厳密に言えば放流は毎日している
鑑賞難度:★(5つが最難)
最初に「ダムは思ったより放流しない」と書いたけど、実はほとんどのダムは毎日、というか常に放流している。ダムは水を貯めるものだけど、下流の川が枯れないように、一定量の水は常に流さなければならないのだ。
だけど、これがそのダムからの「放流」に見えるところはほとんどない。
堤体じゃないところに開いた穴からじょぼぼぼと流れるこれは僕らが見たい「放流」じゃない(長島ダム)
水の出口を上向きにすることで噴水にするというナイスアイデア(真名川ダム)
真名川ダムの噴水はポンプではなく、ダム湖からパイプを伸ばしてダムに貯まっている水の圧力で吹き上げているので、ダムの貯水量で噴水の高さも変わるらしい。観光客も増えたようでアイデアはすばらしいけど、やっぱり「ダムからの放流」っぽくはない。
そのほか、下流の田んぼや飲み水用の水も必要なときにダムから放流されるけど、わざわざ本体の水門を開けることはほとんどなくて、それ用につけられたバルブから流したり、水力発電所がついているダムでは発電所経由で流してしまう(そのほうがお金になるから)。水力発電は密閉された中で行われていて、少しでも落差を稼ぐために水の出口は水面下だったり何キロも下流だったりするので、やっぱり豪快にざばーと流れ落ちる様子は見ることができない。
ダム脇のバルブから放流してるけどせっかくなら上の水門を開けてほしい(金山ダム)
右下の発電所からかろうじて放流されているのが見える(三面ダム)
しばしば渇水や大雨でニュースになるダムも普段は発電所(右下)から水を流しているだけ(早明浦ダム)
早明浦ダムは毎年のように大雨や渇水と戦っていて、台風が来ると上についている6門の水門を開けて鬼気迫る放流を見せてくれることもあるけど、日常は本体の横に造られた発電所を経由して、下流のうどん屋に淡々と水を供給している。
というわけで、普段の生活ではダムが豪快に放流している姿を見ることはほとんどない。ではいったいどうしたら、あの迫力のある光景を拝むことができるのだろう。
観光放流を見ればいいじゃない
鑑賞難度:★★★(5つが最難)
天気や季節にそれほど左右されず、ダムからの放流をいちばん気軽に眺められるのは観光放流だ。
観光放流は、その名の通り観光客向けの観賞用の放流で、発電にも使っていないし、せっかく貯めた水をタダで流してしまうんだからダムにとってはサービスである。でもそれを目当てにお客さんが来るとすれば、経済効果はあるだろう。ダムには1円も入ってこないけど。
日本で決まった日時に観光放流を行っているダムは3ヶ所。中でもいちばん有名なのは何と言ってもやっぱり黒部ダムだ。日本中どこから行くのもちょっと大変だけど、特にダム好きじゃなくても1度は行った方がいいと思う。
6月下旬から10月中旬まで毎日この大迫力の光景が見放題である(黒部ダム)
詳細は
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真下で見ていると想像以上の水量にずぶ濡れになる(宮ヶ瀬ダム)
詳細は
公式ページへ
週1日で時間も短いけど量は多く観光客も多い
札幌から1時間の巨大アーチダムも黒部ダムのような放流(豊平峡ダム)
※立入禁止場所から許可を得て撮影
宮ヶ瀬ダムの観光放流は毎週水曜日。平日なのに、時間になるとどこからともなく大勢の人が集まってくる大人気イベントだ。想像よりも水量も多くて大迫力。真下で見ていると全身ずぶ濡れになる。
僕は宮ヶ瀬ダムに心酔しているので、初めて放流を観たとき「宮ヶ瀬様のありがたい御飛沫だ!」などと言って全身に浴びたのだけど、家に帰ったら熱が出て1晩寝込んだ。
...とにかく、時間と場所さえ合わせればほぼ確実に見られる観光放流を見るのはそれほど難しくないだろう。
しかし、およそ3000基近くもある日本のダムの中で、観光放流を行っているのがたった3ヶ所とはちょっと驚いた。全体の0.1%である。では、観光放流をしているダムが近くにない多くの人々はどうしたらいいのだろう。
雪国のダムなら雪融け放流だ
鑑賞難度:★★(5つが最難)
