遠くからでもわかる商店
尾道の中心からそんなに離れてもいない静かな住宅街に突如現れた……
……なんだこれ。
酒って書いてあるから酒屋かな? と思いつつ近づいてみる。
道路挟んで両脇に謎の建物
わざわざ集めてこなければこうはならないだろう。ゴミという訳でもなさそう……だったらなんだ、とじろじろと観察してたところ
絵も紛れてる
ペットボトルのふた……?
ここはほんとに現役の商店なんだろうか。入ってもいいのか迷ってたら、ご主人が現れた。
入店と撮影について確認したら、「なにしてもいい」「好きにしていい」と言われたので、それなら好きにさせてもらおう!
こちらがお店として機能してる「ひめじや」さん
タマネギとはかり
意外と商店っぽい?
ひとまず店っぽいところをピックアップしてみたが、引きで撮ると……
カラフルでごちゃっとしてて変わってるけど、屋外ほどの訳の分からなさはない気がする
謎の切り絵装飾
10分、20分経ってもだれも入ってくる気配もない。貸切状態だ。今ならここでなにをしてもいい。
なにをしてもばれないとなっても、なにをすれば
あ、冷蔵庫(ガラス割れ)にぬいぐるみやキンチョール
ひとり貸切状態だからなんでもできる!? と言っても一通り中を見て回ったらそろそろいいか……となった。外に出てみたら、車の中でご主人がくつろいでたので話を聞いてみよう。
すみませーー……
ん!? なんだこれ!!
いきさつとかお店について聞くつもりだったが、ちょっと待て。この車はいったいなに。
「奥さんに弁当作ってもらえないからいつもここでコンビニ弁当食べてる」という食事中だったので、終わるのを待って話をうかがった。
ぎっしりとねじで留められてるペットボトル、これはなに
とにかくどういうことなのか聞こう
車の中まで……いったいどうやってこんなに……と見てたら、針金と100円ショップのねじを使ってるのだと説明してくれた。
この針金でとめるのだそう
――なんでこんなことやってるんですか……?
「かえって目立つけえ外から見て安全。運転しとるほうもなんもなかったらボーっとするじゃろ。これがあることによってな……ニューカーデザインじゃ!」
――ニューカーデザイン…… って、え……。安全のためにやってるんですか?
「色が違っとって分かりやすいじゃろ。追突されたらいけんけえ、うしろのほうも付けとる」
なんと追突防止!?
「店の方も目立って、通行人や車に分かりやすくていいじゃろ」
そりゃ目立つだろうけど。まあ見づらくて衝突するようなことはないんだろうし、注意も払ってもらえそうだけど。
――お店はいつごろからやっておられるんですか? ……というかこのお店は現役なんですよね?
「うちのおじいさんの代(明治)から八百屋をやっとる。今は大きい安売りの店が全盛期じゃろ。じゃけえ配達業務だけしよる」
――その頃はふつうのお店だったんですよね? こんなジャラジャラついてる訳じゃなく……
「こりゃわしがしたんじゃけえ! これはわりと最近じゃ」
店内に2007年にテレビの取材が来たときの写真が飾ってあったが、確かにこんなではない。
8年前は派手めな商店。なぜこんな急激に……
――こんな短い期間になんでこんなことに……。
「捨てるのはもったいないじゃろ」
――え、まさかこのペットボトル全部飲まれたなんてことは……。
「ちがうわなー! スーパーマーケットでいらんもんをもらってくる。あとは拾いモンがほとんど!」
――向かい側の建物も八百屋だったんですか?
「ここもうちのもんじゃけどな、今倉庫になっとる。ここは50年ぐらい前は郵便局じゃった。元の住人が定年で隠居するけえ買うてくれ言うてな」
へぇー、元郵便局。その後八百屋の倉庫になったのか。
倉庫を案内してもらうが、それより左上のセ○ンイレブンっぽい看板が気になる
おおお…… 倉庫……
ひそかに紛れる過去の制作物
ペットボトル以外には一体どういうものがあるんだろう。簡単にいくつか説明してもらった。
まずこれ、ご主人がハタチぐらいのころに「薔薇の聖女、テレジアさんをイメージして描いた」という絵。
これは……今までのペットボトルの蓋とギャップがありすぎる!
薔薇の聖女じゃけえ、ほら、葉っぱがあるじゃろ
なんでも昔は絵の専門家になりたくて、どうしても行きたかった芸大があったけど、受験に失敗。他のところに合格してたが、納得できなかったので辞退。スペインが好きでスペイン語を習おうと学校に行ったがやめ、また再び志望の芸大を受けては落ち、結局大学は行かなかったそうだ。
芸術方面に秀でた人だったのか。……と言っても芸術を追求した結果、八百屋がこうなったという訳でもなさそうだけど。
そしてこれが、ハタチのころの自画像。
自画像!?
――え、自画像!? もしかしてライフマスクを型どりして石膏を流し込んだものとか……
「いや、自分の顔を鏡で見ながら粘土でつくったものを型取って、石膏流し込んだ」
へぇぇーハタチのころ……
現在61歳 (「わしを撮ってどこに載せるのもかまわんけど、そんなもん誰も興味なんか持たん!!」と言ってるところを撮らせてもらった)
そして次は八百屋だから描いたというピーマン。まさか八百屋の名残(?)がこんなところにあるとは。
「丁寧に描いてないけえ! うち八百屋じゃけえ! (ネットに)載せてもいいがこれは絵じゃない! マンガじゃが!」 ……とピーマン撮っていいけど大した絵じゃないとやたら言われた、そのピーマンはどこだ!?(いきなりピーマンをさがせクイズ)
ほかになにか面白いものあります? 一番のおすすめとか……と聞いたら、店の脇の方に連れて行かれた。そこにあったのは……
本物の花……!!
――え、これだけ色々あって花ですか!?
「そりゃこれが一番だ。人間が作ったものはろくなものがない。自然が一番」
まさかリアルな草花がくるとは。
余計になぜこの店がこうなったのかがよく分からない。もう一度なぜこうなったのかという質問を投げてみると、
「絵と同じだ。色んな絵があるじゃろう。わしは絵の専門家になりたかったけどこれじゃメシは食えんけえ、八百屋もあとついでつぶすわけにもいかんけえ、じゃけえこうなった」
と返ってきた。
八百屋をつぶすわけにもいかんけえ……って
だからなぜ。モグラたたきがなぜ
ピーマンはどれだクイズの解答はこれでした
もし見に行った場合には……
話を聞きつつ写真を撮ってると、「自分を撮るのが一番じゃけえ、鏡越しに自分を撮ったほうがいい」と言われた。
こ……こうですか!
「鏡に自分が写ってる写真を撮るのが一番値打ちがある」のだそうだ。
写ってるけどわかりづらい!
うーーーん……
そんな訳で、見に行った人は自分の姿込みで写真を撮ることをおすすめします。
「なぜこんなことに……」という疑問を何度か投げかけたのだが、何度聞いてもふわっとした返答。もしかしたらあんまり意味もないし「ただなんとなく集めたいもの集めてたらこうなってた」ってことなのかも、と勝手に思っている。
今後、更に様子が変わるようなことがあったらまた見に行ってみたい。
店内で冷蔵庫の上の方を見上げたら居たオウムも気になった