特集 2018年7月9日

底辺ユーチューバーが海外で個展を開催したおはなし

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6月の頭、私は台湾にある90坪のギャラリーで個展を開催した。そのギャラリーは、「きゃりーぱみゅぱみゅ展」とか「蜷川実花展」などをしたことがあるような広いところだ。

私は、何か受賞歴のあるアーティストでもなければ、著名でもない。ただ、限りなく無職に近いクリエイターであり、それは何者でもない普通の人ということだ。でも、住んでいる町も国も飛ばして、なぜか2247キロメートル離れている台湾で展示、それも個展をすることになった。「個展」というのは、一人で展示をすること……。知っていますか。一人で展示をすることを個展というのです。「一人」というのは、他に誰もいないということです。

台湾のギャラリーで、90坪もある場所で、一人で展示。つまり個展を9日間、9日間というのは24時間が9回あるということ。実際は11時から18時までなので7時間。だから7時間が9回ということで、それを台湾で、90坪のギャラリーで……。

ほんとうに、なぜ私が台湾で個展をやることになったのだろう。思い出してもよく分からないことだらけだが、少しずつ思い出しながら、顛末をここに書こうと思う。
2013年から、YouTubeチャンネル『無駄づくり』を開始し、無駄なものを作り続ける。
ガールズバーの面接に行ったら「帰れ」と言われた

前の記事:台湾で、コンビニの飲み物を飲むだけの観光をしてみる

> 個人サイト 無駄づくり

顛末をまとめた動画をYoutubeにもアップしました。あわせて見てください

90坪を一人で設営させられそうになる

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私は、ユーチューバーをしている。いや、ユーチューバーと言うほどのものではないのだけれど、ユーチューブチャンネルを開設して、そこを中心に活動をしている。デイリーポータルZでも何度か記事を書いたのだが、私は「無駄づくり」と称して人の役に立たないものを作ることが人生の軸になっていて、ユー

チューブチャンネルのコンセプトもそれだ。
無駄づくりの一つ「怒ると勝手にひっくり返るちゃぶ台」
無駄づくりの一つ「怒ると勝手にひっくり返るちゃぶ台」
今まで作った無駄なものは200個以上にものぼる。「作品」というたいそうなものではないけれど、ここまで物があったら、並べて人に見せたくなる。厳かに、無駄なものが並んである空間が見てみたくもある。
無駄づくりの一つ「賃貸で飼える犬」
無駄づくりの一つ「賃貸で飼える犬」
個展の話を持ちかけられたのは、所属している事務所のよしもとクリエイティブ・エージェンシーからだ。「よしもと」と聞くと、反射的に嫌な気持ちになる人も多いかと思う。私もそうだ。6年くらい付き合いがあるけれど、別に何かをしてくれているわけでも、しているわけでもなくて、なんとなく一人になりたくないから、よしもとに所属している。

そんな事務所が急に「台湾で無駄づくりの個展をやりましょう」と言い出したから、これは何か裏があるな……。と思い、さぐってみると、「展示の計画がうまく出来ておらず期間が空いてしまうのを埋めるために藤原に頼んだ」という、かなり現実的な理由だった。

それでも、海外で展示できるなら嬉しい。二つ返事で了承し、進めることにした。

「予算が全くないので、90坪のギャラリーを一人で設営してください」私は想像力が乏しいので、90坪と言われてもよく分からなかった。それ以上に、私は自分自身を過信してしまう悪癖があるので、「一人で出来ないことはない」というモットーというかバカ思考があり、「90坪を一人で設営」という衝撃的な言葉に関しても「はあ……。まあ、やりますけど」くらいに考えていた。
実際のギャラリー
実際のギャラリー
お家に帰って、ご飯を食べて、テレビを見て、湯船に浸かっているところで「90坪を一人で設営……?」と疑問になり、髪を乾かしながら「90坪」と画像検索してみると、その大きさにたじろぎ、心臓がばくばくしてよく眠れなかった。
実際のギャラリーに私がいる画像
実際のギャラリーに私がいる画像
お金を増やす方法を考えた。私は物作りを6年もやっている。「お金を増やすマシーン」を作ればいいのだ。と思ったのだが、どうしても法律に引っかかってしまう。

