あたりまえ入門 2025年2月21日

新聞入門 ~プロに教わる新聞の読み方

ウェブとの違いは価値判断

さらにいえばこの時代、意外と特集面の方が新聞らしさが出ているという。

「今だと火事とか事故現場とかの写真って、その場にいる人がスマホで発信できるようになったじゃないですか。」確かにみんなインターネットやSNSで発信できるようになったもんな

奥山さん そんな中で新聞の価値はどこにあるんだろうというというと、こういった特集面だったり、あるいは事実に対する見解だったりしますね。 

朝日新聞社も急な事件の速報は新聞だけでなくウェブ上でも第一報を発信しているそうだ。

奥山さん あとは価値判断の部分ですね。ウェブ上だとすべての記事が横並びになりますが、新聞だとレイアウトの都合上載せられる記事やその大きさに限りがあります。その中で『このニュースが大事ですよ』と選んで載せることに価値があると思っています。

大きな記事は一面からさらに各ジャンルの紙面に飛ぶこともあるという。「これくらい色んなジャンルに関係するくらいだから、この一つの出来事はすごいのだ」ということの表れになるのだ。

見返してみたら日米首脳会談の記事も各面につながっていた。本当だ!

選んで載せているからこそ、見出しを眺めていくだけでもその日に何があったのかざっくり分かる。実家で父が毎日のように新聞を眺めていた理由がようやく分かった気がする。

「ニュースに対して『新聞社がここを大事に見ているんだ』という補助線的な使い方もできるわけです」ちょっと万能すぎないか、新聞

奥山さん ちなみに見出しのフォントにも種類があって、ストレートニュースといわれる出来事そのものを伝える記事の見出しは『活字』と呼ばれるパキっとしたものが使われています。一方で、それ以外の説明的な要素を強調したい時は『カット』という飾りを施して表現することがあります

なんだそれは。突然すごい重要なルールが出てきたぞ。

例えばこれは活字なので出来事そのものを表す見出しで、
これは純粋なストレートニュースではない(背景や重要点をまとめたような要素がある)ため活字ではない。文字をちょっと縦につぶしている

本当だ。これを知っているか知らないかで読みやすさがまた全然違うんじゃないか。

――このルールって特にどこかに書いてあるとかじゃないんですよね?

奥山さん 言ってないですね……。新聞社の美学として結果で勝負というか、説明せずにも伝わるのが目指すところなので。

「罫線を引く、引かないにも意図があったりして……」掘れば掘るほど表に出していない意図が出てくる。面白すぎるからそういうの全部教えてほしい
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一番新しい新聞は都内の駅で買える

そうして眺めていると、ページ数の横に気になる記号を見つけた。

「●」ってなんだ?

奥山さん 私が現場にいた頃は、新聞は14版が最新で、10版から世の中に流通していました。その中でも地域によって情報が分かれていたりとか、記事の一部を更新したりして〝追っかけ〟と呼ばれる『●』のようなタグがついたりするんです。

――記事の更新というと、最新のニュースを入れるみたいな話ですか。

奥山さん そうです。輪転機からの運送の関係で遠いところには10版を届けていたんですけど、都内はギリギリまで差し替えが効くので14版の中でもちょっと直したりすることもありました。もう配り始めていても、ある一定からはこの文章が新しい表現になっている、みたいな。

そうなんだ。そもそも同じ日の新聞ってどれも同じ情報が載っているものだと思っていたけど、時間単位で変わったりするものなんだ。

――10版と14版って作られるのにどれくらい時間差があるんですか。

奥山さん だいたい10版が21時とかで、23時、24時と刷っていって14版が午前1時とかでしたね

思ったよりもスパンが短かった ちょっと忙しすぎませんか
「なのでだいたい2時、3時に帰っていたんですけど、人によってはそこからすしざんまいとかに行っちゃう(笑)」そして元気すぎる

奥山さん 一番新しい新聞は東京であれば駅の売店で買えます。今度ぜひ見てみてください

――ありがとうございます、おれ、新聞読みます!

終始前のめりになって聞いてしまった。お話ありがとうございました!
編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
冒頭、どっちが表紙なのかという「そこからか!」感から始まりつつも、終盤には字体や版など、普通に読んでいる人でも知らないような情報まで至るダイナミックなインタビュー記事です。最初「全部読まなくても良いんですか?」とか言ってたりばすとさんの質問も、終盤になると「このルールって特にどこかに書いてあるとかじゃないんですよね?」など、鋭くなってくるんですよね。新聞についてのお話が面白いのはもちろんのこと、インタビュアーの急成長にもご注目ください(石川)


実は奥山さん、趣味でも新聞を作っていた

その名もカプセル新聞。奥山さんが前に住んでいたレトロなマンション(中銀カプセルタワービル)を取り上げたものらしい。すごい、本当に新聞だ

この紙面は本物の新聞の半分の大きさで作られているのだが、レイアウトや表現の幅が狭まり作り上げるのは中々に難しかったらしい。

裏を返せばそれだけあの大きさに最適化された情報を伝える方法が長い歴史の中で培われてきたということなのだろう。考えてみればどの新聞も同じ大きさだし。

大きさ一つとっても奥深すぎるぞ、新聞。

これは慣れない新聞をそれっぽく広げているところ
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