ってことなんですけど、お金を食べるわけじゃないから、作っているパンの量が増えなければしょうがないわけですね。大事なのは将来働く人が少ない状態でどうやってパンを増やせばいいかで、そのために投資をしないといけない。

大北:
パンを作れるような設備や人を準備しとけよってことですね。将来の労働力に変わるロボットや産業を今生み出すとかかなー。

林:
あの2000万の話、ありましたね

田内:
全員が2000万円貯めたら全員助かるかといったら違う話なんですよね。

林:
大事な話が抜けていると。

後編につづきます

今回、お話をしてくれた田内さんの著書はこちら

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