百聞は一見にしかず
私はライターの矜持がかぎりなくゼロなので、まずはTwitterにあげられていた作品の一部を紹介して、何が行われているのか一発で理解してほしい。
アディダスのスリーストライプは
ペン立てに変身(Photo:大村卓)
プロ野球チーム、広島カープのロゴ
もう布団バサミにしか見えない(Photo:大村卓)
みんなが大好きなパックマンは
ハサミになった!(Photo:大村卓)
以上3枚、すべて制作者ご本人による撮影である。シチュエーション、使用方法があまりにもわかりやすい。イメージ写真としての効果絶大なうつくしさ。ノベルティのグラビアアイドル化だ。ちがう。
なにしろうまい。これ以上いいものが撮れる気がまったくしないのでハナっから写真を拝借つもりでいたし、次の章以降も拝借します。
なにしろうまい。これ以上いいものが撮れる気がまったくしないのでハナっから写真を拝借つもりでいたし、次の章以降も拝借します。
勝手にノベルティ制作者は、本業プロダクトデザイナー
「このロゴ、何に見えるかな?」をせっせと具現化していたのは、生活雑貨や文具など、立体物のデザインを手がけるoodesign(オーデザイン)主宰のプロダクトデザイナー大村 卓さん。
デザインを起こし商品化する過程で、モックアップ(試作模型)にすることが多いお仕事なので、立体物に強いのは当然のことだった。
デザインを起こし商品化する過程で、モックアップ(試作模型)にすることが多いお仕事なので、立体物に強いのは当然のことだった。
「本来使っているデスクトップが調子が悪いんですよ」
雑貨やアートなインテリアに囲まれたオフィスを想像していたが、ドアを開けるとなんの装飾もない白いシンプルな壁に、ドバーンと大きなテーブルがあった。そこに、MacBookを広げていた大村さん。
リアルはグリコのおもちゃ(オマケ)の3~5倍程度
宝石商や骨董屋が身につけているような白い手袋が必要かもと懸念しつつ(けれど持参はせず)の訪問。
勝手にノベルティグッズひとつひとつはビニールに入っていたけれど、陳列したり個別の箱に入れていることもなかった。ひとつのダンボールから次々に、ゆっくりと取り出して説明してくれる。
勝手にノベルティグッズひとつひとつはビニールに入っていたけれど、陳列したり個別の箱に入れていることもなかった。ひとつのダンボールから次々に、ゆっくりと取り出して説明してくれる。
シュガーカットのキャラ弁テンプレート。食品関係のアイデアも秀逸(Photo:大村卓)
ボンカレーのパッケージにあるあのビジュアルが!
重ねられるプレートになった。黄色にごはん。オレンジ2枚にカレーとサラダ。赤いお皿には福神漬けを入れたい(Photo:大村卓)
マルちゃんマーク
ん?
カップ麺のフタクリップに!(Photo:大村卓)
Twitterで見ていたので、目の当たりにしたリアルへのカンドーもあるが、想定外の小ささに感嘆の声をあげてしまった。
かつてせっせと収集していたグリコのオマケを少し大きくしたくらいのサイズなのだ。
というか、3Dプリンタには限界もあるしこのサイズは当たり前といえば当たり前。それにしてもかわいらしいサイズである。
かつてせっせと収集していたグリコのオマケを少し大きくしたくらいのサイズなのだ。
というか、3Dプリンタには限界もあるしこのサイズは当たり前といえば当たり前。それにしてもかわいらしいサイズである。
だいたい手に収まるサイズなんです
テーブルに並べてみる。壮観だ。グリコのオマケを友達に披露したときのワクワク感がよみがえってきた。
好きなものがたくさんあると、どれから手をつけていいかわからなくなってパニくってしまうあの感覚。伝わりますか? 終始アワアワしていた私の気持ち。
好きなものがたくさんあると、どれから手をつけていいかわからなくなってパニくってしまうあの感覚。伝わりますか? 終始アワアワしていた私の気持ち。
仕事ではなく、あくまで「勝手に提案」
これら企業ノベルティはあくまで仕事とは一線を画しているとのこと。自ら商品化することは権利的にできないので、間接的に企業に向けて提案をしているカタチだ。
ホンダのロゴをそのまま生かした栓抜き。ご本人のイチオシだ(Photo:大村卓)
通常業務も忙しそうだし、この原動力はいったいどこからきているんだろう?
