味は組み合わせで評価するべし
このあと、そこそこ評価の高かったヨモギ、ローズマリー、コノメのジェノベーゼを肉にかけて試食してみたところ、驚くことに
ローズマリー > ヨモギ > コノメ
という味の結果が出た。
ある職場でちっともうだつの上がらなかった人が、転職した途端に水を得た魚のように活躍し始めたという話はままあるものだ。相方次第でいくらでも評価が変わるのが面白いところなのだな。


ジェノベーゼはバジルの葉をニンニクやナッツ、オリーブオイルとともにすり潰して作るイタリア料理だ。最近では、バジルの代わりに大葉を使ったシソベーゼなるものも日本生まれのイタリア料理として広まりつつある。
つまり、香りの強い草であればなんでもジェノベーゼになる素質があるんではないだろうか?
香りに個性のある野草を集めて第二、第三のシソベーゼのポジションを探ってみた。
バジル以外の植物を使ってジェノベーゼを作るという趣旨の記事には前例がある。ライターの月餅さんが書いたこれがそうだ。
記事の最終的な結論が「野菜ってすごい」だったことからもわかる通り、雑草代表として登場したヨモギとオオバコはどちらもわざわざ食べたいと感じるほどのものではなかったようだ。
記事は面白かったけれど、いち野草好きとしては少し物申したくなった。ヨモギとオオバコだけで野草が野菜に負けたとみなされてしまってはなんだか悔しいではないか。野草の中にも本家をしのぐくらい、とまでは言わないにしても、そこそこ美味しいジェノベーゼになれる逸材がきっといるはずだ。
というわけで、名誉挽回をかけて「これぞ!」という香りの強そうな野草を集めてみた。メンツを紹介しよう。
これらに加えて、自宅近くの歩道の植え込みにローズマリーがあったので使ってみることにした。
基本のペスト・ジェノベーゼの作り方はいたってシンプルだ。
バジル、ニンニク、松の実、オリーブオイル、塩胡椒(レシピによっては粉チーズをプラスする)をミキサーに入れてすり潰す。以上!
香りを最大限に引き出すために、材料のバジルは加熱はおろか、できれば水洗いすらしない方がいいらしい。「ひょえー」と思うが、きっと美味しいものを作るためには「ひょえー」と思う工程が必要なこともあるんである。
今回は使うのがそのへんに生えていた野草なので徹底的に洗ったことは前述したとおりだ。
松の実はクルミに置き換えてもよいとのことだったので、何となくその方がおいしくなりそうという理由で松の実とクルミを半分ずつ使ってみた。
みんなが知っているあたりまえのことを今さら書いても仕方がないけれど、とても美味しい。
「イタリア人は食に保守的すぎる」なんて話を聞くことがあるけど、こんなに美味しくて完成度の高いものがあったら「これだけあればいいじゃなーい♪」となってしまうのも当然だ。
それくらいバジルとその他の材料の相性には隙がない。ここからバジルをはじき出して新しい仲間を加えるなど、ドラえもんのレギュラーメンバーを大人の事情で交代させろというに等しい暴挙だ。SNSで大炎上すること間違いなしだ。
そこへいくととシソベーゼはあっぱれだ。全体のバランスを維持しつつ、ジェノベーゼとは違った和のおもむきのある味を実現している。
バジルと大葉の鉄壁の味に打ちのめされてしまったが、なにごともやってみなければ新しい地平は開けないのだ。
いろいろな野草ベーゼたちを試していこう。
まずはセリ。食べたことのない人は、同じセリ科の野菜であるニンジンの味とにおいを濃縮したものを想像していただきたい。上の写真では葉と茎しか写っていないけれど、根の部分の香りが一番強いように思う。なので今回は丸ごと1本をすり潰してソースにした。
美味しい......ニンニクの味が。
単体で食べるとあれだけ強烈だったセリの香りが完全に殺されてしまっている。色はしっかりと緑色なのに、肝心のセリの香りときたら鼻で深呼吸をするとかすかに感じるかな?というくらいに弱々しい。
