まず現金を下ろすところから。
一万円札を二枚手に取った瞬間、若干の躊躇いが生まれた。
1万円だけだとすぐに4桁になってしまうから、2万にしようと思ったのだが、だったら1万五千円でもいいじゃん。
どうしよう。チャージって2〜3千円しかしたことないし(定期券を除く)。緊張する。やるか?…やるか。やろう。ていうか、損するわけでもないし。現金をカードに移動させるだけだから。なんなら数千円ずつチャージするよりも手間数的には得。うん。得。じゃあOKです。やるぞ。
今までこの選択画面の上段(千円〜3千円)しか視界に入っていなかったので、まさか2万の選択肢が用意されていないとは考えていなかった。
まさか上限って1万なのか…?と緊張しつつ、『その他金額(10円単位)』を押す。
チャージ前(残額198円)の時と何一つ変わっていないのがマジで意味がわからない。ちょっとくらい変化が起きてほしい。いい匂いになるとか、ピカピカになるとか、ホカホカになるとか。
わたしがチャージを終えると、一連の様子を撮影してくれていた友達が『わたしもやってみようかな…』とおもむろに一万円札を取り出した。すごい。普段は2、3千円しかチャージしないって言ってたのに。
こんなにわかりやすく感化されるなんて。
出発
改札を通り抜ける。残額が5桁だ。すごい。信じられない。こんなことってあるんだ。
スタート地点は練馬。
2万あればどこまで行けるだろう。
鈍行だったら、大阪まで往復で行ける。往路だけだったら、鹿児島とかまで行けるだろうか。どうだろう。考えただけで怖いな。やろうと思えば出来ちゃう感、怖い。本当に自分が信用ならない。そういえば、この前チャージした後カード失くしたし。今日は絶対失くすなよ。頼むぞ。
さぁ、残額はまだまだある。
どこまでも行けるぞ。どこまでも、どこまでも……
鎌倉に来た。
『チャージしないと行けない遠いところ=鎌倉』
↑この、安直さである。
そんで、なんか近いな。思ったより近いぞ、鎌倉。2時間で着いた。
以前来た時はもっと遠かった気がする。大人になったからだろうか。2万円をチャージしたことにより、急速に大人化したのかも。
でも実際、3千円をチャージして行く鎌倉と、2万円をチャージして行く鎌倉だったら、絶対に後者の方が近い。『まだまだ遠くまで行けるんだぞ』と気が大きくなっているからだ。
とりあえず、海に向かって歩く。
今思えば、江ノ電に乗って江ノ島駅まで行けばよかった。めっちゃチャージしたのに、めっちゃ歩いた。
歩いていたら、さっき2万円チャージしたこともすっかり忘れてしまった。そうか。そんなもんか。
海があると『遠くまで来たな』って感じがする。内陸育ちの刷り込みだ。
結構寒いのに、サーファーがいっぱいいる。
『サーフボードって折り畳めないのかな』
『サーファーって海パン一丁じゃないんだね』
など、サーフィン知識0の会話をしながら砂浜を歩く。
サーファーって平気な顔で一万円チャージしてそう。そんくらい強気じゃなきゃ波に乗ろうとか思わない気がする。きっとそうだ。…いや、そもそもICカードじゃないかも。Apple WatchかモバイルSuicaか。どうしよう。聞いてみたいな。絶対聞けないな。わたしって心がサーファーじゃないもんな。