特集 2020年11月23日

日本各地の「先生に言ってやろ」コレクション

「いーけないんだ、いけないんだ せーんせいに 言ってやろ!」。小学生が悪事を冷やかすあの曲、各地方にいろんなバージョンがあったので集めてみた。

ファンクバンド「踊る!ディスコ室町」のまこまこまこっちゃんです!ギターを弾いています!京都在住!


> 個人サイト songdelay

小学生のあいだで、悪事に対する制裁のはじまりを告げる曲がある。「いーけないんだ、いけないんだ せーんせいに 言ってやろ!」。僕も何度この曲にゾッとさせられたかわからない。

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バンド仲間に作成してもらった楽譜。同じメロディーで、いろんな歌詞が歌われているらしい

ところでこれ、地域によってバリエーションがあるらしい。飲み会の悪ノリでこの曲をうたったところ、出身地によって歌詞が全然ちがうことがわかって大いに盛り上がった。

ちょっと周りに聞いてみただけでも、かなり様々だ。全国レベルで調べてみると、もっとたくさんあるのではないか。

「いけないんだ」の部分が地域によって変化する

デイリーポータルZのツイッターを通じて募集したところ、日本全国から「いけないんだ」が集まった(ご協力ありがとうございました!!)。

集計しながら眺めていると、投稿の数だけ学級裁判を受けた子供が存在するんだなあと想像してしまって、ちょっと切ない気持ちになりました。

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日本全国、いろんな歌詞で学級裁判の開廷が告げられている。ちなみに、Web上の先行研究である「ニコニコ大百科」によると、フライデーが創刊したときのコマーシャルにこの曲が使われたらしい(そのときの歌詞は「みいちゃった みいちゃった」。こわすぎる)。

中身を見てみると、やっぱり地域により様々だ。ちなみに、各方言ごとに語尾にも変化あるが、主に前半部分(「いけないんだ いけないんだ」の部分)にバリエーションがあるようだ。同じようなものをまとめていくと、だいたい5種類の変化がみられる。

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開廷の合図は、だいたい5種類プラスアルファ

地図に落としこんでみると、なんとなく傾向がみえそうだ

まず驚くのが「あららこらら」の多さだ。堂々のシェア率トップだが、関西圏で育ってきた僕にはまったく未知の歌詞である。

こんなにメジャーなものを知らないまま、足を踏み入れてしまったとは。トヨタを知らずにクルマに興味を持ったようなものか!

知らなかったものはしょうがない。とりあえず、トヨタから順番に勉強していこう。

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ところで、うちの会社にはシュレッダーを満タンにしたのに袋を取り替えない人がいる。これ先生に言いたいな…

関東を中心に全国を制覇!「あららこらら」

あららこらら
地域:関東(全国)
派生:ありゃりゃ こりゃりゃ(関東・山形・福井・鳥取・兵庫)
あーらっせ こーらっせ(千葉)
あやや こやや(栃木)

今回最も多かった、いけないんだ界のトヨタこと「あららこらら」。関西では聞いたことがなかったが、全国的にはいちばんポピュラーだ。

主に関東圏からの投稿が多かったが、東北から九州まで全国で歌われている。ちなみに、DPZ編集長の林さんの地元(埼玉)でも「あららこらら」が主流だったらしい。

各地で「ありゃりゃ こりゃりゃ」と派生しているのがみられるほか、栃木で「あやや こやや」、千葉では「あーらっせ こーらっせ」など、ローカル変化も多い。

しかし、投稿してくれた方々のコメントには「意味はよくわかりません」と付け加えられていることが多い。みんな知らずに歌っているんだな。

今更ながら、なんで「あーらら こーらら」が、ついているのだろうと思いました。(うみねこ・千葉)

強いていうなら、「あら!!これは(やらかしましたね!!)!!」みたいなニュアンスだろうか。意味はわからずとも、盛り上がり重視の感じは伝わるぞ。

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袋を替えたのにコロコロしないひともいる!先生に言ってやろー!
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やっぱりこれがスタンダード?「いけないんだ」

いけないんだ いけないんだ
地域:全国
派生:いかんちゃが いかんちゃが(宮崎)
いーかんしょ いーかんしょ(愛知)
いーけんにー いーけんに(島根)

続いて多かったのが「いけないんだ」。なんとなくこれが標準っぽい気がして、この記事の冒頭にも使った。全国標準を裏付けるように、北海道から九州まで幅広く歌われてているが、「いけない」の部分に各地方のカラーが現れている(いかんちゃが・いーけんにー、など)。

行為に対してストレートに非難を浴びせており、冷やかし歌としての機能が著しく高まっている。

また、これを歌ったあとに「あららこらら」が続いた、というコメントも複数あった。

この後に「あーらら こらら」が続きました(八重桜・神奈川)
2番がありました。「あーらーらーこーらーらー、せーんせいにーゆってやろ」(ゆうり・茨城)

 「あららこらら」、ここにも現れるとは!トヨタが実はスバルの筆頭株主、みたいな感じか。よりメジャー感が高まった。

それにしても、続けて歌うパターン、やられたらかなりイヤだろう!なんだか小学生時代を思い出してむずがゆくなってきた。

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コピー用紙を補充しないのも重罪です。いけないんだ!先生にいいますよ!

