消えたあの商品が地方で残っている楽しさ
全国販売の夢破れた製品が、適材適所でローカル商品に収まり、愛され続ける。狭い国土の割に地域性が強い日本のおもしろさを象徴する存在だ。
今度はぜひ現地で食べたい。そんな気持ちを抱えながらも、筆者は預金口座を見て遠い目をする。
その地方でしか売っていないローカル商品。それらの中には、実はもともと全国販売されていたものがある。
秘密のケンミンSHOWでリサーチャーだった筆者としては、いつか目の前から消えた商品たちと再会する全国行脚をしたかった。
ただ資金面であきらめていたが、東京にはご当地のローカル商品を集めた「アンテナショップ」が集まっている。それらを周ることで、可能ではないだろうか。
いざ、あの日の思い出を取り戻す旅に出た。
まずは来たのは有楽町である。なんとなく「東京各地にありそう」なアンテナショップだが、実はこの街に多くが固まっている。
中でも、もっとも集まっているのが東京交通会館で、16ものアンテナショップや関連施設がある。
まず来たのは、大阪のアンテナショップ「大阪百貨店」。客がひっきりなしの人気だ。
ここでいきなりとんでもないモノを目の当たりにした。
あのカール(明治)だ! 人気で入荷次第に即完売となって販売されない日も多いそうで、今日は本当に運が良かった。
カールは販売数量の伸び悩みにより、2017年8月生産分を最後に全国販売を終了し、現在は西日本限定で販売している。
なぜ西日本限定なのかというと、子会社・四国明治の工場(愛媛・松山)のみで生産しながら、生産効率と生産拠点からの物流を総合的に考えた結果で、西日本のほうがよく売れていたわけではないそうだ。
ちなみに関東ではカールといえば黄緑色の袋でおなじみのチーズあじだが、関西ではうすあじが好まれていたそう。
以前はカレー味などもあったが、現在はチーズあじとうすあじのみで展開している。
カールを見つけたあまりのうれしさに、思わず2つ買ってしまった。
食べてみる……うまい! こんなにウマかったっけ? と思うほどよくできたお菓子だ。
かむたびにジュワッと、コーン菓子ならではの独特の香ばしさが口を包む。そういえば最近、コーン菓子って食べてなかったなぁ。
うすあじも、薄い味の中でしっかりダシの効いた、手放せなくなる味。僕らが失ったカールはおいしかった。
続いては北海道どさんこプラザへ。この旅で一番人気だったアンテナショップだ、さすが北海道。
ここで再会したのが、サイコロキャラメルである。
もともとは「明治サイコロキャラメル(明治)」として販売されていたものの、より強いカテゴリーの商品に注力する目的から2016年5月に全国販売終了となった。
しかし6月からはこれまで製造していた工場から、グループ会社によって北海道サイコロキャラメル(道南食品)として販売が再開された。
食べてみると、キャラメルならではの豊潤な甘さとコクが口いっぱいに広がるおいしさ。
しかし、その粘りで歯の詰め物が取れそうな危機感があったので、一粒でやめた。
ただ現在のバージョンは今までよりは歯にくっつきにくくなっているそうで、味も微妙に変えてミルク感を強めているそうだ。
さらに飲み物コーナーにあったのは、キリンガラナである。もともとはキリンメッツガラナという名前で全国展開していたが、1997年に一度販売を終了。
しかしガラナ愛の強い北海道限定で「キリンガラナ」として2003年に復活し、今にいたるそうだ。
甘い。甘いけど、ゴクンと飲むとその甘さが瞬間的に消えて無くなる不思議な感じ。
コーヒーの3倍と言われるカフェインの力はすごく、深夜3時半までの仕事も眠くなること無く乗り切れた。
今はやりのエナジードリンクよりも遙か上のカフェイン量なのだから、また全国販売したら徹夜を乗り越えたいブラック企業社員らに売れそうだ。
もう一つ人気なのが沖縄のアンテナショップ「銀座わしたショップ本店」だ。
