いのちをだいじに
僕は千葉出身であるが、今回の台風15号の被害は心が痛んだ。そしてこの被害が自分に降りかかるかしれないことは、古めの賃貸アパートの中で肝を冷やした僕にもわかっている。
ドラゴンクエスト4戦闘時のさくせんには「いのちをだいじに」というのがあった。僕らも防災の力を活用させてもらい、いのちをだいじに守ろう。
平穏な街。実はよく見ると、いつ起こるかわからない災害への工夫が至る所に凝らされている。
台風15号の千葉での大被害しかり、僕らがふだんの生活でまさかの事態に遭遇したとき、命を守るのは身の回りにある防災施設だ。
幸いなことに僕らはそれをタダで使える。その存在を把握して、災害の国・ニッポンをしぶとく生き残ろう。
まずやってきたのが、東京を支える大動脈の首都高速道路である。
高速道路には道路上でトラブルが発生したとき、脱出するための階段などが備え付けられている。
その中でもひときわ大がかりな避難階段が、板橋市役所前駅の近くにあった。
2つの階段がらせん階段の塔に伸びている。こんなのはじめて見た。なお平常時の利用は禁止されており、イザとなったときにだけその真価が発揮される階段である。
ちなみに首都高速のような高架の上にある道路は震災時、震度や支柱の強度によっては倒壊の可能性があるので、大がかりに見えるこの避難階段はまさに命綱だ。
また多くのトンネルでは地上への脱出口があり、中には中央分離帯からにゅっと出てくるタイプもある。
さらにあちこちを見ると、実はいろいろな警告が為されていることに気がつく。たとえば東京の各地下鉄駅には、海抜が表示されている。
駅の浸水の危険を教えてくれるこの表示は同時に、土地の低さのバロメータになる。中でも東京の東側は海抜ゼロメートル地帯が広がっている。
特に綾瀬駅と清澄白河駅も属する、江戸川区・墨田区・江東区・足立区・葛飾区の5区は、想定最大規模の巨大台風が来た場合はほとんどが水没すると言われるほどで、江戸川区が「ここにいてはダメです」と宣言するほどの危険地域である。
ちなみにこちらは利根川をたたえる久喜市にある、カスリーン台風で冠水したことを伝える表示。街角で突然出くわして、背筋が伸びた。
ちなみにカスリーン台風では前述の江戸川区、葛飾区も冠水。死者は1100人、家屋の浸水は30万3160戸にのぼった。
また電車の中で何らかのトラブルに出くわしたときも、それに対する対策が進んでいる。
たとえばゆりかもめの場合は、電車を非常停止させるボタンが「列車の中」についている。
「呼び出しボタン」と「緊急呼び出しボタン」まであり、さらに「着信」のほか「話し中」のボタンまであって至れり尽くせりだ。
ちなみに東京メトロの銀座線と丸ノ内線では、停電しても駅間に停止した列車を駅まで運転できるように非常用バッテリーの配備を推進している。
続いてやってきたのは、東京臨海広域防災公園である。首都直下地震などの大規模な災害の際はここに災害現地対策本部などが置かれる。
来るやいなやおみやげを買ってしまう日本人ぶりを発揮してしまったが、この公園は注目すべきポイントがたくさんある。
一見ふつうの公園の設備だが、いざというときに身を守るアイテムたちに早変わりしてくれるのだ。
実はこういう設備を部分的に持っている公園はほかにもけっこうあり、それらは「防災公園」として指定されている。代々木公園や葛西臨海公園などの有名公園など多く点在しているので、災害が起きる前のいまチェックしよう。
続いては立川にやってきた。きゃりーぱみゅぱみゅゆかりの地としても知られる当地だが、もちろん今日来たのは彼女に会うためではない。
この街にはシンゴジラにも登場した「立川広域防災基地」がある。官邸・内閣府・防衛省が使用不能となった場合に国の緊急災害対策本部が置かれる日本最後の砦だ。
