特集 2015年3月31日

2メートルの巨大ナマコを食べてみたけど…

まだまだ伸びるよー。
まだまだ伸びるよー。
「オオイカリナマコ」というナマコがいる。日本では沖縄本島をはじめとする南西諸島の沿岸域に多く見られる種で、なんと全長2メートルにも達する。食材として馴染みのあるマナマコはせいぜい20センチほどなので実に10倍である。巨大だ。

もしこれがマナマコばりに美味しかったら大変なことだ。ナマコ業界がひっくり返るぜ。ビッグビジネスの匂いがする。…そんな夢を見ていた。

※骨片によって口腔内を傷つけたり、サポニンで体調を崩す可能性もあります。真似する意味も無いですが、真似しないでください。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。

前の記事:シイタケ栽培の廃ホダ木で昆虫採集

> 個人サイト 平坂寛のフィールドノート

沖縄はナマコ天国

オオイカリナマコは決して珍しい種ではない。今回訪問する沖縄の海では、磯遊びやシュノーケリングをしていると割と頻繁に見かける存在なのだ。
沖縄の海。3月末のこの時季には、もう海開きがちらほらと始まる。
沖縄の海。3月末のこの時季には、もう海開きがちらほらと始まる。
だが、このナマコを食べるという話は聞いたことがない。これはやはり食用に適さないということか。

いや、まだ決めつけるには早い。
現地で「イノー」と呼ばれる遠浅の瀬へやってきた。
現地で「イノー」と呼ばれる遠浅の瀬へやってきた。
そもそも沖縄にはナマコを食べる文化が無い、あるいは本土よりも稀薄なのである。実際、中国で食用に珍重される類のナマコも生息しているのに、沖縄人がそれを食べることはほぼ無い。独特の食文化を築いてきた沖縄にあっては不思議なことでもないだろう。
こういった場所にはたくさんのナマコたちが暮らしている。種類も本土とは比較にならないほど豊富だ。
こういった場所にはたくさんのナマコたちが暮らしている。種類も本土とは比較にならないほど豊富だ。
ということは、ひょっとするとオオイカリナマコも実はおいしいのに、その味が誰にも知られていないというだけの理由で今まで放置されてきたのかもしれない。いや、それはさすがに虫のよすぎる話だと思うが、可能性は捨てきれないだろう。
トロピカルな模様のジャノメナマコ。これもマナマコには劣るが食べられなくはない。
トロピカルな模様のジャノメナマコ。これもマナマコには劣るが食べられなくはない。

長い!くっつく!でもナマコはナマコ!!食えるはず!!

それを確かめるためには兎にも角にもとっ捕まえて調理してみなければならない。

大潮の干潮時を狙って、以前にオオイカリナマコを見かけた磯へと向かう。
潮だまりの中、岩の隙間からニョロリと伸びる影が!これぞ!
潮だまりの中、岩の隙間からニョロリと伸びる影が!これぞ!
捜索開始からほどなくして、潮だまりの底に横たわる細長~いモノが目に入った。太いロープのような、あるいはウミヘビかウツボのようなこの物体こそがオオイカリナマコである。発見までの過程が簡潔すぎる。
即座に発見されたオオイカリナマコ。初めて見る人はなかなかナマコと気づけない。
即座に発見されたオオイカリナマコ。初めて見る人はなかなかナマコと気づけない。
体長2メートルの巨大ナマコ!と聞くと丸太や土管のようなブツを想像しそうだが、実際に見てみるとどうだろう。「デカッ!」よりも先に「長ッ!」という感嘆を漏らす人の方が多いかもしれない。

