他に攻撃手段がないからこその「かみつき」
自らの安全を脅かす敵を撃退する際に「殴る」ことができる動物はほとんどいない。
「手」やそれに準ずる「前脚」をもつ人間や猿、クマなど一部の哺乳類が例外なのである。
一般的な動物たちの攻撃手段は「ひっかく」「蹴る」「突進する」「はさむ」「刺す」などだが、昆虫から人類までもっとも多くの種が行使できるのはきっと「かみつく」だろう。
多くの動物たちが備える基本スキル「かみつき」だが、「こいつに噛まれたらマジやばい」と人間たちから特に恐れられているものたちがいる。
その理由は「毒がある」「歯が鋭い」「とにかく咬合力が強い」など種によって様々だ。
だが、「噛まれたらなかなかはなしてくれない」という怖くなさそうでめちゃ怖い特性ゆえに噛まれたくないランキングの上位に君臨し続ける猛者がいる。
そう、今回の主役であるスッポンだ。
冒頭でも触れたが、この甲羅をもたないカメ界の異端児には古くから「一度かみつくと雷が鳴るまではなさない」という恐ろしい言い伝えが残っているのだ。
「丸一日」とか「夜が明けるまで」とかではなく天候依存とは恐れ入る。
もうちょっと明確な基準をもってスケジュール管理をするべきだと思うのだが。
そもそも、雷なんてそうそう毎日鳴るものでもない。ヘタをすると季節によっては週に一度も、雷どころか雨さえ降らないことだってあるではないか。
もしそんな時期に噛みつかれたら、何日間も爬虫類を体にぶら下げて生活しなければならないというのか。そんなばかな。
信じられないので実験してみた
実際どれくらいはなしてくれないものなのか、沖縄の自宅周辺を流れる水路で実際に捕まえて試してみることにした。
(※沖縄にいるスッポンはよその地域から持ち込まれた外来種)
700グラムほどと手ごろなサイズのスッポンを見つけた。
「スーさん」と名づけ、実験に付き合ってもらうことにした
噛まれ方のコツ
なお、スッポンの噛まれ方にはコツというものがある。
実はスッポンのアゴには歯が生えていない。代わりに、硬くするどいクチバシが骨格を覆うようにかぶさっている。
特に先端はシャープで、ここだけで噛まれると力が一点に集中し、出血に至ることがある。
思い切り大きく、口全体を使って噛んでもらうと、力が分散されて大事には至りにくい。
ただし、2kgを超えてくる大型個体は顎の力が強く、噛まれると問答無用で負傷するので注意が必要だ。
さらに、噛まれる部位も重要。手指は神経が過敏かつ、骨を折られる可能性があるので絶対にNG。
皮が厚く、スッポンの口サイズでは骨に鑑賞できない腕などを噛ませるのがよいだろう。
意外とすぐ放す
では、さっそく噛んでいただく。
部位は母指球筋。
!!
当たり前だが痛い!!ペンチでつねり上げられているようだ。
この痛みが雷が鳴るまで、あと何日も続くのか!地獄の時間がいま始まっ……
…たと思ったらはなされた。記録は3.4秒。
…あまりに短すぎる。どうしたスーさん、どっか具合悪いんか?これは代打を迎える必要がありそうだ。
代打の「ポンさん」はよりアグレッシブな性質と見える。
これは期待できそうだ。…GO!
これは!これはガッツリいったぞ!
マズいなぁ〜こりゃ明日から左手に一体化したスッポンとの奇妙な共同生活が始まってしま…
って思ってたらはなされた。記録は54.6秒。
スーさんよりはかなり健闘したが、それでもまあそこまでの長時間とは言い難い。
もう少しはド根性を見せてもらいたかった気もするが、噛み跡を見るに、そのうち鬱血してしまいそうだったのでこれでよしとしておこう。
⬆︎動画もあるよ。悲鳴が聞きたい方はこちらもどうぞ。
結論:当然ながら「雷が鳴るまで〜〜」はガセ!
というわけで、当たり前の話だが「スッポンに噛みつかれると雷が鳴るまで放してくれない」説は真実ではなかった。
スッポンの咬合力はあまりに強く、骨格形成の未熟な子どもが噛まれてしまった場合に手指の骨折などの怪我に至る恐れがある。
そうした事故を防ぐため、子どもたちがスッポンを見かけてもちょっかいをかけないよう恐怖を煽るために大人が作った「優しさからの嘘」なのだろうなと思った。
なお、ライギョ(雷魚)という魚もその名の由来は同じような俗説に由来するという。
…次はこっちだな。