とにかく言いつける!「いってやろ」

いってやろ いってやろ
地域:近畿、中国
派生:ゆーたーろ ゆーたーろ(近畿)
ゆーたろ こーたーろ(兵庫~中国)

「いってやろ いってやろ」からは、絶対に先生に言いつけるという強い意思が感じられる。後半の「先生にいってやろ」も含めて3回も「いってやろ」を繰り返していて、これも冷やかしのパワーが高い。そして、小学生にとっての先生という存在の大きさを改めて感じられる。絶対に大きな力を使って問題を解決するのだ!

関西〜中国地方では、「ゆーたろ こーたろ」と変化することが多いようだった(兵庫以西では「ゆーちゃろ こちゃろ」とも)。この「こ」、「あららこらら」「いややこやや」とも共通するみたいだが何を意味しているのか全くわからない!やっぱり子供の「子」なんだろうか。でもそういうニュアンスも別に感じられないしなあ。

「いってやろ」は東海道新幹線に沿うかのように日本列島を東西に走る。

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ハンドドライヤーの代わりに置くようになったペーパータオル、ちぎれた破片を放置するひとが多すぎる!先生にいってやろ!

近畿圏では無類の強さ!「いややこやや」

いややこやや
地域:近畿
派生:いーしゃーしゃ こーしゃーしゃ(大阪・京都・奈良)

個人的にいちばんしっくりくるのがこれ。出身の小学校(大阪府南部)では、みんなこれを歌っていたものだ。4年生のころ、1時間目の開始直前に大慌てでその日の宿題をやっていたのを目ざとく発見されたときも、「いややこやや」の大合唱を受けた(別にいいだろう、というモヤモヤした気持ちと恥ずかしさで涙目になった)。

近畿圏ではこれが根強く歌われているが、大阪府内でも交野市では「いーしゃーしゃ こーしゃーしゃ」、柏原市で「うーわわ こやや」など、近い地域でも微妙に変化がみられるのが不思議だ。

「いややこやや」は関西限定だ

そして「あららこらら」に続いて、意味はよくわからない。ただ、「あらら」の「あら」が意外な事件にびっくりしているような雰囲気なのに対して「いやや」の「いや」からは、より強く「よくないものを発見したぞ!」という語気を感じる。

いやでも、「いーしゃーしゃ」はさらに謎だな。やっぱり意味なんかなくて、ただ盛り上げようとしているだけなんだろうか。 しかしとにかく、冷やかしの力が絶大なのは疑いようがない。何度も歌われたことがあるので、実感込みでそう思う。

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営業車2台停める場所なのに、真ん中に停めるなよ!先生に言ってやろ!あとガソリン減ってたらちゃんと補給して!

方言が現れやすい!「わるいんだ」

わるいんだ わるいんだ
地域:全国
派生:わーりんか(岡山)
わーりっちゃ(福井)
まーねんだ(青森)

これは悪事に対する非難が直接的に表れている。学級委員とかが言いそうな感じだ。

「いけない」に続き「わるい」も各地方のことばに変化しやすい。特に青森、「まーねんだ」は備考コメントを確認するまでどういう意味かわからなかった。 

津軽弁で「だめ、わるい」が「まい、まいね、まね」(はな・青森)

同じ日本でも、世の中には知らない言葉がたくさんある!そして、小学校にはそれが今でも保存されているのだな。

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これはまごうことなき「わるいんだ」。先生と保険会社に言ってやろ…

やっぱり京都は京都だった(その他、ローカルバージョン)

最後に、グラフ中で「その他」に分類していたものについていくつか紹介したい。

「どいかんだ どいかんだ」(愛知)

冒頭に書いた飲み会の場で、いちばん衝撃だったのがこれだ。聞けば、ど(強調)+いかん(いけない)+だ(断定)ということらしい。ことばに馴染みがなくて「その他」に分類してしまったが、大きく見れば「いけないんだ」の仲間なのかもしれない。

「しーらんたいこーらんたい」(長崎)

長崎県から3件、投稿が寄せられた。九州方言はころころしていてかわいいな。

ちなみに、そのうちの1つに付けていただいたコメントがこちら。

現在大阪在住なのですが、いーややこややを聞く度にしーらんたいこーらんたいは意味がしっかりしてていいなぁと思っています。(おかぴ・長崎)

いや、「こーらんたい」の意味はそんなにハッキリしてるかな??長崎県民にだけ伝わるなにかがあるのか…?

「しーはった しーはった」(京都)

なんとも、隠しきれない”京都”が溢れ出ているな!告げ口さえも丁寧とは…!

ちなみに、告げ口するときも「〇〇くんが叩かはった〜」と報告するらしい(丁寧)。いわゆるイケズ文化を垣間見るが、歌っていた本人いわくそういうつもりは無いとのことだ。

余談

ところで、僕は京都でファンクバンドをやっている。せっかくなのでバンドメンバーに相談して、この曲をファンクっぽくアレンジしてみた。よかったら聴いてみてください。

 

ちなみに、この歌のメロディーは「ニロ抜き短音階」という日本ぽい音階で構成されている。これは西洋音楽でいうとマイナーペンタトニックというスケールで、ギターで弾きやすいのだ。ギタリストのみんなは、すぐにこの曲で誰かを冷やかすことができるぞ!


今でも、どこかでこの曲が歌われて、学級裁判が開かれていることだろう。

改めてこの曲について思いをめぐらせていると、小学生当時の「先生」という存在の大きさに驚いた。あの頃、先生はいろんなことを解決してくれていたのだ。大人になったいま、トラブルは自らの手で収めていかなければならない。

でも、たまには先生に頼ってしまいたいときもあるなあ。ねえ、先生。

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