また捨てられないゴミがふえた
家族総出で作った交通標識の模写。この秋いちばんの思い出になった。
こうやって、捨てられないゴミが家の中に増えていくのだ。おそろしいことである。
東京都と埼玉県の県境に、異常なほどでかいカントリーサインがあるので見に行った。
県境を越えたところにある、そこの県名と自治体名を記した標識のことを、カントリーサインと呼ぶ。
たとえば、こういうやつ。
これは、千葉県と茨城県の県境にあるカントリーサインだが、一般的にこれぐらいの大きさのものが多いような気がする。
ところが、東京都と埼玉県の県境、瑞穂町に、めちゃくちゃでかいカントリーサインがあるのを、SNSで知った。このカントリーサイン、ストリートビューでみることができるのだが、マジででかい。もしかしたら、日本一でかいのでは? とさえおもっている。
まずは、件のストリートビューをみてほしい。
でかい……ですよね。うん、たしかにでかい。
しかし、こんなものは写真だし、なんらかの加減や具合でたまたま大きくみえるだけの目の錯覚かもしれない。そもそも日本全国無数にあるカントリーサイン。その全てをみたわけじゃないのに、これが日本一でかいとは言い切れないんじゃないのか。
邪念だ邪念。でかいカントリーサインなんかあるわけないだろ。でかいカントリーサインのことなんか忘れろ、と、心に言い聞かせてきた。
ところが、ゆるくしめた蛇口からこぼれおちる水が一滴ずつコップにたまるように、でかいカントリーサインへのおもいは募り、ついにあふれだしてしまった。
見に行くしかない。
東京駅から中央線で拝島まで行き、そこから八高線にのりかえて米軍基地と横に見ながら二駅。箱根ヶ崎にやってきた。
ぼくが勝手に日本一でかいといっているカントリーサインは、駅から2.7キロほど離れた国道16号線・二本木交差点にある。駅前の駐輪場で電動自転車を借りて、20分ほどかけていく。
現地でみると、やはり、でかい。
撮影係として同行してくれた妻が「あはは、でかいなこれ」と笑うほど、でかい。
でしょう? でかいでしょうこれ。わざわざ見に来たかいあったでしょこれ。
さらに近づいて見上げる。もちろん、でかい。
向かいに、一般的な大きさの埼玉県のカントリーサインがある。それと見比べてほしい。
ぼくの大きさに合わせて、ひとつの画像に合体させたものはこちら。
周りの景色に比べ、東京都、瑞穂町の文字だけが、時空が歪んだようにでかくなっている。
もう、日本一でよくないですか? これ。このカントリーサインは、暫定で日本一でかいカントリーサインということで。
もし、日本全国にあるカントリーサインで、ここよりでかいものがあるぞという情報をお持ちの方は、ぜひお知らせください。確認しにいきますので。
ちなみに、このでかいカントリーサインの裏側は、案内標識となっている。
国道などに設置される、この青地に白文字の案内標識には、105系、106系、108系と3種類あるが、これは108系標識とよばれるタイプのものだ。
おそらく、でかいカントリーサインは、この案内標識の大きさにあわせてあるのだろう。
案内標識であれば、よくあるサイズではあるのに、それがカントリーサインともなると、突然違和感がおしよせてくる。
で、あらためて表のカントリーサインを眺めてみる。うん、たしかにでかい。そこはもう、議論の余地はない。
しかし、なんというか、この「でかー」という感情の落とし所がいまひとつストンとしない。なぜだ。
現地に見に行って、たしかにでかいことは確認できた。しかし、この「カントリーサインがでかい」ということを、もっと身を持って体感したい。
頭上にあるカントリーサインを見上げて「でかい」とおもうだけではなにか物足りない。
作るか。実物大。
というわけで、日本一でかいカントリーサインの実物大の模写を作ってみた。
家の中でひろげてみたが、やはり無理があり、こんなにクシャクシャになってしまった。狭い家の中では広げる場所がないので、広げられるところに持っていって展開してみた。
引きの絵だと逆に大きさがわかりづらいかもしれない。
こうやってながめてみると、意外とよくできてるなという気持ちになる。自分で作ったものは、なぜかいつまでもながめていたくなる。
