折り機は見てるだけで充分にアミューズメント
断裁で予定外の迫力を味わったあとは、いよいよ階段を上がって折り機の並ぶフロアだ。
さっきまでの腹に響く音と違って、今度はカタンカタンカタンカタンカタン…と途切れなく細かな振動音が続いている。これが、折り加工を行う折り機に紙が流れていく音なのだ。
案内してくださるのは、佐藤さん。折り加工部門を束ねるベテランである。
ちょっと実際にやってみましょうか、と佐藤さんが機械を動かしてくれた。
B4サイズの印刷物が一枚ずつすごい勢いで流れていって、なぜか、キチッと二つ折にしたのをさらに三つ折にした状態(これがDM折)になって出てくる。いや、機械で折ってるんだから「なぜか」もへったくれもないが、こっちとしては手品を見せられてるレベルで何が起きてるのか分かんないのだ。
ぶっちゃけ、普通の動画を撮っても早すぎて分からない。スロー動画で確認してはじめて「あ、そういうこと?」とちょっと分かるぐらい。
でもめっちゃおもしろい。今後は趣味に「折り機が印刷物折ってるのを眺めること」って書いてもいいかなと思える。
佐藤さんが若手の菅原さんに声をかけて、別の折り方をしているところも見せてもらうことに。
そこで気になったのが、菅原さんが印刷物を破っては機械の端々に挟みこんでいるところ。なんかおまじないっぽくて不思議な感じだ。
おー、なるほど!紙を通すローラーの圧力を設定するなら、紙の厚さをいちいち測って入力するより、通す紙の現物で厚みをそのまま反映させたほうが手っ取り早いに決まってる。この機械作った人、あたまいいなー。
僕が機械に感心していると、古賀さんが微妙に聞きにくそうな雰囲気で菅原さんに質問した。
そう、菅原さんの作業着、他の部位は普通なのに、腹回りだけがやたらとズタボロになっているのだ。なんか、無茶な修行をした格闘家の服みたい(腹だけ)である。
そう、確かに僕が昔働いていた印刷屋にも、お腹のとこがスレて大変なことになってる職人さん、いたわー!
たとえ紙でも、何回も同じ場所で擦れていくと、摩擦でこういうことになってしまうのである。ほぼヤスリだ。
そういう話をしつつも菅原さん、さっきから“試しにちょっと機械を通しては、折り上がりのあちこちを測って確認”というのを何回も繰り返している。
その確認がものすごく真剣で、ほんと、こうやって作業のお邪魔をしているのがとても申し訳なく感じるぐらいだ。
それにしても、服のズタボロ具合にあまり頓着してない感じと、折りズレチェックへの真剣みの落差がすごい。
つまりは、折りの仕上がりに対してのみめちゃくちゃ集中している、ということなんだろう。こういう人が作ってるものは、信頼できるな。
折りの世界もやっぱり知らないことが山盛りだった
へー、連結!そんなこともできるのか。やっぱり折りも知らないこと満載である。
今まであまり考えたことなかったけど、確かに印刷物って、折られてない紙ペラよりも、折ってあるものの方が圧倒的に手にする機会が多い。
そう思うと、折りってめちゃくちゃ重要じゃないか。
古賀さんの言葉に、そうだよなー、と同意した。
機械を使って作業してるから誰でも同じようにできる、というわけでは全然なくて。綴じも折りも、それぞれの職人さんが本気でクオリティを上げようと取り組んでくれているから、ちゃんとした印刷物ができあがるのだ。
なんかすごくありがたい気持ちになったので、僕も編集部一同も「今後はDMとかもすぐに捨てずに、ちゃんと読もう」と言い合ったのだった。
今回の取材を通して思ったのは、綴じ・折りの職人さんはめちゃくちゃチェックが厳しい、ということだ。
そりゃ、大ざっぱに折る位置がズレてたり、中綴じの中央で写真がガタガタになってたら、誰でも「これはミスだな」と気が付くはず。
しかし職人さんがチェックしてるのはそんな域を遙かに超して、コンマ1㎜以下の世界。印刷物を読む僕らにはまず気にならないというか、認識できないレベルの話なのだ。
たぶん、もう「誰がどう言おうと、自分が納得できないものはイヤ!」ということなんだろうし、それが職人ってことなんだろうな、と納得した次第である。
編集部よりもういちど:前回の綴じ部門「印刷製本は職人の優しさでできている」も合わせてどうぞ…!