どうでもいいアイデアを蓄積して世に出す方法を考えた
じっさい、仕事のすべてが商品化されるわけでもない。アイデア段階で自由に公にできないというジレンマもある。
しかし、インスピレーションは次々に湧いて、どうでもいいアイデアが蓄積されるという大村さんの脳内。
半年前に買った3Dプリンターで作って公開してみようと思ったのがはじまりだそうだ。
しかし、インスピレーションは次々に湧いて、どうでもいいアイデアが蓄積されるという大村さんの脳内。
半年前に買った3Dプリンターで作って公開してみようと思ったのがはじまりだそうだ。
出光興産のクリップは、私が一番最初に目にした作品だったと思う(Photo:大村卓)
Bluetoothマークをブローチに。モデルは時々登場する息子さん(Photo:大村卓)
誰にもマネされないパクられないモノ、それがこの、企業ノベルティだった。
24時間考え続けているからこそできる、制作時間3時間
制作の流れを聞いてみた。
スケッチブックやアイデアノートに描いたラフを、PCでデータに落とし込こむ。ソフトで立体化して、基本的には3Dプリンタで出力。
スケッチブックやアイデアノートに描いたラフを、PCでデータに落とし込こむ。ソフトで立体化して、基本的には3Dプリンタで出力。
マクドナルドのクリップ。カードホルダーもあり(Photo:大村卓)
制作時間は平均して3時間前後ということだが、もちろんラフに至るまでの日々の思考があってのこと。
24時間見て考え、あらゆるシーンでアンテナをビンビンさせつづけなければ発想など浮かんでこない。これこそがプロとアマのちがいである。
基本的に3Dプリンタで出力、と明記したのは、そうではない作品もあるからだ。ラッピングペーパーにしたり、マスキングテープを貼って仕上げたり、たまにはクッキーも焼いてしまう。
24時間見て考え、あらゆるシーンでアンテナをビンビンさせつづけなければ発想など浮かんでこない。これこそがプロとアマのちがいである。
基本的に3Dプリンタで出力、と明記したのは、そうではない作品もあるからだ。ラッピングペーパーにしたり、マスキングテープを貼って仕上げたり、たまにはクッキーも焼いてしまう。
んーー? 3Dプリンタは活躍しましたが……
金鳥 蚊取り線香! そのものを再現! 商品そのものを食べているように見える抹茶味のクッキー。まちがわないように少しだけ太めに(Photo:大村卓)
「これ、商品化しましょう!」と言ってしまったステキすぎるカップヌードルのグラス。マスキングテープで仕上げていた(Photo:大村卓)
TOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTOTO
ラッピングペーパーでした。ほしい。こんなにTOTOがマッチするとは(Photo:大村卓)
ご家族の反応のうすさ
子供は、絵を描けばすぐに大人に見せにくる。わかる。大人だって同じだ。完成時のよろこびを誰かと分かち合いたい。できれば「すごいね」という反応を見たい。
大村さんもまずはご家族、奥さんに見せるそうだ。
同業職ではない奥さんの反応は、ときには彼を満足させるものではなく、いがいと凹むこともあるとのこと。
専門的なアドバイスも意見もない、無関心な時もあるが、よければ「いいね」と言ってくれる。これは家族の反応のあり方としてベストではないだろうか。
大村さんもまずはご家族、奥さんに見せるそうだ。
同業職ではない奥さんの反応は、ときには彼を満足させるものではなく、いがいと凹むこともあるとのこと。
専門的なアドバイスも意見もない、無関心な時もあるが、よければ「いいね」と言ってくれる。これは家族の反応のあり方としてベストではないだろうか。
キューピー社員の名刺にも使われているキューピーマヨネーズのあの柄
コースターに変身(Photo:大村卓)
マルマンスケッチブック
積み木になった。大人が遊びたい(Photo:大村卓)
気になる写真テクは、「解像度を下げる!」
ネットで目にした時、写真のうまさも気になっていた。プロが撮影しているのかと思うほど見せ方がうまい。
リアルでは小さなサイズも、違和感なく大きく見せるテクニック。実際を目にして再び驚いた。
事務所内のテーブルで大村さん自ら撮影しているとのことで、これといった簡易スタジオもないのである。秘訣を聞いてみた。
―― 強いて言うなら……。んー解像度を下げてるところですかね
