特集 2013年8月20日

ウナギが無ければタウナギを食べればいいじゃない

ウナギっぽいでしょ?でもウナギじゃないよ!
ウナギっぽいでしょ?でもウナギじゃないよ!
ウナギが減っている。値段が上がっている。保護しなくては。近頃こういう話題をよく耳にする。確かにここ数年でウナギは以前よりも手を出しにくい食品になってしまった。
では代わりに「タウナギ」を食べよう。そうしよう。
1985年生まれ。生物を五感で楽しむことが生きがい。好きな芸能人は城島茂。(動画インタビュー)

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タウナギとは

漢字で書くと田鰻。文字通り川をさかのぼって田んぼに入り込んだウナギのこと…ではない。一応魚類ではあるのだがウナギとはとても縁の遠い種類で、日本本土に生息するのは中国大陸から食用目的で持ち込まれたものだと言われている。つまり食材として定着こそしなかったが、確実に食べられはするわけだ。ちなみに琉球列島にも非常によく似た外見のタウナギがいるが、こちらは在来の違う種類だという。
でも田んぼやその周辺に多いのは名の通りである。
でも田んぼやその周辺に多いのは名の通りである。
聞いた話によると、本土へは奈良に持ち込まれたのがきっかけで定着したそうだ。実際、タウナギは西日本だと奈良県をはじめとする近畿地方にやたら多い。というわけでろくに情報も持たないまま奈良県の某田園地帯へとやってきた。
人様の田んぼに網を入れるわけにはいかないので、その周囲の用水路を捜索する。
人様の田んぼに網を入れるわけにはいかないので、その周囲の用水路を捜索する。
夕方現地に着いて用水路を下見するが、タウナギの姿は無い。この魚は夜行性なのでそれは当然なのだが、本当にいるか不安なので農家の方々に訊ねてみた。すると口々に「タウナギ?おるおる。いくらでもおる。」と頼もしい言葉が。場所はここで間違いないようだ。


「あんなん捕まえてどうすんの?飼うの?」と聞かれたので、「いえ、食べます。」と答えると「ウエ~~~!!」と予想通りの反応が。
一応、「この辺りの人は食べたりしないんですか?」と質問してみるも「食わんわ、あんなもん!」と笑いながら突っ込まれた。
ちなみに稲作農家以外の人には「タウナギを探しています」と言っても通じない場合があったが、「夜、水路にいるヘビみたいなやつ…」と言えばほぼ確実に「あー、あれね!」と返ってきた。

これ本当に魚類か?

さて、日が完全に落ちたらこちらもタウナギも活動開始。狩りの時間である。
と言っても特に罠を仕掛けたりといったことはせず、ライトで水路を照らしながら歩くだけという地味な作業である。
水路にニョロっとした魚が泳いでいたので掬ってみたが、残念ながらタウナギではなく大きなドジョウだった。
水路にニョロっとした魚が泳いでいたので掬ってみたが、残念ながらタウナギではなく大きなドジョウだった。
夜の用水路は賑やかで、ザリガニや小魚にはじまり、カメやカエルなどが次々飛び出してくる。しかし今夜はそんな生き物にかまっている暇は無い。タウナギはどこだ。
おや?
おや?
探し始めて20分ほどだろうか浅い用水路の底に黄色っぽくて細長いモノが沈んでいる。
なあ、これだろう。おまえだろう。そうだろう。
ああタウナギだ。
ああタウナギだ。
間違いなくタウナギである。意外にあっさり見つかった。
黒っぽいウナギと違って色が明るいので意外と目立つ。しかも浅い場所にいるからなおさらだ。それに照らしても写真を撮ってもあまり動かない。獲物を待ち伏せしているのだろうが、この肝の据わりっぷりは何なのだ。ならば遠慮なく捕まえさせてもらおう。しかし、いざ水中に網を入れると慌てて逃げ場を探し始めた。
タウナギ確保!
タウナギ確保!
あっ、こいつ肝が据わってるとかじゃなくて自分の危機に気付いてなかっただけか。だがもう遅い。

