LINEスタンプもうなぎ
天保養魚場の山下さんとLINEでメッセージのやりとりをすると、時々おいしそうなスタンプが送られてくる。
まさにうなぎ屋やうなぎ好きのためのスタンプだ。
【取材協力】
飲食店で働くメリットのひとつに“まかない付き”がある。
わたしもレストランや宿泊施設で働いていたことがあり、その時は毎日おいしいまかないをありがたく頂戴していた。
これが高級食材を扱う飲食店だったら、どんなまかないが出るのだろう。
気になる飲食店の中から、今回はうなぎ屋のまかないを食べ歩き、ぜいたくな気分に浸ってきた。
そもそもうなぎのような高級食材を、うなぎ屋は自分たちのまかないとして食べるのだろうか。
店で買うと1尾2,000~3,000円はするし、食べたいと思って気軽に食べられるものでもない。もしかして、「うなぎは売り物。まかないとして食べるなんてとんでもない」なんて世界では…
本当にそうだったら、うなぎ屋に就職すればうなぎが毎日食べられると思っていた自分が恥ずかしい。
うなぎ屋はまかないでうなぎを食べるのか?
以前パンダみたいなうなぎ・パンダうなぎを見せてくれた天保養魚場のご主人に聞いてみた。
鈴木
「しょっぱなからなんですが、うなぎ屋さんはまかないでうなぎを食べるんですか?」
山下さん
「はい、食べます」
鈴木
「食べるんですか!!!(よかった~~~!!!)どんな風に食べるんですか?」
山下さん
「普通に蒲焼にして食べます。でも、自分たちで食べるのはお客さまには出せない弱っているうなぎとか、大きくなり過ぎたうなぎなので、お店で食べるものとはちょっと違うと思います」
鈴木
「どう違うんですか?味が変わるんですか?」
山下さん
「うなぎはやはり鮮度が大事で、弱っているうなぎだと開いて焼いても縮まらないんです。いいうなぎだとキューッと縮んで肉厚になっておいしいんですが、弱っているうなぎは縮まらず薄肉のまま。スーパーでいいうなぎを買いたいなら、肉の厚さを見てください。新鮮なうなぎは、肉厚です」
鈴木
「ひぇ~初めて知った!!勉強になります!!大きくなり過ぎたうなぎも、味が劣るんですか?」
山下さん
「大きくなり過ぎたうなぎは味が劣るというより、小骨がきつくなったり、皮が厚すぎたりして、商品価値が下がります。自分たちで食べるのはそんなうなぎなので、子どもの頃は家でも出たんですが(山下さんは2代目)うなぎは嫌いでしたね。」
鈴木
「ということは、山下さんのお子さんたちも…?」
山下さん
「はい、3人いますが、3人ともうなぎ嫌いでした」
鈴木
「嫌いなものがぜいたく!!!」
山下さん
「ちなみにわたしが子どもの頃は母が弁当にうなぎを入れてくれて、それは好きでした。学校へ持って行くと、周りの友だちが羨ましがってから揚げや玉子焼きと交換してくれるから」
まかないを食べたいなら「ボクめし」がおすすめ
山下さん
「弱っているうなぎや大きくなり過ぎたうなぎをお客さまに出すことはできませんが、『ボクめし』というまかないがルーツのメニューがあります。
ボクめしは、昔養鰻場で働く池番※のまかないとしてできたもので、ぶつ切りにしたうなぎと薄く切ったごぼうを甘辛く煮てごはんと混ぜて食べます」
※池番…養鰻池を管理する人
鈴木
「僕、飯…?」
山下さん
「ボクめしの『ボク』というのは、大きくなり過ぎたうなぎ『ボクうなぎ』の『ボク』です。うなぎは、シロコ→クロコ→ヨウチュウ→ヨウダイ→チュウボク→オオボクと大きくなっていくんですが、このチュウボク・オオボクのことを『ボクうなぎ』といいます。
ボクうなぎは人の腕くらい太くなってしまったうなぎで、先ほどもお伝えしたように小骨や皮がきつく商品価値が低いため、まかないの材料になりました」
山下さん
「お店で出しているボクめしは白焼きにしたうなぎをごぼうと一緒に煮てるんですが、本来はぬめりをよく取って、生のままぶつ切りにしてごぼうと煮込むんだそうです。そうすると身がほっこり煮あがって、ほろほろした食感が楽しめます」
鈴木
「白焼きは焼いてあるので、それはそれで香ばしさも残っておいしそうですね。ルーツがわかったので、あとは食べて確かめるほかありません。ボクめしを1つお願いします!!」
まかないとして昔から受け継がれてきたぼくめしを、早速いただくことにした。
みりんと錦糸卵のおかげか、ほんのり甘く優しい味だった。
ごぼうは元々うなぎの臭み消しのために入れられていたそうだが、このシャキシャキ感もいいアクセントになっている。
うなぎも予想以上に入っていて、食べ応えも満点!!
