広告企画 2020年3月24日

折り機はなにをやってるのか分からなすぎて、ほぼ手品マシーン

折り機は見てるだけで充分にアミューズメント

断裁で予定外の迫力を味わったあとは、いよいよ階段を上がって折り機の並ぶフロアだ。

さっきまでの腹に響く音と違って、今度はカタンカタンカタンカタンカタン…と途切れなく細かな振動音が続いている。これが、折り加工を行う折り機に紙が流れていく音なのだ。

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さっきまでとはうってかわって、軽い振動音がずっと響き続けてる折り部門。
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左が折り部門の佐藤さん。こっちがしょうもないことを訊いても、ひとつひとつ丁寧に答えてくださる優しい人だ。

案内してくださるのは、佐藤さん。折り加工部門を束ねるベテランである。

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いま、これはどういう作業をされていたんですか
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これはDM折ですね
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あ、定型の封筒にDMを入れる用に折ってるんですね。ってか、こういうのって何枚かまとめて折ってると思ってました
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いろんな折り方の例。これ以上にもめちゃくちゃ種類がある。

 

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多彩な折りを猛スピードでこなす折り機「オリスター」。ダイレクトすぎないか、その名前。

ちょっと実際にやってみましょうか、と佐藤さんが機械を動かしてくれた。

B4サイズの印刷物が一枚ずつすごい勢いで流れていって、なぜか、キチッと二つ折にしたのをさらに三つ折にした状態(これがDM折)になって出てくる。いや、機械で折ってるんだから「なぜか」もへったくれもないが、こっちとしては手品を見せられてるレベルで何が起きてるのか分かんないのだ。


ぶっちゃけ、普通の動画を撮っても早すぎて分からない。スロー動画で確認してはじめて「あ、そういうこと?」とちょっと分かるぐらい。

でもめっちゃおもしろい。今後は趣味に「折り機が印刷物折ってるのを眺めること」って書いてもいいかなと思える。

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折れていく様子が不思議すぎて、じっと見てる僕ら。ドモホルンリンクル見守る人みたいになってる。
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そして、しばらくボーッと見てただけなのに、もうこんな量が折り上がってる。すごい。
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うぇーい!なんか見てるだけでテンション上がりますねこれ。めっちゃ折れてるー!かっこいいー
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この機械は何パターンか折り方がセッティングできるんですか?
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いろんな折り方ができますよ。菅原くん、いまそっち、なに折り?
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巻き三つ折です 
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折りの若手ホープ、菅原さん。機械の調整・仕上がりチェックがそれぞれすごく真剣でかっこよかった。

佐藤さんが若手の菅原さんに声をかけて、別の折り方をしているところも見せてもらうことに。

そこで気になったのが、菅原さんが印刷物を破っては機械の端々に挟みこんでいるところ。なんかおまじないっぽくて不思議な感じだ。

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今から折る印刷物を破って機械に挟む。無事に折れますように的なおまじないか?
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この挟んでるのって、なにをやってるんですか?
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ここに印刷物を挟むことで、ローラーの圧力を調整するんです

おー、なるほど!紙を通すローラーの圧力を設定するなら、紙の厚さをいちいち測って入力するより、通す紙の現物で厚みをそのまま反映させたほうが手っ取り早いに決まってる。この機械作った人、あたまいいなー。

僕が機械に感心していると、古賀さんが微妙に聞きにくそうな雰囲気で菅原さんに質問した。

 

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普通に生活している限りそうはならんやろ、という作業服の腹回り。
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これ聞いていいのかな?…菅原さん、なんでお腹のとこだけすごいことになってるんですか?

そう、菅原さんの作業着、他の部位は普通なのに、腹回りだけがやたらとズタボロになっているのだ。なんか、無茶な修行をした格闘家の服みたい(腹だけ)である。

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折り上がった印刷物をここに当てて揃えてたら、こんな感じになっちゃったんです
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えー、それでそんなふうになっちゃうんだ
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印刷物を腹に当ててトントンと揃えるだけで、紙の摩擦で布が破れてくる。紙を甘く見てはいけない。

そう、確かに僕が昔働いていた印刷屋にも、お腹のとこがスレて大変なことになってる職人さん、いたわー!

