古賀:
著者の小野和子さんは、1930年代生まれの方なんです。いま90代。
30代の頃から東北の山間の村を訪れて、民話を聞いてまわられた方なんですね。本には“身分を証明するこれという肩書きもなく、職にも就いていない。三人の子持ちの主婦である”って書いてあります。本当にひとりで興味があってやっていたみたいで。
あまりにも活動量が多いし本気で、活動開始から6年目の1975年には「みやぎ民話の会」というのを設立されて、民話界の中枢にも入っていかれたみたいです。
與座:
うん、うん。
古賀:
東北の村の家々にアポなしで行くんですよ。
で、見かけた人、おじいさんとかに「幼い頃に聞いて憶えている昔話があったら、聞かせてくださいませんか」って声をかけて回るんです。研究者の方もそういうフィールドワークってすると思うんですけど、この小野さんはとにかく後ろ盾がないんです。
とにかく熱意があって、でもノウハウはあまり持たずにはじめられたように読めるんですよね。行っても誰もいなかったりする。それで、何の収穫もなく、とぼとぼ帰ろうとしてギリギリ話が聞けた日もあったり。
この本はそういうエピソードを含めながら、聞いた話をまとめた本なんです。
石川:
民話だけじゃなくてそれを聞くエピソードも入ってるんだ。
古賀:
そう。そうやって、リアルに手を動かし足を動かしすると見えてくることって本当に想像を超えてきて。
たとえば、「昔話を聞かせてくれませんか」って聞ける話って昔話だと思うじゃない。でも違うんですよ。普通に思い出とか記憶をたどるような話がはじまったり。
あとは、「これは本当のことなんだけどね」っていって、蛇が人間の子をお腹に宿したみたいな話が聞けたり。
読んでると、本当に生きていくこと、暮らすことがすごく大変だから、そういう物語的なものにすがるようなところとか、何かを信奉する宗教感みたいなものとかが曖昧に入り交じるようにも感じられて、とにかく迫力があるんですよ。
與座:
へー。

古賀:
あと、東北という場所柄、坂上田村麻呂まわりの話がかなりセンシティブに出てくるんですよね。
西村:
征夷大将軍。
古賀:
そうそう。東北の各地では坂上田村麻呂がすごく祀られてるんだって。でも、昔から住んでる人たちにとっては、どうしても自分たちは制圧された側じゃないですか。根気強く話を聞いて回っていると、ふっと、攻め入られた側から語るように見える話が出てくる。あっ!ってなるんです。
與座:
面白そう…!
古賀:
本のキャッチコピーが「民話とともに語られた民の歴史。抜き差しならない状況から生まれた物語の群れだった」という。
もうほんとその通りで、とにかく抜き差しならない感じ。
やむを得ず語られ継いできた、みたいな話がいっぱいで。
現場っていうのはフィクションから遠いリアルの集積なんですけど、結局それが物語的なものに収束されていくようなダイナミックスがある。
とにかくモチベが高い。ハートがめっちゃ強い
古賀:
小野さんは、お子さんが小さい頃から、週末に子どもをだんなさんに預けて活動していたみたい。とにかくモチベが高い。
何回も通ってお話を聞かせてもらうような人も出てくる。本当はもっとこんな話もあったんです、あとから思い出したんです、みたいな長い手紙を受け取って、それがすごく重要だったり。
與座:
それは、普通の人が喋るわけですよね?
古賀:
そうです。聞きに行って、話してもらう。
西村:
知らない場所で、そういうことやりたいですよ。
古賀:
やりたい。けどできるかな〜〜!
與座:
まさに高潔って感じ。

古賀:
ちょっとなかなかできないことですよね。
西村:
そもそもは、民話とか民俗学にものすごく興味があってってことなんですよね?
與座:
なんか、収集癖っていうか。
古賀:
ね。そういうことなのかな。読んでると、小野さんにも民話を聞いてまわる先輩がいたようで、そういう文化が脈々とあるのかな。
『忘れられない日本人ー民話を語る人たち』っていう続編にあたる本も出てます。
西村:
でもね、1960年代からもう50年以上そういうことされてるんだったら、本1冊2冊じゃ足りないですよ。
古賀:
どっさりエピソードありますよね。この本も古いもので70年代のことが書いてあります。
「1973年、まだ雪が残る船形山麓の集落へ向かう」とか。
体当たりのフィールドワークにシンパシー
西村:
なんの後ろ盾もなく取材に行くときの心細さときたらないじゃないですか…(笑)
石川:
そういうノウハウは書かれてるんですか?
古賀:
先輩から教えてもらった方法が自分には合わなかった、みたいなことは書かれていて、やっぱり自分の方法でやるしかないのかな。
現地行ってもこうやっても遠くから見て、「行こうかな、やめようかな」って諦めたりするときもあるの。
一同:
(笑)
石川:
さっきの話聞いて、すごい鉄人みたいな人かと思ったら。
古賀:
おそらくご自身としてとくべつなことをしている気持ちがなくて、普通にやっているのだろうと思うんだよね。でも読んでいるとすごい。
西村:
大学で民俗学を専攻すると行くとそういう技術教えてもらえるのかな。
古賀:
フィールドワークの方法って、ものすごく難しいようですよね。
すごい分厚いけどサクサク読める
石川:
すごいボリュームありますよね。
古賀:
それ!
めっちゃ分厚いです。350ページぐらいある。でも、おそろしくするする読めるんですよ。読むのが遅い私でも1日2日ぐらいで読めた。もうスルッスル。その間、ただ面白い、興味深いだけ。最高なんです。
西村:
いいですね。ちょっといいですか(手に取る)。
古賀:
すごくたくさんの人に熱狂的に読まれてるみたいです。「梅棹忠夫・山と探検文学賞」とか、賞もとってます。
西村:
「第一話 オシンコウ二皿ください」。気になりますね。

古賀:
タイトル気になるものばかりだよね!
そういえば、読んではじめて知ったんだけど、「山の神講」っていう行事っていうのかな、そういうのが春と秋に2回あって、この日は各家のお嫁さんが集まって、羽を伸ばしていいってことになっているんだって。
みんなでご飯とかお菓子を持ち寄って、いちにち、飲んだり食べたり、歌ったり踊ったりしながら過ごす日があるんだって。
西村:
お嫁さんが?
古賀:
そうそう。そこに嫁を出さないってことは、その家の恥でもあるんだって。偶然、小野さんがそこへおとずれた日のこととかも記録されてて、ほんとに興味しかない本なので、ぜひ。
西村:
これほんと面白そう。
古賀:
ありがとうございます。ぜひ。
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