登場するのはこの4人。
角田千枝先生 相模女子大学学芸学部生活デザイン学科教授。パタンナーとして、大手アパレルブランド勤務のあとフリーランスとしても活動。また、交通安全未来創造ラボ(日産自動車)の特別研究員として交通事故防止を目的とした衣服提案や啓蒙活動などを実施中。ファッションについてわからないことがあるたびに助けてくれる。
まいしろ エンタメライター。冬のトップスは3枚しかないし、冬のアウターは1枚しかない。
古賀さん デイリーポータルZ編集部。どう気を付けても呪われたように似た色やデザインの服ばかり買ってしまう。
安藤さん デイリーポータルZ編集部。ダウンパンツをどうしてもおしゃれに履きこなせないが、温かいので手放せず困っている。
自分が毎日どんな服を着ているかは意外と知らない
まい:
最初は私の質問です。
私は冬のアウターを1枚しか持っておらず、少ない気がしています。何枚あるのがおすすめですか?
古賀:
この質問、事前に聞いたときはけっこう衝撃的でしたね
角田:
私、事前に答えるためのスライドを作ってきたんですよ!
まい:
すごい!
角田:
まず、洋服を「快適だな」と思う条件があるんですよ。それが「衣服内気候」。
一同:
いふくないきこう。
角田:
簡単に言えば、服と体の間が32度±1度だと人は快適だと感じるんです
安藤:
快適な気温の幅、けっこうせまくないですか?
古賀:
体温よりちょっと低いぐらいってことですね
角田:
逆にいえば、ここが32度にできるなら服の枚数は関係ないんですよ。
「もこもこのインナーがあるからアウターは薄いもの1枚だけ」とか、「インナーは1枚でアウターの種類をたくさん」とか。人によって枚数や方法は違っていいんです。
まい:
なんか元気でてきました!
角田:
あとはテイストの問題。ここにいる皆さんは、オンのときもオフのときも同じ格好をしていませんか?
まい:
してます!
古賀:
もちろん!
まい:
なんでわかったんですか?
角田:
オンオフをわけない人は、アウターが少なくても大丈夫だったりするんです。でも、オンオフで服を変える必要のある人は、アウターが多くならざるを得ないですよね。
古賀:
確かに、スーツを着る必要がある仕事の人たちはそれに合わせたアウターが要るんだ。そうだ、演奏家の友人がドレスをすごく持ってるって言ってました。
角田:
そうそう。職業も影響してくるし、そもそも実は、自分の服へのこだわりって自分ではあまり気づかないんですよ。
学生に7日間、自分が着ている服を写真に撮らせたことがあるんです。7日後にまとめて見返すと「自分はこんな服が好きだったんだ」って気づくんです
安藤:
それ、足らない服とかもわかりそうですね
まい:
ちょっとやりたくなってきた
古賀:
すごい……先生の答えがすごすぎて汗が出てきました
無印良品にたとえると、ハイブランドが急に雀牌やブーメランを売る理由がわかる
まい:
では次の質問です。
安藤:
ティファニーはゼムクリップも売ってましたよね
古賀:
ブーメランはシャネルが出してましたよね。本当になんなんだろう。冗談なのかな?
角田:
そう思いますよね。じゃあ皆さんいいですか?
角田:
あなたたちは、自分用のグラスを買いたいと思っています。では、どんなグラスを買いますか?
古賀:
無印良品で500円ぐらいのを買いますね
安藤:
僕も無印良品のを買うかな
角田:
じゃあスライドを見てください。グラスは、100均にも売っているけど……
角田:
皆さんが選んだのは…
角田:
この無印良品のグラスですよね?
まい:
なんで我々が「無印良品の250円のグラス」って答えるってわかったんですか?!
古賀:
こ、怖い……
安藤:
先生なんなんですか?!
角田:
見えてますから。
まい:
そういうマジックみたいだ……
角田:
じゃあ、皆さんが「無印良品のグラス」を選んだのはなぜでしょうか?
安藤:
気分……ですかね?
角田:
そう、「気分」なんですよ。100均のものより無印良品の方が「気分」があがるから、ちょっと高い方を選んだんですよね。じゃあ……
角田:
このグラス(右端)は1万ぐらいするんですけど、口当たりがよくて、飲む時間を楽しめます。
「無印良品じゃなくてこの高級グラス」を選ぶ理由も、100均じゃなくて無印良品を選ぶのと同じだと思えば、なんとなくわかりますよね?
まい:
わかってきました!
角田:
グラスと言っても、100円から数万円のものまであります。その中で、自分の「気分」があがるものを人は選んでいるんですよ。
グラス以外にも、たとえばこういう無印だらけの家に住んでいる人っていませんか?
安藤:
……うちの家?
角田:
無印良品が好きな人は、無印良品にかこまれた日常生活が心地よいんですね。
じゃあ、ハイブランドが好きな人が、ハイブランドにかこまれた日常生活を心地よいと思っても不思議じゃないですよね?
まい:
「無印良品でとりあえずそろえる」と同じテンションで、「ハイブランドでそろえる」をやってるってことですね?
古賀:
確かに私、無印の麻雀牌があったら買うかもしれない…
安藤:
無印からブーメラン出たら僕は買いますね
古賀:
それは買うね
安藤:
急にわかってきたな
角田:
それに、珍しいアイテムを買うと、友達と会話のきっかけにもなりますよね。無印のブーメランがあったら仲間でかなり盛り上がれそうでしょ?
安藤:
その方向から説明されるとすごくわかるんですよね
古賀:
これが「豊かさ」ですね...
まい:
急に欲しい人の気持ちがわかってきました