網に収まった魚を観察すると、とても面白い形をしていることに気付く。確かに体型はウナギに似て細長いが、なんと魚類最大の特徴であるヒレがどこにも無いのだ。いや、厳密には尾の辺りに背ビレの痕跡だけがかろうじて残っているが、とても何かの役に立っているようには見えない。
タウナギの顔。エラの穴も普通の魚と形が違い、目立たない。
タウナギの顔。エラの穴も普通の魚と形が違い、目立たない。
正面から見ると
正面から見ると
ヒレが無いだけではない。エラも顔つきもなんだか普通の魚と違う。たぶん初めて見る人はすぐには魚だと判断できないんじゃないだろうか。それこそヘビか何かだと思ってしまうだろう。
皮膚の色も黄土色の地肌に黒いまだらというウナギのそれとは程遠いものである。むしろ南方系の種類であるオオウナギに近い。
これは沖縄のオオウナギ。色は似てるけどちゃんとヒレもある。
これは沖縄のオオウナギ。色は似てるけどちゃんとヒレもある。
確かに他の魚類に例えるならウナギに近いが、見れば見るほど実はそんなにウナギに似ているわけではないことに気付く。テレビでそっくりさんショーを冷めた目で見ているときに起きるあの現象である。

では肝心の味はどうか!さっそく蒲焼きにして確かめてみたいが、ひとつ問題がある。
小指より細い…
小指より細い…
ファーストタウナギは蒲焼きには小さすぎたのだ。本来タウナギはウナギに負けず劣らず大きく育つ魚だというし、もっと大きなものも捕まえなくては。
しかしそんなに次々見つかるものだろうか。
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奈良の田んぼはタウナギ天国!

いや、次々見つかるものである。明るい内はどこにいたのか、あちこちの用水路にタウナギの黄色い影が浮かび上がる。
石垣の隙間やコンクリートの穴から顔をのぞかせていたり
石垣の隙間やコンクリートの穴から顔をのぞかせていたり
ただし、やみくもに用水路を照らして回れば良いというものでもないようだ。
注目すべきは水深で、タウナギは深さ5センチから20センチくらいと浅く水の張った流れの緩い水路に多かった。タウナギは魚のくせにエラ呼吸だけでなく、水面に鼻先を出して空気を直接吸い込む呼吸もする。浅い場所を好むのは餌を待ち伏せしながらその場で呼吸を済ませることができるためだろうか。
もう半身が水から出ちゃってたり。
もう半身が水から出ちゃってたり。
捕まえていて気付いたのだが、タウナギは泳ぎがかなり下手くそである。捕まえ損ねて泳いで逃げられても小走りで追いつけてしまうほどだ。その代わり、小さな穴やせまい隙間に潜り込む能力にはヘビもウナギも顔負けするほど長けている。そのためにヒレと泳ぎを捨てる進化を果たしたのだろう。流れの強い場所にいなかったのはこのせいかも。
これで平均的なサイズ。胴周りは親指より一回り太い程度。今回捕まえた最大のもので直径3センチくらい。
これで平均的なサイズ。胴周りは親指より一回り太い程度。今回捕まえた最大のもので直径3センチくらい。
姿を見つけてしまえばあとは簡単だ。網を構えて追い込むか、砂利ごと掬い取ってやればいい。失敗しても岩の隙間などに潜られる前に急いで回りこめばOK。こんなに簡単な魚捕りもそう無い。ただし、隠れ家から首だけ出している状態のものは網だと難しい。エサでおびき出して釣ることもできるが、さっさとあきらめて次のターゲットを見つけた方が効率的だ。
捕ったタウナギはスポーツジャグに入れて運搬した。エラ呼吸よりも空気呼吸に頼る魚なので水はほんの少しでよい。
捕ったタウナギはスポーツジャグに入れて運搬した。エラ呼吸よりも空気呼吸に頼る魚なので水はほんの少しでよい。

釣ってやる!エサは俺の指だ!

