特集 2015年3月19日

武蔵野線の立坑めぐり

この物置みたいなのが街中にいくつかあるので探してめぐるという超絶地味な企画です
この物置みたいなのが街中にいくつかあるので探してめぐるという超絶地味な企画です
散歩は好きだがまだ寒さの残るこの時期、敵は尿意である。

以前に玉川上水沿いを散歩していたとき、やはり途中で催していまい、やや内股になりながら小走りでトイレを探した。すると、遊歩道の先の方に小さな建物が見えてきた。

トイレだ!と思い、残った力を振り絞って走り寄ったのだが、その建物はトイレではなかったのだ。
1974年東京生まれ。最近、史上初と思う「ダムライター」を名乗りはじめましたが特になにも変化はありません。著書に写真集「ダム」「車両基地」など。
(動画インタビュー)

前の記事:積雪3m!真冬のダム見学会

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それは立坑

その建物の入口ドアは固く閉ざされていて、脇には「玉川上水立坑」と書かれた看板が貼られていた。
そんなの嘘だ!トイレだと言ってくれ!!
そんなの嘘だ!トイレだと言ってくれ!!
もう状況が切羽詰まったこっちからすれば「ドッキリ大成功」の看板を見せられた気分である。夕方の遊歩道で、半泣きでキレた。

とまあそんなことがあり、最近になってそう言えばあれ立坑って書いてあったな、と思い出したのだ。

立坑というのは鉱山の出入口のような、地下の空間に降りていくための道である。ほかに、長いトンネルを掘るときにそれぞれの入口からだけでなく、途中の場所に向かって上から立坑を掘り、そこから外に向かってトンネルを掘っていく場合もある。

玉川上水沿いのこの立坑はどこに繋がっているんだ?地下に水路でも通っているのか?と思って地図を見たら驚いたと同時に納得した。
線路が通っている、そして立坑が地図に載っている!
線路が通っている、そして立坑が地図に載っている!
あの地面の下には武蔵野線のトンネルが通っていたのだ。ということはあの立坑はトンネルを掘るにあたって造られたのか。確かに西国分寺駅から新小平駅の間は長いトンネルである。でも、府中本町駅と北府中駅の間、新小平駅と新秋津駅の間にも長いトンネルがある。もしかすると、そこにも立坑があるかも知れない。

また、立坑が地図に載っている、というのも面白いと思った。地図上で、武蔵野線をたどればほかの立坑が見つかるかも知れない。あと、遊歩道に対して微妙に違う角度で建っている、というのが地図上でも分かるのがいい。

なんだか妙に好奇心が湧き、立坑を探してめぐってみることにした。トイレと間違えて酷い目に会わされたのは水に流す!

いきなり見つかる

まず武蔵野線の始発駅、府中本町から北に向かって探してみることにした。グーグルマップで線路の上をたどって行くと、いきなり見つけてしまった。線路の真上に建つ、周りの建物とは角度の違う小さな建物。これは間違いないでしょ!
線路の真上で線路と同じ角度の小さな建物
と思って見に行ってみたら違った
と思って見に行ってみたら違った
鼻息荒く向かってみたら、そこにあったのは正真正銘の物置。ぐうの音も出ないとはこのことである。さすがにそんないきなり見つからないかー。

線路と角度が同じなのは、線路の真上の敷地が線路と同じ形に公園になっているからで、まだトンネル入口から近いこのあたりは、ひょっとしたら開削工法(穴ではなく溝を掘って上にフタをかぶせるトンネルの造り方)だったのかも知れない。フタの上を公園にしたのだろうか。

しかし、実はそのすぐ北にも怪しい建物を見つけていた。こっちは線路の真上ではなく少し脇に、でもまわりの建物とは関係なく線路と平行に建っている。
なぜこの建物だけ向きが少し違うのか
こ、これは!!
こ、これは!!
思わず外人のように「Bingo!」などと言ってしまった
思わず外人のように「Bingo!」などと言ってしまった
武蔵野線関連施設である動かぬ証拠
武蔵野線関連施設である動かぬ証拠
正直、まさかこんなにすぐ見つかるとは思っていなかった。玉川上水のところ以外に立坑が存在するかどうかも分からなかったのだ。

