「献血ギグ」ってなに?
はい。
というような経緯がありまして、やって来ました、四谷二丁目にあるライブハウス、
「四谷アウトブレイク」
えー、もう少し詳しく説明しておきますとこちら、最近「ライブハウス界の異端児」として話題にのぼることの多い、ちょっと変わったお店。
店長の佐藤さんがおもしろい方で、オリジナルの「耳栓」を発売したり、若手バンドが1週間住み込みで毎日ライブをするというとんでもない企画を実行したり、トイレをクラウドファウンディングで改修し、しかも工事当日は「作業で発生する騒音とノイズバンドの2マン」というぶっ飛びすぎたイベントを開催したり……。
そんな佐藤さんから「パリッコさん知ってます? 献血のあとのビールって、めっちゃうまいんすよ! こんどうちで『献血ギグ』をやるんで、よかったら来ませんか?」とお誘いを受けました。
献血ギグとはその名の通り、ライブハウス前に献血車がやってきて実際に献血ができ、同時にライブも楽しめるというイベントだそう。
昔から無駄に体だけは丈夫で「注射針」というものに縁がなく、ゆえに大の苦手な僕。
だけど同時に酒には目がなく、「それってどんな美味しさなんだろう?」と興味も深々です。
針は怖い、でも献血後のビールは飲んでみたい。
そんなせめぎあいの末に「行きます!」と返事をし、実際にその日がやってきたというわけ。
確かにとまってるわ、献血車
近隣の商店にも
「献血のおねがい」のポスターがちらほらと
この街ぐるみで協力的な感じは、献血イベントならではですね。
店長の佐藤さんにお話を聞きます
ここで、アウトブレイク店長でありライブハウス界の異端児、佐藤さんに、実際にお話を伺ってみましょう。
佐藤店長
―― 今日はよろしくお願いします! そもそも「献血ギグ」を企画されたきっかけは?
佐藤 単純に僕が献血好きなんです。それで、ライブハウスの中でライブを見ながら実際に献血をするイベントというのを思いついたんですが、さすがにそれは難しいみたいで(笑)。
―― そりゃどう考えても不可能ですよ!
佐藤 とにかくまず赤十字にメールを送ってみたところ、初めは担当の方がライブの合間にトークをしに来てくれるというということになったんですね。そういう機会を1年くらいかけて何度か重ね、なんとか信頼してもらえて、2017年の年明けに「じゃあ献血車をつけてやりましょう」ということになって、2018年の今回が2回目の献血ギグになります。
―― トークの内容はどのようなものだったんですか?
佐藤 ざっくばらんに「献血ってこういうものだよ」という話とか「献血あるある」とか。
―― 献血あるある! まだ未経験者の僕にはたぶん共感できないネタですね(笑)。しかし、ライブハウスと献血というのが全く結びつかないというか、献血直後にライブ見ながら暴れたり、お酒を飲んだりするのって、あまり良くなさそうなイメージがあるんですが……。
佐藤 そんなこと、もってのほかですよ(笑)。基本的にはまずソフトドリンクで水分を補給して、きちんと休憩してもらう。献血車が3台来ていて、その中に休憩スペースがありますし、赤十字の方が背もたれ付きの椅子を大量に貸してくれて客席に並べてあるので、ライブも座って見られるようになっています。
―― たくさんの出演者のチョイスはどのように?
佐藤 献血好きなバンドマン、献血好きアイドルなんかがいるので、基本的にはそういう人たちに声をかけて。
―― いるんですね(笑)。
佐藤 あとは、献血と「ノイズ」って相性がいいなと思ってるんですよ。血を抜いてちょっとクラッとしてるところに「ギャーン!」みたいな轟音が気持ち良くて。
―― サウンドとのマッチングもあるんだ。
佐藤 だから個人的に合いそうと思うバンドにも声をかけたり。
―― 単純に、佐藤さんにとって献血の魅力とは?
佐藤 まず、なぜ献血が必要かという話なんですが、俺も昔は知識がなくて、事故などで大量に出血してしまった人のための緊急用みたいなものだと思っていたんです。だけどそういうパターンは一部で、実際に多く使われているのは、例えば白血病などで血を作れなくなってしまい、定期的な輸血が必要な人。
―― なるほど、きちんと考えてみたことがなかったです。
佐藤 全国の病院で「今週は何リットルの血が必要」というようにスケジュールが決まってるんですよ。また、血には使用期限もあって、永遠にストックしておけるものではない。だからよく街角で「現在、◯型の血が足りません!」みたいに呼びかけているんですね。
―― 切実に必要としている人たちが常にいると。
佐藤 そうなんです。それが大前提。ただし、僕がなぜそんなに献血が好きかというと、献血ルームに行くと、圧倒的に感謝される。それがとんでもなく気持ち良くて(笑)。
―― 実益ですね(笑)。
佐藤 入った時点で、「ありがとうございます!」って。そんなに無条件で人から感謝されることってないじゃないですか。さらに、献血が終わって外に出た瞬間だけは、「この街に溢れる人々の中で、俺が一番徳が高いぞ」と勘違いできる(笑)。
―― 圧倒的な優越感が。
佐藤 で、そのあと飲む酒が効くんですよ! サウナ後ともまったく違う、体にぐっと染み込む感じ。
―― 興味深い~!