ニンニクとオリーブオイルという黄金ペアが前面に出ているから十分美味しいけれど、これではセリを入れる意味がないだろう。
月餅さんの記事では「土手を感じる味」と酷評だったヨモギベーゼ。今回試した5種類の野草の中では一番緑色が濃く、ドロッとしたソースに仕上がった。
なんといっても、私はいま土手を食べようとしているのだ。口に運ぶ時こそおっかなびっくりだったけれど、味わってみると思ったほど酷くはないのでは?と思った。
もちろん特別においしいとは思わないけれど、少なくともちゃんとヨモギの味がするだけ、わざわざ練り込んだ甲斐があったというものだ。
サラダにするとピリリと刺激のある味がたいへん癖になるクレソン。そこらじゅうの川や池にあたりまえのように生えているが、明治時代に食用に持ち込まれたものが逃げ出した外来種だ。生態系のことを考えれば即刻いなくなっていただきたい植物だが、今は洋食用に持ち込まれたポテンシャルを発揮してくれそうで期待。
クレソン独特の香りと、わずかではあるけれど辛みが感じられて悪くはないのだが、なんだか水っぽい気がする。クレソンは成長するのが早いだけあって水分が多いのだろうか?これならパスタの付け合わせとしてクレソンのサラダを食べた方がよさそうだなあ。
野草、と言ってしまっていいのか不明だが、肉料理などに最高なローズマリー。香りづけに使った後はたいてい食べずに皿の端によけてしまうので、すり潰して摂取するとなると少し緊張する。
口に入れた後の爽やかな香りがとても心地よい。が、そのあとに襲ってくる若干の苦味が玉にキズだ。これさえなければ香りのよさで満点をあげられるのに......と残念な気持ちになった。
たぶん、ローズマリーはイタリアにもあったと思うのだが、ペスト・ジェノベーゼの考案者もローズマリーベーゼを試しただろうか?仮にその人がここで妥協していれば、「ジェノベーゼって美味しいけど、ちょっと苦いのがねえ......」と今日の我々はむなしい愚痴をこぼしながらパスタをすすっていたかもしれないのだ。感謝せねばなるまい。
そもそもこの企画は、「山椒ってジェノベーゼにしたら美味しそうじゃない?」という思いつきからはじめっている。それだけに否応なく期待が高まるというものだ。その証拠に、試食も一番最後まで取っておいた。頼むぞ。
山椒の爽やかな香りがニンニクやオリーブオイルと互角に張り合っていてかなり美味しい!
あのスースーする感じもきちんと健在だ。山椒が嫌いな人でなければ、普通に楽しめるはずだ。
あえて欠点を指摘するとすれば、後味に若干のえぐみというか、青臭さが残ろところだろうか。これは、粉チーズなんかをかけたらごまかせるかもしれない。
せっかくなのでパスタにかけるだけではもったいないと思い、今(5月)が旬の淡竹という種類のタケノコを茹でたものにコノメベーゼをかけてみたところ、一大シナジーが巻き起こった。
パスタと一緒だった時に感じたえぐみはどこかに消え失せ、かわりにタケノコとコノメベーゼがお互いの風味を引き立て合っているのだ。
タケノコと木の芽といえば和食の世界では鉄板の組み合わせ。姿が変わっても相性は変わらなかったのだな。
ジェノベーゼにして一番おいしい野草の暫定一位は山椒(木の芽)で決まった。
そして、コノメベーゼはパスタよりもタケノコと合わせて食べた時にその真価を発揮することまでわかったのだ。とても美味しいので、旬の今ぜひ試してみてほしい。オリーブオイルの油分が足される分、ただ刻んだ木の芽よりも茹でタケノコとの相性は良いのではと思うくらい、本当によく合うのだ。
新しいものを生み出したようでいて、大昔からある組み合わせに回帰したような気もするが、これはこれで良いのである。
このあと、そこそこ評価の高かったヨモギ、ローズマリー、コノメのジェノベーゼを肉にかけて試食してみたところ、驚くことに
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