長すぎて、大多数の人々にイメージされるナマコのシルエットを大きく逸脱してしまっている。
実は、僕も初めて出会ったときはウツボと勘違いしてしまった。
実は、僕も初めて出会ったときはウツボと勘違いしてしまった。
水中では太さこそ見慣れたマナマコに近いが、いくらなんでも長すぎる。神様が生物を作ったのだとしたら、たぶん10等分に切り揃える工程を忘れて出荷してしまったのだろう。
成体は身体を伸ばすと2メートル以上になる。傘と並べるとサイズ感を掴みやすいだろう。これでもさほど大きな個体ではない。
成体は身体を伸ばすと2メートル以上になる。傘と並べるとサイズ感を掴みやすいだろう。これでもさほど大きな個体ではない。
特徴は大きさだけではない。独特の模様と頭部から放射状に伸びる触手のおかげで、何かひどく恐ろしげな生物にも見える。正体を知らずに遭遇したら、まず素手では触りたくない相手だ。
水上に持ち上げると体内に蓄えている水が絞り出されて紐のように細くなる。乱暴に扱うと簡単に千切れてしまうので要注意。
水上に持ち上げると体内に蓄えている水が絞り出されて紐のように細くなる。乱暴に扱うと簡単に千切れてしまうので要注意。
さて、無事に見つかったのでさっそく捕まえさせてもらおう。いくら大きくとも相手はほとんど動かないナマコだ。逃げるわけでも噛みつくわけでもないので、何の苦も無く捕獲できる。

だが一応、注意すべき点もある。
触るとベタッと張りつく!
触るとベタッと張りつく!
持ち上げるとマジックテープのように剥がれていく。ベリベリッと。
持ち上げるとマジックテープのように剥がれていく。ベリベリッと。
オオイカリナマコに触れると、その体表がこちらの皮膚や衣類にベタベタと張り付くのだ。これは粘液を出しているわけではない。「骨片」という肉眼ではまともに見えないような細かい突起が刺さり、引っ掛かっているのだ。マジックテープに近い原理である。ちなみに、この骨片が錨のような形をしていることから「イカリナマコ」の名がついたのだとか。

張りつかれるのが手のひらや指の腹ならたいして問題ないのだが、それが柔らかい箇所の皮膚だとちょっと痛い。勢いよく剥がすと血がにじむこともあるので気をつけよう。

また、身体が非常に水っぽく脆いので、観察する場合はむやみに掴んだり持ち上げたりせず優しく扱おう。今回は食べちゃうけどねっ☆
クーラーボックスに納めると一気に食材っぽく!…なってないね!
クーラーボックスに納めると一気に食材っぽく!…なってないね!
ところで、沖縄在住の知人らにオオイカリナマコを食べる旨を話すと、あんなものを食べるなんてどうかしているとずいぶん驚かれた。が、僕はさして驚くには値しないことだと思っている。

「人類で初めてナマコを食べた人ってすごいよね」という手の話をよく聞くが、それは完全に情報が0からの挑戦だからこそ驚かれ、讃えられ、呆れられるのだ。かたや今回のケースではナマコという生物には食える種類が確かにあるという重要な事実を前例として示されている。心情的にはかなり楽な挑戦である。たいしたことじゃない。

ある生き物がおいしいと分かれば、その近縁種の味に期待するのは当然のことだろう。

あとは致命的な毒が無いことを祈り、もしもの場合に中毒を起こさぬようできるかぎりの注意を払うのみである。
まな板の上に乗ってしまえばもう食材にしか見えない。…わけないね!
まな板の上に乗ってしまえばもう食材にしか見えない。…わけないね!
…まあ色々と書いてみたが、正直に白状すると僕にとっては味が美味かろうとマズかろうとたいした問題ではない。この変な生き物の味を知れれば満足なのだ。

もちろん、もし口に合わなかった場合も完食するために最善の調理法を探りはするが。

ちっちゃくなっちゃった!