たとえ紙でも、何回も同じ場所で擦れていくと、摩擦でこういうことになってしまうのである。ほぼヤスリだ。

 

そういう話をしつつも菅原さん、さっきから“試しにちょっと機械を通しては、折り上がりのあちこちを測って確認”というのを何回も繰り返している。

その確認がものすごく真剣で、ほんと、こうやって作業のお邪魔をしているのがとても申し訳なく感じるぐらいだ。

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折り上がったものに定規をあてて何度もチェックする菅原さん。話をしながらも常に動き続けてる。
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菅原さんは今なんのチェックをされてるんですか?
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あれは折りズレがないか確認してるんです
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四隅がそろってるか的な?
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そうそう。折る回数が増えるほど四隅を合わせるのも難しくなりますし、紙の厚みや紙目(繊維の方向)でも変わってきます

それにしても、服のズタボロ具合にあまり頓着してない感じと、折りズレチェックへの真剣みの落差がすごい。

つまりは、折りの仕上がりに対してのみめちゃくちゃ集中している、ということなんだろう。こういう人が作ってるものは、信頼できるな。

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折りの世界もやっぱり知らないことが山盛りだった

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さっき折る回数の話が出ましたけど、やっぱり複雑な折りの依頼ってあるんですか
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うーん、例えばジャバラに折ってからさらに三つ折するとか、そういうのもありますよ
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あ、ルーターとかそういう小さめのガジェットの取扱説明書ってそんな折り方してますね。そうかー、あれ、開いて読むのも面倒だけど、折るのもやっぱり手間なんですね
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行程が多くて一台の機械で折りきれないときは、機械を連結して折る回数を増やしたりとか

 

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オリスターを連結して、折る回数を増やした状態。複雑な折りもこれなら一発。

へー、連結!そんなこともできるのか。やっぱり折りも知らないこと満載である。

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サイズも大小いろいろありますしね。小さいものだと、これとか
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おわー、高級なお菓子の缶に入ってるやつだ!
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こうやって作ってるんだなぁ…冷静に考えたら、僕らが手にする印刷物って、ほとんど折られてるやつばっかですよね?
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お菓子の缶に入ってるリーフレット。言われてみれば確かに、外四つ折とか観音開折とか、いろんな折り方のやつを見たことあるな。

今まであまり考えたことなかったけど、確かに印刷物って、折られてない紙ペラよりも、折ってあるものの方が圧倒的に手にする機会が多い。

そう思うと、折りってめちゃくちゃ重要じゃないか。

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やっぱり町中でも折られてる印刷物って気になります?
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ですねぇ。ファミレスのテーブルに小さいリーフレットなんかあると、じっくりと見ちゃいますね。きれいに折れてるな-、とか。やってるとカミさんに怒られるんですけど
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綴じ(製本)でもそういう話、ありましたね
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だって、ひとつひとつ手で調整してチェックして…じゃないですか。やっぱり出来上がったものに技術って出ますよねー

 

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「カミさんに怒られるんだけど、折りは見ちゃうよね」とはにかむ佐藤さん。職人、かわいいな。

古賀さんの言葉に、そうだよなー、と同意した。

機械を使って作業してるから誰でも同じようにできる、というわけでは全然なくて。綴じも折りも、それぞれの職人さんが本気でクオリティを上げようと取り組んでくれているから、ちゃんとした印刷物ができあがるのだ。

なんかすごくありがたい気持ちになったので、僕も編集部一同も「今後はDMとかもすぐに捨てずに、ちゃんと読もう」と言い合ったのだった。


今回の取材を通して思ったのは、綴じ・折りの職人さんはめちゃくちゃチェックが厳しい、ということだ。

そりゃ、大ざっぱに折る位置がズレてたり、中綴じの中央で写真がガタガタになってたら、誰でも「これはミスだな」と気が付くはず。

しかし職人さんがチェックしてるのはそんな域を遙かに超して、コンマ1㎜以下の世界。印刷物を読む僕らにはまず気にならないというか、認識できないレベルの話なのだ。

たぶん、もう「誰がどう言おうと、自分が納得できないものはイヤ!」ということなんだろうし、それが職人ってことなんだろうな、と納得した次第である。

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話とは関係ないけど、断裁(1階)と折り(2階)をつなぐ搬入用ベルトコンベアの秘密基地感が好きだ。
編集部よりもういちど:前回の綴じ部門「印刷製本は職人の優しさでできている」も合わせてどうぞ…!

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