自慢しよう
帰りの新幹線からさっき歩いた看板を見た。
裏側に釘が出てることとか、蚊が渦巻いて僕のまわり飛ぶこととか、土がふわふわで足が地面にめりこむこととか、堆肥のにおいがけっこうきついこととか知ってるのは僕だけだろう。
そう思ってほくそ笑んだ。
新幹線から看板が見える。727化粧品、ふとん。当サイトでも大山さんがその数を数えていた野立て看板だ。(「東海道・野立て看板鑑賞」)
あの看板は新幹線が通らないときも線路に向かって立っているわけで、切ないというか、ばかみたいだ。
しかしあっちから新幹線はどうみえるのか。裏側はどうなっているのか、そもそもどれぐらいの大きさなのか。 近くにはどんな町があるのか。妙にそそられる。
四国取材の帰り、新幹線を途中下車して見に行くことにした。
※2007年4月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
静岡と京都は看板を制限する条例があるため、挟まれた愛知に看板が集中している。しかも静岡から愛知に入ったとたんに看板がボコボコとあらわれるという。厳しくないところで羽をのばす。大学デビューみたいで大変わかりやすい。
東海道線の新所原から静岡・愛知の県境に向かって歩く。
駅を降りるとすぐに田園風景!ではなくて工場街だった。マスキングテープのようなケミカルな匂いがした(大好き)。愛知県は自動車工場で働いているブラジル人が多く住んでいるので市役所の看板がポルトガル語だった。
こういうディテールは新幹線を降りないとわからない。
しかし30分も歩くと堆肥の匂いがする田園風景が広がった。そして看板はあっさり見つかった。
近くで見ると確かにでかい。ビルの2階以上の高さがある。みな一様に新幹線の線路に向かって立っている。ストーンヘンジみたいだ。見たことないけど。
しかし意外に唐突さを感じない。まわりの景色と看板の色の鮮やかさ(正確にはくすんでるところ)が同じで、周囲に馴染んでいる。
この地味な存在感は、近くに住んでいても「ああ、言われてみればあるね」ぐらいのものかもしれない。うちの近所にある「ダイエーまであと2㎞」の看板とさほど変わらない気がする。
あの看板がいったいどういう作りになっているのか、気になる諸兄も多いことだろう。気にならない人はたぶんここまで読み進めてないと思うので、看板のディテールを遠慮なく紹介したい。
看板だけが交換できるように看板と柵は別物になっていた。看板を替えることでずっと利用できる。巨大なファミコンのようだ。
柵だけで看板がないものもあった。使われなくなったのか、たまたま看板制作中なのかわからないが、これがロハスでエコのメッセージですといわれれば信じてしまいそうだ。裸の王様みたいだけど。
新幹線からはあっち側の象徴として見ていた看板がいま横にある。僕はいまは"あっち側"だ。彼岸である。
彼岸からいつもの新幹線を眺めてみよう。なかに乗ってるひとと目があったりするだろうか。うらやましがってる顔が見えないだろうか。シュゴヮ シュゴヮと音を立てて新幹線が近づいていた。
………。新幹線はペンみたいに細くてなかに人が乗ってるとは思えなかった。なかの人と目が合うなんてとうてい無理だ。
新幹線からは「ああ、あっち側(うっとり)」なんて見ていたのが看板からはこんなちんけに見えるなんてちょっと愉快だ。ああ、来てよかった。
帰りの新幹線からさっき歩いた看板を見た。
裏側に釘が出てることとか、蚊が渦巻いて僕のまわり飛ぶこととか、土がふわふわで足が地面にめりこむこととか、堆肥のにおいがけっこうきついこととか知ってるのは僕だけだろう。
そう思ってほくそ笑んだ。
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