「うなぎが食べたいけど3,000円超えは厳しいな…」というお財布事情の時にはピッタリだ。
山下さんいわく、ボクめしは養鰻場のお母さんたちがそれぞれの味で作っていたものなので、場所によって味も変わるのだそう。
せっかくなので、ほかのうなぎ屋のボクめしも食べ歩くことにした。
静岡県浜松市には多くのうなぎ屋があるが、探してみるとボクめしをメニューとして置いているところはかなり少なかった。
天保養魚場の次は、リーズナブルな価格でうなぎを楽しめると評判を聞いた、湖西市新居町にある舟宿といううなぎ屋へ向かった。
ボクめしはこの新居町で生まれたものだそうだ。発祥の地ならではシンプルなボクめしが味わえるのではないか。
期待に胸を膨らませて向かったところ…
ナビに従い目的地周辺をグルグルしても一向に舟宿らしき店は見つからず、近所の方に聞いたところ「舟宿さんはねぇ~辞めちゃっただよ!」とのこと。う~ん、残念!!
せっかく新居町まで来たので、近くにあった国指定特別史跡・新居関所で写真を撮ってその場を去った。
出張や移動で浜松駅に立ち寄るついでにサクッとボクめしを楽しみたい!という方は、駅近の中ノ庄がいい(なんならわたしも出張へ行く前ここで腹ごしらえしていきたい)
うなぎ骨せんべいのうまさに震えていると、ほどなくボクめしのセットが運ばれてきた。
こちらが中ノ庄のボクめし。
中ノ庄のボクめしは甘みが少なく、蒲焼のたれがごはんにしっかり浸透したうなぎ重を食べているようだった。うなぎ重のように白飯ではないので、どこから食べても蒲焼のたれの味がして、蒲焼のたれファンにはたまらない逸品だ。
天保養魚場の後そのまま渡り歩いたのでぶっちゃけこの日二度目のボクめしだったが、ペロッとたいらげてしまった(引かないで)
ボクめしは元々、池番が短時間でササッと食事を済ませられるようあみ出されたまかないだ。
そのルーツに近い弁当というかたちでボクめしを提供しているうなぎ屋が1件あった。
待ちに待ったボクめし弁当受け取り日が来た。2食続けてボクめしを食べた日から2日しか経ってないが、それでも心待ちにしていた。
ボクめし弁当は今回食べたボクめしの中で一番素朴な味だった。
うなぎはほろほろ、ごぼうもクタクタになるまで煮詰めてあって、これが昔池番が食べていたボクめしに限りなく近いボクめしではないかと思った。
そして冷めていてもうまい!!
これなら10個食べられる。
合計3つのボクめしを食べたが、それぞれ味やトッピングも違い、それぞれ楽しめて大満足だった。
うちの会社もまかないでボクめし、出ないかな~。
天保養魚場の山下さんとLINEでメッセージのやりとりをすると、時々おいしそうなスタンプが送られてくる。
まさにうなぎ屋やうなぎ好きのためのスタンプだ。
【取材協力】
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