月餅さんが「お茶漬けにしたら絶対に美味しいはず」と言ってたのが忘れられなくて、帰宅して早速やってみた。
ちょっとあまりに美味過ぎた。減塩だけでなく炭水化物の摂取量にだって気を使う時代。たまにはこの塩鮭で昔の食卓にタイムスリップするのも、悪くない。
私は子供の頃、給食だけを楽しみに学校に通っていた。しかし今年44歳になる私より上の世代には、「給食がまずくて本当に嫌だった」という人もいる。食の記憶や感覚というものは、世代を超えて共有するのがとても難しい。
よくご老人が「昔の塩鮭は小指の先くらいでどんぶり飯が食えた」なんて語っているのも、その一つ。そんなにしょっぱい塩鮭の記憶がない私には想像しがたい。
だが築地場外市場で気になる商品を見つけた。
それがこちら。
これなら、昔の食の記憶を追体験できるかもしれない。「みんなでしょっぱい塩鮭を食べたいです」。私は林編集長にメッセージを送った。
10月某日。私は事前に仕入れた例の超辛口塩鮭を、DPZの企画会議に持ち込んだ。
会議終了後にご飯を炊いて食べてみることになったが、超辛口というほど塩辛いなら何切れ焼くのが適量なのだろう。思えば購入時、店の人がわざわざ「本当にしょっぱいからね」と念を押してきた。参加者は6名もいるので3切れじゃ足りない気がするが、甘い考えなのだろうか?
はっきり言って私は、塩分耐性がとても強い。まだ無鉄砲で触るものみな傷つけていたあの頃(※8歳くらい)。しょっぱいものが好き過ぎて、親に隠れて塩だけ舐めるという非行に走っていたくらいだ。
中年になった今では減塩も意識するようになったし、甘いものも大好きになった。だが今日だけは自分の中に眠っていた獅子を呼び覚ます。ええい、もうどうにでもなれ!
当初は普通の塩鮭と食べ比べるつもりだったが、それは違うと思い直した。長年かけて蓄積された、我々の中にある「一般的な塩鮭観」。この塩鮭単体でもそれを覆すほどの強いインパクトがあるのか?それを知りたい。
鮭が焼けたタイミングでちょうどご飯も炊けたので、まずは私からいかせてもらう。確かにしょっぱそうではある。だが焼いたら思ったより小さくなったので、6人で分けるにはやっぱり少ないように思える。
いや、想像をはるかに超えてきた。今年の夏、海水浴中に海水を飲んでしまって死ぬかと思ったが、あれより全然しょっぱい。
周りのみんなは「え~、そんなに?」と笑っているが、なら食べてみて下さいよ!
笑っていたメンバーがどんどんこの顔になっていく。そして鮭の感想とは思えないような言葉が次々に聞こえてくる。
「塩食べるよりしょっぱい」「いけないことをしているみたい」「子供は何歳から食べて良いのか?」「塩の泉にいるようだ」「多分6時間嚙んでても味が出る。塩のガムだ」「金属みたい」…
下の画像は私が今まで考えていたご飯と塩鮭の適切な割合だ。
しかしこの塩鮭なら適切な割合は以下のようになる。
ご老人の語る昔の塩鮭、正直ちょっと話を盛ってると思ってた。でもすみません。完全に本当でした。
勿論、保存という観点から考えてみれば、昔の塩鮭の方が今よりしょっぱいのは当たり前ではある。だがちょっと待てよ。この塩分濃度によって、保存だけじゃなく鮭の旨味もめちゃくちゃ引き出されてるぞ。
食べた直後はみんな、鳩が塩鉄砲を食ったような顔になるのだが、慌ててご飯を頬張った瞬間、表情はこのように変化する。
そう。単体ではソルティー暴君でしかなかった塩鮭が、米と一緒になった途端、菩薩のような笑みを優しく投げかけてくるのだ。
ちょっと比喩が上手くないのでちゃんと書くと、最初はガツンと強烈な塩味を感じるが、口内で徐々に米と混ざりあっていく過程で鮭の深い旨味が引き出されてくる。そしてすべてを飲み込んだ時には意外にも、「米って美味いな」の方が前面に出てくるのだ。
もっと単刀直入に言えばこの塩鮭、すんごく美味しい。最終的には皆から「これは買いたくなる」という感想が相次いだ。
誰かが言った。「その焼いた時に出た塩も美味いんじゃないか?」と。
なんと、浮き出た塩まで美味いのかよ。林編集長からは詩的な表現が飛び出す。
「この塩が瓶詰になってたら買うよ!」という声まで上がりだした。しかしこの風味。どこかで経験済みな気もする。「海辺のかき小屋じゃないか?」「甲殻類を焼いた時の香ばしさだろうか?」「ほたてじゃないか?」。
そんな中、私が「分かった。磯丸水産だ!」と叫んだ瞬間、「あ、磯丸水産だね」となんか場がすーんと盛り下がってお開きとなってしまった。
月餅さんが「お茶漬けにしたら絶対に美味しいはず」と言ってたのが忘れられなくて、帰宅して早速やってみた。
ちょっとあまりに美味過ぎた。減塩だけでなく炭水化物の摂取量にだって気を使う時代。たまにはこの塩鮭で昔の食卓にタイムスリップするのも、悪くない。
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