刀削麺、とても楽しい
私は今、ものすごく刀削麺を作りたいのです。
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取材協力:栄福 東京都品川区西五反田2-29-19
ここ最近、刀削麺(とうしょうめん)という、その名の通りに小麦粉の固まりを刀で削った麺料理に大変お熱である。
うどんともラーメンとも全く異なる食感のプニプニツルツルとした独特の麺を、ラー油やら唐辛子やらで真っ赤になった辛めのスープで食べるのがスタンダードだ。
この料理は、麺の旨さはもちろんだが、刀で麺を削る姿を見るのがまた楽しい。厨房では、シャーシャーシャーと実に簡単そうに麺が作られている。
それ、私もやりたい!
※2006年12月に掲載された記事の写真画像を大きくして再掲載しました。
たまに仕事でお世話になっている事務所近くに、「栄福」という刀削麺を出す店があり、仕事ついでにちょくちょく通っている。
ラーメンに醤油、味噌、チャーシュー麺などと種類があるように、刀削麺にも麻辣麺、担々麺、排骨麺とバリエーションがあり、どれも濃いめの汁がしっかりとした麺とうまくマッチしていて美味しいのだ。
この店は、フロアから厨房が見えるので、シャーシャーシャーとリズミカルに麺を削っている様子を見ながら食事ができ、とても楽しい。
刀削麺、見ているだけでも、食べているだけでも楽しいのだが、あの削るやつを自宅でやって食べられたら、さぞや楽しいことだろう。
私も、あれやりたい。
麺、刀で削りたい。
そんな想いを胸に秘めながら店に何回も通っているうちに、フロアのお姉さん、厨房のお兄さんと笑顔で挨拶をする間柄になった。きっともう仲良しだよね。
そこでランチタイム後の店が空いている時間を見計らって、思い切って、「自宅で刀削麺に挑む様子をネット上の記事にしたいから、ちょっと間近で見せてもらえないだろうか」という若干無茶なお願いをしてみる。
OKがでた。よし。
突然の不躾な申し出に、店員さんは笑いながら応えてくれ、削る際の構え方や、一番謎だった刀の形状などを見せてくれた。いい人達だ。
ちなみに、いつも華麗に麺を削っている方は、中国山東省出身。刀削麺だけに、山 東省、山 刀削 麺。刀削麺。
でも刀削麺は山西省の郷土料理だ。
そしてここは台湾料理の店だったりする。
刀削麺で使用する包丁は、普通の包丁とは全く違うもので、どうやら薄い鉄板を加工したオリジナル手作り刃物のようだ。青竜刀とかではない。
※以下、この包丁の名称がわからないので、「刀」と呼びます。刀削麺だから。
刀は手元のところがキュッと曲がっていて、この部分で生地を削り、お湯の入った鍋へすっ飛ばしているらしい。
目の前で実演をしてもらったのだが、均一に削られた麺が、リズミカルに鍋へと吸い込まれていく様子は見事である。
動画でどうぞ。感動します。
なるほど、これは素人には無理だ。
よく、「最初に削った麺と、最後に削った麺の茹で時間が違うのでは?」といわれる刀削麺だが、この早さで削っていれば、そんなのは誤差の範囲だろう。
すごいぞ中国四千年の歴史。
華麗な削りっぷりに見とれていたら、ニヤリとニヒルに笑い、私に手招きをした。お姉さんの通訳によると、「やってごらん」ということらしい。やったー。
せっかくの申し出に甘えさせていただき、手をよく洗って厨房に入る。ドキドキしてきた。
さあ、修行の始まりだ。中国四千年の歴史を体得するのだ。
お互い言葉が全く通じないので、手取り足取りボディーランゲージで修行は進む。
まずは削るためのフォーム作りから。生地が乗った木の板を左手に持ち、板の手前側を左肩にくっつけて固定する。この時、左手の指が板からはみ出ていると刀で怪我をしてしまい、血生臭い刀削麺になってしまう。