このでかいカントリーサインの模写。屋外のいろんなところに持っていって広げて写真を撮りたかったのだが、雨がふりだしてきたので、あわてて家に持ってかえった。貼り合わせた模造紙に2日かけて、ポスカでシコシコ描いたものなので、濡れてぐちゃぐちゃになってしまうのは避けたい。
仕方がないので、うちの団地のエントランスに広げて写真だけ撮った。
縦2.9メートル、横3.7メートル。といってもピンとこないかもしれないが、子供部屋ぐらいの広さは確実にある。
この大きさを踏まえた上で、ぼく(身長179センチ)を最初の写真に合成してみるとこんな感じになる。
この実物大模写を作るにあたり、あのでかいカントリーサインの正確な大きさが知りたい。
おそらく、背面の案内標識と同じ大きさだと踏んで、インターネットを色々調べたところ、案内標識の大きさの規格は何種類かあるというのがわかったが、確定的な情報がない。
グーグルストリートビューの写真から、大きさを割り出せないだろうか。
町のなかにあるものの大きさに詳しいライターの三土さんに聞いたところ、信号機の大きさは直径がだいたい30センチだと教えてもらった。(25センチのものもあるそうです)
写真の信号機からとった丸を、でかいカントリーサインと比べてみたところ、約横12.5個、縦10個ということがわかった。
ということは、縦が300センチメートル、横が375センチメートルということになる。さらに調べると、北海道開発局の「標識工」という、標識のサイズを記した資料が見つかった。それによると、案内標識108系に、2900*3700というサイズのものがあることがわかった。
写真の誤差などを差し引きすれば、おそらくこれではないだろうか。
交通標識についてのウェブサイト「道路標識調査ノート」を運営されている、滝原さんに問い合わせてみたところ、交通標識は地方や設置者によって、大きさが違うことがあるらしいので、確実とは言えないらしい。
二本木交差点の交通標識については、関東地方整備局の標準図集を調べればよく、管理している事務所に行けば標識台帳があるので、大きさなどはすべてわかるという。
ただ、残念ながら今回のこの記事のタイミングではスケジュールが間に合わないので、管理事務所で標準図集を見せてもらい、答え合わせをするのは別の機会にすることとし、信号機の直径から割り出した2900*3700の大きさを信じて、この大きさでつくることにした。
当初、ダンボールをつなぎあわせて作ろうかなんてのんきなことを考えていたが、計算すると10平方メートルにもなるダンボールは、かなりの重さとでかさになることが判明。家の中で作るのは難しい上に、保存も運搬も現実的にちょっと無理であることがわかったので、そうそうにあきらめた。
そこで、折ればたためる模造紙に、青いポスカで描けばいいじゃないか、と方針を改めると、背中にのしかかっていた重たい雲が急に晴れたような気がし、軽やかな足取りでビバホームへ向かった。
まずは、10メートルの模造紙を横3.7メートル、縦2.9メートルになるようにテープでつなぎ合わせ、周囲をガムテープで補強する。
続いて、パソコンで本物に似せた下書き用の画像を作成。
「東京都」「瑞穂町」の書体はナールらしいが、ちょっとパソコンで使うのは難しいものなので、似た丸ゴシックで代用。逆に、アルファベットはヘルベチカということなので、これはそのままヘルベチカを使う。
デザインの心得がある妻が下書きを手伝ってくれたので、だいぶんはやく仕事がすすんだ。
ただただひたすら下書きに色を塗っていく。ポスカは、少しずつ押して、たっぷりインクをだしてからかるくツーっと線をひくときれいに色が塗れる……といった、コツもつかむことができた。
このコツは今後役に立つことはあるのだろうか。
自分で作っといて何だが、フォントやカッティングシートといった、ほんらい機械が行うべき仕事を人間が無理やり奪うと出てくる、妙な味わいが出ていてたまらない。
作業場所として借りた無人のエレベーターホールに一人たたずみ、しゃがむ姿勢で色を塗り続けたために、痛くなった腰をさすりながらしばらく完成物をながめていた。
家族総出で作った交通標識の模写。この秋いちばんの思い出になった。
こうやって、捨てられないゴミが家の中に増えていくのだ。おそろしいことである。
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