どんなダムでも、大雨が降れば多かれ少なかれ放流を始める。でも「大雨が降る」というのがダム放流の理由ではなくて、大雨が降った結果、川の水の量が多くなるから、それでダムに流れ込んでくる水の量とダム下流の状況を見ながら、最善の状況にコントロールするために放流をするのだ。
でも雨は強くなったり弱くなったりするし、時間帯も選べないから、そういう状況を狙って観に行くのは難しい。しかし、大雨じゃなくても長期間にわたって川の水の流れが増えることがある。それは春の雪融け。
だいたい3月から5月くらいまでの間、豪雪地帯にあるダムには大量の雪融け水が流れ込んでくる。それは貯水池を完全に満たし、それを超えた分はそのまま放流されるのだ。でも大雨のときのような荒々しい放流ではなく、かと言って普段の維持放流のように大人しくもない、ダムにとってはお祭りのような期間と言える。
最初に雪融け放流の存在を知ったのがここで、以後毎年のように観に行っている(奈良俣ダム)
これぞ日本の標準的ダム、というバランスのいい形のダムが豪快に放流(藤原ダム)
豪雪地帯、山形県ではこんな豪快でかっこいいシーンが毎年何日間も無料公開されているのだ(月山ダム)
こんな見事な放流なのに鑑賞しているのは僕1人だった(鎧畑ダム)
ただし、雪融け放流の場合いつ始まっていつ終わるのかが分かりにくい。だいたいゴールデンウィーク明けくらいまでは行われていることが多いけど、その年の積雪や気温の状況によって早まったり遅くなったりすることもある。
このあたり、自然を相手に働いているダムを観に行くにあたっては、こちらも自然の機微を感じ取る必要があるのだ(適当)。
ゲートの点検で放流することもあるぞ
鑑賞難度:★★★★(5つが最難)
最近徐々に増えてきた、というか、昔から行われていたけど、情報が表に出るようになって人々が観に行けるようになったのが最近、という放流がある。それがゲートの点検放流である。
放流ゲート、つまり水門がついているダムは定期的に水門の動作チェックを行っている。内容は単に水門を上げ下げするだけだけど、そのとき貯水池の水位がゲートの下端よりも高ければ、水が流れ出してしまう。
以前は貯水池の水位が低く、ゲートを開けても水が流れない時期にこっそり行われることが多かったゲート点検、なぜか最近、各地のダムがこぞって水位が高い時期に点検を行い、「点検放流」と謳って事前に告知するようになった。実際、ここ数年で完成以来初めてクレストゲート(ダムのてっぺんの水門)からの放流を行ったダムがいくつもあって、どこも大勢の観客が詰めかけているのだ。毎年の恒例行事になったダムもあり、そう言う意味では観光放流に近いのかも知れない。
公開点検放流ブームの火付け役、とも言える下久保ダム。2005年に完成以来初めてクレストの2門を開け、その後2008年にはこの通り4門同時に開けるというダム好きからすれば信じられないアクロバットを敢行
その翌年、でかいけどどこか地味だった玉川ダムが突如、完成以来初めてのクレストゲートからの放流を、しかも4門すべてで行うと発表、思わず泊まりがけで秋田まで観に行ってしまった
あたりまえの光景みたいだけどすごいことなんだよ滅多に見られないんだよ
個性派揃いの利根川水系のダムの中では思わず忘れられがちな薗原ダムも、まるで大学デビューしたかのように派手なクレスト点検放流を実施
この公開点検放流、いい感じに各地のダムに広がっていた。きっとダムの職員の皆さんも、放流したことのないゲートから水を流してみたかったんだと思う。しかし、3月の大震災とその後の電力危機の影響で、今年はほとんど行われなかった。来年はまた復活してもらいたい。
点検放流の情報は、テレビや新聞で紹介されることはまずないと思うので、見たいダムのホームページをこまめにチェックするか、mixiのダム好きコミュニティに入ったり、twitterでダム好きを誰かフォローすれば情報が流れてくると思う。
ダムが完成したときには必ず放流する
鑑賞難度:★★★★★(5つが最難)
いろいろな機会があるダムの放流の中で、いちばん観るのが難しいのがダムが完成したときの試験放流だ。ひとつのダムで一生に一度しか行われないのだ。
