
ことのいきさつを説明します
僕は1980年、アメリカのニューヨークで生まれた。プロフィールにもそう記してある。



両親は日本人だが、アメリカで出生した子どもには自動的にアメリカ国籍が与えられる。これを拒否することはできず、僕も日本とアメリカの二重国籍を保有したまま大人になった。








日本国籍を選択しても、アメリカの国籍はなくならない?
仕事でアメリカのグリーンカードのことを調べていたとき、たまたま二重国籍の解説をしている文献を見つけた。そこには、以下のような趣旨のことが書いてあった。
・米国の最高裁判所は二重国籍を「法律上認められている資格」としている
・一国の市民権を主張することにより他方の国の権利を放棄したことにはならない
この理屈に照らせば、日本国籍を選択云々というのはあくまで日本側の法律の都合によるもので、アメリカの法律上はまだアメリカ国籍が残っているということになる。
つまり、僕は元・アメリカ人ではなく、現役バリバリのアメリカ人である疑いが浮上してきたのである。まじか!
(※正確にはアメリカ国籍も保有する日本人)
こうなると、白黒はっきりつけておきたい。まずは、実家の母に当時の手続きのことを含め、色々聞いてみることにした。



アメリカ国籍は持たせたくなかった母
母「そうやね(※母は大阪出身です)、日本人やから(アメリカ国籍を)離脱したいといってもさせてくれなかったわけ。本人が一定の年齢になってから選ばないとアカンって言われて。
しかも、生まれた時点で日本の領事館にちゃんと『日本の国籍を留保します』っていう届け出を出しておかないと(日本の国籍はなくなってしまって)、アメリカ人になっちゃう。だから、とりあえずその留保の届け出は出すんだけど、正式な国籍選択の手続きができる年齢になるまでは二重国籍になってしまうのよね」
―― で、18歳のときに僕の意思を確認してから日本国籍選択の手続きをしてくれたよね
母「そう、でも本当はもっと前にさせたかった。あなたが小学生のときに湾岸戦争が起きて、お母さん心配性やから(あなたが巻き込まれるんじゃないかと思って)アメリカ国籍の離脱ができないか改めて聞いたのよ。でも、やっぱり18歳にならなアカンって言われた」



母「当時、お母さんが大使館とか外務省とかに問い合わせた時には『(手続き)せんでもいい。何も困らん』みたいに言った人もおったね。なんだかいい加減やなあと思ったけど、ほら、お母さん心配性やから(二回目)」










母「家族のなかであなただけアメリカ人だったからね。お父さんもお母さんもお兄ちゃんも持ってないけど、あなただけアメリカのパスポートだった。パスポート以外の書類も、全部控えをとってあるから。これが18歳の時に提出した国籍選択届ね」






母「そこまでは思い至らなかった。手続きするとき、誰も教えてくれなかったから……。ごめんなさい」
いやいや、インターネットもない時代にここまで自分で調べて手続きするのは大変だっただろう。むしろ、当事者なのに母親に任せっきりにしていた自分が恥ずかしい。
すまん、母。こんど温泉でも連れていくからな。
あ、ちなみに「国籍持たせたくないんだったらアメリカで生まなきゃよかったじゃん」みたいな、的外れな批判はやめてくださいね。



けっきょくアメリカ国籍あるの? ないの?



いくら僕がぼんやり生きているといっても、そんな重要なことを忘れるわけがない。手続きはしていない。
ということは…
おれ、アメリカ人だ。



アメリカ人だったっぽい
ハハハ、なんてこった。オーマイゴッドだねジョニー(ジョニーという知り合いはいません)






国籍離脱の手続きは今からでも可能
面談には予約が必要で、1回目の面談時にメリット・デメリットを聞いたうえで、そのまま国籍を保持することもできるという。検討の猶予は30日間。離脱をしない場合はそのまま2回目の面談に進まければいいとのこと。
だが、メリット・デメリットで決めていいような話なのか、聞くと揺らいでしまうのではないかと悩んだが、やはり話だけは聞いてみたいと思い、1回目の予約をすることにした。



面談は2カ月後
返信メールには「米国の市民権の喪失に関するカウンセリング」とあった。面談相手は大使館の領事(アメリカ人)だが、希望すれば通訳もつけてくれるらしい。
離脱か維持か、どちらを選ぶかは正直決めかねている。だが、少なくともあと数か月はアメリカ人なわけだ。ティーボーンステーキを食べ、バーボンを飲みながらゆっくり考えたいと思う。










メリット次第では揺らいでしまいそうだが、母の思いを汲んで離脱し、心配性な母の心配ごとをひとつ減らしてやるのが親孝行なのかもしれない。「元・アメリカ人」のギャグもまた使えるわけだし。
