あまりにも理解しがたい真実
キュウリのほうが牛乳より水分が多いという事実はもちろん驚きだが、それ以前にキュウリはほとんど水分である、ということ自体理解できない。
今の季節はもちろん、1年中サラダ野菜としてキュウリには親しんでいる。けれどしたたりおちるようなジューシーさを感じたことはほとんどないぞ(安いキュウリばかり食べているからかもしれないけれど)。
キュウリの水分については完全に疑惑の目を持つ自分である。まずは食品成分表で真実を確かめてみた。
きゅうり 果実・生 水分96.2%!
牛乳は88.7%
これはどういうことなんだ
……本当だった。それにしても96.2%ってどういうことだ。キュウリが100人いたら、96人以上が水ってことか。例えがなんで人数なんだ。
そして牛乳は88.7%。液体としてそれでいいのか。
水分という概念自体がわからなくなってきた。水分っていうのはつまり「水」のことだろう。水というのは液体だ。びちょびちょしているアレだ。なのに、固体であるキュウリの96.2%がびちょびちょだという。
きゅうりはそのまま置いといても大丈夫だが、牛乳は入れ物に入れないとそこいらじゅうびしょびしょである。水分はキュウリより少ないのに。
頭が混乱する。これはどういうことなんだ。
パックに守られねばいられない水分88.7%
毅然としたたたずまいの水分96.2%
流れ出す水分88.7%
漏れる様子のまったくない水分96.2%
つかめる水分96.2% つかみようのない水分88.7%
噛まなくてもいい水分88.7%
むしゃむしゃしないと食べられない水分96.2%
確かにみずみずしいっちゃみずみずしいけど……
疑問とちゃんと向き合おう
どういうことなんだ という強い思いがあふれて思わず写真が並んだが、どうしたってキュウリの水分は96.2%なのである。
真実と向き合うために、いかにキュウリに水分が多いかこの目で見届けてみたい。
方法を考えていて浮かんだのは、大根おろしのことだった。大根はキュウリ同様固形である。が、おろし金でおろすととたんにみずみずしくなる。あれはかなりびちょびちょに近い。
まったくの固形状態が
おろすことで唐突にびちょびちょに
キュウリもおろすと途端にびっちゃびちゃの水分%ぶりを露呈するんじゃないだろうか。ジャスト100gを計量しておろしてみた。
大根よりもろく、途中でバキバキ折れてしまった
が、なんとかキュウリおろし完成
おろすなり青いかおりが立ちこめる。キュウリのかおりをここまで吸い込むなんて初めてかもしれない。
おろしたら、水切り網に入れて水気と固形部分を分けてみた。
100g中、水気63g、固形部37g。グラフにしてみましょう
ちなみに大根は100g中、水気73g、固形部27g
本気出せよキュウリ
大根のほうが10gも水気が多い。ちなみに大根の水分量は94.5%(食品成分表より)とこれも驚きの多さではあるが、微妙にキュウリより少ないはず。どうした、キュウリ。
もしかして、おろし金できっちりおろせなかったのがいけなかったんだろうか。さらにミルサーにかけてみることにした。これでかなり粉々になるはずだ。
ぐいぐい粉々にして、再度絞る
10gの水気がとれた。現在の比率はこんな感じ
結局、ミルサーまでかけてとれたキュウリの水気は100g中73g。うん、確かに思いのほか多い。でもこれじゃあやっぱり96.2%という数字は納得できない。
キュウリにかたくなに水分を隠ぺいされている感じだ。
ちなみに今の季節、ほとんど水みたいな気持ちで食べるスイカも可食部で91.0%(しつこいですが、食品成分表より)とキュウリより水分が少ない。
キュウリのついでに100gをミルサーにかけてみたところ、93gの水気がとれた。とれた水気の中に水分以外の2%が含まれているのだろう。さすがジューシー。サービス精神旺盛だ。
いかにもみずみずしい
一気に93gの水気がとれた。キュウリよりも俄然多い
キュウリもスイカぐらい素直に水分を見せてくれたらいいのに。なにが悲しゅうてそんなに一生懸命水分を隠すのか。
思い切って専門家にキュウリの水分を抽出する方法を尋ねてみた。あわよくば、牛乳の水分も抽出して比べてみたい。
さあ、いよいよ自由研究っぽさも過熱してまいりましたな!
