みんなはどう使うか
ヨックモックの缶の数だけ、余生がある。
多くの人たちが「ヨックモックの缶だから」というわけではなく、「そこにヨックモックの缶があったから」という理由で何かに転用している。何も入っていない缶があると、人間はそこに何かを収納してしまう。そういう宿命なのである。あと、缶って捨てるのちょっと憚れるしね……。
みなさんはどのような余生をヨックモックの缶に与えているだろうか。
ヨックモックのシガールはおいしい。そして、いい缶に入っている。
食べ終わった後に残るその缶は、我々に”収納”という光を与えてくれたーー
私がこれをヨックモックの缶だと認識したのは数年前、23才のときである。
ライターを始めたばかりで、緊張する取材の前だった。取材先に手土産を持って行った方がいいのではないかとデパートのお菓子売り場を彷徨っていたとき、ショーケースの中で見つけたのだ。
「なんで実家にある『いらないペンをまとめて入れる缶』がデパートのショーケースの中にあるんだ……。と、数秒間だけ不思議な気持ちになり、徐々に真実を理解した。
実家にある『いらないペンをまとめて入れる缶』はヨックモックというお菓子の缶だったのか。
私はそのとき、「知らないことっていっぱいあるんだな」と、ちょっとだけ悟った気持ちになった。そして私はヨックモックを買って取材先に持って行き、渡した。
初めての取材なのと人と喋るのが大の苦手ということもあり、何度かピリピリとしたやばい空気になったが、とりあえずは終えることができた。
そして、帰り道に取材のピリピリした空気を思い出して泣きそうになりながらも、「あの人もヨックモックを食べ終わったら缶を再利用するのかな……」思ったのだ。すげえ威厳のある感じの人だったけれど、あの人も私と同じように缶を再利用するのだろうか。
気になる。気になるけれど、「先日はありがとうございました。ライターの藤原です。先日お渡しさせていただいたヨックモックですが、缶のほうは再利用されておりますでしょうか」などとメールを打つことはできない。したいけど、できない。
こんなことをしちゃダメなのは社会経験が少ない私にも充分に分かることだった。
時が経ち、私はあのとき聞かなかったことを後悔しているっちゃしている。していないっちゃしていない。けれど、なんとなく私の実家以外のヨックモックの缶の第二の人生について思いを馳せるときがたまにある。
私の実家では「いらないペンを入れる缶」として活躍していたヨックモックの缶の余生だが、他の家庭では別の余生を過ごしているはずである。なので、今回はアンケートを取ることにした。
アンケートには367人の方に回答していただき、びっくりするほど様々な余生があることを知った。なので、今回の記事でまとめて紹介していきたい。
余生の具体的な内容を紹介する前に、「缶のある場所」と「缶を再利用するか」の統計を共有したい。
まずは、缶を再利用するかどうか、その度合いを回答してもらった。左端1が「必ず再利用する」。右端5が「再利用しない」だ。
115名(31.3%)が「必ず再利用する」と回答しており、最も多い回答となった。「再利用しない」と回答した方は、10人(2.7%)のみであり、ヨックモックの缶に余生を与える人間がこれほどに多いのかと少しおどろいた。
けれど、そもそもこのアンケートがヨックモックの缶を再利用している人向けにとったアンケートなので、なんかたぶんいろいろ間違っている。しかしながら、相田みつをは「間違えても大丈夫」みたいなことを言っていた。その言葉を信じて堂々と間違えて収集した情報を掲載しました。
さて、次は「どこにヨックモックの缶がありますか」という質問の回答についてだ。
圧倒的に自宅が多く、その次に実家、そして職場(オフィス)が続いた。また、回答が点在しているが学校という回答も目立つ。いろいろな場所にヨックモックの缶がある。なんか怖くなってきた。見知らぬ隣人もヨックモックの缶を何かしらに再利用しているかもしれない……。
さて、具体的な余生の内容についてだが、やはり私と同じく、何かしらの物を入れるというものが多かった。缶なのでわりと当然の使い道である。