さて、海から持ち帰ってまな板に乗せたら、いよいよ下ごしらえ。

なかなか刺激的なので写真の掲載は控えるが、まずは一般的に食べられるナマコに倣って内臓をかき出す。

ナマコの内臓と言えば珍味「このわた」であるが、今回は身肉の調理に手一杯でとてもこちらにまで手を着けることができなかった。まあ、そもそも内臓はおろか身すらも食べられたものか分からないのだが…。
2メートルのナマコが手のひらサイズに縮んでしまった!
2メートルのナマコが手のひらサイズに縮んでしまった!
と、ここで異変が。内臓を除けると同時に体内に溜まっていた水分(ほとんど海水だと思う)が大量にこぼれ抜けた。すると、ナマコのあの巨体は細く薄いリボン状に変貌を遂げてしまった。

手繰ってまとめると、手のひらに収まるほど小さくなってしまう。何が巨大ナマコか。これでは普通のマナマコと大差無い。

この時点で「一匹獲るだけでおいしいナマコが食べ放題!」というオキナワンドリームは霞のように消え去った。
塩もみしてぬめりを落としていく。
塩もみしてぬめりを落としていく。
塩もみしているとピンク色(肉の色か?)のぬめりが泡立ちながら大量に出てくる。正直言って食欲はいくらか削がれる。
塩もみしているとピンク色(肉の色か?)のぬめりが泡立ちながら大量に出てくる。正直言って食欲はいくらか削がれる。

肉が紫色!

だが、ちょっと安心してしまったのも事実。もしおいしくなかった場合、この量なら苦労せずに一匹丸ごと完食できるからだ。もちろん、毒が無ければの話だが。
下処理の済んだオオイカリナマコ
下処理の済んだオオイカリナマコ
体表はウツボのようなまだら模様。
体表はウツボのようなまだら模様。
そして肝心の肉は暗紫色。
そして肝心の肉は暗紫色。
塩で揉んでぬめりをしっかり落としたら、一口大に切っていく。さらに驚いたことに、肉の色は暗い紫色であった。皮の模様と相まって、まったく食欲を喚起しない。しかし、ちょうどこんな配色の食材には以前出会ったことがある。当サイトでも紹介したタウナギという魚だ
タウナギという魚も似たような身の色だったがおいしかった。オオイカリナマコも案外いけるかもしれない。
タウナギという魚も似たような身の色だったがおいしかった。オオイカリナマコも案外いけるかもしれない。
このタウナギが見た目に反してなかなかおいしかった。つまり、肉の色が妙だからと言って食べられないわけではないのだ。ひょっとしたらマナマコに負けない味かもしれない。

もちろん、見た目通りアバンギャルドな味わいである可能性も大いにあるが、それはそれで楽しいのでよしとする。

渋い!えぐい!痛い!

まずはナマコらしく、スタンダードに酢のものでいただくことにした。
オオイカリナマコの酢の物。沖縄らしくシークワーサーを添えるつもりが時季外れで手に入らず。レモンで代用。
オオイカリナマコの酢の物。沖縄らしくシークワーサーを添えるつもりが時季外れで手に入らず。レモンで代用。
火を通さず、限りなくプレーンな状態で食べるのはちょっと勇気がいるが、これならオオイカリナマコ本来の味を噛みしめ、楽しむことができる。

それに、もしこれがおいしければどんな料理に仕立ててもそうそうマズくはならないと断言できる。食材としての可能性を計る試金石となるのだ。

もみじおろしを乗せて、一切れ頬張る。骨片が舌に引っかかりませんように!
おいし…くはないな。
おいし…くはないな。
…「おいしい」か「おいしくない」かで答えるなら、はっきり言っておいしくない。おいしくないかマズいかで言うなら、残念ながらマズいと答えざるをえない。

具体的に言うと、舌の付け根に絡みつき、染み込むような渋みあるいはえぐみがあるのだ。このえぐさはおそらく「サポニン」という成分に由来すると思われる。サポニンはナマコやそれに近縁のヒトデ(ともに棘皮動物)が持っている有毒物質である。なんと食用のマナマコにすら含まれている。彼らはろくに動けない代わりにこのサポニンで身を守っているのだ。