続けて、右手で持った刀を、小麦粉の固まりとほぼ並行に構えて、まっすぐ滑らすように削る。
このように文字にすると簡単なのだが、実際は、あれ、できた。
実演を目の前で見せていただき、手取り足取りフォームを教えていただいた成果がでて、最初のトライで無事に刀削麺らしきものを作ることに成功。
よし、修行完了。
もちろん私が作った麺と、プロが作った麺では雲泥の差なのだが、自分で食べる分にこれで充分。これ以上お店の人に迷惑をかけてもいられない。
お店に行って、店員さんと仲良くなったのは人生初だぜ。
ちなみに、刀削麺を削っていって、小さくなって削りづらくなった生地は、ちぎって延ばして餃子の皮になっていた。
さすが中国四千年、とても合理的だ。
お店のご厚意のおかげで、刀削麺の作り方がなんとなくわかった。
刀削麺を作るには、まずはあの刀を作ればいいのだな。
自宅に帰り、まずは刀削麺の第一歩である刀作りから。料理以前に工作からスタートだ。
刀の材料は、友人からいただいたステンレスの薄い板きれ。こいつを削ったり磨いたり曲げたりすれば、あのお店で使っていた刀と似たようなものができると思うのだがどうだろう。
とりあえず、ここまでの工程で、ステンレスの板きれが刃物になった。ものすごい切れ味が悪そうだが。
あとは刃のない側を折り返して持つところを作ったら完成だ。
おっと、画竜点睛を欠いた。生地を削って鍋へと飛ばすためには、刀の手元をグッと曲げなくてはならないのだ。
3時間以上の時間をかけて、どうにか刀が無事完成。
やはり刀削麺っていうのは、素人がやるには、なかなか大変な料理だ。というか、まだ料理に至っていないよ。
どうにか刀ができたら、次は生地づくりだ。材料は小麦粉と水だけという、とてもシンプルな構成にしてみる。すいとんみたいだ。
※お店の人に生地の作り方までは聞いていないので、全部適当です。
生地を少量ばかり作っても削りにくそうなので、小麦粉1キロパックをどーんと全部使い切ってみることにする。「ちょっと小腹が空いたとき」には向かない分量だ。
小麦粉に水をチョロチョロと加えながら、延々練りつづける。
根気よく30分ほど生地を練り続けたが、これがなかなかの重労働だ。生地作りはインナーマッスルを鍛え上げるのに最適な運動だと思う。麺打ちエクササイズ。
欠点はエクササイズと同時に、大量の炭水化物が出来上がるため、ダイエットには不向きな事か。
とか考えている間に生地ができた。
お店で削らせていただいた生地に比べて、ちょっと柔らかいような気もするけれど、とりあえず生地完成。
あとはこれを削って茹でるだけなのだが、さすがにちょっと一人で食べるには量が多いので、翌日まで冷蔵庫で寝かせて、前にクラゲ料理の実験をさせてもらった友人夫婦の家に持って行くことにした。
刀もでき、生地もできた。これでようやく刀削麺が好きなだけ削れる。いやあ、長かった。
早速、削った麺が入りやすいように、この家で直径が一番大きい鍋にお湯を沸かしてもらい、板に載っけた生地を左手に持って構える。
お手製の刀を右手に持ったら準備完了。果たして、ちゃんとお店で習ったようにできるだろうか。
第一回試技。
アー、ダメだ。失敗。
生地の表面が乾いてしまっていて、全然うまく削れなかった。手を3回動かしたうちの1回くらいしか削れていない。刀の角度が難しい。
やはりお店でプロが用意した生地を教えてもらいながら削るのと、家で自分が用意した生地を削るのでは全然違う。難しい。
やはりこういうものは、一回やったくらいでは成功しないのが世の常だ。なんていったって中国四千年。表面が乾いてしまった生地を捏ね直して、刀削麺、再チャレンジだ。