「文房具入れ」が128人(34.9%)。また、「思い出の品入れ」が35人(9.5%)、裁縫道具入れが54人(14.7%)と続いた。
ヨックモックの缶の再利用には歴史があることも分かった。
また、回答の中で目立ったのは、ヨックモックが入っていたことを知らず、裁縫箱として認知していたところだ。
昔の私を見ているようだぜ。
ヨックモックの缶の現在のみを認知している人はかなり多いのかもしれない。板東英二のプロ野球選手時代を知らないみたいな感じだろうか。
また、「紅茶のティーバッグを入れている」という回答が6件あった。
と、ティーバッグとヨックモックの缶の相性の良さを知った。紅茶を保存するという部分でも、お菓子の缶を全うした後の余生として最も適している気がする。ヨックモックの缶が一番うれしいであろう使い道だ。
また、「別のお菓子を入れている」という回答が10件あり、「お菓子の缶にはお菓子を入れる」という当たり前を思い出させてくれたが、別のお菓子を詰めるというのは、なんだか気まずさを感じてしまう。
個人的には、シガールを食べきったからといって、その缶に別のお菓子を入れることはモラルに反しているのではないか、と思っている。しかし、それを凌駕する使い方をする人が5名いた。
ヨックモックの缶でケーキ(と松風焼き)を作る人たちがいた。こんな使い道があるとはまったく想像をしていなかった。
それに、ヨックモックの缶にぎっしりケーキが詰まっている光景がかなりおもしろい。現に、「ヨックモックの缶でケーキを焼いてそのまま渡すとウケます」というコメントもあり、ウケるのであれば私もやってみたいなと思って挑戦してみた。
私は料理がまったくできませんので、お菓子作りに定評のある姉の家に押しかけ、手伝ってもらいながら行った。
ヨックモックの缶をオーブンに入れることに少し抵抗があった。
何人かがそれでケーキを焼いているのだから大丈夫だと思うが、缶の成分とオーブンが何かしら反発して爆発とかしたらどうしよう……と、不安症な私はこういう妄想をすぐにしてソワソワしてしまう。
オーブンを開けると、そこにはヨックモックの缶にこんがり焼けたケーキが詰まっていた。クッキングシートがあるからまだケーキ感はあるが、クッキングシートを除いて再び缶にケーキを戻すとどうなってしまうのだろうか。
異様だ。異様でちょっとおもしろい。味は普通でした。お菓子作りが得意な姉と下手な私のお互いのスキルが相殺して普通という結果になったのでしょう。
ヨックモックの缶の余生は多岐にわたっている。手土産でヨックモックをもらう職場が多いのか、職場の収納として活躍しているケースも多い。
ヨックモックの缶は、社員章をも(何かから)守る丈夫さがある。とりあえず大切なものはヨックモックの缶に入れておけ。私たちが前世から受け継がれている本能的な行動なのである。
宴会のくじを入れるという回答が2件もあった。ニッチな使い道かと思いきや、わりとあるあるなのかもしれない。
私が知らないところで、ヨックモックの缶は様々なものをその身に受け入れている。私もヨックモックの缶のように生きていきたい。
また、自宅や趣味などに活用するパターンも多い。
これ以外にもたくさんの活用法があることを知った。すごいぞヨックモックの缶……!
ヨックモックの缶は収納という道を我々に示してくれるが、その厚みを利用する人も何名かいた。
なるほど。この厚みというのは何か問題を解決するサイズなのかもしれない。ヨックモックの缶は収納だけではなく、我々に”良い感じの高さ”までを与えてくれる。万能過ぎるよ、ヨックモックの缶!
ヨックモックの缶の数だけ、余生がある。
多くの人たちが「ヨックモックの缶だから」というわけではなく、「そこにヨックモックの缶があったから」という理由で何かに転用している。何も入っていない缶があると、人間はそこに何かを収納してしまう。そういう宿命なのである。あと、缶って捨てるのちょっと憚れるしね……。
みなさんはどのような余生をヨックモックの缶に与えているだろうか。
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