そういえば、サポニンは石鹸のように泡立つ性質がある。ぬめりを落とす際にやたら泡立ったのはこれが原因だったのかもしれない。また、えぐみ以外に多少の生臭さも気になる。

そして骨片による口腔へのダメージだが、これは予想に反して小さかった。舌にちょいちょい引っ掛かりを感じるが、特に痛みは無い。まあ、舌触りは良くないけれど。

また、歯ごたえに関してはナマコらしい「コリコリ」としたものを期待していたが、実際は「ギョリッギョリッ!」という鶏軟骨をやたらタフにしたようなものだった。これはまあナマコと思わなければ、悪い要素とは言い切れないかもしれない。
オオイカリナマコの中華炒め
オオイカリナマコの中華炒め
酢の物は残念な結果に終わったが、まだ諦めない。えぐみの素であるサポニンは水に溶けるらしいので、輪をかけてしつこく塩もみした後で、しっかりと流水に晒してみた。

これを細切りにし、生臭さを飛ばすために中華風の味付けで野菜と炒めてやる。ちなみに、細く刻んだのは歯ごたえから連想したキクラゲに見立てたためである。

さあ、できる限りの工夫は凝らしたぞ。今度はどうだ。
痛い!舌と歯茎に刺さる!そして味もパッとしない…。
痛い!舌と歯茎に刺さる!そして味もパッとしない…。
ナマコを口に運んで二回噛みしめると、舌先にピリッと刺激が走った。味付けが辛かったわけではない。骨片が刺さったのだ。

しかも、かなりしっかりグリップされたらしく、すぐには舌から離れない。二口目は歯茎と口蓋にオナモミの実のようにくっつく。痛いわ!!
炒めたオオイカリナマコの表皮を拡大するとガラス針のような骨片が多数見られる。どの辺が錨型なのかこの写真からはよくわからないが、口に入れたら痛そうだということは見てとれるだろう。
炒めたオオイカリナマコの表皮を拡大するとガラス針のような骨片が多数見られる。どの辺が錨型なのかこの写真からはよくわからないが、口に入れたら痛そうだということは見てとれるだろう。
表面のぬめりがさらに徹底して取り除かれた分、骨片が露出し刺さりやすくなったのだろうか。加熱によって表皮が縮んだのも原因かもしれない。血が出るほどではないが、口内のあちこちに引っかかるのは不快だ。これではキクラゲ代わりにもならないだろう。

しかも、えぐみは多少薄れたものの未だ健在。命を奪っておきながら申し訳ない限りだが、僕には彼をおいしくいただくことはできなかった。

残りの身は酢の物にして、二日間掛けて食べきった。できるだけ噛まず、流し込むようにして。

結論:オオイカリナマコ、食用には向かないようです。

今回は小分けにしながら一匹丸ごと食べてみたが、特に激しい腹痛に襲われたりということはなかった。やや多量に食べた翌日は身体がだるかったが、これは採集・調理・試食に起因する身体的および精神的疲労によるものだと思う。思いたい。

ただし、サポニンは摂取する量や種類によっては人体にも害を及ぼす場合があるらしいのでオオイカリナマコが必ずしも安全とは言い難い。僕がたまたまこの手の物質に強かっただけかもしれないし。

まあ、どちらにせよ食べるものではないよ。デメリットしかないよ。ナマコが食べたけりゃ、お店で買って食べようね。
本土では漁業者以外がナマコを採ることを禁じる区域が多いが、沖縄では目を向けられることもない。そのかわり、シャコガイやモズクなどの密漁が厳しく取り締まられている。
本土では漁業者以外がナマコを採ることを禁じる区域が多いが、沖縄では目を向けられることもない。そのかわり、シャコガイやモズクなどの密漁が厳しく取り締まられている。
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