ここで見つけたのが、もう有名かもしれないアレである。
そう、初代ボンカレーだ。
世界初の市販用レトルトカレー「ボンカレー」は1968年2月の発売当時は阪神地区限定の商品で、1969年5月から全国発売された。
なお初代ボンカレーは全国販売を経たのちに、2003年までは西日本で販売され、2003年以降は特に愛されていた沖縄での限定商品になったそう。
その初代ボンカレーの愛され度たるや、ボンカレーゴールドの約17倍売れるほどだった。
実はパッケージが違うだけでなく、初代ボンカレーは本土にあるボンカレーゴールドらと成分が違い、沖縄伝統の「黄色いカレー」にも似た風味があるそうだ。
レシピや製法が違うため、ひと月に1日だけ製造ラインを独占して作られている。なおDEEokinawaさんがここをくわしく検証しているので、読んでほしい。
続いては日本橋である。ここもアンテナショップの多い地域のひとつだ。
その並びにあるBRIDGE NIIGATAは、いろんな業者が期間ごとに入れ替わりで開いている珍しいアンテナショップ。
ここにあったのがサラダホープ (亀田製菓)だ。
1961年発売で、当初は全国展開されていたものの、予想を上回る売れ行きで製造が追いつかず、県外出荷を停止に。
生産ラインを整えて、翌年に全国販売を再開したが、すでに類似商品が出回り、逆にサラダホープの方が類似品とみなされ、扱ってもらえない悲しい事態になってしまった。
和製クッキーともいうべき、カラッとした面白い食感。塩気は少なめでアッサリしていて、あの日の涙の味はしなかった。
浅草へ。ここにはもう一つの北海道アンテナショップがある。
有楽町より穴場のこのお店は、ラーメンのラインナップが豊富だ。
北海道は特にご当地即席ラーメンが愛される地域である。まず目に付いたのが、1964年に誕生したホンコンやきそば(エスビー食品)。
かつて全国販売されたものの、いまは宮城県、大分県の一部、および北海道に残っており、特に北海道では熱愛商品のひとつだ。
外から麺が見える、スケルトンパッケージが往年のノリを感じさせる。
丸みのあるほのかなソース味で、付属のふりかけと相成って香ばしい。カップ焼きそばにはない、袋やきそばならではの麺の妙味が味わえる。
ちなみに1964年9月に発売されたダブルラーメンは、1つの袋に2つのラーメンが入っている、単身世帯が激増する日本に全力で刃向かうような一品だ。
はっきりしたソースはないが、1970年代には首都圏でも販売され、後楽園球場にも広告があったそうで、いまは北海道民が愛する局地的商品となっているそうだ。
そしてここでもう一つ外せないのが、ソフトカツゲン(雪印メグミルク)である。
歴史は古く、1938年(昭和13)年に乳酸飲料『活素(カツモト)』を上海で供給したのが始まり。
戦後、『カツゲン(活源)』 という商品名で新たに開発・発売された。「活力の給源」という言葉から「活源」だ。
全国展開をめざしてまずは関西に進出するも、カツゲンの味の濃さが関西の薄味文化に合わなかったそうで撤退し、北海道限定商品として今に至る。
うわさ通り濃く、そして甘い。でも許容できる範囲内だ。確かにグリコーゲンがバッチリ補給できそうな元気になれる甘さだ。
続いては秋葉原にやってきた。ここにも大きめのアンテナショップがある。
CHABARA内にある日本百貨店は全国の食が集まる。ここさえ行けば、「日本一周してきました」と偽装してもバレないほどの品揃えだ。
ここで見つけたのはミレービスケット(野村煎豆加工店)である。
もともとは全国各地のさまざまな会社が作ったミレービスケット を明治製菓が販売して全国展開したが、販売不振で名古屋の三ツ矢製菓が生地生産を引き継いだ。
その生地がミレー製造会社に届けられ、ミレービスケットに加工されており、中でも高知の野村煎豆加工店はミレーの代名詞的なメーカーだ。