それにしても存在感のない建物である。知らなければ完全に街の景色の中に消えている。だけど、いちど気づいてしまうともう気になって仕方ない。

扉には「列車通過中扉の開閉注意」と書かれていて、これが鉄道関連の施設だと分かる。たぶんトンネルの中を列車が走っていると強風が吹くのだろう。

偶然これを見つけたことで俄然テンションが上がった。きっとほかにも立坑はあるはずだ。

やはりグーグルマップさまさま

その後も、線路に沿ってグーグルマップを少しずつスクロールさせながら、「線路の近くに建つ線路と同じ向きの小さな建物」を探した。

そんな意味の分からない探索で役立ったのがやはりストリートビュー。怪しい建物を見つけてもあらかじめ確認することができるのだ。
たとえば距離感や大きさは文句ないけど角度が微妙なこの建物は
防災倉庫だったり
地図記号で何となく予想がつくけどこの建物は
高圧鉄塔だったり(結局実際に見に行った)
高圧鉄塔だったり(結局実際に見に行った)
(黄色いマーカー)少し遠いけど向き、大きさともに完璧だと思ったこの建物は
なんだか東京ガスの設備だった
なんだか東京ガスの設備だった
そうして、グーグルマップを凝視しながら怪しいと思った場所にどんどんマーカーを立て、後日それをめぐってみたところほかにも何カ所か立坑を見つけた。

そんな立坑たちを次ページ以降でご紹介したい。

住宅地にたたずむ立坑

それほど長さもないせいか、府中本町から北府中の間のトンネルには1ヶ所しか立坑を発見できなかった。その先、西国分寺から新小平の間の長いトンネルは長いので期待できる。グーグルマップでトンネルの上を進むと、住宅地の中に怪しい建物を見つけた。
赤いマーカーの建物だけ微妙に向きが違わない...?
立坑だ!立坑と書いてあるぞ!!
立坑だ!立坑と書いてあるぞ!!
左の建物はエアコンがついていた。何だろう。
左の建物はエアコンがついていた。何だろう。
予想通り、怪しい建物は立坑だった。我ながらいきなり探索のコツを掴んでしまったようで、その役に立たなさは恐ろしいほどだ。

ここには立坑を利用する作業員さん向けの注意看板があった。そうか、立坑って建設時だけじゃなく、現在も線路の点検などで人の出入りに使われているのか。
注意の内容が割と学校チックだった
注意の内容が割と学校チックだった
柵に番号がついていた。府中のは51番だったけど間に3つ立坑あるとかじゃないよね
柵に番号がついていた。府中のは51番だったけど間に3つ立坑あるとかじゃないよね
そこからもう少し北に進むと玉川上水に行き当たる。そしてそこには以前に見つけた立坑が、変わらぬ姿で佇んでいた。
すべてはここから始まった
やっぱりトイレっぽいよね
やっぱりトイレっぽいよね
よく見ると扉は溶接されて、現在は使われていないようだ
よく見ると扉は溶接されて、現在は使われていないようだ
だけど反対側に立派な扉がついていた
だけど反対側に立派な扉がついていた
玉川上水の岸は交差部分だけコンクリート造りだった
玉川上水の岸は交差部分だけコンクリート造りだった
ここはすべての立坑の中で唯一、柵に囲われていないので建物に直接触れるところまで近づくことができる。しばらくの間観察していると、とつぜん扉の隙間から風が勢いよくピューピュー吹き出し、どこからともなく響くような轟音が近づいてきた。

やがて、足下から「ゴゴンゴゴン...」と列車の走る音とともに細かな振動が伝わってきた。感じる、線路は見えないけれど、ここでは確かに武蔵野線の息吹を感じる!

列車が来ない間は上水の流れる音と鳥のさえずりくらいしか聞こえない場所なので、底の方から響く重低音と振動は現実離れしてて面白い。初心者にお勧めしたい立坑である。

さらに北に進むと、武蔵野線は真北からやや東向きに進路を変えて、ほぼ南北に走る道路や住宅地を斜めに横切るようなかたちになる。
これを見つけたときの胸の高鳴りと言ったらなかった
その結果、こんな景色が生まれた。
整列した住宅の中に紛れる異端
整列した住宅の中に紛れる異端
たぶん住宅が後からできたんだろうけど、きっと邪魔だよね
たぶん住宅が後からできたんだろうけど、きっと邪魔だよね
まるでサンゴの中に住むカニのように、住宅街の中に紛れ込む立坑。地下で線路が斜めに横切っているので建物もやや斜めに配置されていて、集団の中のアウトロー感がすごい。こいつはロックだ。
このフェンスと建物のギリギリさ!
このフェンスと建物のギリギリさ!
このへんの住民は遊びに来た友達とかに必ず「あれ何?」と聞かれてるだろうな
このへんの住民は遊びに来た友達とかに必ず「あれ何?」と聞かれてるだろうな
その先で武蔵野線は新小平駅に到着。いったんトンネルから顔を出し、駅を出るとまたすぐトンネルに入る。

