特集 2022年9月24日

東京のど真ん中で、一人ぼっちの写真を撮る

一人ぼっち!

東京は人が多い。

だから一人で写真に写ろうとしても、いつも誰かが写りこんでしまうのだ。

今回は写真家の友だちにお願いして、きっちり一人ぼっちの写真を撮ってもらいました。

行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

10年前のリベンジでもあります

10年前の2012年、僕は「人ごみの中、一人ぼっちの写真を撮る」という記事を書いた。

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その時の写真。

当時はNDフィルターという、カメラに入ってくる光を減らしてシャッタースピードを遅くするフィルターを使って歩いている人を消したのだが、写真を見てもらえばわかる通り、なんとなくぼんやりと人影が残ってしまっている。

もっとシャッタースピードを長くしたらちゃんと消えるのかもしれないが、昼間に都会でそれをやるには、人の邪魔にならないところに三脚立てたりとか、僕が動かずに立ってなきゃいけないとか、いろいろと難しいことがあるのだ。

そんなとき、友だちの写真家が誰もいない街を撮影していることを知った。

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写真家のキナガヤスタカさん。

誰もいない街を撮ったシリーズはキナガさんのHPに掲載されているので見てほしい。

どのくらい誰もいないかというと、たとえば今回の撮影でキナガさんが撮った渋谷スクランブル交差点の写真がこちらだ。

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いない!

うちの実家の駅前が夜8時を過ぎるとこんな感じだが、でもよく見ると渋谷のスクランブル交差点である。しかも昼間。みんなどこにいったんだ。

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こちらは誰もいない新宿駅。

この完全に人がいなくなった街は精巧に作ったミニチュアみたいにも見えて、なんとなく距離感を失う。おもしろい。

キナガさんがどうやって撮っているのか、撮影について行ってみた。

撮影できる場所を探す

まず撮りたい範囲を見下ろすことができる場所を探すところから始まる。

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上から見下ろせる場所がいいのだとか。
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交差点を見下ろすビルはたくさんあるが、写真が撮れる場所は限られる。

あとで説明するが、キナガさんのスタイルで人のいない写真を撮る場合、撮りたい場所を横から撮るよりも上から撮った方が都合がいいのだとか。

今回のように渋谷のスクランブル交差点を見下ろせるビルはたくさんあるのだけれど、三脚を立てて窓から撮影させてもらえそうな場所は案外少ない。

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「なかなかいいんだけど、この柱が邪魔だなー」
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「あー、ここもいいんだけどちょっと遠いですね」

いろいろ見て回ったあげく一軒のカフェを見つけたのだけれど、ちょうどこの日は貸し切りで入ることができなかった。前出の誰もいないスクランブル交差点の写真は、翌日にキナガさんが再度そのカフェから撮ったものだ。

人を消したい場所を探して、東京駅まで移動してきた。

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おなじみ東京駅。

東京駅は渋谷駅に比べると人は少ないとはいえ、待ち合わせのグループやビジネスマン、駅をバックに写真を撮る人がひっきりなしにやってくる。

この状態で誰もいない写真なんて撮れるんですか?

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「そうですね、いけると思いますよ」

キナガさんは東京駅からかなり距離を取った場所にカメラを設置した。遠ければ遠いほど人がたくさん入り込んでしまいそうなのだけれど、大丈夫なんだろうか。

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「このくらい引いた方がいいです」

キナガさんはカメラを三脚に固定すると、あとはカメラを見ずに歩き回る人を双眼鏡で見ながらシャッターを押していく。

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珍しいスタイルの写真家である。

キナガさんの撮影方法はこうだ。

①カメラを固定して撮影
②人がいる場所は人が動くのを待って追加で撮影
③撮った写真から人がいない部分を選んで重ねていく

すべての場所で同時に人がいない時間はないので、時間をずらして人がいない時間帯だけを集めて一枚にまとめるのだ。

なので人がいる場所はその人がいなくなるまで待って撮影する必要があるのだけれど、そのためには横から撮るより上から撮った方が都合がいいのだ(横から撮ると前後に移動されても変わらないから)。

こうして書いてみるとシンプルな方法なんだけど、やってみるとなかなか難しいことがわかる。たとえば立ち止まっている人というのは、思いのほか動かない。

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歩いている人はちょっと待てば動いてくれるのだけれど
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警備員さんは動かない(画面中央)。
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待ち合わせのグループもなかなか動いてくれない。
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そのたびに人がいなくなるまで待ってシャッターを押すのだ。根気!

けっきょく警備員さんは交代の人が来たタイミングで動いてくれたのだが、キナガさんは「どうしても動いてくれない人はトリミングします」と言っていた。それがいいと思う。

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警備員さんが動くまでにもたくさんの人が通り過ぎていった。

キナガさんは1枚の写真を仕上げるためにだいたい100カットくらい撮影するという。時間にして30分くらい。これが限度で、ゆっくりやっていると日の高さや空の色が変わってしまい、重ねたときに影の形とかがつじつま合わなくなっちゃうらしい。

誰も撮っていないことの怪しさ

「双眼鏡のぞきながら写真を撮ってるとね、警察の人とかに『なに撮ってるんですか』って説明求められることがあるんです。そういう時には説明に困りますね。」

なるほど。キナガさんは「誰かを撮っている」わけではなく、むしろ「誰も撮っていない」のだ。双眼鏡までのぞきながら、誰も撮っていないとなると、これは確かに説明しにくい。

何度か撮影していくうちに、人の行動が読めるようになってきたとも言っていた。「だいたいの人は5分か10分で動きます。待ち合わせでも、よほどでないと15分もしたら動きますね」。

ただやっかいなのは路上駐車なのだとか。

「路駐は迷惑だからやめてもらいたいです。」

写真家の目線からの苦情である。

こうして撮られた誰もいない東京駅の写真がこちら。

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誰もいない。

見事に誰もいない。深夜とか早朝ならわかるが、この昼の光の中で、いつも賑わっている場所に誰もいないというのは奇妙な違和感がある。

ここに僕だけを立たせることもできる。

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普通に撮ったらこんな感じで後ろに人がたくさん写りこみますが
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キナガさんの手によるとこう。気持ちい!でも気持ち悪い!

キナガさんはこれからも次々と人を消していきたいと言っていた。街だけでなくお店や建物の中も無人にできるそうだ。この手法を思いついた時には「天下がとれる!」と思ったというが、同じテーマですでに作品を発表してる写真家さんを見つけて凹んだらしい。面白いから気にせず続けてほしい。

今度誰もいない野球の試合を見に来てる満員の観客を撮ってもらおうと思っています。


キナガさんに作り方の様子を動画にしてもらったので参考にしてみてください。

 

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