佐藤 俺は勤め人ではないので、例えばお昼に献血をすれば、午後1時とか2時くらいには飲み始めらるんですよ。この背徳感もたまらない!
―― 一度極限まで徳を高めてますからね(笑)。
佐藤 あえて昼間からおじさんたちがくだを巻いているような酒場に入って行って、その感じを楽しむ。最高ですよ。
―― 「献血のグルメ」とかいって漫画化できそうな(笑)。おかげでかなり献血に興味
が出てきました。これから実際に行ってこようと思います!
人生初の献血体験
生まれて初めてということで、受付に向かうだけで謎の緊張感がありますが、佐藤さんが教えてくれたように、スタッフの方全員がものすご~く歓迎ムード。
特に「初めてです」とお伝えすると、親切丁寧な説明でこちらの不安を取り除いてくれます。
「よろしくお願いします」
「その体制で手がしびれてきませんか?」「大丈夫です」
婚姻届でも出しているかのような神妙なツラ
さて、ここから実際に献血へ。
まずはほんの少し血を抜き、血液の濃度などに問題がないかのチェックが行われます。
次に簡単な問診があるんですが、威厳のありそうな男性の先生が「ドーナツ食べた? 水分もとってね」とものすごく優しく気づかってくださり、「確かに、なんにもしてないのにこんなに手厚く歓迎される場所ってそうないよなぁ」と思ったり。
で、なんやかやあっていよいよ400mlの血を抜きます。
説明には「10~15分」とあったのですが、「血流が良いから早く終わりそうですね~」などと言われ、実際ものの5分で終わってしまいました。
憂鬱の原因だった注射の痛みも、最初にチクっとするくらいで全然余裕。
これは献血にハマる理由、わかるかもな~。
こういったものは食べ放題
いよいよ献血後のビールへ
無事献血が終わり、ソフトドリンクで水分を補給しつつ十分に休息をとったら、いざライブ会場へ。
とにかく大事
念のため、おそるおそる……
くぅ~、これは効くわ……
「血を抜いた」というプラシーボ効果なのか? 実際に体への浸透率が高いのか?
とにかく、いつ飲んだってうまいビールが、いつも以上に全身に染み渡っていくような感覚。
う、うますぎる……。
ステージ上では「Galaxy Express 666」というロックバンドが演奏中
「ギュワーン! ゴゴゴゴゴゴ……ペキョーン!」と、ひたすら轟音を奏でるギター。
何やら自分の知らない楽器から、スペイシーなシンセ音のようなものを発生させる女性。
そこにバスンバスンと重低音を響かせるパワフルなドラム。
普段そんなに聞くタイプのジャンルではないし、絶対にやばい人たちなので個人的に関わりたくはないけど、確かにこういうカオスなサウンドと、献血ビール後のフワ~っとした感覚との相性は抜群!
あ~気持ちいい~。
……っていうか、あれ?
このギターの男性
な~んか知り合いに似てるな~。
その音楽性に反して「みなさん、もう献血はお済みですか?」から始まる穏やかなMCを聞いていたらよけいに。
と思ったら、
がっつり一緒に仕事させてもらってる編集者さんだったー!
バンド活動をされていることは知ってましたが、こんなとんでもないバンドだったとは!
で、今日出てたとは!
しかも、記念すべき人生初の献血ビールの瞬間に演奏してるとは!
献血が呼び寄せたプチ奇跡。
けんけつちゃん登場!
この日のイベントの目玉企画のひとつが、献血推進キャラクター「けんけつちゃん」とのふれあいタイム。
「入り口の狭さの都合上、絶対にうしろを振り向かないでください!」とのアナウンス後に登場したのは……
けんけつちゃんだー!!!
いや、今日初めて知ったキャラなんですが、こちとらもう献血経験者。
めちゃくちゃ親近感を覚えるしテンションもあがります。
あと、単純にかわいい。
けんけつちゃん大人気の図
他のみんなも同じ気持ちなのでしょう、異常に人気があります。
もちろん僕も記念撮影
こうして献血ギグは、夜まで盛り上がり続けるのでした……。
こんな機会がない限り、自発的には行かなかったであろう「献血」。
実際に経験してみたら、チクリとした痛み以外はいいことだらけで、しかも後日、自宅に血液検査の結果までもが届くという至れり尽くせりっぷり。
年間にできる回数は限られているんですが、今後は定期的に行ってみようかな、と、素直に思えた夜でした。
もちろん、直後にビールが飲めるタイミングで!