立坑めぐりも後半になり、いかにも武蔵野線沿線、といった景色の中を進んで行く。
農地と新興住宅地のコントラストが武蔵野線っぽい
農地と新興住宅地のコントラストが武蔵野線っぽい
すごい安い自販機があった
すごい安い自販機があった

相変わらず立坑

武蔵野線は新小平駅を出るとすぐにまたトンネルに入って行くのだけど、ここは立坑を見つけるのにかなり手間取った。古くからある住宅街のような場所なので、線路際に立坑用の土地を見つけるのが難しかったのだろうか。
ちなみに新小平駅周辺はいい感じの用水路がたくさんあった
ちなみに新小平駅周辺はいい感じの用水路がたくさんあった
こういうクランクっぽい流れも好き
こういうクランクっぽい流れも好き
地図上で何度か行ったり来たりしているうち、線路からやや離れた場所に怪しい建物を見つけた。これが目に入ったときは思わずガッツポーズが出た。
これ、怪しくない?きっとこれじゃない?
もう後姿だけで分かるようになってしまった
もう後姿だけで分かるようになってしまった
ここは妙に土地が広い
ここは妙に土地が広い
次の立坑を見つけたのは偶然だった。地図上ではまったく気づいてなくて、実際現地でめぐっているときにたまたま目の前を通りかかったのだ。

不意に立坑が目の前に現れると、人は思わず「おぁー」なんて声が出ることが分かった。あと慌てて自転車で転びそうになる。
ちょっとこれは分からなかった
これを見つけたときの驚きといったらあんた
これを見つけたときの驚きといったらあんた
大通り沿い故か中にゴミがたくさん捨てられていた
大通り沿い故か中にゴミがたくさん捨てられていた
いつかこういう街中のグラフィティがいったい何を描いているのか教えてもらう企画やりたい
いつかこういう街中のグラフィティがいったい何を描いているのか教えてもらう企画やりたい
次はいよいよ最後の立坑。ここは地図で見つけたとき、あまりの不自然さに確信があった。ここまで読んでくれた皆さんもこれはと思うだろう。
これは間違いなく武蔵野線関係の建物だろう
街並みの規則性とは関係なく、線路と平行に立ち並ぶ建物。ちょうどストリートビューで見られない場所だったこともあって、この目で見てみたいと思っていたのだ。
いつの間にか61番まで来た
いつの間にか61番まで来た
中は雑草がボーボーだった...廃立坑?
中は雑草がボーボーだった...廃立坑?
この立坑はしばらく手入れされていないようで、雑草が伸び放題だった。もう使われていないのだろうか。

と、何気なくあたりを見まわしたとき、僕の立坑センサーが何かに反応した。
道路を挟んだ反対側はJRの変電所だった
道路を挟んだ反対側はJRの変電所だった
きっと武蔵野線に電気を送っているのだろう
きっと武蔵野線に電気を送っているのだろう
しかし僕が反応したのはこっち。フェンスに番号が貼ってある!!
しかし僕が反応したのはこっち。フェンスに番号が貼ってある!!
ここまで見てきた立坑のいくつかに貼ってあった番号札。その続きの番号が貼ってあるということは、ここにも立坑があるのだろうか。フェンス沿いに奥の方に進んでみると、こんな建物があった。
階段がついてて今までになかったタイプ!
階段がついてて今までになかったタイプ!
基礎が変電所の建物と一体化していた
基礎が変電所の建物と一体化していた
建物の並びは向かいの立坑の延長線上にある
最後の建物には名前が書かれていなかったので、立坑かどうかは分からない。

そこから1kmほど北上するとトンネルの出口があった。結局、始発駅の府中本町からトンネル出口の新秋津までのおよそ12kmの間に8カ所の立坑を発見した。この数の多さはちょっと意外だった。

たぶん、これからは地下を走る路線の近くを通るとき、無意識に立坑を探してしまうと思う。

誰も気にしてないインフラ探し

ホントしょーもない出会い方をした立坑だけど、天気のいい休日にサイクリングがてらめぐってみたら意外と楽しかった。

いや立坑自体は物置みたいな地味さだけど、「地図上の建物の位置や向き、大きさで判断して見に行く」というのはクエスト要素があると思うので、ヒマなときにお近くの立坑のある路線でトライしてみてください。

あ、あと番号札の謎(どこから始まって、それから抜け番号があるのはなぜか、とか)をご存知の方いましたら教えてください。
トンネル出口まで行ったけど1日にママチャリで25kmくらい走って疲れた
トンネル出口まで行ったけど1日にママチャリで25kmくらい走って疲れた
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