と大村さん。
3Dプリンタ独特の「粗」を目立たなくするため、解像度を下げるのが有効らしい。
リアルでは小さなサイズも、違和感なく大きく見せるテクニック。実際を目にして再び驚いた。
事務所内のテーブルで大村さん自ら撮影しているとのことで、これといった簡易スタジオもないのである。秘訣を聞いてみた。
―― 強いて言うなら……。んー解像度を下げてるところですかね
と大村さん。
3Dプリンタ独特の「粗」を目立たなくするため、解像度を下げるのが有効らしい。
存在感ある、月刊ムー
ペーパーウエイト。マニアはノドから手が……(Photo:大村卓)
もちろん構図などの「センス」も必須だが、よりリアルに見せるための小技も随所で効かせている。
小技Tips:ない色は塗装、よりリアルにみせるためのミニチュア作りも
カラーが限られている3Dプリンタなので、表現できない色もある。その場合、大村さんは自ら塗装をして再現。
アーノルドパーマー
なんとコマに。実際にまわる(Photo:大村卓)
別名の方が有名でもあるアサヒビールビルのオブジェ
アレでツボ押し(Photo:大村卓)
また、現実感を出すために、本立てなら雑誌、ハンガーならシャツなどのミニチュア作りも行っている。
なんの違和感もなくリアルなグッズとして認識していたのは、大村さんの緻密な計算によるものだったのだ。
なんの違和感もなくリアルなグッズとして認識していたのは、大村さんの緻密な計算によるものだったのだ。
プレイステーションのブックエンド(Photo:大村卓)
ワコールは?
マガジンラックになった。こうして見ると、ワコールロゴは実に女性らしい(Photo:大村卓)
5才で(勝手に)犬小屋を作った園児は、大人になり(勝手に)ノベルティを作っている
小さい頃からロゴに興味があったり、絵を描いたり、そういう少年だったのだろうか?
―― ロゴに関心はなかったですけど、絵は描いてましたね。まさにマルマンのスケッチブックを買ってもらって、庭の花とかを。
夢は大工さんだったという大村少年は、それを叶えるべく大学では建築を専攻した。
―― 木の切れはしを集めて、犬小屋を作るような子供だったんです。犬は飼ってないんですが。材料が足りなくて、半分しか完成できなかったのでそのまま庭に放置して、私と兄の小便器になってました(笑)
いつくらいから始めたのか気になってたずねたら、なんと5才。生まれて5年しか経ってないあの5才だ。
テーブルを作ったのもその頃だと言う。
―― ロゴに関心はなかったですけど、絵は描いてましたね。まさにマルマンのスケッチブックを買ってもらって、庭の花とかを。
夢は大工さんだったという大村少年は、それを叶えるべく大学では建築を専攻した。
―― 木の切れはしを集めて、犬小屋を作るような子供だったんです。犬は飼ってないんですが。材料が足りなくて、半分しか完成できなかったのでそのまま庭に放置して、私と兄の小便器になってました(笑)
いつくらいから始めたのか気になってたずねたら、なんと5才。生まれて5年しか経ってないあの5才だ。
テーブルを作ったのもその頃だと言う。
シャレロゴルイヴィトン
ラグジュアリーなカードフォルダーに(Photo:大村卓)
私事だが30才くらいのときイスを作る機会があった。一番カンタンそうだと選んだのだが、ガタガタで座れる代物ではなかった。不器用きわまりない私と比較するのはおこがましいが、にしても5才である。テーブルも犬小屋も難易度が高すぎる。
ノウハウも説明書もなく、それを5才でやってのけるとは……想像して具体的に作る行動力は、幼少の頃から培われてきたのだ。
ノウハウも説明書もなく、それを5才でやってのけるとは……想像して具体的に作る行動力は、幼少の頃から培われてきたのだ。
なんと! デイリーポータルのロゴがアレに!
今回の取材を受けて、なんとデイリーポータルのロゴをノベルティにして用意してくれていた。見てくれ。
平和でゆるいデイリーポータルがメリケンサックになったーー!
こうやって使う武器、通称「メリケンサック」「ナックル」
――何になるかな……とじっと見ていたら浮かびました。
このサービス精神と創作意欲にカンドーした私は、急遽その足で、サボりがちなデイリーポータルの会議に参加することにした。ライター陣に見せびらかすのだ。私が作ったわけでもないのに自慢するのである。
反応を見たい!
