ちょっと聞いてよ 2023年3月5日

どの国にも属していない無主地は地球上に3ヶ所存在する

ネットで調べるだけのこたつ記事です

基本的に、地球上にある土地のほぼ全ては、どこかの国の領土か、管理下にあるとされています。

しかし、国際法のバグ的な都合で、どの国も領有権を主張していない土地というものが、地球上には3ヶ所あります。

これらは「無主地」といわれています。

今回は、3ヶ所のうち、2つを紹介します。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

前の記事:気球を揚げるところを見たい!―つくば高層気象台見学

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南極

現在、どこの国も領有権を主張していない「無主地」は、定義にもよりますが、世界に約3ヶ所あるようです。

まず、南極です。

南極は、1961年の南極条約によって、各国の領有権の主張が凍結されています。

1961年以前には、イギリス、ニュージーランド、オーストラリア、フランス、ノルウェー、チリ、アルゼンチンの7カ国が、それぞれの主張に基づき、南極点を起点とした境界を扇状に広げた領土を主張していました。

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柴田明穂『北極と南極をめぐる領有権問題』p31

南極条約は「南極に関する領有権問題を一時棚上げして、南極については各国協力して色々やりましょう」という取決めなので、各国が領有権の主張を取り下げたというわけではありません。そのため「凍結」と表現されるのであり、これは、南極にかけたダジャレではありません。

アルゼンチンは、南極条約の期限が切れる1991年を前に、妊婦をアルゼンチンのエスペランサ基地に送り、南極で出産させて「南極生まれのアルゼンチン国民」を1978年以降8人誕生させ、領有権主張の根拠のひとつにしようとします。しかし、南極条約は1991年以降もそのまま継続されることになり、その目論見は空振りとなりました。

日本も、南極の領有権を主張したことがあります。1912年に白瀬矗(しらせのぶ)が到達した場所を「大和雪原(やまとゆきはら)」と名付け、日本領と宣言しました。

しかし、現在では大和雪原周辺は陸上ではなく、ロス棚氷(海の上の氷)の上であることがわかっています。

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ロス棚氷(ウィキペディアより

いずれにせよ、日本はサンフランシスコ平和条約で海外の領有権を放棄していますので、南極での領有権の主張は無効となっています。

現在は条約でどの国の領有権も凍結されている南極ですが、そのなかでも本当にどこの国も領有権を主張していない土地が一部あります。「マリーバードランド」と呼ばれるエリアです。

マリーバードランドは、1929年以降何度かアメリカ海軍を率いての南極探検を行なったアメリカ海軍士官、リチャード・エブリン・バードの妻の名前にちなんでいます。ここは、アメリカが1939年に領有権を主張する準備をしたなどの話もあり、アメリカと縁が深い場所です。

これはぼくの憶測で、全く根拠はないのですが、アメリカは各国に南極条約の締結を促すため、あえてマリーバードランドの領有権を主張しなかったのでは? と、勝手に妄想したりしましたが、南極条約より前の1956年に発行された地図帳の、南極の地図をみてみると、しっかり「アメリカ領」と書いてあったりします。当時はアメリカ領と認識されていたのでしょうか? 謎です。

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1956年『中等社会科地図帳』冨山房
(編集注:上の地図とは上下が逆になっています)

なお、マリーバードランドは、地球上に存在する無主地としては最大を誇ります。

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ユーゴ紛争で発生した無主地 

もうひとつの無主地は「ゴルニャ・シガ」です。 

ゴルニャ・シガは、セルビアとクロアチアの間に蛇行するドナウ川の途中にある無主地です。

 

現在のクロアチアとセルビアは、もともとユーゴスラビアというひとつの国でしたが、1991年から1995年のクロアチア紛争でクロアチアが分離独立する形で国が別れました。

このとき、ドナウ川の中間線を国境と主張するセルビアに対し、クロアチアは、オーストリア=ハンガリー帝国時代に引かれた川の流路に沿った境界線を国境と主張しました。両国の主張する国境線を引いた場合、どちらにも属さない土地が、川の途中にいくつか発生しました。(この稿では、ゴルニャ・シガ周辺のいつくかの無主地をまとめて一つの無主地と数えています)

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ゴルニャ・シガ、この辺です

現在、ゴルニャ・シガをウィキペディアで検索すると「リベルランド」という項目に転送されます。

リベルランドは、ゴルニャ・シガがどの国にも属さないということに気づいたチェコ人の政治家、ヴィート・イェドリチカが領有を宣言し、2015年4月に建国したミクロネーション(非常に小規模な自称国家)です。

国連加盟国で、リベルランドを国家承認している国はありませんが、ソマリランドとは相互承認しているようです。(※ちなみに、ソマリランドも国連加盟国ではありませんが、ソマリランドと台湾(国連非加盟)は相互に国家承認しています)

リベルランドは、シーランド公国(イギリス軍の海上要塞の上に建国された自称世界最小の国家)や、北スーダン王国、エンクラバ王国(リベルランドに触発され、リベルランド北にある小さな無主地の領有権を主張している)などのミクロネーションと相互承認を行なっているようです。

初代大統領となったヴィート・イェドリチカは、以前は陸続きのクロアチアからリベルランドに入国していたようですが、クロアチア国境警察に国境侵害で逮捕されるという事件が発生し、それから後はクロアチアに入国できなくなり、以降はセルビア側にあるボートハウスに拠点を置いているようです。

リベルランドに関しては、実際に行った方のブログなどが多数あるので、興味ある方は各自検索してみてください。


なんと、のこり一箇所の無主地は次回!

というわけで、上記2ヶ所を紹介しました。もったいぶるわけではないのですが、すでに規定の文字数を越えてしまったので、もう一箇所の無主地については次の回でお伝えいたします!

続きはこちらをどうぞ!
どこの国にも属さない無主地、ビルタウィールをなめるように観察する

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