第二回試技。
うーん、途中まではうまくいったのだが、だんだんと生地の先に切り損ねた麺が、だらしなくぶら下がってしまった。焦りすぎだ。
自分の腕が悪いのかと、同席していた3人にもやってもらったのだが、誰がやってももれなく失敗する。やはり生地が柔らかすぎたか。包丁の切れ味も鈍い気がする。
やはり、お店でうまく麺を削れた気がしたのは、打ちっ放しのゴルフ練習場でプロにレッスンしてもらったら、たまたまうまくいったのと同じで、実際に一人でゴルフ場に来てみたら全然うまくいかなかったみたいなものか。しかもゴルフクラブならぬ刀からして手作りだし。私はプロゴルファー猿か。
しかし、とりあえず鍋の中には、不揃いながらも手作り(刀から)刀削麺らしきものができあがっている。今日のところは、これをみんなで食べてみることにしよう。
私は麺が削ってみたかっただけであって、別に料理がしたかった訳ではないので、スープなどはすべて料理上手の家主にご用意いただく。わがままな客でごめんなさい。
さあ、みんなで削った刀削麺を、担々麺風のスープで試食だ。
ズルズルと食べてみると、ちゃんと刀削麺っぽいプニプニツルツルした歯ごたえになっている。ブラボー。
さすがに麺の太さも茹で時間もバラバラなので、プニプニツルツル以外にも、ブヨブヨとかヌルヌルとかネチョネチョした麺も混ざってはいるが、それでも充分に美味しい。
刀削麺のうまさの秘密は、生地から麺をダイレクトに鍋へ入れることで、麺同士がくっつくことを防ぐための打ち粉を一切使わなくて済むため、麺の断面をツルッとしたまま茹でることができるからなんだろうなと、作ってみてわかった。
なるほど、適当に作ってもちゃんとうまいぞ。よし、生地もまだたくさん余っていることだし、家に帰ったらちゃんと坦々刀削麺を作ってみよう。
友人宅から帰宅後、一人で坦々刀削麺第二部に挑むことにする。ちゃんとといっても、自分で食べるためだけの料理なので、レシピは調べず全部適当。
豚の挽肉に、豆板醤やら甜麺醤やらコチュジャンやらをジャンジャン入れて炒めて具を作り、鶏ガラやら昆布やらをグツグツと煮てスープをつくる。
具とスープの準備ができたら、問題の麺づくりだ。
まずはフォームの復習から。お店で撮影させていただいたプロの技と、友人宅での自分のフォームを見比べ、構え方や刀の持ち方をチェックする。脇が甘いか。
麺の生地は、小麦粉を少し足して練り直し、堅めの生地にしてみた。これならさっきよりは削りやすそうだ。
果たして生地を削ってみると、なるほど削りやすい。刀削麺の生地は、うどんに比べて、かなり水分量少なめがいいらしい。
シャカシャカと気持ちよく削れてとても楽しい。私がやりたかったのはコレなのだ。大変満足。
生地を載せている板にカメラを固定してみました。
丼に茹で上がった麺とスープを入れ、具の挽肉、ネギ、パクチーを載せたら、坦々刀削麺第二部の完成だ。
濃厚な鶏ガラスープとピリ辛の挽肉が、太目の刀削麺にとてもよく合う。ものすごい美味しい。
お店で食べた正統派中華料理の味とは全然違う料理なんだけれど、とても自分好みの味だ。まあ自分で作ったんだから自分好みなのは当たり前だが。
その後、麺を削りたいがためだけにいろいろな食べ方を試したけれど、どうやっても刀削麺は美味しかった。
今後、面接やお見合いの席などで趣味を聞かれたら、「刀削麺を少々」と答えようと思います。
私は今、ものすごく刀削麺を作りたいのです。
取材協力:栄福 東京都品川区西五反田2-29-19
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