このサービス精神と創作意欲にカンドーした私は、急遽その足で、サボりがちなデイリーポータルの会議に参加することにした。ライター陣に見せびらかすのだ。私が作ったわけでもないのに自慢するのである。
反応を見たい!
遅刻で登場して、急に自慢をはじめた。こういうときは行動力があるのである
言われてみればたしかに……
防犯対策にどうだろう。職務質問されてカバンの中をチェックされても大丈夫なメリケンサックである
本業、プロダクトデザインもユニークアイデア揃い!
こんなに多くの勝手作品を次々に作り出す大村さん。本業は逆にかためのデザインものであってもおかしくないが、ユニークな発想のグッズを多数世に送り出している。
奇遇にも数年前に彼の商品を購入していた。個人ブログで取り上げるほどお気に入りだったのである。
取材の縁もあり、私の個人オンラインショップはちみせで取り扱ったところ、オープン以来不動のヒット商品となっている。
奇遇にも数年前に彼の商品を購入していた。個人ブログで取り上げるほどお気に入りだったのである。
取材の縁もあり、私の個人オンラインショップはちみせで取り扱ったところ、オープン以来不動のヒット商品となっている。
波紋のような一輪挿し。泡のようなボトルキャップ。ポテトチップスの靴べら。どれもこれもユニーク!
大村さんが手がけた商品の一部を取り扱っているのでぜひお越しください。そして買いましょう! 宣伝失礼しました。
! Adobeのノベルティを勝手に作ったら呼び出しがかかる
PDF(Acrobat)のマークをハンガーにした作品も、Twitterで爆発的に人気だった。
AdobePDF(Acrobat)がそのままハンガーに!(Photo:大村卓)
しばらくしてAdobeの中の人が好意的ツイートを寄せていたのである。
これマジで採用させていただきたい by アドビの中の人
世界的大企業から怒られるのではないかと心配をしていた大村さんだったが……。
そして本当に、マジで、数量限定のノベルティとして正式採用。開発されることになった。今はAdobe Creative Stationのブログ「Adobeのノベルティを勝手に作ってたらAdobeから連絡が来た件」で、制作過程を連載しているのである。
ちなみに私が取材したのは6月。そのときは「大好きな企業から声がかかっていて準備段階」ていどのお話を聞いていたのだが、あっという間に現実化!
そして私の遅筆! サーセン!
ちなみに私が取材したのは6月。そのときは「大好きな企業から声がかかっていて準備段階」ていどのお話を聞いていたのだが、あっという間に現実化!
そして私の遅筆! サーセン!
まだまだある勝手にノベルティ
今回紹介しきれなかった勝手にノベルティもたくさんある。#企業のノベルティを勝手に作る
一堂に会した勝手にノベルティたち
執筆中もアレコレ「勝手にノベルティ」がアップされるので堪能してました。
重ね重ね、遅筆すみません! (主に大村さんと編集部に向けて……)
重ね重ね、遅筆すみません! (主に大村さんと編集部に向けて……)
大村 卓さん
プロダクトデザイナー。設計事務所、建築金物メーカーを経て2009年oodesignを設立、おもに生活雑貨や文具など身の回りのもののデザイン、自社オリジナル製品開発などに取り組んでいる。だんだんユルいものへの興味も隠しきれなくなり、製品化には至らないようなアイデアの断片をしばしばTwitterで発信している。
http://www.oodesign.jp
Twitter @trialanderror50
Adobeのノベルティを勝手に作ってたらAdobeから連絡が来た件
はちみせ ONLINESHOP / 大村 卓
プロダクトデザイナー。設計事務所、建築金物メーカーを経て2009年oodesignを設立、おもに生活雑貨や文具など身の回りのもののデザイン、自社オリジナル製品開発などに取り組んでいる。だんだんユルいものへの興味も隠しきれなくなり、製品化には至らないようなアイデアの断片をしばしばTwitterで発信している。
http://www.oodesign.jp
Twitter @trialanderror50
Adobeのノベルティを勝手に作ってたらAdobeから連絡が来た件
はちみせ ONLINESHOP / 大村 卓
それにしても石川さんの寝グセのひどさよ…… (時間は夜です)