ダムは本体が完成すると少しずつ水を貯めはじめて、安全性に問題がないか時間をかけてチェックする。そして水が満タンまで貯まると、それぞれのダムのてっぺんにある放流設備から水が流され、機能的にも満たしていることを身をもって証明するのだ。つまりダム自身の入社試験。しかしいつ満タンになるかは自然条件によるうえ、放流している時間は長くて24時間。試験が終わればすぐに水位を下げて実戦投入となるので、地元でない一般人が観に行くのは至難の技である。
まだ工事が始まる前、ふつうの谷だったときから工事中も含めて何度も見ているので、まるで我が子の晴れ舞台のように思える放流で思わず涙ぐんだ(滝沢ダム)
満水の日に下流で釣り人が行方不明になったため放流開始を2日間延期、観に行っていた僕も宿を延泊しながら待ったけどよりによって放流決行の日に天候が悪化(徳山ダム)
どうしても観たかったので仕事を午前中半休し、前日の夜中に出かけて早朝に放流を鑑賞、昼前には東京に戻るという強行軍だった(広神ダム)
これもどうにか観たかったので仕事帰りに最終の新幹線で広島まで行き、夜中からレンタカーを借りて中国地方を縦断、ダムの駐車場で仮眠して夜明けを待った(志津美ダム)
ダム完成時の試験放流を観るには、そのダムの工事事務所のホームページをチェックするくらいしか方法がない。でも、工事前や工事中から追いかけていたダムが完成して、その初めての放流が見られるのは嬉しいものだ。ぜひ根気よく追ってみてほしい。
やっぱり大雨のときは放流する鑑賞難度:★★★(5つが最難)
用途が何のダムであっても、大雨などで川の水量が増えるとダムは放流する。確実に放流しているかどうかを判断するのは難しいけど、国土交通省の「
川の防災情報」内の「ダム情報」でリアルタイム流入量や放流量を見て判断するしかない。これは少し経験が必要だけど、慣れてくるとこの数字の羅列を見ただけで感動して泣いたり恐ろしくなって泣いたりできるようになる。
初めて観た日の数日後に大雨が降ったのでもう一度行ったらちょうど真ん中のゲートから豪快に放流していた(苫田ダム)
周りに何もない山の中で突然放流しているダムが出てきてかっこよさにしびれた(深城ダム)
個人的にはデザインがとても残念なダムだけど、放流していると「ま、いいか...」と思えてきてしまう(千屋ダム)
治水の用途のない小さな発電用のダムは大雨のときの放流の豪快さが違う(久瀬ダム)
大雨のときの放流は、ほかのどの放流よりも放流量が多くなる可能性があって、迫力のあるシーンが見られるかも知れないけど、その分危険度も増すのであまりお勧めはできない。土砂崩れに遭ったり、道が通行止めになる恐れもあるのだ。あと、何より放流している水が濁っていて撮ってもキレイじゃない、というのもある。
細かいバリエーションを挙げていけば、ほかにもダムの放流が見られる機会はあるけど、とにかく何かのタイミングで出かけてみて、実際にダムからの放流を体験してみてほしい。きっと、何度も観たくなるはず。
あ、でももうひとつ言いたいのは、やっぱりダムは放流してない姿も十分かっこいいぞということだ(いまさら)。
こんなハウツーなかった
その昔、まだダムに興味が出はじめたばかりのころ、どうしても放流が見たくて、でもどうしたら見られるのか知らなくて、とあるダムの管理所の電話番号を調べて、いきなり「今日放流しますか?」と電話をかけたことがある。無知の極みである。
もうあんな恥ずかしいことが起こらないように、いろいろ調べてまとめてみた。これが皆さんのダムライフに少しでもお役に立てば光栄です。
向かってる最中にこの電光掲示板見つけるとどきどきする
1年振りにダムナイトやります
お台場のカルカルで開催しているダムのトークライブ、ダムナイトももう5回目。
今回は「ダムのデザイン」がテーマ。このダムの形、あのダムのデザイン、今まで誰も知らなかったダムの謎を解き明かします。
ゲストは日本のダム建設界の重鎮、ダムについて知らないことはないプロ中のプロです。
お盆まっただ中、ダムについて語り合いましょう。詳しくは
こちらへ!