断裁はおしっこ漏れそう級の迫力
ということで我々(ライターきだて・編集安藤・古賀・藤原)、東京都江東区にあるアルプスPPSという印刷会社さんにお邪魔している。ネット印刷を多く手がける、かなりまじめな印刷屋さんだ。
前編では中綴じ・無線綴じという製本行程を見せてもらって、「製本って職人さんの優しさでできている!」としみじみ感動したわけだが、さて、もうひとつ見せてもらう“折り”はどんな感じだろうか。
「じゃあ、次の工場に移動しましょうか」と案内してくださるのは、今回も引き続きアルプスPPSの新規事業開発部 部長の羽田さんである。
製本部門のある工場から車で数分のところに、折りを受け持つ工場があるとのこと。
そうそう、印刷って機械は大きいわ、音はすごいわ、紙はかさばるわで、工場はけっこうな面積が必要なんである。なので都内なんかだと複数の工場で作業を分散させがちだ。(僕は以前に3年ほど印刷屋で働いていたので、こんな感じでちょいちょい知った風なことを差し挟みます)
車を降りて工場に入ると、キュゥー!ドン!と甲高いわりにやけに腹に響く音がする。
「ここは紙の断裁もやってますね。見て行きますか?」と羽田さん。そう、独特のあの響く音は、断裁機が数百枚の紙を一気に切っている音なのだ。
(断裁だけに)ざっくり言うと、印刷物はだいたい巨大な紙にいくつもの印刷物を付け合わせて刷るので、それを断裁機にかけて、仕上がりサイズに切り揃える必要がある。
まず印刷された紙の束を専用の揃え機できっちり揃えたら、それを断裁機にセット。仕上がりサイズを入力して切る位置を微調整(1/1000㎜単位)したら、あとは上から紙がずれないように押さえつつ、ギロチンのような巨大な刃が降りてきて、キュゥー!というあの音とともに紙がバッサリ切れる、という流れだ。
断裁の行程を初めて見るという編集の面々は、その切れ味におののいている。
という我々の言葉に、安藤さんは「んえ」とノドを詰まらせたような声を出す。
これ、印刷屋さんに入ったばかりのほとんどの新入社員が、先輩社員から脅し半分にされる「印刷怖い話」の定番なのだ。だいたいどこの会社にも「過去にあった怖い話の具体的事例」があるので、リアリティが半端ない。
かくいう僕も20代前半の頃にがっつり先輩から脅されたせいで、未だに断裁機を見るとちょい身がすくむ。
とはいえ、今の機械は両手で安全スイッチを押しつつフットペダルを踏んで刃を降ろす…というやたらセーフティーな機構なので、まずそういう怖い話にはならないんだけど。
腰抜け男性陣からプレッシャーを受けた古賀さんが、へっぴり腰で断裁機の前に立つ。職人さんからスイッチの場所などをしっかり教えてもらったあと、おそるおそるフットペダルを踏むと…キュゥー!ドン!(バッサリ)
自分の目の前1mも離れてないところで、数百枚の紙束を切り落とす巨大ギロチンの刃が動いてるのだ。
そりゃ震えるし、おしっこも漏れるわって話である。
とはいえ断裁は印刷の仕上げとしてガチに重要な部門。断裁のクオリティ次第で、この後の折りや製本の精度が大きく左右されるぐらいなのだ。
詳しく話を聞けば断裁だけで記事が2本ぐらい余裕でできるレベルなんだけど、今回はひとまず古賀さんの本気ビビり顔で終わっておこう。