結局、クラウドファンディングをすることにした。「クラウドファンディング」と聞くと、反射的に嫌な気持ちになる人も多いかと思う。私もそうだ。でも、これしか道はないので、足りていない100万円を募った。
クラウドファンディングページ
クラウドファンディングページ
結果として3日間で目標金額を達成した。こんな自分勝手なことにお金を出してくれた人たちには感謝してもしきれない。そして、人からお金を出してもらった分、絶対に成功させなきゃいけなくなった。うおー。プレッシャーだ。

ついに台湾へ

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そこから、寝ずに準備を始めた。睡眠不足に陥り、はんだごての熱い部分をギュッとしてしまうなど、目に見えて不調ではあったが、なんとかタスクを消費した。

台湾へ向かう飛行機の中で、私はプレッシャーに飲み込まれ「どうにか台湾に着かないでくれ」と神に祈っていたけれど、何のトラブルもなく入国した。
滞在したホテル
滞在したホテル
お金がないので、ホテルも安いところだ。2週間以上滞在する。夜見るとお化け屋敷のような外観なので、ドン引きしたが、中は快適だった。次の日から設営を始める。クラウドファンディングで資金が調達できたおかげで、設営のプロが2人も来てくれた。心強い。
設計図
設計図
私は中国語ができないし、英語もままならない。現地に住んでいる日本語ができる台湾の方と中国語ができる日本の方に協力してもらいつつ、準備を始めた。

設計図を3Dで頑張って作ったので、それを元に進めていく。まずは、場所を区切るパネルを作るのだ。
色を塗る
色を塗る
パネルは元から会場にあるので、それを黒と白に塗っていく。一生懸命やったものの、私が一番塗るのが下手だったようで、足を引っ張ってしまった。
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台北にある「永楽市場」という布の問屋街で買い出しをした。日暮里がビルに詰まっている感じの場所だ。計り売りだが、1メートルではなくてヤードの単位なので注意が必要。店員さんも日本人には慣れているのか、カタコトの日本語で対応してくれた。
パーツ屋の店内にいるでかい犬
パーツ屋の店内にいるでかい犬
また、台北には電気街がある。電子パーツとかも売っているのだが、中国から通販で買ったほうが安いと現地の人が言っていた。そして、電子パーツ屋にデカイ犬がいる。台湾は店に雑な感じで動物がいるので楽しい。
設営の様子
設営の様子
4日間かけて、少人数ながら設計図通りに設営ができた。全員の体がバキボキで、日が経つにつれてみんなの口数が少なくなり、ピリピリした空気になっていたが、喧嘩が起きる寸前で完成することができた。これはすごいことだ。

完成した

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入り口には、バカみたいな看板を設置した。ここのギャラリーは華山1914という地区にあるのだが、雰囲気的には横浜の赤レンガ倉庫のような場所だ。周りではオシャレなお店がたくさんある空間なので、このバカ看板は浮いている。
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入り口を入ると、神田旭莉さんというグラフィックデザイナーに製作したもらったパネルが見える。ハイタッチが恥ずかしくて出来ない私のために作った「らくらくハイタッチくん」が置いてある。通販風の映像を以前作ったので、それをモニターで流した。
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そこを抜けると、「インスタ映え台無しマシーン」のコーナーだ。インスタ映えを阻止するために、ボタンを押すとスマホのカメラに指が映り込むマシーンだ。神田さんのパネルと映像、そして実際にインスタ映え台無しマシーンを展示してある。
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奥には、今まで作ったものを数点置いた。そして映像をずっと流すことにした。
そして、最後は「体験コーナー」だ。4つの無駄づくりを体験することができる。
そして、最後は「体験コーナー」だ。4つの無駄づくりを体験することができる。
これは「SNOWのままでいられるマシーン」。デイリーポータルZの記事にもなっている。
これは「SNOWのままでいられるマシーン」。デイリーポータルZの記事にもなっている。
SNOWのままでいられるマシーン
SNOWのままでいられるマシーン
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「モチベーションマシーン」。仕事のやる気がないときに、札束で頬を撫でられるマシーンだ。

雑貨屋に行ったら、台湾ドルの柄をしたメモ帳があったので、「これは運命だ」と思い大量購入した。
「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」。
「歩くたびにおっぱいが大きくなるマシーン」。
くだらない。作った本人が一番くだらないと思っている。しかし、「踏むと膨らむ」というのは何だかすごく面白い動きなのだ。実際に着用はできないが、踏めるようにはした。
「らくらくハイタッチくん」。
「らくらくハイタッチくん」。
先ほども説明したハイタッチマシーンだ。顔を入れて着用しているように見せることができる。