タウナギ、いくらでも採れる。一人で味見するには十分すぎる量があっという間に集まる。なんてちょろい魚だ…。と、ここで妙な欲が出てきた。もっと面白い方法で捕まえたい。
そこである仕掛けを考えた。自分の指そのものを餌にしてタウナギを釣るのだ。

自身の指に釣りバリを装着。ちょっと怪我が怖かったので指サックを買ってきた。
自身の指に釣りバリを装着。ちょっと怪我が怖かったので指サックを買ってきた。
なぜこんな馬鹿っぽいことを思いついたかと言うと、どうもタウナギは主に水の振動を頼りに餌を探しているように思えたからだ。その証拠に、近寄ってもライトで照らしても逃げ出さなかった。これは目が悪くてこちらに気付けなかったのではないか。じゃあ匂いに頼っているのでは?とも思ったが、新鮮なザリガニの死体が近くにあるのにまったく気づいていないタウナギも見かけたのでそういうわけでもなさそうだ。となると餌が動き回る振動を感じ取り、襲っているに違いない。
ならば、タウナギの目の前で小動物を装って指先を動かせば食いついてくるのではないだろうかと考えたのだ。
指に噛みつかせるまではできるようになったのだが…
指に噛みつかせるまではできるようになったのだが…
試してみると、この推理はほぼ当たっていた。怪訝そうに指先を見た後で逃げて行く者も多かったが、数匹のタウナギは目論見通り指に食いついてきた! ちなみに噛みつく瞬間に「チュパッ!チュパッ!」という威勢のいい音を立てるのが可愛くて面白い。しかし思ったよりも口が小さく、なかなかハリを咥えてくれないままどこかへ去ってしまう。
釣れた!なぜこんなブレた画像しかないのかと言うと、この直後に逃げられたからです。
釣れた!なぜこんなブレた画像しかないのかと言うと、この直後に逃げられたからです。
どうしてもこの方法で捕まえたくなってしまったので、残り時間は終電まで水路に指を突っ込み続けることにした。どんどん釣りバリを小さくしていった結果、開始後約2時間、通算13尾目のチャレンジでようやく釣り上げることができた。その決定的瞬間が上の写真だが、そのまま空中でハリが外れ、マイ・メモリアル・タウナギは元いた水路へと落ちていった。

肉の色まで魚っぽくない

何とも不完全燃焼な結果に終わったが、何はともあれ試食分は確保できたのだ。これでよしとしよう。というわけでいよいよ自宅へ持ち帰り調理に移る。
捌き方自体はウナギやアナゴと同様でまったく問題無かった。
捌き方自体はウナギやアナゴと同様でまったく問題無かった。
えぇ…。
えぇ…。
身肉が赤黒い…。灰の肉に血の赤が乗ったような色だ。
ヒレが無かったり空気呼吸したり指で釣れたりと変わった点はたくさんあったが、一体どこまで常識外れなんだこの魚は…。
何と言うか…。魚肉の色じゃない。
何と言うか…。魚肉の色じゃない。
魚の身の色は白身が基本で、たまにマグロのような鮮やかな赤身の魚がある程度だ。サケ・マスの類は橙色だったりと例外もあるが、こんなにえげつない身色の魚は初めて見る。
皮の面は遠目にはウナギっぽくも見える。
皮の面は遠目にはウナギっぽくも見える。
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見た目はウナギに近付いたが…

まあ食材を見た目で判断してはいけない。中華や台湾料理ではメジャーな食材だと聞くし、案外味の方は素直においしいかもしれない。とにかく実際に食べて確認してみなくては。
まずウナギの代用になるかを検証するため、一品目は蒲焼きを作ってみる。
ウナギorヘビ?と問われればヘビと答えるかも。
ウナギorヘビ?と問われればヘビと答えるかも。
白焼きにすると見た目は少し落ち着いたが、それでもウナギと言い張るにはややユニークか。ヘビの肉だよと言われれば一瞬信じてしまいそう。

でもタレをたっぷり塗って蒲焼きするとそれなりにウナギっぽくはなった。
でもタレをたっぷり塗って蒲焼きするとそれなりにウナギっぽくはなった。
違和感を大量の蒲焼きのタレで塗りつぶしながら焼きあげると、見た目は意外なほどウナギに近付いた。ひょっとしてこれはイケるのでは。
皮もいい感じにウナギっぽい
皮もいい感じにウナギっぽい
さあ、かぶりついてみよう。
さあ、果たしてタウナギはウナギ不足解消の救世主となるのか!?
さあ、果たしてタウナギはウナギ不足解消の救世主となるのか!?
救世主にはならんやろうねぇ…。
救世主にはならんやろうねぇ…。