水分量は、乾かして調べる!
食にかんする研究機関である独立行政法人 食品総合研究所の情報広報課の方にお話をうかがうことができた。
それによると、食品成分表に掲載されている水分量は専門器具で加熱、乾燥させて調べるのだそうだ(ただし、アルコールを含むものは除く)。
水分にものが混ざっている場合も乾燥させることで溶け込んでいる水分以外の成分の量が分かる。牛乳ももちろんこの手法で調べられる。
ちなみに、水分に他の成分が溶け込むことを「懸濁(けんだく)」といっていた。業界用語ゲットだぜ。
さっきしぼったスイカの汁は果糖懸濁満載だろうという甘さだった
煮詰めたらどうだろう
というわけで、キュウリの水分は専門家の方も目の当たりにするのは難しいということが分かった。何しろ乾燥して蒸発させちゃうのだ。
仕方がないので水分の目撃はあきらめ、私なりにキュウリを乾かしてみることにしたい。あのキュウリが水分をとりのぞいたらこんなに少なくなった! というのを見ておかねば96.2%は信じられない。
日干しやグリルなどいろいろ考えたすえ、鍋で煮詰めることにした。煮るというより、炒るという感覚だ。
ミルサーにかけた先ほどのキュウリ100gを鍋へ
ついでに牛乳100gも隣のコンロでやっていみよう
焦がさないように一番小さな火で少しづつ水分を飛ばしていく。ここでも、ガンガン湯気が出て蒸発していく牛乳に比べてキュウリはなかなか湯気が立たない。ものすごく水分と固体が強力に結びついているのか。
そんな頑固にならないでおくれよ。
マイペースに煮詰まっていくキュウリ
牛乳はあの まく が取れてきた
20分が経つ頃には牛乳はかなり水気が飛んだ状態に。またねばりはあるが、焦げそうなのでここで火を止める
繰り返すが、キュウリは頑固だ
確かに水分以外のものが詰まってるんだなあと素直に思わされる牛乳である。ぐんぐん水気が飛び、あとにネチっとしたものが残った。食べてみると甘い(しょっぱくない)チーズのような感じ。
さて、そのころキュウリはというと、だ。
焦げた。いや、焦がしてしまったのか。
がーん
だんだん、果肉の部分がパサついていくのが分かったのだが、塊の部分はまるで水気が飛ばない。のだムキになって火にかけ続けていたらこんな状態になってしまった。
しかも、焦げていない部分はというと↓
まだまだ水気がある……
みずみずしいのだ。
一体キュウリは何をたくらんでいるというのか。体内にそんなに水を蓄えて、あれか、ラクダか、ラクダ気取りか。
ここまでくるとキュウリには負けたよ……、という気分になってくる。もはやここまでだ。
あきらめて、鍋に残ったキュウリの重量を量ってみよう。
558g。事前に量っておいた鍋の重さが551gなので…7gだ!
93%の水分が飛んだ!
なんと、100gで煮始めたキュウリは7gしか残っていなかった。93gの水分が我が家の空気中に消えたのだ。おおーーー。
ちなみに牛乳は17gが残った。83%の水分が飛んだ計算だ。
鍋に残ったキュウリのかけら。虫っぽい
それでも何となく身もだえる
最終的にキュウリの水分の多さを体験することはできたが、それでもやっぱりノリ的には信じられない。
そして、今回さらに驚きの事実が判明したのだ。食品成分表のキュウリや牛乳以外の欄をパラパラ見ていたときである。
なめこ 生 水分96.0%
なめこ! また意外なフィールドから高水分食品が切り込んできた。そういえば人間だって半分から70%ぐらいは水分だっていうし、全体的に世界は水でできてるんだなと適当に納得するしかない状態です。しかし なめこ か……。