このような感じで90坪をまるまる無駄なもので埋め尽くした。

台湾の人たちは、これを見てどう思うのだろうか。怒るだろうか。というか、あんなバカ看板で人は入ってくるのだろうか。誰一人来ずに終わってしまったら、私は日本に帰れなくなってしまうな。明日のことを想像すると、つらたにえんのムリ茶漬けだ。つら丸水産だ。つらッシュ・バンディクーだ……。
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初日を迎える前に、私が台湾でハマった「印度風カレー」を紹介してもよろしいでしょうか。

思い出すたびに食べたくなってしまうカレー。これは、オムライスにカレーをかけて食べる料理なのだ。しかも、オムライスの中はドライカレー。横についているポテトもカレー味。店内に飛んでいるWi-Fiの名前もCurry。4日連続で行った。4日目は「さすがに今日は食べたくならないよな」と思っていたのだが、昼を過ぎると急に食べたくなった。自分でも怖かった。
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あと、これは台湾の海老マヨだ。台湾のマヨネーズという概念は日本のそれとは少し違う。なんか、甘いのだ。ホイップクリームみたいな。海老マヨにチョコがかかっているのも謎だ。

これが美味しすぎて、居酒屋で頼むと、誰にも分けずに一人で食べてしまう。そのせいで何人に嫌われたことか。

ついに初日を迎える

引き伸ばしたが、ついに初日を迎えた。ドキドキしながら会場したところ、人、人、人。
引き伸ばしたが、ついに初日を迎えた。ドキドキしながら会場したところ、人、人、人。
押し寄せる人たち。よくわからなくなってきた。
押し寄せる人たち。よくわからなくなってきた。
最終的に行列ができていた。外の気温は30度。なぜ、並ぶのだ。
最終的に行列ができていた。外の気温は30度。なぜ、並ぶのだ。
現地の人に聞いてみたところ、まず台湾の人は好奇心が旺盛。あんな変な看板があったら、入ってしまうとのことだった。すごい。

日本だったら無料でもこんな意味不明な場所に人はこないだろう。台湾の人たちが楽しんで笑ってくれているのを見て、とても嬉しかった。仮面ライダークウガは、「みんなの笑顔のために」戦っていた。その気持ちが今はわかる。
SNSに投稿がたくさんあった。その投稿を見てなのか、平日も人が絶えることはなく、1日に1000人以上は訪れていた。休日になると5000人以上にもなった。
SNSに投稿がたくさんあった。その投稿を見てなのか、平日も人が絶えることはなく、1日に1000人以上は訪れていた。休日になると5000人以上にもなった。
会場にいると、「すごいです」とか「面白かった!」とわざわざ、Google翻訳を通して話しかけてくれる人も多く、すごく嬉しかった。

言葉や文化の壁を乗り越えて、無駄づくりでコミュニケーションができるのは新しい体験でもあった。

最終的に統計をとったところ、9日間で2万5000人の来場があったようだった。

に、にまんごせんにん。2万5000人……? 想像力が乏しいのでよくわからないが、みんなから1円ずつもらったら2万5000円になることは分かった。おせちが買える。

台湾での個展、日本でのクラウドファンディングを通して、無駄なもの大勢に受け入れてもらったような気がして嬉しい。デイリーポータルZの記事なのに、なんか普通のこと書いているぞ私。大丈夫か。
Photo by Teikoukei
Photo by Teikoukei

そんな感じで個人的には成功を収めた気持ちになり、ルンルンしながら帰国したのだが、毎日あの印度風カレーを食べたくて震えている。よだれが出てきて、奥歯を噛み締めて我慢している。台湾に行ったら、ぜひ印度風カレーを食べてください。「印度風 咖哩起舞」というお店です。
ナゲットはカレー味じゃなかった。
ナゲットはカレー味じゃなかった。

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私がMCを務めている番組、「よい子はマネしないでね」がAmazonチャンネルに随時更新されております。第一回の下町の発明王特集、第二回のデイリーポータルZ特集が配信中です。
お金が必要ですが、ぜひ見てください。
よい子はマネしないでね

同シリーズのスピンアウト版として、今回の個展の顛末もドキュメンタリー的な番組をやってくれるみたいです。8月26日!こちらはCSにて。
よい子はマネしないでね スピンオフ
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