固く、歯ごたえのある昔ながらのビスケット。ちょっと塩気があって香ばしい、古きよきオールドファッション。
これは「まじめなおかし」というコピーがぴったりくるお菓子だ。まじめすぎて安心できる。
千葉の松戸市出身の筆者にとって、地元の熱愛ローカルフードは極めて少ない。貴重な存在が、マックスコーヒー(コカ・コーラ)である。
中学時代、塾の帰りに飲むのを生きがいにしていた。
しかし未確認情報によれば「全国の取り扱いボトラーが減っている」といい、実際に「関西では見かけなくなった」などとの話もある(ソースが弱いが、千葉出身の筆者がどうしても載せたくて強引に入れた)。
久々に飲むと、「こんな甘いコーヒーがあるんでしょうか?」とばかりに甘い。でもこれが最高なんだ。
以上、時間の許す範囲でアンテナショップを周って見つけられた「全国販売→地域限定」の商品たちだ。
30店ほど行って想像以上に発見することができたが、それでも見つからなかったものがある。
まず、全国販売を経て現在は東北および信越地域で愛される焼そばバゴォーン(東洋水産)である。1979年に発売され、捨てるお湯でわかめスープも作れるスグレモノだ。
ちなみに「バゴォーン」なるすさまじい名前の由来は、アメリカンコミックなどの中でピストルの発射音として使われていた擬音で、メインターゲットである若年層に、「自分の夢や将来の目標に正確に照準をあわせ頑張って欲しい」との思いを込め名前をつけたそうだ。ホントかよ。
今回は「バゴォーンを買えた」との情報があった飯田橋のあおもり北彩館に足を運んだが、もう売らなくなって久しいとのこと。食べたかった。
さらに六甲のおいしい水(現アサヒ おいしい水 六甲)も見つからなかった。
実はミネラルウォーターのさきがけとなった「六甲~」はもう東日本では売っておらず、代わりに「アサヒ おいしい水 富士山」が販売されている。
さらにジョージア“テイスティ”(コカ・コーラ)である。昔は全国販売されていたが、現在は東北、北陸、中国、四国、九州限定の商品だ。
全国販売時代はメジャーな商品だったようで、当時の思い出を語る人もいる。確かにどこかで見たような。
全国販売から地域限定になったこれらの商品。どこか郷愁を感じさせるパッケージで、最近の商品からは失われた味の商品が多かった。
なつかしい味、おもしろい味。彼らがどっこいローカル商品として残っている、日本の地域性の懐の深さを感じた。
ちなみに「全国販売→地域限定→全国販売」となったものもある。その代表格が、2018年再び全国販売となった激めん(東洋水産)だ。
ちなみに「激めん」は全国販売で登場したものの、長らく静岡以東までの販売にとどまり、主に北海道を中心に発売されていた一品。
大ぶりのメンマに、存在感のあるメンマ、さらに申し訳ばかりの具材の入ったワンタン。カップめんとしての完成度が高い一品だ。
即席麺の王様といえばチキンラーメンだが、全国販売されたのち、東日本ではあまり売れないために取扱店が減り、1980年前後あたりには半ば西日本限定品のようになっていたという。
そんなチキンラーメンは関西企業の東京進出により「東京でも食べたい」とのリクエストが増えたことから、再び東日本でもよく出回るようになったそうだ(大山即席斎氏談)。
「全国販売→地域限定」となって、再び全国の舞台に舞い戻ってきたそんな例もある。これらの商品も、再び全国で見られる日が来るかも知れない。
全国販売の夢破れた製品が、適材適所でローカル商品に収まり、愛され続ける。狭い国土の割に地域性が強い日本のおもしろさを象徴する存在だ。
今度はぜひ現地で食べたい。そんな気持ちを抱えながらも、筆者は預金口座を見て遠い目をする。
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