突然ぶっつりと話が終わっちゃって申し訳ない。でも仕込んだのつい先日だから。
秋になっても「ラルド完成編」が公開されなかった場合は、たぶん失敗したということなので、サラッと忘れていただけると幸いです。
それよりもみんな、機会があればラルド食べてみたほうがいいですよ。脂身だけて…!と敬遠するかもしれないけど、ちょっと驚きの旨味量なので。
まずは食べてみないと分からないラルド
順番としては、そもそもまずは食べてみないことには、作るにしたって基準が分からない。
とは言えどこで買えるのか見当も付かなかったんだけど、検索してみたら、都内にいくつかあるイタリア食材の専門店がヒットした。なるほど、そりゃそうか。
ということでお店に伺って「ラルドありますか?」と訊ねると、「はいコレ」とサッと冷蔵ケースから出してくれた。
おー、断面が真っ白。間違いなく脂肪のカタマリである。表面の茶色いのは豚の皮の部分で、胡椒などのスパイスがまぶされているのが見える。
こちらはラルドの中でも高級品にあたる「ラルド・ディ・コロンナータ」。トスカーナ州コロンナータ村で作られたもので、お値段も50g800円ちょいとなかなか高級である。写真のブロックは300gなので、これで5,000円近い。おい誰だ庶民の雑な食い物って言ったヤツ。
コロンナータでは、脂身を塩とスパイスで漬けた後に、巨大な大理石の一枚板から削りだしたケースに入れてじっくり熟成させるとのこと。なんだそれ。製法も明らかに適当とは言い難い。
いきなり出だしから前提条件をへし折られてないか。
ともあれ、幸いにも切り分け済みの半端なブロック(お安くなってた)があったので、それを買って食べてみよう。
判ってはいたことだけど、切ってみると、改めて「脂身だけしかない」という事実にショックを受ける。肉、無いんだ…。
普通の生ハムなら食べたことはあるけど、脂身オンリーともなると「どう食べるのが正解なのか」が予想つかなすぎる。
ひとまず、お店の人いわく「とにかく薄くスライスせよ」とのことなので、それに従ってみた。
で、これをそのまま生でツルンと食べるのかと思ったが、そうじゃないらしい。
ラルド、生でいけないこともないけど、「熱を加えてとろけさせて食べるのが正解」なんだそう。
あー、そうなのか。でも言われてみれば、生ハムの脂の部分だって、そのままだとネチャネチャして食感は良くないもんな。
基本的には、リゾットなどの上に薄く切ったものを散らして、融けかけてきたところを食べるのがメジャーな食べ方。
あとは、トーストしたバゲットに薄切りラルドを乗せ、ミックスナッツと蜂蜜をかけたものもオススメとのこと。
まずはトースターで軽く炙ったバゲットの上に、ラルドを乗せる。
おー、思っていたよりもかなり早く、色が白から透明に変わっていく。
ややこしい話は省くが、ラルドは塩漬け熟成によって融点が下がっているので、トーストした余熱程度でもサッと融けるのである。感覚的には、融点はバターよりちょい高いかな、程度。
で、完全に融けきらないうちにナッツと蜂蜜をかけると…ビジュアル的には、かなりいいものができあがった感がある。
ザクッと噛むと、早くもバゲットに染み込んだラルドの旨味脂がじゅわーっ。塩気はわりとあるけど、それ以上に旨味成分の多さがとんでもないレベル。これが熟成された旨味というやつか。
そこに蜂蜜の甘さとナッツの歯応えが混ざると、ヤバいとしか言いようがない。ラルドの溶けかけ部分のふにゃっとした感触と、さらに強い旨味もヤバくてヤバすぎる。
スパイス部分ではガーリックがやや強めなようで、いちいちパンチが加わるのもヤバい。
それでいて、変なくどさは全くなくて、後味がサラッと消えるのがなによりもヤバい。
もうひとつ、ラルドに関して「これは絶対にやるべきだろう」と思っていた食べ方がある。