一口かじった瞬間、「おっ、ウナギじゃんこれ!」と「全然ウナギじゃないわこれ…。」という感想が同時に交錯し、間もなく後者が勝ち残った。
ちょっと身が薄すぎたか?焼きすぎたか?そしてよく見るとやっぱり黒いなあ…。
ちょっと身が薄すぎたか?焼きすぎたか?そしてよく見るとやっぱり黒いなあ…。
どういうことかと言うと、香りはそこそこウナギに似ているのだ。この点では代用魚としてよく挙げられるアナゴにも勝っているかもしれない。しかしそれを打ち消すほどに食感が違いすぎる。脂が少なく、やけに肉質が硬いのだ。ちなみに味自体はタレが強すぎて正直言ってよくわからなかった。
煮アナゴを模した煮タウナギ
煮アナゴを模した煮タウナギ
アナゴのように柔らかく煮ればあるいはと思ったが、やはり硬い。プリッ、ギョリッという食感で魚っぽくない。調理法うんぬんでなく、こういう肉質の魚なのだろう。これはどうやら、ウナギ的もしくはアナゴ的に扱うにはいよいよ向いていないらしい。残念である。
が、せっかく捕ってきたタウナギを無駄にするわけにはいかない。せめて、残った分はきっと美味しく食べてやろうじゃないか。

本場に倣うとすごくおいしい!

ならばタウナギ料理の本場である台湾や中国の調理法を真似しようと、ネットでタウナギの中国名である「鱔魚」を検索してみた。すると「鱔魚麺」なる料理がやたらたくさんヒットするではないか。よし、これを作ってみよう。
刻んだタウナギをニンニク、タマネギ、ニンニクの芽と炒め、オイスターソースやらなんやらで味付けして餡を作る。
刻んだタウナギをニンニク、タマネギ、ニンニクの芽と炒め、オイスターソースやらなんやらで味付けして餡を作る。
とはいえ中国語のレシピは読めないし、揃えられない食材もあったので結局ほぼ我流になってしまった。欧米のSUSHI職人が作る奇抜な創作寿司のように、オリジナルとは別物になっている可能性は否めないが、当たらずも遠からずの出来にはなっただろう。

タウナギ餡を中華麺にかけて完成!
タウナギ餡を中華麺にかけて完成!
ちなみに、しっかり味わえるようタウナギはかなり多めに投入した。現地の鱔魚好きが見たらよだれを垂らすこと請け合いである。
いきなり出されたら何の肉かまったく見当がつかなそう。
いきなり出されたら何の肉かまったく見当がつかなそう。
手前味噌だが、かなりおいしそうに仕上がった。まあ基本的にはごく普通の台湾・中華料理なのだからおいしくなってしかるべきなのだ。懸念材料はタウナギのみである。最終的においしくなるかまずくなるかはこいつの働き次第だ。いざ試食!
豪快にいただきます!
豪快にいただきます!
これは文句なしにうまい。
これは文句なしにうまい。
ああ、これはおいしい。向こうの人々が好んで食べるだけのことはある。炒められたタウナギはサクサクとした歯ごたえで、豚肉と魚の中間のような食感。そこに皮のプリッ、プチッとした独特の歯ごたえが加わる。この不思議な食感がタウナギの魅力に違いない。しかもタウナギの肉は主張が強くない味なので、餡と絡むと何の肉を食べているのかまったく分からない。それほどの新食感。だけどクセは無くおいしい。あっという間に平らげてしまった。

食材には適材適所というものがある

結論をまとめると、タウナギはウナギの代用には向かなかった。しかし同時に、適した調理法によって大化けすることもわかった。ちなみに、聞くところによると中華や台湾料理では普通のウナギは昔からあまり使われず、タウナギの方が重用されるそうだ。適材適所と言うやつだろう。しかし、最初にタウナギを持ち込んだ際に正しい調理法とそのおいしさを広めることができていれば、現代日本における彼らの立ち位置も変わっていたのかもしれないなと思ってしまう。
奈良は金魚養殖が盛んな地域。養魚業者さん曰く、タウナギは池に入り込んで金魚を食べてしまうので嫌われているそうだ。
奈良は金魚養殖が盛んな地域。養魚業者さん曰く、タウナギは池に入り込んで金魚を食べてしまうので嫌われているそうだ。
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