都心から離れ、地盤が比較的強いことからこの場が選ばれており、陸上自衛隊やエアハイパーレスキューなど緊急時に対応できる機関がそろっている。
さらに国立病院機構・災害医療センターではDMATと呼ばれる災害時派遣医療チームが24時間・365日、現場に出動できる体制でスタンバイしている。
ここには国営昭和記念公園もある。コスモス祭りなどのほのぼのイメージしかない場所だが、ここも災害時には一変する。
実は約15万リットルを確保する飲料用貯水槽や、防火植栽帯、災害時用便所や非常用発電機などを備えており、約12万人の避難者を受け入れられる、避難所として大きなポテンシャルを持っている地なのだ。
なお大規模災害時には海上保安庁の災害応急活動の拠点となる、海上保安試験研究センターもある。
さらに防災で欠かせないのが、食料や飲料などの備蓄だ。ここには東京都多摩広域防災倉庫なるものもある。
こういった備蓄倉庫は我々の身近にもあり、公園にあったり、地面の下にあったりする。これを読んでいるあなたもあたりを見渡してみると、そこが備蓄倉庫かもしれない。
都道319号、麻布十番駅付近、東京都備蓄倉庫のふた#manhotalk #マンホール pic.twitter.com/wuZpkCTvXU
— SAKI夢野(8/12西〝ち〟06b) (@SakiYumeno) April 16, 2016
このマンホールは麻布十番駅周辺を1時間ほど探した末に見つけられなかったが、池袋などでも目撃情報がある。
なお都営大江戸線は東京防災の中核を担うインフラと考えられており、麻布十番駅や清澄白河駅の備蓄倉庫から、鉄道網を使って運ぶ。
床面積はおよそ1760m2と広大で、毛布・カーペット等がされているそう。物資を置く棚には手前にハンドルが着いており、ハンドルを回せば誰でも棚を動かせるほか、緊急物資を地上に輸送するためのベルトコンベアが設けられているとか。
最後にやってきたのは、都営白鬚東アパートである。
高さ40mの団地を1.2kmにわたり防火壁の役割を果たすよう配置し、裏側にある隅田川と相成って炎からの安全地帯を作り出しているすごいところだ。
そしてこの裏手にあるのが、東京都立東白鬚公園である。
約9haの避難広場でもあり、災害時には約8万人を収容するため、約1週間の逗留に必要な飲料水・食料・医薬品等を備蓄している、きわめて壮大な公園だ。
樹木には火災で発生する火の粉や熱風から人を守る働きがあり、さらにこの公園では防火力の大きいシイノキ、シラカシなどを植えている。
ちなみに撮影時間の都合で夜になってしまったので、昼間の姿を見たい方は大山さんの記事を読んでほしい。
振り向くと、東京スカイツリーがきれい。
この公園で特筆すべきなのがこの池だ。
「この池は、大震火災時に避難されたかたがたの衣服、および荷物に着いた火を消すためのものです」とあり、カラダごと炎に包まれた人たちが、池に入って生き延びるために設けられた池である。
関東大震災での犠牲者約10万5000人のうち、9割が焼死だった。この墨田区では古い木造家屋も多く火災の危険性も高いとされるため、この存在が命を分けるのだ。
街がひそかに努力している防災対策は、到底書ききれないほどある。
それができた背景には、災害国ニッポンへ幾度となく起こった過去の悲劇が積み重なっている。それをムダにせず享受していこう。
僕は千葉出身であるが、今回の台風15号の被害は心が痛んだ。そしてこの被害が自分に降りかかるかしれないことは、古めの賃貸アパートの中で肝を冷やした僕にもわかっている。
ドラゴンクエスト4戦闘時のさくせんには「いのちをだいじに」というのがあった。僕らも防災の力を活用させてもらい、いのちをだいじに守ろう。
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