「ラル丼」だ。
要するにラードごはんのラルド版、というやつ。
単なるラードを白飯に混ぜ込んで醤油をたらすだけでも壮絶に美味いのに、それを旨味の強いラルドでやったら、もうどうなっちゃうのかしら的な話である。
アツアツの炊きたてごはんにラルドをたっぷりのせてかき混ぜると、これまたあっという間に溶け出して、とろーっと脂が米粒に絡んでくる。
なるほど、これはダメです。茶碗いっぱいの白飯が瞬間で消える。
写真を撮ってくれた妻曰く「ウソだろ」「マジかよ」とかブツブツ言いながら食べてて怖かった、とのことだが、まぁそうも言いたくなるわコレ。美味すぎる。
もしかしたら普通のラードだと単調になるのかもしれないが、ラルドはスパイス+熟成の旨味が複雑なので、飽きる要素がない。溶けかけラルドはクニクニしたグミのような食感(ラルド味のグミ、売れるぞ)が楽しいし、脂まみれの米粒はスルスルとノドを通る。
つまり食べ止まるタイミングがないので、結果として茶碗が空になってから、ようやく「ハッ…食べ終わっちゃった」と気付く。完全に食いしん坊デブな感じだ。
果たしてラルドは自分で作れるのか(導入編)
買ってきたラルドが美味すぎて、あっという間に無くなりそうな勢いである。
無くなったら補充するべきなので、ここからは当初の考え通り、自作にかかろう。
いや、さすがにこのレベルが自作できるとは思えないけど、チャレンジだけはしとくべきかなと思って。大理石の熟成ケースとかないけど。
材料は、近所の肉屋さんで買ってきた豚の背脂。
「脂身だけ売ってください」とお願いしたら、最初は「タダでいいよ」と言われたんだけど、最終的には100g10円で売ってもらうことになった。目標の「ラルド・ディ・コロンナータ」と比べると、実質タダである。
実はここからが問題で。ラルドのちゃんとしたレシピが、分からないのだ。
もちろん、イタリア語で「lardo ricetta(ラルド レシピ)」と検索をかけるとあれこれ出てくるんだけど…なんかすっごい雑。
例えば「豚の皮付き背脂30×30、厚さ4cm」に対して、塩の量が「5mm厚に敷き詰めろ」とだけだったり。作る量は多いのに情報量が少ない!これがイタリアっぽさだろうか。
それにしても、まさかこんなところで冒頭の「適当に作ってる」という伏線が回収されるとは思わなかった。
生ハムやベーコンの漬け込みレシピは、肉の重量に対して塩が何%か、というものが基本。
だいたいは肉の10%重量ぐらいの塩を使って、最後に塩抜きをして塩分4〜5%ぐらいが完成の目安である。
ただ、今回は脂身のみなので、肉と違って塩抜きができない。さらに言えば塩がどれぐらい染み込むかも不明。
なので、ひとまずは完成時の塩分量である4%から、2%刻みでいくつか作ってみようと思う。この辺りは雑じゃないけど、失敗するのもイヤだし。
だいたいのレシピでも塩・胡椒・ニンニクは確定なんだけど、それ以外に使ってるスパイスはまちまち。
ほとんどはローズマリーが入っているっぽいので、そこは外さず、あとはベーコンでもよく使うジュニパーベリーやローリエを適当に入れてみた。まぁそこはなんとなくでも大丈夫じゃないかな。。
調味料を混ぜたらゴリゴリと脂身の表面にすり込んで、調理終了だ。
熟成に関しては、もちろん大理石抜きで考えねばならない。
肉と違って腐敗の心配は少ないんだけど、それよりも脂だから酸化を避けたいのだ。
なので、ポンプを使って真空パックができるジップ袋を使うことにした。これなら酸化はしづらくなるし、外から圧がかかる分だけ、表面の塩も染み込みやすい気がする。
あとは冷蔵庫の空きスペースに放り込んで、約半年ほど寝かせておけばよし。
結果はおそらく秋ぐらいには報告できる…んじゃないかなー、と。